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権限の行使

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文字数の関係で3つに分けていますが、22話は22話理由①、理由②で1話なのです。
長くなったので適当だと思われる部分で切り離してます。申し訳ないです。<(_ _)>

☆彡☆彡☆彡
※時系列ではカーメリアは昨夜出発し馬車移動してます。前後してごめんなさい。



「では、よろしく頼む」

「お任せください。我らはメングローザ公爵あっての命。絞首台などに上がらせません。直ぐに領地からも私兵を呼び寄せましょう」

「おいおい。言っておくが無血開城させるからな」

「判っています。こう見えて血は苦手ですから」


レイリオス公爵はポイフル公爵家を出て一旦屋敷に戻りその後城に向かうメングローザ公爵と握手をして別れた後、一覧にあった貴族の元を訪れていた。

大なり小なりメングローザ公爵に窮地を救ってもらった者や、共同事業で傾いた家を再興させた者などが多かった。しかし、直接の恩恵は無くともメングローザ公爵が議会の議長職をしている時代に王家、王族優先の予算配分をバッサリと削減し街道の整備や橋梁工事、治安の安定に割り振った事で流通がスムーズになり販路拡大となった事で、それまで一部地域にしか出荷できず育てても廃棄する農作物を抱えていた領を持つ貴族たちは今でもメングローザ公爵に恩を感じている。

同じくらい王家、王族に対しての不満は多かった。
先王の時代も酷かったが今はそれ以上である。


「待ってろよ。孫の取り合いするまで死なせやしない」


レイリオス公爵は次の貴族の屋敷に向かって馬車を走らせた。





☆彡☆彡 謁見 ☆彡☆彡

「こちらでお待ちくださいませ。間もなく陛下が

通された部屋は謁見室の隣室になる。ニコニコと不自然な笑みを浮かべる従者にメングローザ公爵は何処かで見た顔だと首を傾げ、記憶を辿る。
しかし、その答えは当の本人からもたらされた。

予定時間より少し早く到着したためか、王宮の従者は湯気の出る茶を差し出しながら名乗った。


「私は以前にエッジ伯爵家で執事見習いをしておりました。前回奥方様、ご息女様にも」

「エッジ伯爵家‥‥王妃殿下の御実家…そう言えば前回も貴殿が案内を」

「はい。お嬢様が輿入れをした際に共に城に上がりました。正直申し上げて…間者です」

まるで、テヘ♡とあと20歳いや30歳若ければ頬に指を当ててポーズを取りそうな勢いで身元を明かす従者にメングローザ公爵は堪らず声を出して笑ってしまった。

「この結婚、主人も大反対でしたのでお嬢様のご様子を逐一報告をしておりましたが、現在は国王陛下やアフォ…いえ、トンチキ…いえ、出来の余り宜しくなかったお嬢様のお子様が謁見した内容をお嬢様に報告しております」

「そんな事を何故私に?」

「お嬢様から許可を得ております。メングローザ公爵様には過去、主も大変お世話になりましたので隠し事はしないようにと。希望や要望があればお応えするように言いつかっております。ちなみに私は国王陛下が大嫌いですので敬う事はしておりません。まぁ…語尾を変えたりという細やかな抵抗ですけれど。お嬢様も私達に公以外で王妃殿下、妃殿下と呼ばれる事を禁じております。なので…お嬢様と」

「陛下も嫌われたものだ」

「はい。大嫌いで御座います。出来の余り宜しくなかったお嬢様のお子様以外はお世話もしております。第一王女殿下からの伝言が御座います」

「なんだろうか」

「書状は手渡し済。ブルーメ王国経由にて手折られる事はなく花は開く。と」

「そうか。ありがとう。感謝する」

「いえいえ。では熱いうちにどうぞ」


従者はくるりとその向きを変えると扉の前で姿勢よく立った。
メングローザ公爵が茶器をソーサーに置くと「ご案内いたします」と声がかかった。



「メングローザ公爵。申し訳ない。イデオットの愚行で公爵家、息女には多大な迷惑をかけた。この通りだ。申し訳なかった」

国王は部屋に入って来るなり謝辞を述べ頭を下げた。
しかしメングローザ公爵は何も言わず、表情も変わる事はない。
国王が下げた頭をあげ、向かいの椅子に腰を下ろしても伝える事は1つである。

「陛下。今日こんにちまでこのメングローザ、国の為になればと尽力して参りました。しかしながらこの度の事、謝罪を受けるつもりは微塵も御座いません。たかが婚約の解消と思われましょう。されどこの事態はそれに留まらず引けぬ矜持とご承知おき頂きたい」

「待て。その先はっイデオットは廃太子とした!だから――」

「リヴァーソ・メングローザ。公爵権限を行使させて頂く」

「ダメだ。許可できない!考え直せっ」

「そこの従者!扉を開けよ!公爵権限の発動を知らせる鐘を打ち鳴らせ」

「鳴らしてはならぬ!扉を開けるなっ!」


従者は一礼をすると国王の言葉を背に扉を大きく開き、廊下の壁に据え付けられた木製の小さな箱の慳貪式の扉をはめ込まれた枠から取り去り、中にあった鐘を叩いて大きな音を響かせた。

キィンキィン!キィンキィン!

休むことなく鳴らされる鐘の音に廊下を歩く従者は足を止め、その音が何を知らせるのかを知っている従者は小走りになって主の元に向かった。
部屋では国王が頭を抱え、声にならない雄叫びをあげる。

王宮には神官も常駐しており、鐘の音が鳴りやむと同時に複数の貴族と共に部屋に駆け込んできた。


「建国以来初めてとなりますが…公爵権限を行使で間違いないか」

「間違い御座いません」

「違うっ。これは間違いなのだ。メングローザ公爵は血迷ったのだ」

「陛下、血迷ったかどうか。それはこの1か月の拘留で判断出来ましょう。例えそうであったとしても権限を行使する事由は聞き届け、審理をせねばなりません。教育で習っているはずです」

「そうだが…だが…違うのだ」

「陛下にも聴取はさせて頂きますので何かございましたらそこでお話しください。ではメングローザ公爵。行使に至るその事由を述べよ」


神官に縋ろうと言うのか国王は手を伸ばすもその手は届かない。
一瞥もくれず神官はメングローザ公爵に向き合った。

「ありがとうございます。長きに渡る王家主導の人権侵害、権力を持っての不当行為、特定貴族への優遇とそれに対する国金の流用、税収に関する法案の不正施行で御座います」

「ではその件について審理を致しますが、行使をした際の処遇についての説明は要するか」

「不要にて」


規定により連行されていくメングローザ公爵は堂々と廊下を歩いていく。
一先ず通された部屋は内部からは開く事のない扉がついた教会が権限を持つ区域にある部屋である。
公爵権限を行使すれば、不正発覚を恐れた王家側から刺客が放たれる事もあれば、混乱を狙っての愚行であれば脱走を企てる可能性もある。

部屋を見渡せば灯り取りの窓が1カ所。出入り口の扉が1カ所。
2m四方の小さな部屋である。だがこれでも良い方だ。
ポイフル公爵は時間稼ぎのために妻の領地に出向いたが、書面を差し出されれば署名せざるを得ない。書面が揃えば全てを石で覆われ、出入りは鉄格子。灯り取りの窓もない牢獄に収監される。

それを耐え抜く心と肉体が無ければ行使などするものではない。
甘んじて受け入れる者だけが行使をする。爵位を譲渡される際に実際に見せられた部屋に行使をした公爵が今までいないのは納得できる部屋の作りだという事だ。

行使が認められても、認められなくても国王は逃げられない。

――さて、陛下。一世一代の悪あがきを見せてください――

灯り取りの窓を見上げ、メングローザ公爵は来たる日のブルーベリーケーキを想い目を閉じた。
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