1番じゃない方が幸せですから

cyaru

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第03話  領民には愛されていた

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書類を全て揃えるのが昼頃になりそうだというので、ルビーは今朝採れたばかりの卵を持ってレストランに向かった。

「あの…実は急なんですけど、王都に行く事になって卵は今日で最後なんです」

「王都に?家族で引っ越しするのかい?」

「いいえ。私だけです。それで、もう卵は届けられなくて。ごめんなさい」


レストランの支配人もルビーがノユビワ家でどんな扱いをされているかは知っていた。

こんな田舎にコハマ侯爵家の馬車は目立ちすぎる。
ルビーが多くを語らず、正確な理由は判らずとも王都に連れて行かれるんだろうなと悟った。

「じゃぁ、餞別だ。普通は渡すものなんだがルビーが世話をしていたガーデンバードをうちで引き取ろう」

「いいんですか?!」

「勿論だよ」

ルビーの心配はガーデンバードの事だった。

鶏舎の掃除も餌やりもかなり重労働。
清潔にしていないと1羽が何かの病気になると一瞬で他のガーデンバードも感染してしまう。

人間に飼われてしまうともう山に戻しても野犬や狼などの餌になるだけで生き延びることなど出来ないのだ。

家族に頼んだところでソテーにされるかスープの肉にされるか。
若しくは世話をせず見て見ぬふりで死に絶えるまで放っておくか。

心配していたガーデンバードを引き取ってくれるという支配人にルビーは感謝した。

「今日の卵代は要らないです。ガーデンバードの事、よろしくお願いします」

「任せておきなさい。チキンソテーなんかにしたりしないよ。約束する。それからこれは…従業員たちからの餞別だ」


まだ1人も店には出勤していないし、ルビーが王都に行く事なんか誰も知らないのに支配人は従業員からの餞別だとポケットから現金を出し、ルビーに握らせた。

「突然だったから袋がなくて現金のままですまん。失礼なのは解っているが受け取ってくれ」

「支配人さん…ありがとう」

「ルビーの持ってきてくれる卵、デビルゴウトヤギの乳で作ったチーズ。それらを目当てにわざわざ国境を越えてのお客さんもいたんだ。この店が持ち直したのはルビーのおかげでもあるんだよ。こちらこそ…ありがとう」


デビルゴウトヤギは5,6年前にルビーが薪拾いをしている時に何故か寄ってきたのでで捕まえて、領民の家で飼われている。

ルビーはデビルゴウトヤギに限らず動物から好かれるようで獰猛な狼や熊ですらルビーには敵意を向けないのでキノコ狩りの季節などは領民から引っ張りだこだった。

こちらも飼育すれば普通のヤギと何ら変わらない。
見た目が真っ黒であることと、頭部ではなく背中に魚の背びれのように角があるだけ。


デビルゴウトヤギは見た目と裏腹に非常に憶病なヤギで別名「寄生ヤギ」とも呼ばれている。

憶病であるがゆえに捕まえようとするとヤギなのに脱兎のごとく逃げるので足の速さに追い付かず捕まえられない。しかし、「お!イイネ!」と思うと「自分も恩恵に肖りたい」とやってくるのだ。

ルビーは鶏舎では飼えないので領民に預けたが、預けられた領民もびっくり。
朝、デビルゴウトヤギの小屋に行ったら「入れてください」とデビルゴウトヤギの群れが待っていたのだ。

食べ物を探す必要もなく、狼などに襲われるんじゃないかと怯える日々とはオサラバ!!と思ったのか、今では柵で囲った牧場で悠々と暮らし、ルビーにデビルゴウトヤギを預けられた領民はデビルゴウトヤギチーズで家を新築した。

乳はコクがあって飲みやすく、常温でも日持ちがする。
母乳の出が悪い母親はたった100mlを白湯で何倍にも薄めれば赤子の腹が満たせるので、ここ数年栄養不足から儚くなる赤子は領内で出ていない。

デビルゴウトヤギチーズのリベートもルビーは受け取らない。ルビーは預けただけで乳を搾るのもチーズを作るのもルビーではないからである。

両親からは煙たがられているようにも見えるルビーだが領民からはとても愛されていた。

支配人は卵も全ては受け取らずに長い道中になるから途中で栄養補給に自分で食べなさいと3個残してくれた。


帰りは支配人と早出でやってきた男性従業員と共に荷馬車でノユビワ家に戻り、家から少し離れた場所にあった鶏舎で荷馬車の荷台にガーデンバードを人間と入れ違いに積み込んでもらった。

「元気でな。超大金持ちになったら限定ディナーでも食べに来てくれ」

「はい」

超大金持ちになる事はないだろうが、いずれは嫁ぎ先の公爵家からも追い出されるだろうし、養子に迎えてくれるとは言え侯爵家に戻ることも出来ないし、ノユビワ家に戻ろうとも思えない。

しかし、そうなっても頑張って働いてお金を貯め、必ずレストランに行こう!
ルビーは支配人と、早出の従業員と軽くハグをする。

ガーデンバードを載せた馬車が動き出すとルビーはその姿があぜ道の遠くに小さくなるまでずっと立って見送った。
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