あなたには愛、私には夢があります

cyaru

文字の大きさ
16 / 55

第16話  深夜の会話

しおりを挟む
遅い夕食を取り、湯も浴びたヴァルディスは深夜になったが向かいに腰かけるアイリスに問いかけた。

「どうしてこの結婚をしようと思ったんだ?」

「断る理由がなかったので」

「金か?」

「恥ずかしながら実家の伯爵家はお世辞にも裕福とは言えません。兄が家督を継いでファルフェス侯爵家から持ち込まれた事業が最初の仕事だったんです。大きな仕事ですし20年と期間も長く安定した収入も経歴も手に入ります。借金も肩代わりしてくれる上に離縁したら手切れ金も頂けるんです。それまでの生活なら手にすることの無かった大金です」

「だが、1年で離縁となれば実家にも帰れないし手切れ金を貰っても人生が50年としてあと30年だ。女一人で生きていくには心許ないとは思わなかったのか?」

「思ってますよ?今も足らないと考えてます。でも何をするにも元手って必要じゃないですか」

「離縁した後は何をするか。決めているのか?」

「まだ何にも決めていません。どの国に行くかも決めてないんです。半年くらいはのんびりしようかなと。きっとその後は休む暇もないでしょうし」

「変わっているな。家は頼れない。何も決めていないのに悲観もしていないなんて」

「断る理由がないんです。悲観もしません。私はいずれは家を出ねばなりませんでしたので、何をして生きていくか。決めねばならないのに日々の糧を得るのにいっぱいいっぱいで考える時間も無かったんです。だから離縁でそれなりのお金、考えた事も無かった自由な時間が手に入るんです。これは好都合だなと」

「離縁で経歴に傷がつく事は何とも思わなかったのか?」

「顔に大きく ”離縁しました” って書かれるわけでもないですし。この話が無かったらどこかのご隠居さんの後妻だったでしょうから、それから考えればたった1年の妻の期間があるだけで残りの人生は自由なんです。他国に行けばこの国で離縁したとか黙っていれば誰にも解りません」

「君と結婚したいという男性にも言わないのか?」

「言うかも知れませんし、言わないかも知れません。殿下の前で失礼なんですけどこの結婚って白い結婚なので再婚するとしても、次の夫に初婚と言ってもバレないと思いますよ?」


諦めた風でもない。むしろ離縁の後の生活を楽しみにしているアイリスをヴァルディスは不思議に思った。

今までヴァルディスの見知っている令嬢なら、受け入れざるを得ない結婚であったとしても話を聞いてくれる者に恨み節を語るだろう。

この先をどうやって生きて行けと?悲観して物に当たり散らしたっておかしくない。

しかしアイリスは違った。
この1か月、本当に気ままに過ごし使用人もいない生活を楽しんでいた。

趣味でこっそりと菓子などを作る貴族令嬢もいるが、アイリスの作る食事は小洒落たものではなく一般庶民が口にするような日常的な物。気取っている訳でもない。


「そろそろ日付を超えます。起きたばかりの殿下に申し訳ないのですが私は休ませて頂きますね」

「あ、あぁ…そうだったな。遅くまですまない」


こんな令嬢、初めてだ。
どんなに眠くても目の前に王太子がいるのなら意地でも相手をして取り入ろうとするのにアイリスはヴァルディスに媚びる事もない。

なんなら「やぁ」とやって来た時、ジト目になってしまうほどである。
ありありと表情に出る「迷惑感」なんて今まで経験したこともない。

つい2時間ほど前までヴァルディスの寝ていたソファで寝る事も出来ず、アイリスは女性間者と別の部屋を片付けたのでと奥に引いて行った。


「悪い事してしまったな…」

「ですよね~」

何処に隠れていたのか間者が3人出て来る。

「よくお休みでしたね。気分爽快でしょう?」

「あぁ…こんなに寝られるとは自分に驚いているよ」

「困ってましたよ。何にも出来ない!って」

「うっ…なにか詫びをせねばならんな」

「そうですね。小耳に挟んだ情報ではアイリス様は小ぶりな手押し車が欲しいそうです」

「手押し…なんだか今までの令嬢の概念をことごとく打ち砕いてくるな」

「ですよね~。俺、一緒に雪の中から白菜を掘りました。雪の中に保存すると日持ちするって言ってて疑似収穫~って楽しんでましたよ」

「は?白菜?」

「えぇ。殿下のスープは別に作ったんですけど、俺たち白菜のスープでした」

――ズルいぞ。お前たち――

ヴァルディスは自分だけコンソメスープ肉入りだった事が少し悔しかった。
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

働きませんわ。それでも王妃になります

鷹 綾
恋愛
「私は働きませんわ」 そう宣言して、王太子から婚約破棄された公爵令嬢エルフィーナ。 社交もしない。慈善もしない。政務にも口を出さない。 “怠け者令嬢”と陰で囁かれる彼女を、王太子アレクシスは「王妃に相応しくない」と切り捨てた。 ――だが彼は知らなかった。 彼女が動かないからこそ、王家は自力で立つことを覚えたのだということを。 エルフィーナは何もしない。 ただ保証を更新せず、支援を継続せず、静かに席を外すだけ。 その結果―― 王家は自らの足で立つことを強いられ、王太子は“誰の力にも頼らない王”へと変わっていく。 やがて外圧が王国を揺らしたとき、彼は気づく。 支配でも依存でもなく、並んで立てる存在が誰だったのかを。 「君と並びたい」 差し出されたのは、甘い救済ではない。 対等という選択。 それでも彼女の答えは変わらない。 「私は働きませんわ」 働かない。 支配しない。 けれど、逃げもしない。 これは―― 働かないまま王妃になる、公爵令嬢の静かなざまあ恋愛譚。 優雅で、合理的で、そしてどこまでも強い。 “何もしない”という最強の選択が、王国を変えていく。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

旦那様。私が悪女ならば、愛人の女は何になるのかしら?

白雲八鈴
恋愛
 我が公爵家主催の夜会の最中。夫が愛人を連れてやってきたのです。そして、私を悪女という理由で離縁を突きつけてきました。  離縁して欲しいというのであれば、今まで支援してきた金額を全額返済していただけません?  あら?愛人の貴女が支払ってくれると?お優しいわね。  私が悪女というのであれば、妻のいる夫の愛人に収まっている貴女は何なのかしら?

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...