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第16話 深夜の会話
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遅い夕食を取り、湯も浴びたヴァルディスは深夜になったが向かいに腰かけるアイリスに問いかけた。
「どうしてこの結婚をしようと思ったんだ?」
「断る理由がなかったので」
「金か?」
「恥ずかしながら実家の伯爵家はお世辞にも裕福とは言えません。兄が家督を継いでファルフェス侯爵家から持ち込まれた事業が最初の仕事だったんです。大きな仕事ですし20年と期間も長く安定した収入も経歴も手に入ります。借金も肩代わりしてくれる上に離縁したら手切れ金も頂けるんです。それまでの生活なら手にすることの無かった大金です」
「だが、1年で離縁となれば実家にも帰れないし手切れ金を貰っても人生が50年としてあと30年だ。女一人で生きていくには心許ないとは思わなかったのか?」
「思ってますよ?今も足らないと考えてます。でも何をするにも元手って必要じゃないですか」
「離縁した後は何をするか。決めているのか?」
「まだ何にも決めていません。どの国に行くかも決めてないんです。半年くらいはのんびりしようかなと。きっとその後は休む暇もないでしょうし」
「変わっているな。家は頼れない。何も決めていないのに悲観もしていないなんて」
「断る理由がないんです。悲観もしません。私はいずれは家を出ねばなりませんでしたので、何をして生きていくか。決めねばならないのに日々の糧を得るのにいっぱいいっぱいで考える時間も無かったんです。だから離縁でそれなりのお金、考えた事も無かった自由な時間が手に入るんです。これは好都合だなと」
「離縁で経歴に傷がつく事は何とも思わなかったのか?」
「顔に大きく ”離縁しました” って書かれるわけでもないですし。この話が無かったらどこかのご隠居さんの後妻だったでしょうから、それから考えればたった1年の妻の期間があるだけで残りの人生は自由なんです。他国に行けばこの国で離縁したとか黙っていれば誰にも解りません」
「君と結婚したいという男性にも言わないのか?」
「言うかも知れませんし、言わないかも知れません。殿下の前で失礼なんですけどこの結婚って白い結婚なので再婚するとしても、次の夫に初婚と言ってもバレないと思いますよ?」
諦めた風でもない。むしろ離縁の後の生活を楽しみにしているアイリスをヴァルディスは不思議に思った。
今までヴァルディスの見知っている令嬢なら、受け入れざるを得ない結婚であったとしても話を聞いてくれる者に恨み節を語るだろう。
この先をどうやって生きて行けと?悲観して物に当たり散らしたっておかしくない。
しかしアイリスは違った。
この1か月、本当に気ままに過ごし使用人もいない生活を楽しんでいた。
趣味でこっそりと菓子などを作る貴族令嬢もいるが、アイリスの作る食事は小洒落たものではなく一般庶民が口にするような日常的な物。気取っている訳でもない。
「そろそろ日付を超えます。起きたばかりの殿下に申し訳ないのですが私は休ませて頂きますね」
「あ、あぁ…そうだったな。遅くまですまない」
こんな令嬢、初めてだ。
どんなに眠くても目の前に王太子がいるのなら意地でも相手をして取り入ろうとするのにアイリスはヴァルディスに媚びる事もない。
なんなら「やぁ」とやって来た時、ジト目になってしまうほどである。
ありありと表情に出る「迷惑感」なんて今まで経験したこともない。
つい2時間ほど前までヴァルディスの寝ていたソファで寝る事も出来ず、アイリスは女性間者と別の部屋を片付けたのでと奥に引いて行った。
「悪い事してしまったな…」
「ですよね~」
何処に隠れていたのか間者が3人出て来る。
「よくお休みでしたね。気分爽快でしょう?」
「あぁ…こんなに寝られるとは自分に驚いているよ」
「困ってましたよ。何にも出来ない!って」
「うっ…なにか詫びをせねばならんな」
「そうですね。小耳に挟んだ情報ではアイリス様は小ぶりな手押し車が欲しいそうです」
「手押し…なんだか今までの令嬢の概念を悉く打ち砕いてくるな」
「ですよね~。俺、一緒に雪の中から白菜を掘りました。雪の中に保存すると日持ちするって言ってて疑似収穫~って楽しんでましたよ」
「は?白菜?」
「えぇ。殿下のスープは別に作ったんですけど、俺たち白菜のスープでした」
――ズルいぞ。お前たち――
ヴァルディスは自分だけコンソメスープ肉入りだった事が少し悔しかった。
「どうしてこの結婚をしようと思ったんだ?」
「断る理由がなかったので」
「金か?」
「恥ずかしながら実家の伯爵家はお世辞にも裕福とは言えません。兄が家督を継いでファルフェス侯爵家から持ち込まれた事業が最初の仕事だったんです。大きな仕事ですし20年と期間も長く安定した収入も経歴も手に入ります。借金も肩代わりしてくれる上に離縁したら手切れ金も頂けるんです。それまでの生活なら手にすることの無かった大金です」
「だが、1年で離縁となれば実家にも帰れないし手切れ金を貰っても人生が50年としてあと30年だ。女一人で生きていくには心許ないとは思わなかったのか?」
「思ってますよ?今も足らないと考えてます。でも何をするにも元手って必要じゃないですか」
「離縁した後は何をするか。決めているのか?」
「まだ何にも決めていません。どの国に行くかも決めてないんです。半年くらいはのんびりしようかなと。きっとその後は休む暇もないでしょうし」
「変わっているな。家は頼れない。何も決めていないのに悲観もしていないなんて」
「断る理由がないんです。悲観もしません。私はいずれは家を出ねばなりませんでしたので、何をして生きていくか。決めねばならないのに日々の糧を得るのにいっぱいいっぱいで考える時間も無かったんです。だから離縁でそれなりのお金、考えた事も無かった自由な時間が手に入るんです。これは好都合だなと」
「離縁で経歴に傷がつく事は何とも思わなかったのか?」
「顔に大きく ”離縁しました” って書かれるわけでもないですし。この話が無かったらどこかのご隠居さんの後妻だったでしょうから、それから考えればたった1年の妻の期間があるだけで残りの人生は自由なんです。他国に行けばこの国で離縁したとか黙っていれば誰にも解りません」
「君と結婚したいという男性にも言わないのか?」
「言うかも知れませんし、言わないかも知れません。殿下の前で失礼なんですけどこの結婚って白い結婚なので再婚するとしても、次の夫に初婚と言ってもバレないと思いますよ?」
諦めた風でもない。むしろ離縁の後の生活を楽しみにしているアイリスをヴァルディスは不思議に思った。
今までヴァルディスの見知っている令嬢なら、受け入れざるを得ない結婚であったとしても話を聞いてくれる者に恨み節を語るだろう。
この先をどうやって生きて行けと?悲観して物に当たり散らしたっておかしくない。
しかしアイリスは違った。
この1か月、本当に気ままに過ごし使用人もいない生活を楽しんでいた。
趣味でこっそりと菓子などを作る貴族令嬢もいるが、アイリスの作る食事は小洒落たものではなく一般庶民が口にするような日常的な物。気取っている訳でもない。
「そろそろ日付を超えます。起きたばかりの殿下に申し訳ないのですが私は休ませて頂きますね」
「あ、あぁ…そうだったな。遅くまですまない」
こんな令嬢、初めてだ。
どんなに眠くても目の前に王太子がいるのなら意地でも相手をして取り入ろうとするのにアイリスはヴァルディスに媚びる事もない。
なんなら「やぁ」とやって来た時、ジト目になってしまうほどである。
ありありと表情に出る「迷惑感」なんて今まで経験したこともない。
つい2時間ほど前までヴァルディスの寝ていたソファで寝る事も出来ず、アイリスは女性間者と別の部屋を片付けたのでと奥に引いて行った。
「悪い事してしまったな…」
「ですよね~」
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「困ってましたよ。何にも出来ない!って」
「うっ…なにか詫びをせねばならんな」
「そうですね。小耳に挟んだ情報ではアイリス様は小ぶりな手押し車が欲しいそうです」
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「ですよね~。俺、一緒に雪の中から白菜を掘りました。雪の中に保存すると日持ちするって言ってて疑似収穫~って楽しんでましたよ」
「は?白菜?」
「えぇ。殿下のスープは別に作ったんですけど、俺たち白菜のスープでした」
――ズルいぞ。お前たち――
ヴァルディスは自分だけコンソメスープ肉入りだった事が少し悔しかった。
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