何も出来ない妻なので

cyaru

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再会で妻は

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☆この回☆~☆マークで若奥様とエリオナルの視点がグイグイ変わります☆


☆若奥様☆

ドアノックをされる音が致します。非常に珍しい事です。
100名の方が訪れればほぼ100名の方がそのままドアを開けられますのでドアノックの事を飾りだと思って居られる方や、そもそもそんな物があったかと覚えていない方も居られます。

席を立たずとも外にいる方に声が聞こえるように、ホルンのような管を使って外に居られる方に声を掛けます。

「受付時間内ですので、ドアは開いております。どうぞお入りになってくださいませ」

そうお声がけしたので御座いますが、ドアの前に人は立っているようなので悪戯でドアノックをされたわけではないようです。ドアの開け方が判らないのかしら?と首を傾げますが鍵が開いている時は【プッシュ】と手の絵を描いた札をドアの框に付けておりますので今までそれで困った方はおられません。
と言ってもたかが2か月では御座いますけれど。




☆エリオナル☆

「ちょっと待て…この声は…」

くぐもってはいるが、私が聞き間違えるはずがない。間違いないこの声は…。
そう思って胸のポケットに手を当てた。ドキドキと耳鳴りのように心臓の音が聞こえる。
ゴクリと生唾を飲み込み、震える手でドアを押そうとするのだが何度も手を引っ込めてしまう。

私が声を聞き間違えるはずがない。もし違うのであれば世界に3人いるというそっくりな人物となるが、妻の神々しさを持った人間などいるはずがないのだ。
妻は神が造りし最高の女神なのだ。唯一無二。間違いない。
被り物をしていても私には聞き分けられる自信がある。いや自信しかない。

框から数センチ横に顔をずらせば中が見える。だがそれが出来ない。
何時から私はこんなに憶病な男に成り下がったのだ。扉を押して一歩踏み出せばいいだけなのにそれが出来ない。今更になって会って「離縁です」と言い切られたら…「もう貴方なんか大嫌いです」と言われたら。

おぉぉ~何という事だ。恐ろしい。そんな死刑宣告を受けたくはない。いや愛する妻の死刑宣告なら甘んじて受けるべきだ。むしろそれが喜びではないか!罰は受けなくてはならない。私はそれだけの事をしたのだ。
そして私に罰を与えていいのは妻だけだ。

「よし…」

気合を入れた私はドアを押した。



☆若奥様☆

「こんにちは。本日はどのようなご用件で御座いましょう」

何という事でしょうか。先日から乾いた地を吹き荒れる砂嵐で砂だらけで御座います。
御髭も伸びて数日この地に職を求めて来られたのでしょう。
わたくしは立ちあがり、「少しお待ちくださいませ」と言って奥に幾つか置いてある濡れタオルを取って参りました。長旅でサッパリする事は出来ませんがお顔だけでも拭けば違います。

あぁ、そうでした。このような時は桶に張った湯に足を浸ければ疲れも癒されると言うもので御座います。これもお義父様やお義母様は大変気持ちよさそうにしてくださいましたわ。
足を湯で温め、洗った夜は眠りに入り易いと仰っておりました。

「どうぞ、濡れタオルです。お使いくださいませ。今、湯を持って参ります。靴を脱いで湯に足を浸ければ疲れも癒されると思います」

ですが…どうされたのでしょう。
突然、泣きだして蹲ってしまわれたのです。腹痛でしょうか。痛みを堪えてここでやっと助かったと思われてしまったのでしょうか。困りました。今日はわたくしだけの勤務なのです。
上司となるのでしょうか。辺境伯様の使用人さんは今日は休日なのです。

「どこか痛いのですか?直ぐにお医者様を―――」




☆エリオナル☆

――まさか‥‥まさか…あぁ神よ…この日ほど感謝したことはない――

小鳥が耳元で朝を呼びかけるような可愛い囀りににも似た声で、こんにちはと笑いかけていたのは紛れもなく、探し続けた最愛の妻。その前に見たのは母の葬儀の時だった。
その時は笑う事はなかったが…そう、この微笑みに私は撃ち抜かれたのだ。

9年前の王宮でのデヴュタント。白いドレスを着て子爵の義父と笑いながら踊っていた私の…私の最愛。返事が出来ないでいると、お待ちくださいと奥に行き私にタオルを差し出してくれる。

そう、この手だ。教会で私の手の上にちょこんと乗った手…手汗を気にしながらも噴水まで繋いだ手。少し瘦せたのか指が細くなっている。何という事だ。私の不甲斐なさが…こんなに痩せてしまった原因ではないか。

こみ上げる思いが涙となって目から止めどなく溢れだしてしまった。

「どこか痛いのですか?すぐに―――」

違う。痛いのではない。苦しいのだ。君に会えた喜びと、以前と変わらない優しさで私に寄り添おうとしてくれているのが嬉しい。そして自分の大きな過ちを悔いる気持ちが…心を締め付けるんだ。

「やっと見つけた!!会いたかった」

私は、思い切り抱きしめた。ふわりとした髪が頬に当たるのも心地よい。
しかし、腕の中でなにかを叫んでいる。可愛い手で私の背をトントンばしばしとするのも何もかもが愛おしい。


『はなしっ!!放してくださいませっ!!』

「何故だ?どうして…」

『いきなりこんな‥‥人を呼びますよ!』

嘘だろう?私が判らないのか?
まさかの人違い?こんなにそっくりな人間なんているはずがない。いや間違いなく本人だ。
私の本能がビキビキと訴えかけている。そう!軍馬のスィートも鼻を鳴らしていた。きっと匂いを嗅ぎ分けたからだ。

私は、腕の中から逃げてしまった妻が信じられなかった。いや信じてもらえなくて当たり前だ。酷い言葉をぶつけてしまったのだ。

そう思ってふと横を見ると、姿鏡に映る自分が見えた。

――何という事だ!――

浮浪者のほうがまだ小奇麗な格好をしていると思うほどに風貌が変わっている。
此処までになると伯爵家の使用人も私と判らないだろう。
いや、だが待て。‥‥どうして私だと判ってもらえないのだ?私は声だけで判ったのに。

――本当に人違いなのか…まさか?――


私は、鏡から目を反らせると、まるで子猫のようにフーシャーと毛を逆立てているかのように怯えながらも私を警戒している妻の方を向いた。

「突然…申し訳なかった。だが…こんな格好だが私を知っているだろう?」

『は?』

何という事だ!一文字の返事もお義兄上にそっくりではないか。やはり間違いではない。
兄妹の絆は早々に切れるものではなく、培った本質は似てくるものだ。

「迎えに来たんだ‥‥ずっと探してた」
『迎えに?‥‥もしや‥‥いえ、まさか…』

可愛い瞳が揺れている。私だと気が付いてくれたのだろう。

「エリオナル・デービス・ミスクトン。私の名前だ。そして君は――」

☆~☆

次回遂に若奥様の名前が明かされる。
いや、普通の名前だけどね?

ラストまであと少し。(=゚ω゚)ノ ガンバリマス!
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