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最終話☆それぞれの未来へ

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「お前、着いてくるなと言っただろう」
「いえ、最後の仕事ですから。あの峰を超えれば…到着ですかね」

雪はすっかり融けて、沢の水となり山肌を流れていく。
木々は新緑を身に纏い、初夏の日アベラルドはカルロと共に辺境に出向いた。




時間がかかったのは、レオポルドの処遇だった。

30年戦争を始めたのは先王である父。レオポルドは戦争に勝ったとは言え疲弊した国民を第一に考えた施政を行っていたため民衆に罪状を告げた後も減刑を求める嘆願書が多く届いた。

次の国王は8歳になる第四王子となり、レオポルドは第四王子が立太子する数年間、北の塔の中から摂政を立てた施政を補佐する。立太子後にはテレーザと共に毒杯を賜る事となった。
並んだ塔に入った2人はお互いの塔を見ることはない。窓があるのは逆方向。
それでも壁の向こうにある塔に向かって2人は聞こえない言葉を交わす。

「民衆には病死と告げて欲しい」

混乱に陥る事を回避するためレオポルドは従者に願った。
エドガルドは鉛毒の治療のための試験薬の臨床実験を自ら願い出て隣国に出向いた。
最終段階とはいえ、鉛を服毒し薬を体に入れる。
それを聞いたレオポルドは罪の深さを償わせる事に己の愚かさを悔いた。
代わらせてくれと縋ったが叶わなかった。

私財の全てを復興事業に回し、テレーザと共に囚人と同じく1日1食の粗食を与えられる事に感謝し、その日が来るまで塔の中で執務を行う。




カリメルラはアベラルドとは離縁が認められ2年の懲役の後は修道院に送られる。その刑期も半分を過ぎた。その修道院はファインド公爵家が運営をしていて、平民が多く利用している教会も併設しておりジージルはそこに埋葬されている。カリメルラはここで【常識】と【文字】を学ぶ。

文字が読めるようになればジージルの墓標にある名も読めるようになると言われ、問題を起こすことなく懲役刑に服している。処遇が甘いとの声もあったが、托卵については本人も気が付かない妊娠の時期は誰にでもある事、ゲール公爵家が引き取った時に教育をしていれば避けられた事態である事、アベラルドの怠慢もあったとされた。

それでも薬の混入が実刑となった事は民衆の間に安易な悪戯の末路として刑罰の前例となった。

ブリジッタはテレーザの両親が保護監督をしながら養育をする事となった。
成長し、本人が「母に会いたい」と言えばカリメルラと面会できるし、望めば一緒に住む事も出来る。カリメルラの悪戯、アベラルドの放置で結果的にジージルという父親を奪ってしまった事に変わりはない。

修道院を併設した教会には子供たちも学び舎として多くやって来る。ファインド公爵夫妻はいずれ預かっているブリジッタをそこにも通わせる予定をしている。無理強いはせず母子を見守るとファインド公爵夫妻は確約をした。

アベラルドはカリメルラとブリジットの為に伯爵領を売り、2人が暮らせるようになれば生活費にと金をファインド公爵家に預け、残りは各地の修道院、孤児院などの修理保全にあてるよう基金を作った。

ゲール公爵家は伯爵家に降格となり、激昂した夫人と子供たちにまたもや入り婿公爵は厩舎に追いやられている。




「うわぁ…こりゃ凄い」

カルロの感嘆の声にアベラルドも共感した。
山を下れば辺境の人々が暮らす家屋の立ち並ぶ小さな村に到着する。

まだ山の中腹よりも頂上に寄った位置から見える景色は、新緑に覆われた山、真っ青な空に白い雲だった。

「マリエルも行きたいって言うかなぁ」

待望の第一子が生まれたカルロだが、妻のマリエルに尻を叩かれてアベラルドと共に辺境に来たのだ。

「いい?ステファニア様にはくれぐれも!くれぐれも失礼のないようにね!」

妻から母になったマリエルは義母と言えどカルロの母を顎で使う。
初孫に脂下がった表情になりながらもマリエルはカルロの母と仲良くやっている。
週に5日はマリエルの両親も泊りがけでやって来るほどなのだ。


ゆっくりと山道を下れば、意外としっかりした造りの家が立ち並んでいた。

「あら?旅の人?珍しいねぇ。こんな田舎に」
「傭兵の志願なら屋敷に行ってみなよ。リオさんが戻ってるから直ぐに試験してくれるよ。採用になるといいね」

村人が指を指したのは小高い丘の上にあるとんがり屋根が5つ並んだ屋敷だった。途中で火災でもあったのだろうか。足元の基礎となった石積しか残っていない屋敷跡を通りすぎる。

屋敷に近づいてくればアベラルドはそれまで軽かった足取りが重くなった。

「どうされました?」
「いや、なんでもない」


アベラルドは辺境に出向くにあたり、引継ぎを終わらせて王子を廃嫡となってやってきた。何もかもがお膳立てされていたそれまでと違い、失敗の連続だった。

失敗を経験した事が無かったアベラルドはレオポルドの塔に出向いた。

「俺も最初は失敗ばかりで…皆に助けてもらった」

鉄格子の向こうで屈託なく笑うレオポルドは、もう忘れかけていたくらいの思い出の中に共に庭園で父であった国王が5番目の公妃に贈る白百合の植え込みで一緒に花粉塗れになった少年の顔だった。

もし、行くことがあればヴァレリオに渡して欲しいと手紙を預かった。
封はされておらず、読んでも良いと言ったがアベラルドは読まず検閲だけを済ませた。


辺境に出向く前、もう王籍は抜けた事を報告に行った時、レオポルドは頬骨も出るほどに痩せていた。

「兄上‥‥顔が…白目も‥」
「黄疸だ。気にするな」
「だが…痩せ過ぎじゃないか?」
「そうか?体も軽くなったと思ったんだがな」

アベラルドは知らなかった。塔の中にいても治療は受けられるのにレオポルドは全て断っていた事に。
そしてそれが最期の会話になってしまった事も。




「ヴァリ。少し抱っこしてて」

垣根で出来た柵はなんの防犯にもなっていない。
懐かしい声にアベラルドは声のするほうを向いた。

――ステファニア――

小さな赤子をヴァレリオに抱かせて、赤子の頬を指で押す姿が見えた。

「大丈夫か?昨夜も寝てないんだからちょっとは休め」

ヴァレリオがステファニアを気遣う声がする。
くすくすと小さな笑い声はステファニアだ。

「だって、親子で一緒にいられる時間は少ないのよ?」
「うーん…遠征の日程をもう一度見直すかなぁ…寂しいだろう?」
「あら?わたくしの事はお気になさらずとも結構ですわ。寂しいのはヴァリでしょう?」
「うん…」
「やだ、素直なヴァリ…もうすぐ夏なのに雪が降るわ」


アベラルドはやっと全てに吹っ切れた気がした。

「声、かけないんですか?寄って行かないでいいんですか?」

カルロの声に「おぅ」と返事を返し、レオポルドからの手紙を門番に渡すとアベラルドは来た道を走り出した。

「待ってくださいよ~!置いて行かないでくださいよ!」
「お前は王都に帰るんだろ?」
「え?殿下はどうなさるんです?」
「俺?決めたんだ」
「何をですか」

「誰にも、俺の事を心配させないくらいの大物になって凱旋してやるって」
「マジですか」
「その時は、お前の屋敷の門番で雇ってくれ」
「嫌ですよ!殿下に守られるなんて」
「俺の事は気にしなくて結構だぁぁ!!」
「もう!殿下ぁ!分かれ道までは一緒ですって!!」

休みなく歩いてきた道を軽い足取りでアベラルドは小走りで駆け抜ける。
カルロは息も絶え絶えに分かれ道までアベラルドを追いかけた。




「あら?お手紙?」
「うーん…そうなんだけど‥」

ちらりと覗き込むステファニア。
未だに手紙が読めずに苦戦するヴァレリオ。

手紙には【勿体ない時間を過ごしていたと気づかせてくれてありがとう】と書かれていた。

「なんて書いてんのかなぁ…」
「あのね、ヴァリ。それ、手紙が上下逆よ?アウローラと一緒にお勉強しましょうね?」
「勉強?!いやぁ…俺の事はお気遣いなく」

Fin


☆彡☆彡☆彡

初期投稿で大きく躓き、ご迷惑をおかけしました<(_ _)>
猛省し、スーパー銭湯で脳天に打たせ湯してきました。

今回は断罪らしい断罪はない話でしたので断罪、ざまぁなどのタグを付けておりませんでした。
今回のキャラは見る人によって違う面が見えるのですが、考え方も初志貫徹から何かの転機で大きく旋回したりと変わる事もあったりします。

なので償い方もそれぞれかなと思いまして (;^_^A

アベラルドはコメント頂いていた最初の頃、幸せになるかなぁ…みたいな返答をしていたのはこの話では女性とは結ばれない話でしたが、ステファニア同様に新しい生き方をし始めるので幸せかも知れない?と。
アベラルドの今後の話はまた日を改めて恋物語として登場します。
※もう王子様ではないのでハッピーエンド!とは明記しませんが、名前で思い出して頂ければその恋は成就すると思って頂けるとありがたいです<(_ _)>

黒歴史として初期投稿分はまとめて最後に2話公開しております。
同じ轍を踏まないようにとのワシの戒めでもありますので、何卒ご容赦を<(_ _)>

長い話にお付き合い頂きありがとうございました。(*´▽`*)アリガトウ
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