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第18話 割れた卵を活用しよう
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テーブルの上に置かれた瓶には液体と卵が入っていた。
正確には蒸留酒であるブランデーの中に卵の殻が入っている。
「よく見て欲しいんだ。この固い殻の内側にある薄い皮膜。これを友人が何だろう?と問うてきたんだ」
ルビーは瓶を手に取ってまじまじと中を見た。
「これが何か?」
「友人が言うには、卵が手に入ったので割って中身は焼いて食べたそうだ。その時に捨てたはずの卵の殻…僕が言うのもなんだけど友人の部屋も僕の部屋と似たようなもので、その辺に物が山積みになってるんだけど、飲みかけのブランデーの中に干からびた卵の殻が落ちたらしいというんだ」
――らしい…相当に片付けてないってことよね――
「で、雪崩が起きたらしい」
想像に容易い。ゴミ屋敷あるあるである。
何かの拍子にバランスが崩れると積もったゴミが雪崩を起こしてしまうのだ。
雪崩が起きてグラスに残ったブランデー浸けになった卵の殻が封印されてしまったと言う訳だ。
「友人の姉妹が来て、部屋を片付ける時にこの卵の薄皮が何かの拍子に姉の腕に張り付いたまま姉は気が付かず数時間掃除をしたそうなんだけど、取ってみるとその部分の肌がつるつるになったそうなんだ」
偶然の副産物に近いが、割ったまま放置したことで殻と薄皮が分離しやすくなったところにブランデーの中に落ちてしまった。腕なのか、手の甲なのか、部位は定かではないが、殻は取れても肌に卵の薄皮が残って張り付いたと思われる。
気が付いた時の女性の絶望が伝わってきそうだ。
「これはどういう事だろうともしかするとブランデーの酵母菌が作用したのか?と僕に聞いてきたんだ」
ルビーはこの現象は直ぐに理解できた。
領地で農婦が唯一の美容だと行っていた方法だったからである。
卵は王都では貴重。領地でも貴重な食材だがレストランで中身を調理した後の卵の殻はただのゴミだった。
これを焼いて砕いて土の中に混ぜ込んで肥料として使っていたが、昔の人の知恵と言うのだろうか。
卵の薄皮は領地のあたりでは美容に使われていた。
レストランのゴミとなった卵の殻を貰ってきて綺麗に水洗いをして干す。
乾燥したら殻から薄皮を剥がす。剥がした薄皮は冬場に体を温めるスコッチなどの中に入れる。
2,3週間寝かせると化粧水が出来上がるので薄めて使うのだ。
他の地域で同じかどうかは不明だが、冬に体温をあげる目的で飲むスコッチ。旦那衆はちびちびと飲んで春先には余ってしまう。
家にあると旦那衆が飲んでしまうので「もう飲めないよ」と視覚的に判断させるために入れたとルビーのいた領地では言われていた。
元々亡国となった国で戦勝の褒章でコハマ侯爵が賜った地なので文化も違う。
真偽は定かではないが、領地では冬のスコッチは夫の体を温め、夏は薄皮が入ったスコッチで妻は肌を保湿していた。
ルビーが山でガーデンバードを捕まえたくらいなので元々住んでいる人は捕まえたガーデンバードの卵も日常的に食べていたと思われる。国が変わったので生活様式も合わせるしかなくて卵の価値がまるっきり変わってしまっただけだ。
「そうなんだね。てっきり何か菌が作用したのかと思っていたよ。昔から使われているものだったんだね」
「日数が立つと中身はどうしようもないですが殻と薄皮は別の用途で使えそうですわね」
「化粧水か‥エミリアが事業をしてるけど、あいつは面倒くさいからな。こっちで独自にやってみよう」
「お嬢様、卵の殻が使えるなら殻だけ回収ってのはどうです?」
「ナナ…性善説を信用してはだめよ。みんなが洗ってくれるとは限らないし回収の手間を考えたらやめた方がいいわ」
「だったらお嬢様、腐る前に回収してレストランをしてはどうでしょう?格安で卵料理の食べられるレストランです。納品するってことは売れ残りの回収もすればいいので、こっちは手間になりませんよね」
ナナの提案を聞いてサーディスがポンと手を打った。
「それはいいかもしれない。何もないところだから敷地のかなり向こうに小さな町はあるんだが観光になるようなものも無くて中途半端な距離にあるもんだからみんな出て行ってしまうんだ。そこで人も雇えれば人口の王都集中と街の人口減少にも歯止めがかかる。放牧と卵料理それから…美容をメインとした施設も併設すれば客も呼べるんじゃないだろうか」
「兄さん、通いで人が雇えるのは良いけど他の事は軌道に乗ってからだよ」
話をしているとどんどん膨らんでいく構想だが、今回の話を元にしてセカンダリにも問い合わせをすることと、ルビーとナナ、サーディス、エルヴィーは後日またそれぞれが考えた案を突き合わせることにした。
「じゃぁナナ特製のお茶タイムです!」
「あ~喉がカラカラだ。ナナのお茶なんて久しぶりだよ」
「お嬢様に会いに来ていただければいつでも淹れますよ?」
「じゃぁ今度は採れたてキノコを持ってくるよ」
<< それは要らない!! >>
笑い声の響く部屋。夫婦の寝所を挟んでその声はエクセの部屋まで聞こえていた。
新規事業などエクセも何か立ち上げたいと思いつつもまだ企画にも至っていない。聞こえてくる会話のように意見を取り敢えず出し合う場はエクセもワクワクする。
――どうして夫である僕を混ぜてくれないんだ?――
エクセはそう思ったが、混ぜてくれるはずもない。と直ぐに思い至った。
初夜の日に「自由に過ごせ」とルビーを突き放したのはエクセ自身。
「だめだ。コリンナの所へ行こう」
楽し気な笑い声に居た堪れなくなったエクセはコリンナのいる離れに向かったのだった。
正確には蒸留酒であるブランデーの中に卵の殻が入っている。
「よく見て欲しいんだ。この固い殻の内側にある薄い皮膜。これを友人が何だろう?と問うてきたんだ」
ルビーは瓶を手に取ってまじまじと中を見た。
「これが何か?」
「友人が言うには、卵が手に入ったので割って中身は焼いて食べたそうだ。その時に捨てたはずの卵の殻…僕が言うのもなんだけど友人の部屋も僕の部屋と似たようなもので、その辺に物が山積みになってるんだけど、飲みかけのブランデーの中に干からびた卵の殻が落ちたらしいというんだ」
――らしい…相当に片付けてないってことよね――
「で、雪崩が起きたらしい」
想像に容易い。ゴミ屋敷あるあるである。
何かの拍子にバランスが崩れると積もったゴミが雪崩を起こしてしまうのだ。
雪崩が起きてグラスに残ったブランデー浸けになった卵の殻が封印されてしまったと言う訳だ。
「友人の姉妹が来て、部屋を片付ける時にこの卵の薄皮が何かの拍子に姉の腕に張り付いたまま姉は気が付かず数時間掃除をしたそうなんだけど、取ってみるとその部分の肌がつるつるになったそうなんだ」
偶然の副産物に近いが、割ったまま放置したことで殻と薄皮が分離しやすくなったところにブランデーの中に落ちてしまった。腕なのか、手の甲なのか、部位は定かではないが、殻は取れても肌に卵の薄皮が残って張り付いたと思われる。
気が付いた時の女性の絶望が伝わってきそうだ。
「これはどういう事だろうともしかするとブランデーの酵母菌が作用したのか?と僕に聞いてきたんだ」
ルビーはこの現象は直ぐに理解できた。
領地で農婦が唯一の美容だと行っていた方法だったからである。
卵は王都では貴重。領地でも貴重な食材だがレストランで中身を調理した後の卵の殻はただのゴミだった。
これを焼いて砕いて土の中に混ぜ込んで肥料として使っていたが、昔の人の知恵と言うのだろうか。
卵の薄皮は領地のあたりでは美容に使われていた。
レストランのゴミとなった卵の殻を貰ってきて綺麗に水洗いをして干す。
乾燥したら殻から薄皮を剥がす。剥がした薄皮は冬場に体を温めるスコッチなどの中に入れる。
2,3週間寝かせると化粧水が出来上がるので薄めて使うのだ。
他の地域で同じかどうかは不明だが、冬に体温をあげる目的で飲むスコッチ。旦那衆はちびちびと飲んで春先には余ってしまう。
家にあると旦那衆が飲んでしまうので「もう飲めないよ」と視覚的に判断させるために入れたとルビーのいた領地では言われていた。
元々亡国となった国で戦勝の褒章でコハマ侯爵が賜った地なので文化も違う。
真偽は定かではないが、領地では冬のスコッチは夫の体を温め、夏は薄皮が入ったスコッチで妻は肌を保湿していた。
ルビーが山でガーデンバードを捕まえたくらいなので元々住んでいる人は捕まえたガーデンバードの卵も日常的に食べていたと思われる。国が変わったので生活様式も合わせるしかなくて卵の価値がまるっきり変わってしまっただけだ。
「そうなんだね。てっきり何か菌が作用したのかと思っていたよ。昔から使われているものだったんだね」
「日数が立つと中身はどうしようもないですが殻と薄皮は別の用途で使えそうですわね」
「化粧水か‥エミリアが事業をしてるけど、あいつは面倒くさいからな。こっちで独自にやってみよう」
「お嬢様、卵の殻が使えるなら殻だけ回収ってのはどうです?」
「ナナ…性善説を信用してはだめよ。みんなが洗ってくれるとは限らないし回収の手間を考えたらやめた方がいいわ」
「だったらお嬢様、腐る前に回収してレストランをしてはどうでしょう?格安で卵料理の食べられるレストランです。納品するってことは売れ残りの回収もすればいいので、こっちは手間になりませんよね」
ナナの提案を聞いてサーディスがポンと手を打った。
「それはいいかもしれない。何もないところだから敷地のかなり向こうに小さな町はあるんだが観光になるようなものも無くて中途半端な距離にあるもんだからみんな出て行ってしまうんだ。そこで人も雇えれば人口の王都集中と街の人口減少にも歯止めがかかる。放牧と卵料理それから…美容をメインとした施設も併設すれば客も呼べるんじゃないだろうか」
「兄さん、通いで人が雇えるのは良いけど他の事は軌道に乗ってからだよ」
話をしているとどんどん膨らんでいく構想だが、今回の話を元にしてセカンダリにも問い合わせをすることと、ルビーとナナ、サーディス、エルヴィーは後日またそれぞれが考えた案を突き合わせることにした。
「じゃぁナナ特製のお茶タイムです!」
「あ~喉がカラカラだ。ナナのお茶なんて久しぶりだよ」
「お嬢様に会いに来ていただければいつでも淹れますよ?」
「じゃぁ今度は採れたてキノコを持ってくるよ」
<< それは要らない!! >>
笑い声の響く部屋。夫婦の寝所を挟んでその声はエクセの部屋まで聞こえていた。
新規事業などエクセも何か立ち上げたいと思いつつもまだ企画にも至っていない。聞こえてくる会話のように意見を取り敢えず出し合う場はエクセもワクワクする。
――どうして夫である僕を混ぜてくれないんだ?――
エクセはそう思ったが、混ぜてくれるはずもない。と直ぐに思い至った。
初夜の日に「自由に過ごせ」とルビーを突き放したのはエクセ自身。
「だめだ。コリンナの所へ行こう」
楽し気な笑い声に居た堪れなくなったエクセはコリンナのいる離れに向かったのだった。
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