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第41話 授与より嬉しい囁き
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夜も怖いが昼間も怖い、何も起こらない事が何より怖い。
「ドレイクさぁん。もう大丈夫でしょうか」
「ははっ。大丈夫ですよ。ほら、殿下がこちらに」
「ゲッ!‥‥あ、いえ…あらまぁ♡」
「ふはっ。アイちゃん様は面白いですね」
口元に軽く握った手を当ててクスっと笑うイケオジ。
目尻に出来る皴さえ尊い。
――ご馳走様です――
ドレイクが「ほら」と示す先を見るとヴァルディスがこちらに向かって歩いている姿があった。
――もしかして歩いてるの見るの、初めてかも?――
いつも突然やって来て声をかけるので小道を歩いているヴァルディスを見るのが初めてだな?とアイリスは「今頃になって?」と思ってしまった。
「やぁ!気分はどうだい」
気安く声をかけて家の中に入ってきたヴァルディスは驚かないアイリスに「あれ?」首を傾げた。
――フフン。何時も驚くと思わないでよ?――
単に来るのを先に見つけただけだが、これだけでもちょっと勝った気分になれる。
細やかな幸せは心の栄養だ。
「今日は、アイちゃんに良い物を授与しよう」
「授与はいいんですけど、前々から思ってましたがアイちゃんってのは遠慮して頂けると…」
「なんでだ?皆そう呼んでいるだろう?」
――真似っ子だったんかいっ!――
「あまりにも気安すぎますよ。これでもお飾り妻ですからね?まぁ…次期ファルフェス侯爵夫人とか呼ばれると寝る時、横になったら天井にゲジゲジを見つけた時の様な嫌悪感は感じますけど」
「では何と?私にだけ特別な呼び名を許してくれるのか?」
――なんでそっちよ。普通でいいじゃん――
と、思ってみるも「普通」がない事に気が付く。
王太子に敬称を付けて呼ばれるのもなんだが違う気がするし、そもそもでここにこれだけ来ることがおかしいので考える事に意味があるのかとすら思ってしまう。
――考えるの、面倒くさっ――
「アイちゃんでいいです。で?何を授与してくださるんです?」
「これだ」
ヴァルディスが笑顔で差し出してきた書類は3枚。
アイリスは受け取って、1枚、1枚をじっくりと見て偽物じゃないのか?と陽の光に透かして見るが透かしは入っていない。透かしはないけれど3枚それぞれに違う印章が押印されていた。
「完済証明書…本物ですか?」
「あぁ。本物だ。騙りであろうとなかろうとファルフェス侯爵家の応接室で金を借りているからな。金融商会も貸した記録を出納帳から抹消する事は出来ないんだ。アイリスと言う名前で借りた金は全て返済をされたよ。それは3つの金融商会が発行した正式なものだ。それから…」
「まだあったんですか?!どこから借りてたんですか?」
「ないない。金融商会も調べてくれたし私も調査をしたが違法な金貸しから借りている金は確認出来なかったよ」
「それって…ないって事でいいんですか?」
「そうだな。ここだけの話。合法的な商会が営んでいる金貸しも違法な金貸しとは繋がりがあるからね。どちらも貸し倒れは防ぎたい。どこかに身売りさせるにしても借りてる人間の体は1つだから切り売りは出来ないしね。残念だが共存してるって事さ」
「そうなんですね。でもこれで怯える生活はもう終わりなんですよね?大丈夫ですよね?」
「大丈夫だよ。ドレイクもこれで本来の任務に戻れるな」
――フォッ!そうだった…イケオジとの眼福生活も終わりなんだわ――
嬉しいような悲しいような。だが、これで小さな物音に怯えずに済む。
アイリスはヴァルディスを「迷惑王子」と思う事も多かったが今回は感謝である。
「それでだ。褒美にちょっと昼寝をさせてくれないか?」
「昼寝っ?!どうして王宮にある自分の部屋で寝ないんですか?どう考えてもですよ?このソファで寝れば起きた時に体のあちこちに痛みを感じますよ?フカフカの寝台の方がぐっすり熟睡できますって!」
「ふぁぁぁ…すまない。このところ徹夜続きでアイちゃんに早くその書類を届けたくてな」
「だからぁ!そう言うのは誰かに頼めばいいでしょうに!」
「でも、他の誰かが来れば怖かっただろう?」
「あ…」
ヴァルディスなりに自分を安心させてくれたんだろうか。
ふと、そんな事を思うとソファで寝るくらいは‥‥。
やっぱりだめ!!
「ダメです。寝るなら王宮です」
「そう言わずに。ドレイク、3時間ほど寝るから起こしてくれ。頭がボーっとするんだ」
「承知いたしました」
――ドレイクさぁん‥そこで許しちゃダメぇ――
しかし、ドレイクはヴァルディスには逆らえない。
――立場を利用して!!寝てる間に濡れ布巾でも顔に置いとこうかしら――
フンフン!鼻息の荒いアイリスとは裏腹に、静かな寝息を立て始めたヴァルディスを見てドレイクはアイリスの耳元で小さく囁いた。
「殿下が起きる時間を指定される時は、起きたら何か用件がある時です」
「ファァァ♡(低音ボイスの囁き、腰にクルぅ)」
アイリスはそれまでとは全く違う意味で全身が歓喜に震えた。
ドレイクの囁きでヴァルディスの昼寝などどうでもいいとすら思えてしまったのだった。
「ドレイクさぁん。もう大丈夫でしょうか」
「ははっ。大丈夫ですよ。ほら、殿下がこちらに」
「ゲッ!‥‥あ、いえ…あらまぁ♡」
「ふはっ。アイちゃん様は面白いですね」
口元に軽く握った手を当ててクスっと笑うイケオジ。
目尻に出来る皴さえ尊い。
――ご馳走様です――
ドレイクが「ほら」と示す先を見るとヴァルディスがこちらに向かって歩いている姿があった。
――もしかして歩いてるの見るの、初めてかも?――
いつも突然やって来て声をかけるので小道を歩いているヴァルディスを見るのが初めてだな?とアイリスは「今頃になって?」と思ってしまった。
「やぁ!気分はどうだい」
気安く声をかけて家の中に入ってきたヴァルディスは驚かないアイリスに「あれ?」首を傾げた。
――フフン。何時も驚くと思わないでよ?――
単に来るのを先に見つけただけだが、これだけでもちょっと勝った気分になれる。
細やかな幸せは心の栄養だ。
「今日は、アイちゃんに良い物を授与しよう」
「授与はいいんですけど、前々から思ってましたがアイちゃんってのは遠慮して頂けると…」
「なんでだ?皆そう呼んでいるだろう?」
――真似っ子だったんかいっ!――
「あまりにも気安すぎますよ。これでもお飾り妻ですからね?まぁ…次期ファルフェス侯爵夫人とか呼ばれると寝る時、横になったら天井にゲジゲジを見つけた時の様な嫌悪感は感じますけど」
「では何と?私にだけ特別な呼び名を許してくれるのか?」
――なんでそっちよ。普通でいいじゃん――
と、思ってみるも「普通」がない事に気が付く。
王太子に敬称を付けて呼ばれるのもなんだが違う気がするし、そもそもでここにこれだけ来ることがおかしいので考える事に意味があるのかとすら思ってしまう。
――考えるの、面倒くさっ――
「アイちゃんでいいです。で?何を授与してくださるんです?」
「これだ」
ヴァルディスが笑顔で差し出してきた書類は3枚。
アイリスは受け取って、1枚、1枚をじっくりと見て偽物じゃないのか?と陽の光に透かして見るが透かしは入っていない。透かしはないけれど3枚それぞれに違う印章が押印されていた。
「完済証明書…本物ですか?」
「あぁ。本物だ。騙りであろうとなかろうとファルフェス侯爵家の応接室で金を借りているからな。金融商会も貸した記録を出納帳から抹消する事は出来ないんだ。アイリスと言う名前で借りた金は全て返済をされたよ。それは3つの金融商会が発行した正式なものだ。それから…」
「まだあったんですか?!どこから借りてたんですか?」
「ないない。金融商会も調べてくれたし私も調査をしたが違法な金貸しから借りている金は確認出来なかったよ」
「それって…ないって事でいいんですか?」
「そうだな。ここだけの話。合法的な商会が営んでいる金貸しも違法な金貸しとは繋がりがあるからね。どちらも貸し倒れは防ぎたい。どこかに身売りさせるにしても借りてる人間の体は1つだから切り売りは出来ないしね。残念だが共存してるって事さ」
「そうなんですね。でもこれで怯える生活はもう終わりなんですよね?大丈夫ですよね?」
「大丈夫だよ。ドレイクもこれで本来の任務に戻れるな」
――フォッ!そうだった…イケオジとの眼福生活も終わりなんだわ――
嬉しいような悲しいような。だが、これで小さな物音に怯えずに済む。
アイリスはヴァルディスを「迷惑王子」と思う事も多かったが今回は感謝である。
「それでだ。褒美にちょっと昼寝をさせてくれないか?」
「昼寝っ?!どうして王宮にある自分の部屋で寝ないんですか?どう考えてもですよ?このソファで寝れば起きた時に体のあちこちに痛みを感じますよ?フカフカの寝台の方がぐっすり熟睡できますって!」
「ふぁぁぁ…すまない。このところ徹夜続きでアイちゃんに早くその書類を届けたくてな」
「だからぁ!そう言うのは誰かに頼めばいいでしょうに!」
「でも、他の誰かが来れば怖かっただろう?」
「あ…」
ヴァルディスなりに自分を安心させてくれたんだろうか。
ふと、そんな事を思うとソファで寝るくらいは‥‥。
やっぱりだめ!!
「ダメです。寝るなら王宮です」
「そう言わずに。ドレイク、3時間ほど寝るから起こしてくれ。頭がボーっとするんだ」
「承知いたしました」
――ドレイクさぁん‥そこで許しちゃダメぇ――
しかし、ドレイクはヴァルディスには逆らえない。
――立場を利用して!!寝てる間に濡れ布巾でも顔に置いとこうかしら――
フンフン!鼻息の荒いアイリスとは裏腹に、静かな寝息を立て始めたヴァルディスを見てドレイクはアイリスの耳元で小さく囁いた。
「殿下が起きる時間を指定される時は、起きたら何か用件がある時です」
「ファァァ♡(低音ボイスの囁き、腰にクルぅ)」
アイリスはそれまでとは全く違う意味で全身が歓喜に震えた。
ドレイクの囁きでヴァルディスの昼寝などどうでもいいとすら思えてしまったのだった。
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