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国王の焦り
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着々と結婚式の準備が進む中、先にフランセアに側妃の件を告げたハロルドはやっと国王の元に向かった。決して時間を稼いでいた訳ではなく、国王も分刻みで動いているからである。
話があると通してもらってやっと時間が取れたのが結婚式の1カ月前だった。
「話とはなんだ?時間がない手短に話せ」
「父上、フランセアを正妃とした後、半年後に側妃を召し上げます」
「は?今何と?」
「ですから半年後、いえ、今からですと7カ月後に側妃を召し上げます」
返事の代わりにペン立てが飛んでくる。ハロルドに当たりはしないが父の怒りを感じた。
当然の事である。父の国王ですら側妃を召し上げたのはハロルドの母である王妃が儚くなってからだ。2人目がどうしても腹で育たず、流産を繰り返しハロルドの婚約が決まった翌年天に召された。
今いる側妃はここ3年ほどで召し上げたものばかりで、王女も一番上で1歳半。
かなり年が離れているが、国王はまだ36歳。ハロルドは国王が18歳の時の子である。
隣国ではこの年齢でもまだ未婚の王子もいる年齢である。
ハロルドも昨年学園を卒業し、18歳になった。自分が子を持った年齢になったのだ。
国王ですら側妃を持ったのは王妃が亡くなって1年後。生きている間は制度はあっても考える事はなかった事である。それを正妃を娶る前に言いだすとは呆れるばかりだ。
「アゼントン公爵令嬢には伝えたのか」
「はい、1か月ほど前に伝えました」
「なんと言っていた」
「構わないと」
国王は眉を顰める。側妃を娶るとこの段階で伝えられれば「職業王妃」という事を宣告されたも同じである。確かに出来は過去に例を見ない程に良いと講師達からは報告を受けてはいるが、余りにも潔くないかと疑ってしまうのだ。
「何の見返りもなしにか?」
「いえ、離宮に住まわせてほしいと…」
「側妃が王宮、正妃が離宮か…まさかと思うが飲んだのではあるまいな」
「飲みました。それで良いと言うので」
――自らが離宮に引き下がると言うのか――
自分の側妃たちは顔を見れば嫌味の応酬である事から、フランセアも一人の女として見た時に嫉妬心を持ってしまうのかも知れないと国王は考えた。
だが、側妃は側妃である。正妃となるフランセアが存在を容認したとしても扱いに差がなければ臣下に示しがつかない。ハロルドが公爵家を蔑ろにしていると見られてもおかしくない行為だからである。
「判った。但しその側妃。王宮内でも北の棟とする。反論は許さん」
「北の棟って…あそこは石女だった側妃の棟ではないですか」
「側妃については認めただろう。反論は許さないと言ったはずだ」
「ですが、迎えるにあたって北の‥」
「くどい!」
「父上!北の棟は容赦くださいっ」
「決定だ。私は忙しい。その上こんなくだらん事で公爵3家と話もせねばならんのだぞ」
その後、何を言っても返事を返さなくなる国王にハロルドは退室をする。
ただ、側妃を召し上げる事は父にもフランセアにも許可をもらったのだと心が跳ねた。
「馬車の用意を」
従者に告げる。従者は静かに礼をして足早に去った。
「あのバカが」
「陛下、どうされますか」
「仕方ない。ゲシュタリス公爵、ルゼベルグ公爵を呼んでくれ」
「畏まりました。アゼントン公爵はどうされますか」
「そうだな‥‥早急に調整してくれ。結婚式前には詰めておきたい」
「5日後ですと午前中に時間が取れます」
「それでいい。公爵夫人の好みそうな菓子の用意も頼む」
「承知致しました」
決して甘やかしたつもりはなかったが、女性に対しての免疫はなかったのだろうと今更ながらの反省をしながら息子の愚行を恥じ入る国王。
覚悟を決める時が来たと3大公爵の顔を思い浮かべる。
筆頭はアゼントン公爵家だが、残りの2家もそれに肩を並べる公爵家である。
金銭的にアゼントン公爵家が一番上になるが、ゲシュタリス公爵家もルゼベルグ公爵家も国王の弟が臣籍降下をして興した公爵家である。
アゼントン公爵家だけが曾祖父の代で臣籍降下をした後、莫大な財を築いた。功績は大きく今もアゼントン公爵家の事業には半分以上の貴族が恩恵に肖っている。
「陛下、先程の件ですが令嬢が判明しました」
「どこのメス犬だ」
「ノフォビア伯爵家のビーチェです。3姉妹の真ん中です」
「7歳も年上ではないか‥‥何と言う事だ」
「身持ちは悪くはありませんが、学業は芳しくありません」
ノフォビア伯爵家は良くもなければ悪くもない。中立派だが風見鶏。蝙蝠伯爵とも言われている。情勢次第でどこの派閥にも良い顔をする伯爵である。
娘は3人。一番上と一番下は真逆の派閥にいる伯爵家に嫁いでいる。
身持ちが悪くないのは良い事ではあるが、固いわけではない。
従者は暗に、過去の相手がいると言う事を仄めかす。
「頭の痛い問題だな」
「どうされますか。盛りますか」
「結婚までに孕めばどうなるかはハロルドも判っているだろう。その後は盛れ」
「承知致しました」
本人不在でハロルドと伯爵令嬢の間には子が出来ないように手が打たれた。
話があると通してもらってやっと時間が取れたのが結婚式の1カ月前だった。
「話とはなんだ?時間がない手短に話せ」
「父上、フランセアを正妃とした後、半年後に側妃を召し上げます」
「は?今何と?」
「ですから半年後、いえ、今からですと7カ月後に側妃を召し上げます」
返事の代わりにペン立てが飛んでくる。ハロルドに当たりはしないが父の怒りを感じた。
当然の事である。父の国王ですら側妃を召し上げたのはハロルドの母である王妃が儚くなってからだ。2人目がどうしても腹で育たず、流産を繰り返しハロルドの婚約が決まった翌年天に召された。
今いる側妃はここ3年ほどで召し上げたものばかりで、王女も一番上で1歳半。
かなり年が離れているが、国王はまだ36歳。ハロルドは国王が18歳の時の子である。
隣国ではこの年齢でもまだ未婚の王子もいる年齢である。
ハロルドも昨年学園を卒業し、18歳になった。自分が子を持った年齢になったのだ。
国王ですら側妃を持ったのは王妃が亡くなって1年後。生きている間は制度はあっても考える事はなかった事である。それを正妃を娶る前に言いだすとは呆れるばかりだ。
「アゼントン公爵令嬢には伝えたのか」
「はい、1か月ほど前に伝えました」
「なんと言っていた」
「構わないと」
国王は眉を顰める。側妃を娶るとこの段階で伝えられれば「職業王妃」という事を宣告されたも同じである。確かに出来は過去に例を見ない程に良いと講師達からは報告を受けてはいるが、余りにも潔くないかと疑ってしまうのだ。
「何の見返りもなしにか?」
「いえ、離宮に住まわせてほしいと…」
「側妃が王宮、正妃が離宮か…まさかと思うが飲んだのではあるまいな」
「飲みました。それで良いと言うので」
――自らが離宮に引き下がると言うのか――
自分の側妃たちは顔を見れば嫌味の応酬である事から、フランセアも一人の女として見た時に嫉妬心を持ってしまうのかも知れないと国王は考えた。
だが、側妃は側妃である。正妃となるフランセアが存在を容認したとしても扱いに差がなければ臣下に示しがつかない。ハロルドが公爵家を蔑ろにしていると見られてもおかしくない行為だからである。
「判った。但しその側妃。王宮内でも北の棟とする。反論は許さん」
「北の棟って…あそこは石女だった側妃の棟ではないですか」
「側妃については認めただろう。反論は許さないと言ったはずだ」
「ですが、迎えるにあたって北の‥」
「くどい!」
「父上!北の棟は容赦くださいっ」
「決定だ。私は忙しい。その上こんなくだらん事で公爵3家と話もせねばならんのだぞ」
その後、何を言っても返事を返さなくなる国王にハロルドは退室をする。
ただ、側妃を召し上げる事は父にもフランセアにも許可をもらったのだと心が跳ねた。
「馬車の用意を」
従者に告げる。従者は静かに礼をして足早に去った。
「あのバカが」
「陛下、どうされますか」
「仕方ない。ゲシュタリス公爵、ルゼベルグ公爵を呼んでくれ」
「畏まりました。アゼントン公爵はどうされますか」
「そうだな‥‥早急に調整してくれ。結婚式前には詰めておきたい」
「5日後ですと午前中に時間が取れます」
「それでいい。公爵夫人の好みそうな菓子の用意も頼む」
「承知致しました」
決して甘やかしたつもりはなかったが、女性に対しての免疫はなかったのだろうと今更ながらの反省をしながら息子の愚行を恥じ入る国王。
覚悟を決める時が来たと3大公爵の顔を思い浮かべる。
筆頭はアゼントン公爵家だが、残りの2家もそれに肩を並べる公爵家である。
金銭的にアゼントン公爵家が一番上になるが、ゲシュタリス公爵家もルゼベルグ公爵家も国王の弟が臣籍降下をして興した公爵家である。
アゼントン公爵家だけが曾祖父の代で臣籍降下をした後、莫大な財を築いた。功績は大きく今もアゼントン公爵家の事業には半分以上の貴族が恩恵に肖っている。
「陛下、先程の件ですが令嬢が判明しました」
「どこのメス犬だ」
「ノフォビア伯爵家のビーチェです。3姉妹の真ん中です」
「7歳も年上ではないか‥‥何と言う事だ」
「身持ちは悪くはありませんが、学業は芳しくありません」
ノフォビア伯爵家は良くもなければ悪くもない。中立派だが風見鶏。蝙蝠伯爵とも言われている。情勢次第でどこの派閥にも良い顔をする伯爵である。
娘は3人。一番上と一番下は真逆の派閥にいる伯爵家に嫁いでいる。
身持ちが悪くないのは良い事ではあるが、固いわけではない。
従者は暗に、過去の相手がいると言う事を仄めかす。
「頭の痛い問題だな」
「どうされますか。盛りますか」
「結婚までに孕めばどうなるかはハロルドも判っているだろう。その後は盛れ」
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