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招かざる客

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「今日も…お花…」

「はい。届いておりますよ。カードはありませんけどね」

「綺麗ね」

「そうですね。ですが1房だけって…謙虚なのか…束の方が見栄えがしますのにね」


届けられるのは1房でも花瓶には数本が束になって目を楽しませてくれる。


3週間ほど前から夜中にそっと門番の交代の時間を見計らっておかれていた花は赤いゼラニウム。立ち去って行ったのは背の高い男性だったと言うだけで顔は誰も見ていない。男性だったというのも、背格好や歩幅の広さから推測したもので正確な情報ではなかった。

翌日は門番も交代する時は奥に引かずにいるようになった事からだろうか。
その翌日は貧しい路上で花を売っている小さな兄妹が昨夜の分もだろうか。2房の赤いゼラニウムを運んできた。


「赤いゼラニウムをここのお姫様に届けてほしいって」

「兄ちゃと一緒にお姫しゃまに届けてって言われたっ」


翌日からは1房だけ幼い兄妹は雨の日も赤いゼラニウムを持って門番に届けに来た。
メングローザ公爵夫人は幼い兄妹にお菓子を渡し依頼人の風貌を聞きだした。

【あの若僧がっ‥‥捨てておけ】メングローザ公爵はそう言ったが、夫人は花をカーメリアの部屋に飾るよう侍女に申しつけたのだ。

「あなたがいてくれるから幸せ‥‥うふっ♡ロマンチックだわ」

不貞腐れる夫を横目に夫人は微笑んだ。





「では、行ってくる。留守を頼むよ」

「はい。お気をつけて行ってらっしゃいませ」


メングローザ公爵家の所有する屋敷を購入してくれるのは同じ爵位のポイフル公爵家だった。国内に3つある公爵家の1つであるポイフル公爵はメングローザ公爵の学園時代の後輩にあたる。

全てをそのままに【購入】としつつも【預かり】に近い形で引き受けてくれるのだ。
ポイフル公爵は爵位を継いだばかりの頃、事業で大失敗をしてしまった。
自領で栽培していた砂糖原料のサトウキビが不作で供給が追い付かないにも関わらず、事業を引き継いだばかりで調子に乗って受注をすべて受けてしまっていたのだ。

二進も三進もにっちもさっちもならなくなったポイフル公爵を助けたのがメングローザ公爵だった。
結婚したばかりのメングローザ公爵夫人の実家の領地では【てん菜】というサトウキビに並ぶ砂糖原料となる野菜を栽培していた。

もちろんこの【てん菜】も出荷先はあったのだが、メングローザ公爵夫人も一緒になって取引先に頭を下げて納品を1割減らして欲しいと頼み込み、ポイフル公爵の受けた受注を満たせる分の【てん菜】を融通してくれたのだ。

ポイフル公爵も受注先が一般商会だけなら待ってもらおうと思ったが一番多く引き受けてしまったのが海の向こうにある帝国の軍部からの物だっただけに家が傾くだけでは済まない事態になるところを救ってもらった事に恩を感じていた。


夫人の実家のあるリアーノ国に移住する事を知ったポイフル公爵は別荘の管理だと言い、いつでもメングローザ公爵一家が来られるように屋敷も庭も管理をしてくれるのだが、過去のお礼を兼ねて昼食会を開いてくれるのだ。


シトルイユ特製のスープをきっかけに少しづつ食べるようになったカーメリアは寝台に横になったままだがポツリポツリと言葉を返すようになった。

使用人も一丸となってあと数日に迫った移住の日には長い旅に耐えられるように体力をつけてもらおうと主を送り出した後は新鮮な野菜を使ってカーメリアの食事の下ごしらえを始めた。



そんな時だった。

玄関でいつもよりかなり低い声を出す家令が来客に対応を始めた。

「主は留守で御座います。本日はお引き取りを」

「公爵に用があるのではない。用があるのはカーメリアだ。取り次げ」

「出来かねます。お引き取りを」


執事も駆け付け、家令と並んで「取り次げ」「お引き取りを」と平行線のやり取りをはじめ時間を稼ぐ。
一番早くてポイフル公爵家から2時間というところ。騎士団は相手が相手だけに躊躇するかも知れない。だが主が戻るまで持ちこたえねばならない。
そっと数人の使用人に執事は伝令に走れと目くばせをした。

対応を見てすぐさま数人の使用人が厩舎に向かい、1人はポイフル公爵家へ、1人は騎士団の詰め所へ、1人は王宮に向かった。
カーメリアの兄は領地からまだ帰っておらず、今から知らせを走らせても帰宅は3日後。
若夫人もここ数日は近くリアーノ国に移住するため、しばらく会えなくなる期間の分をと実家に戻っている。

――寄りにもよってこんな日に!――

公爵家の使用人はやってきた招かざる2人の客人を睨みつけた。
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