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第18話 アタシのお願いきいて~
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レスカと馬車に乗り込む時、ダリオンはヴァルディスは王宮に帰ったのかを従者に問うた。
「お帰りになったと思いますが、途中でどこかに寄られるかまでは存じません」
それは当たり前の回答。
王太子の予定を侯爵家の従者が知っている筈もない。
アイリスの元には寄らなかったのか?それとも先に寄ってから本宅に来たのか。ダリオンが考えていると先に馬車に乗り込んだレスカがプゥっと頬を膨らませていた。
「ダーはあの女の事を考えているんだわ」
「ち、違うよ。殿下が来ていたから何だったんだろうと思っただけだ」
「そう?そんな風には見えなかったけど」
「妬きもちか?レスカは可愛いな」
学園生時代からレスカは非常によくモテて男子学園生に囲まれていた。
『出来れば他の男との距離は取って欲しい』と言ったことはあるが『あたしが近くに来てと言ってるわけじゃない』と一蹴された。
しかし、逆で女子学園生と学園の催し物の件で話していると恐ろしくレスカの機嫌が悪くなる。月のものの時は更に機嫌が悪く、クラスで配布する資料が女口を利いてくれなかったたり、全員のノートを集めたりするのに女子の分も手渡されているだけでレスカは翌日まで会話を悉くスルーしたこともある。
そういう嫉妬も可愛くて仕方が無かった。
「どんなレスカでも可愛いよ。誓って他の女の事を考えた事はないよ」
「ならいいけど。で?歌劇?」
「あぁ、レスカが以前に好きだと言ってた劇団が凱旋公演をしているんだ」
「その劇団。もう好きじゃないわ。他には何か予定があるの?」
遠回しにレストランなどを予約しているのかという意味だが、ダリオンは食事は屋敷に戻って取ればいいと考えていたので予約はしていなかった。
「あ~。ごめん。レストランとかもだけど劇を観た後の予定はないよ」
「なら行かない。こんな寒い日に連れ出すなんてどうかしてるわ」
レスカは今にも動き出しそうな馬車なのに、扉をドンドンと叩き「降りるわ」と言う。
気まぐれではなくレスカは誰かに合わせてくれる事は先ずないので、降りる、帰ると言えば周りが従うしかない。
――チケット、無駄になっちまったな――
人気の公演なのでダリオンのポケットにあるチケットはダフ屋から買ったもの。金額は定価の5倍だった。それなりに苦労して手に入れたんだから観ようなんて気配りをレスカがするはずもない。
言ったところで「だから?」と返されるだけだ。
アイリスが来た時からダリオンの心境には僅かな変化が出ていた事もあり、馬車を降りるのに手を貸せと言っているレスカの背中を見てダリオンは思った。
――我儘も続けば高慢ちきに見えるな――
「判ったよ。じゃぁ屋敷で過ごそう」
レスカの背中にダリオンが声を掛けると降りる体勢になったレスカが首だけをダリオンに向けた。
「だったら…ダーの奥さんが見てみたいわ。連れて行って」
「はっ?いや、会う必要なんてないよ」
「どうして?アタシが会うと何か不味い事でもあるの?」
「約束はしていないから在宅とは限らないし、会ったって何もすることもないだろう?」
「ダー。歌劇に行く事だってアタシの予定を聞いた?アタシには約束なしなのにその女には手厚くしてあげてるのね」
「そういう意味じゃない。あ~…判ったよ。連れて行くよ」
レスカはダリオンの言葉には返事を返さなかった。
気乗りはしない。
結婚をした当日から2か月会ってもいないし、会話も当然していない。
手紙のやり取りもないし、直近の報告では王太子をはじめとして間者たちの着替えを貸してほしいと本宅に来た事を報告されたくらいだ。
その着替えを貸すかどうかの判断を下したのはダリオンの母親。
「殿下が雪でびしょ濡れだそうよ。貸す以外に選択肢があって?」と言われれば反論も出来ない。
風邪を引くことが解っていて何も手を貸さなかったとなれば大問題なのだから「貸す」が正解なのだ。
ダリオンは突然アイリスに会いに行くと言い出すレスカに聊か辟易してしまう。
レスカの事を考えてわざわざ庭の端にある古い別棟に住まわせて、生活費ですら「自分で本を売りに行け」と切り離したのに。
これでまた変に勘ぐって機嫌を悪くしたレスカの相手をするのかと思うとウンザリもしてしまう。
「ダー。行きたくないの?アタシのお願いをきいてくれないの?」
「そう言う訳じゃないよ。行きたいか行きたくないかって言うより行く必要もない、そう思っただけだ」
「やっぱり何か言えない事をしているのね」
「だから!そうじゃないと言っただろう?」
火のない所に煙は立たぬというが、わざわざ煙を立たせる行動をするレスカにダリオンはまた思ってしまった。
――自分の言い出したことに機嫌を悪くするのは勘弁してくれよ――
「お帰りになったと思いますが、途中でどこかに寄られるかまでは存じません」
それは当たり前の回答。
王太子の予定を侯爵家の従者が知っている筈もない。
アイリスの元には寄らなかったのか?それとも先に寄ってから本宅に来たのか。ダリオンが考えていると先に馬車に乗り込んだレスカがプゥっと頬を膨らませていた。
「ダーはあの女の事を考えているんだわ」
「ち、違うよ。殿下が来ていたから何だったんだろうと思っただけだ」
「そう?そんな風には見えなかったけど」
「妬きもちか?レスカは可愛いな」
学園生時代からレスカは非常によくモテて男子学園生に囲まれていた。
『出来れば他の男との距離は取って欲しい』と言ったことはあるが『あたしが近くに来てと言ってるわけじゃない』と一蹴された。
しかし、逆で女子学園生と学園の催し物の件で話していると恐ろしくレスカの機嫌が悪くなる。月のものの時は更に機嫌が悪く、クラスで配布する資料が女口を利いてくれなかったたり、全員のノートを集めたりするのに女子の分も手渡されているだけでレスカは翌日まで会話を悉くスルーしたこともある。
そういう嫉妬も可愛くて仕方が無かった。
「どんなレスカでも可愛いよ。誓って他の女の事を考えた事はないよ」
「ならいいけど。で?歌劇?」
「あぁ、レスカが以前に好きだと言ってた劇団が凱旋公演をしているんだ」
「その劇団。もう好きじゃないわ。他には何か予定があるの?」
遠回しにレストランなどを予約しているのかという意味だが、ダリオンは食事は屋敷に戻って取ればいいと考えていたので予約はしていなかった。
「あ~。ごめん。レストランとかもだけど劇を観た後の予定はないよ」
「なら行かない。こんな寒い日に連れ出すなんてどうかしてるわ」
レスカは今にも動き出しそうな馬車なのに、扉をドンドンと叩き「降りるわ」と言う。
気まぐれではなくレスカは誰かに合わせてくれる事は先ずないので、降りる、帰ると言えば周りが従うしかない。
――チケット、無駄になっちまったな――
人気の公演なのでダリオンのポケットにあるチケットはダフ屋から買ったもの。金額は定価の5倍だった。それなりに苦労して手に入れたんだから観ようなんて気配りをレスカがするはずもない。
言ったところで「だから?」と返されるだけだ。
アイリスが来た時からダリオンの心境には僅かな変化が出ていた事もあり、馬車を降りるのに手を貸せと言っているレスカの背中を見てダリオンは思った。
――我儘も続けば高慢ちきに見えるな――
「判ったよ。じゃぁ屋敷で過ごそう」
レスカの背中にダリオンが声を掛けると降りる体勢になったレスカが首だけをダリオンに向けた。
「だったら…ダーの奥さんが見てみたいわ。連れて行って」
「はっ?いや、会う必要なんてないよ」
「どうして?アタシが会うと何か不味い事でもあるの?」
「約束はしていないから在宅とは限らないし、会ったって何もすることもないだろう?」
「ダー。歌劇に行く事だってアタシの予定を聞いた?アタシには約束なしなのにその女には手厚くしてあげてるのね」
「そういう意味じゃない。あ~…判ったよ。連れて行くよ」
レスカはダリオンの言葉には返事を返さなかった。
気乗りはしない。
結婚をした当日から2か月会ってもいないし、会話も当然していない。
手紙のやり取りもないし、直近の報告では王太子をはじめとして間者たちの着替えを貸してほしいと本宅に来た事を報告されたくらいだ。
その着替えを貸すかどうかの判断を下したのはダリオンの母親。
「殿下が雪でびしょ濡れだそうよ。貸す以外に選択肢があって?」と言われれば反論も出来ない。
風邪を引くことが解っていて何も手を貸さなかったとなれば大問題なのだから「貸す」が正解なのだ。
ダリオンは突然アイリスに会いに行くと言い出すレスカに聊か辟易してしまう。
レスカの事を考えてわざわざ庭の端にある古い別棟に住まわせて、生活費ですら「自分で本を売りに行け」と切り離したのに。
これでまた変に勘ぐって機嫌を悪くしたレスカの相手をするのかと思うとウンザリもしてしまう。
「ダー。行きたくないの?アタシのお願いをきいてくれないの?」
「そう言う訳じゃないよ。行きたいか行きたくないかって言うより行く必要もない、そう思っただけだ」
「やっぱり何か言えない事をしているのね」
「だから!そうじゃないと言っただろう?」
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