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続編

VOL.10

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ガサガサと何かをかき分ける音が部屋の中に響く。

ここはルワード公爵家。住み込みの使用人は1人もいない。エクセから見て祖父の公爵が庭師と下男を派遣してくれる協会に過去、多額の寄付をしたことがあり、その時のお礼で以降30年間、月に3,4日無償で人を回しますと約束をしたので、庭師と下男がやって来るだけ。

料理をしてくれる者も、掃除をしてくれる者もいなくなり部屋の中は荒れ放題。
廃屋の方がまだ片付いている有様。

「五月蝿いな。静かにしてくれよ」

「してるわよ。聞こえる気がするだけよ」

「気がするだけ?バカ言うな!それだけガサガサしてたら耳栓も役に立たないじゃないか!」

「どうせ拾ってきた耳栓でしょ。穴でも空いてるんじゃないの」

「チッ…」

舌打ちをしたエクセは酷い臭いのする寝台に横になってそれ以上動くことはしなかった。動けば腹が減る。屋敷の中には食べる物はなく、井戸の水を汲んで飲むだけ。

その井戸も3年掃除をしていないので飲むと腹を下してしまい酷い目に合ったばかり。

――アジメストが来てから碌なことがない――

エクセは心の中で不満を零す。
言葉にしてしまうとアジメストがキレてまたガラスは割れるし壁に穴が開く。

ガラスが割れると夏は虫が入って来るし、冬は凍えそうな風が雪と共に部屋の中を駆け巡るのでアジメストに聞こえる筈のない心の中で盛大に叫ぶのだ。


ルワード公爵家が行っていた事業は幾つかあったけれど、潮が干潮で引くように「取引停止」が次々に舞い込んだ。

あと20年、30年と小さいけれど継続する事業もあったのにルワード公爵家は毎年同じ報告書を出すだけなので、しなくても問題がないとなって役目を外れて以降は収入も完全に途絶えた。

もう2年以上エクセは執務机で執務をする用事が無い。

たまに手紙の類が届くとアジメストが他家でいろいろとやらかした抗議文。
謝罪に行こうにも馬車は無いし、動けば腹が減るし、物を壊したと書かれていても弁済する金もない。


ルビーの事業がついに動き出し、寄生して餓鬼のように食べ物を食い漁り、我が物顔で公爵家の中を歩き回るノユビワ子爵夫妻とアジメストにも職があるんじゃないか。

そう思って出向いたのだが、当人たちが「働きたくない」と掃除係が決まりそうだったのに蹴ってしまった。

その後ノユビワ子爵夫妻はエクセの留守中に居なくなった。
アジメストが言うには良くない事をしていたようで、金を盗んで逃げたと言うがどうもおかしい。

良くない事をして稼いだ金なら「もって逃げた」なら解るが「盗んで逃げた」にはならないだろうと思うのだ。


その頃はアジメストも羽振りが良くて、無理に掃除係をさせなくて良かったのかと考えたが、羽振りがいいのに公爵家に金を入れる様子は一切なく、結果的に1ピピも入れてはくれなかった。

「ポーカーで勝ったの」とアジメストは言っていたが、当時アジメストは未成年。賭博場に出入りしていたことがバレてしまうと公爵家が責任を負わねばならず隠すので必死だった。

エクセはアジメストが街角に立って客を取る女性達を使って「違法売春」をしていたことを知らなかったのである。


本当はこんなことを考えてはいけないのだが、エクセはアジメストに

「体でも売って稼いできてくれないかな」と思う事が多くなった。




そんなアジメストが美味そうな香りを纏って帰ってきた。
今なら芋だって皮が付いたままでも香りを嗅ぎ分けられそうなほど飢えていたエクセはつい聞いてしまった。


「お前だけ食事をしたのか?僕が庭の草を食べている時に!」

「やだ、庭の草?冗談はやめてよ。私は食べたっていうより試食してあげただけよ」

「試食?」

「そう。その店にしてみたら美味しいかどうかわからないでしょう?客は千差万別なんだもの。だから私が試食をしてあげて、批評をしてあげるの」

「なら僕も連れて行けよ」

「なんで?」

「一緒に行けば僕も食事が出来るじゃないか」

「ごめぇん。何言ってるか意味不~。え。何?まさかと思うけど私の仕事を横取りする気?」

「そういう事じゃない。少なくとも君よりは幼い時から良い物は食べているしそれなりに味も判る。そう言ってるんだ」

「うわぁ。ないない。ないわぁ。自分自慢?こんなに僕チン凄いんでちゅーって言いたいわけ?この部屋の有様で?使用人もいないこの状態で?ビックマウスにビックリ~」

「こんなにしたのは誰だ!お前じゃないか!お前が来てから碌なことがない!ルビーだったらこうはなってない!」

「なんですってぇ!!誰と比べてんのよ!あんな女より私のがいい、アジメストが一番って言ったの誰よ!こっちこそあんたなんかに抱かれなかったら今頃こんなシケた暮らししてないわよ!」

「なんだと?!学問所の成績も最下位、金が払えず退学になったくせに!」

「私が悪いんじゃないわ。金を払わないお姉様とこんな頭に産んだ親が悪いのよ。他人のアンタが口出しする事じゃないわよ。いうに事欠いたとしてもねッ!でも、そんなエクセにいい事教えてあげるわ」

「なんだよ」

「落としものって拾うじゃない?どうする?」

「持ち主に返すか…警備兵に届けるだろうよ」

「そう!その理屈で行くと、裁判院だろうとなんだろうと、ルワード公爵家の持ち物を他人に売るっておかしいでしょ?」

「いや、それは金を借りたからだよ」

「そこよ!よぉく!考えてみて?確かに領地は担保に金は借りた。でも金って貸した方にも責任はあるでしょう?借りたのは金であって領地じゃないのに取られるのおかしいわよ。返すのは金であって領地じゃないわ。戻してもらいましょうよ。落としものだって持ち主に返すのが当たり前でしょう?」

「そうかな…そうだな…借りた方だけが悪いんじゃない。貸した方にも責任はあるよな」

「でしょう?」

「アジメスト…すまない。やっぱりルビーのせいで退学になっただけで頭、良かったんだな」

「当たり前でしょ。お姉様と一緒にしないでよ。私の事を憎んでるから学費の払いを止めただけ!そういう汚い手を使うから皆に嫌われてるのよ」


アジメストはエクセを焚きつけたが、アジメスト自身が本気でそう思っている。借りたのは金であり領地ではないのだから担保だと言っても領地が奪われるのはおかしいと本気で考えていた。

裁判院の競売でルワード公爵家の領地を手に入れた者たち全員に「貸してやっていい」と声を掛けたもののけんもほろろにあしらわれ、「人が下手に出て来ればいい気になって!」と腹が立ったので取り戻そうとエクセに言ったのだ。


エクセはなんだか嬉しくなって寝台を飛び降りるとアジメストを抱きしめた。

「何を探してたんだ?」

「ん~この前女の子から貰った銀貨。1枚転んでいったのよね」

「よし、僕も探すのを手伝うよ」

「助かるぅ~。ありがとう。じゃぁ奪還作戦の前祝い。銀貨が見つかったらパーッとやりましょう!」

アジメストが試供品の化粧水を井戸水で薄め、少女たちに売りつけた代金の銀貨。
1枚転がったのは間違いがなく、その銀貨は部屋の隅に転がっていた。

その夜、2人は久しぶりに街に繰り出し、安い酒場だったが浴びるようにワインを飲んで腹いっぱい食べ物を胃の中に押し込んだのだった。


☆~★
今日はここから1時間おきの更新で22時10分までになります(*^_^*)
血圧上昇にご注意ください<(_ _)>
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