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第37話  これっきり、これっきり

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為政者と言うのは実に身勝手なものである。

王弟の元に向かったプライムは1時間半ほど待たされてやっと王弟と面会が出来た。

先触れもないのだから待たされるのは仕方ないにしても、周辺国も出資をしている大事業を行おうとしているコハマ侯爵家なのに?と驕りもあったが、それでも待たされてしまった挙句にこの返事とは。

プライムは呆れてしまった。


「つまりは養子縁組をしたのも、結婚をしたのもルビーではなくアジメストにしろと?」

「はい。是が非でもお願いしたく」

「この話なぁ…王家としてはもう手を引きたいんだ。尤も絡んでしまった以上引くことも出来ないんだが、兄上国王も王命の書面を出した後で、公爵家に縁戚からでも養子縁組をさせるとかすれば良かったと後悔をしていたんだ」

――それが手っ取り早いですよね。私ならそうしますし――

兄上国王が孫LOVEなところをルワード公爵が上手く突いてきたからな。誰だって孫は可愛い。実子の子供か、養子の子供か。そう迫られたらそりゃ実子の子供である孫の方を可愛いと思ってしまうだろうに」

「その点は問題ありません。手っ取り早く言ってしまえば姉から妹になるだけです。実の姉妹ですしノユビワ家から見てエクス殿に子が産まれた時、実の娘が産んだ子に変わりはありませんから」

「いいんじゃないか?姉妹とか兄弟とか。相手が変わる事は戦時中もよくあったし、兄弟姉妹が戦死した時にその配偶者と夫婦になるものだっているんだからさ。で?どれを書き換えればいいんだ?」


王家としては「公爵家を存続させるための画策」と見られても仕方のない行為だったので、これが公になってしまうと「なら我が家も」とこの先事あるごとに言われては堪らない。

身分差があって結ばれないからこそ燃え上がるのか。高位貴族と平民が愛人として関係を持つことも多く「血」と「家」を繋いでいく上で弊害になっていた。

ただどの家もこれまで言ってこなかったのはなんだかんだ言っても関係を続けて行けばお互い年を取る。壮年、中年となると結局生まれ育ってきた環境が同じである者、価値観が似ている者を最終的には選ぶし、年をとっても好色な者は若い方に目が移るので金があれば手に入る若い愛人を抱え、古い愛人とは手を切るのだ。

貴族だけでなく平民の愛人が努力をして学び、日々研鑽をして立身出世のようになれば貴族の凝り固まった概念に自由が見いだせず結局別れを選んでしまう。

刺激を求める。それだけの事だと気が付いてしまうのだ。

事がおおやけになり、今のプライムのように「書き換えてくれ」なんて次々に頼まれるのは面倒でしかない。

それでも企みに乗ってしまい棺桶に片足を突っ込んだことから引き受けてくれた。

「これっきりだぞ?」プライムに念押しをする。

プライムは思った。

――王家もなんだかんだでクズだな――と。



「で?結局平民の女ではなく子爵令嬢…おっと、書き換えるから侯爵令嬢か。そちらと関係を持ったと?」

「はい。公爵もまんざらではなかったようで」

「そりゃそうだろう。養女とは言え息子がこれで侯爵家出身とした令嬢との間に子を作る事になったんだから。ほい、これは養親縁組の方。確認してくれ」


王弟はまるで流れ作業のように養子縁組の書類を作り直し、コハマ侯爵家に養女となったのはアジメストになった。

「あ~。間違った。おーい。紙を持ってきてくれ。結婚証明書の方だ」

「畏まりました。何枚ほどお持ちいたしましょう」

「ん~。取り敢えず3枚?」

「はい。お待ちくださいませ」


王弟は従者に頼むと一息いれるのかぬるくなった茶を一気に飲んだ。

「はぁ~しっかし…馬鹿だクズだと思っていたがそっちを選んだか。類は友を呼ぶとは本当だな」

ため息交じりに王弟はプライムに愚痴る。
ルワード公爵家はルワード公爵や王弟の関係で見ればにあたる。

遊び人で放蕩者の王子が臣籍降下をしたからか、以降もパッとせず目立った功績もない。大きな失敗がないのと公爵家だから大目に見て貰えていたが、この結婚が上手く行かない、つまり平民の愛人との子供が次の公爵と知れ渡るようなら取り潰しも視野に入れていた。

アジメストは学問所に在籍した期間があるので、王弟もアジメストの事は知っていた。
良くも悪くもアジメストは癒しの力という稀有な力があると言われていたので学問所に入った時から注目はされていたのだ。

「結局癒しの力は無いし、学力だって188人中185番を入学からキープだぞ?」

「それはそれで凄いですね。後ろにまだ3人いる状態を続けられるなんて」

「休学中の3人だからな。試験を受けておらず授業料の支払いと寄付があるから籍があるんだ」

「という事は…実質…いえ、この先は自主規制で」


従者が予備も含めて持ってきた結婚証明書。しっかりと同じ場所をまた2回間違った王弟は最後の1枚できちんと仕上げ、プライムが確認した後、結婚証明書と養子縁組認可書の控えだけをプライムに渡してくれた。

原本はこれまで通り王家で保管することになり、今まで保管されていた2枚の書類は王弟の手によって暖炉の火にくべられ、燃え尽きた灰は火掻き棒によって粉々になった。
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