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第06話 イワシは干されて天を仰ぐ
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トレサリー家の事業を手伝うに当たり、ステラはビッケに連れられて街に出た。
街と言っても着飾った貴族や豪奢な馬車が通る大通りの貴族専用街ではなく庶民が利用する裏通りの店で、歩道にまでせり出した品の数々にステラは懐かしさも感じていた。
出掛ける前に「赤茶色・・・赤茶色・・・」とウィッグをビッケが探してくれてショートカットのヴィッグでのお出掛け。道行く人がステラを振り返るのはプリスセア王国は女性の髪は命よりも大事と言われていて短くカットするなどあり得ない!と驚いている。
「モーセットって王族の人も市井によく現れるって聞いたけど本当?」
「えぇ。本当ですわ。陛下も王妃殿下を伴ってカーニバルでは踊りますし、仮装行列に紛れていたりもします。昨年は馬の格好をして女装しておりましたわ」
「凄っ!そんなにフレンドリーなんだ…そこまでとは思わなかったわ」
「辺境伯領でも同じです。焼き栗の屋台で買った栗をよく広場のベンチで召し上がっておられますわ」
「高級焼き栗の屋台まであるってこと?」
「高級かどうかは・・・子供でも買える値段で御座いますよ」
「毒味とかしないって凄くない?」
「屋台を出すにも許可制なので許可証のない屋台は誰も買いません。許可証を貰うのにも納税をしている事や講習会を受講し、最後に行われる試験で所定の成績を収めていないと許可証は出ませんのよ?」
ビッケには驚く事ばかり。プリスセア王国の王族を街で見かける事は時々あるが、大抵は自由な第2王子で綺麗処を隣に侍らせて「街の王様」気どり。
国王と第1王子は執務に追われていて記念祭でバルコニーから手を振るのを豆粒大の大きさで遠目に見るだけ。勿論顔の判別など出来るはずもない距離感。
王妃も滅多に人前には出ず、以前は観劇に来る姿がよく見られたというが、今は城に劇団を呼び入れて1人で観劇していると聞く。
側妃は病床に伏せていて弔いの鐘の音が何時鳴るか。
パッとしないプリスセア王国の話題も面白くないだろうと話題も気持ちも切り替えたビッケは明るくステラの手を引いて1軒の店で「こんにちはー!」大きな声で奥にいる店主を呼び出した。
「お姉さんにあう手袋と長靴、それから~この前特注した私の目出し帽みたいな可愛いやつありますか!」
可愛い目出し帽。ステラは想像した。
間違いなく「動物シリーズ」である事は容易に想像がつくが戦々恐々としているとビッケが手袋を差し出した。
「えぇっとね…これと、これ!合わせてみて」
「あら?普通の手袋?」
「だと思うでしょう?でもねこの手の平のほうについたツブツブ!荷物を運んだり選別をする時に滑り止めにもなるの。このツブツブがあるから布だけだとサックリ手のひらをナイフで切る事もあるんだけど、ワンクッション置くから傷が浅くもなるんだよ~凄いでしょ。私の特許なの!」
「まぁ、素晴らしいわ!」
「実はね、馬とか蹄に蹄鉄つけるでしょ?割れ防止の意味もあるんだけど野生の馬って蹄鉄ないのに速く走るのは何故かな~って思ってたの。ぼこぼこになってるのがストッパーであり、地を蹴る時のカカリになってると思ったんだ~えへへ」
1つ目は指先にかなり余裕があるがフィット感はそれまでの手袋とは比べ物にならない。
「先が余ってる。多少はあまりが必要だけど‥ここまで余ると危険ね。指が細長いからと思ったけどコッチがいいかな」
先ほどより一回り小さな手袋。こちらは指の先に余裕が少しだけ。「これが丁度ね」とビッケは新しい手袋を籠に入れた。
「先程手につけたものは買わないのですか?」
「あれは試着用。こう言うのは買ってからだと、あちゃーってなっちゃうと損した気分になって仕事も捗らないでしょ?お試しで装着出来れば握った感じとか確かめられると思って」
(なるほど)ステラは次の品を選ぶビッケの背を見る。
13歳のビッケの背は女の子という事もあり、小さいけれど大きく見えた。
次に薄手の木の板をピーナッツ型にして前面にガラス、両脇に紐、肌に当たる部分には厚手の布を施したゴーグルをビッケに手渡された。
「これは何をするものですの?」
「現場はね、埃だけじゃなく虫やネズミの糞なんかも舞い上がるの。だから目を保護するんだよ」
「便利そうですわね。これもビッケ様が?」
「これは私じゃないわ。生まれた時からあったけど改良はされてるの。ただ水の中だとガボガボ水が入ってきちゃうから井戸の掃除とかどうにかならないか改良中。その点・・・魚って水の中でも目を開けてるでしょう?生き物って凄いよね。だから大好きなの」
単に可愛い動物だけが好きという事ではなく、生物の特性を見て、調べ、その過程で生き物が可愛いとなったビッケ。ステラは早速そのゴーグルを装着するのだが如何せん・・・瓶底メガネが邪魔をする。
「メガネは取るしかないわね。メガネなしでも見えるかな?」
「大丈夫です。視力を補正したりするものではないので」
「あ、そっか。でもなぁ…メガネない方がホントに可愛いのに。男避け?」
「そういう事では御座いません。わたくし、男性にはあまりご縁が無いので」
謙遜ではなく、ステラ、いやステラリアクラスになると気軽に声を掛ける男性は重鎮クラスか、親族だったりするだけ。
他国から釣り書きも多く送られては来るが、次期国王に最も近いステラリアが選ぶとなれば王配となる男性。プリスセア王国なら第2王子という事になろうが・・・即のお断りをした経緯がある。
モーセット王国は体の相性も結婚前に「お試し」をしたところで問題はないが、神の前で生涯を誓えるのは1度だけ。だからこそステラリアの相手というのは間違いが許されない。
幅広い交友を持つのは結構だが、種をまき散らされては困るので節操を持った男性でないと国が混乱してしまう。
メガネを取ってゴーグルを装着するステラを見てビッケがボヤく。
「ステラさんがお兄ちゃんの奥さんになってくれるといいのにな。私、可愛い姪っ子と甥っ子と被り物を揃えたいの」
ビッケもアリスは歓迎していない。むしろ「その日」が来る事で父のジェームズは子爵家の後取りはビッケとしてリヴァイヴァールには家を出てもらう事も話し合っていた。
理由など解り切っている。従業員が汗を流し稼いだ金を遊興費で使われては困るのだ。トレサリー家の財産を食い散らかそうとしている事も判っている。
融資した金も返す気が無いのだから」なんとか片付け屋の商会だけは切り離して残す。
トレサリー家も苦渋の決断となる。
何の咎も無いリヴァイヴァールを切り捨てる事に他ならないのだから。
空気が淀みかけた時、ビッケが店主から特注の目出し帽を受け取った。
「キャッ♡やっぱり可愛い~」
予想通りノーマルタイプではなく、イワシの干物をモチーフにした「メザシDE目出し帽」
(これはちょっと・・・被る勇気が)と思ったが、ビッケがスポッとステラに被せた。
天を仰ぐように口が上を向いた「メザシDE目出し帽」
鏡に映った自分を見て(あら、意外と可愛い?)そう思ってしまうのは間違いなくビッケに毒された証だった。
街と言っても着飾った貴族や豪奢な馬車が通る大通りの貴族専用街ではなく庶民が利用する裏通りの店で、歩道にまでせり出した品の数々にステラは懐かしさも感じていた。
出掛ける前に「赤茶色・・・赤茶色・・・」とウィッグをビッケが探してくれてショートカットのヴィッグでのお出掛け。道行く人がステラを振り返るのはプリスセア王国は女性の髪は命よりも大事と言われていて短くカットするなどあり得ない!と驚いている。
「モーセットって王族の人も市井によく現れるって聞いたけど本当?」
「えぇ。本当ですわ。陛下も王妃殿下を伴ってカーニバルでは踊りますし、仮装行列に紛れていたりもします。昨年は馬の格好をして女装しておりましたわ」
「凄っ!そんなにフレンドリーなんだ…そこまでとは思わなかったわ」
「辺境伯領でも同じです。焼き栗の屋台で買った栗をよく広場のベンチで召し上がっておられますわ」
「高級焼き栗の屋台まであるってこと?」
「高級かどうかは・・・子供でも買える値段で御座いますよ」
「毒味とかしないって凄くない?」
「屋台を出すにも許可制なので許可証のない屋台は誰も買いません。許可証を貰うのにも納税をしている事や講習会を受講し、最後に行われる試験で所定の成績を収めていないと許可証は出ませんのよ?」
ビッケには驚く事ばかり。プリスセア王国の王族を街で見かける事は時々あるが、大抵は自由な第2王子で綺麗処を隣に侍らせて「街の王様」気どり。
国王と第1王子は執務に追われていて記念祭でバルコニーから手を振るのを豆粒大の大きさで遠目に見るだけ。勿論顔の判別など出来るはずもない距離感。
王妃も滅多に人前には出ず、以前は観劇に来る姿がよく見られたというが、今は城に劇団を呼び入れて1人で観劇していると聞く。
側妃は病床に伏せていて弔いの鐘の音が何時鳴るか。
パッとしないプリスセア王国の話題も面白くないだろうと話題も気持ちも切り替えたビッケは明るくステラの手を引いて1軒の店で「こんにちはー!」大きな声で奥にいる店主を呼び出した。
「お姉さんにあう手袋と長靴、それから~この前特注した私の目出し帽みたいな可愛いやつありますか!」
可愛い目出し帽。ステラは想像した。
間違いなく「動物シリーズ」である事は容易に想像がつくが戦々恐々としているとビッケが手袋を差し出した。
「えぇっとね…これと、これ!合わせてみて」
「あら?普通の手袋?」
「だと思うでしょう?でもねこの手の平のほうについたツブツブ!荷物を運んだり選別をする時に滑り止めにもなるの。このツブツブがあるから布だけだとサックリ手のひらをナイフで切る事もあるんだけど、ワンクッション置くから傷が浅くもなるんだよ~凄いでしょ。私の特許なの!」
「まぁ、素晴らしいわ!」
「実はね、馬とか蹄に蹄鉄つけるでしょ?割れ防止の意味もあるんだけど野生の馬って蹄鉄ないのに速く走るのは何故かな~って思ってたの。ぼこぼこになってるのがストッパーであり、地を蹴る時のカカリになってると思ったんだ~えへへ」
1つ目は指先にかなり余裕があるがフィット感はそれまでの手袋とは比べ物にならない。
「先が余ってる。多少はあまりが必要だけど‥ここまで余ると危険ね。指が細長いからと思ったけどコッチがいいかな」
先ほどより一回り小さな手袋。こちらは指の先に余裕が少しだけ。「これが丁度ね」とビッケは新しい手袋を籠に入れた。
「先程手につけたものは買わないのですか?」
「あれは試着用。こう言うのは買ってからだと、あちゃーってなっちゃうと損した気分になって仕事も捗らないでしょ?お試しで装着出来れば握った感じとか確かめられると思って」
(なるほど)ステラは次の品を選ぶビッケの背を見る。
13歳のビッケの背は女の子という事もあり、小さいけれど大きく見えた。
次に薄手の木の板をピーナッツ型にして前面にガラス、両脇に紐、肌に当たる部分には厚手の布を施したゴーグルをビッケに手渡された。
「これは何をするものですの?」
「現場はね、埃だけじゃなく虫やネズミの糞なんかも舞い上がるの。だから目を保護するんだよ」
「便利そうですわね。これもビッケ様が?」
「これは私じゃないわ。生まれた時からあったけど改良はされてるの。ただ水の中だとガボガボ水が入ってきちゃうから井戸の掃除とかどうにかならないか改良中。その点・・・魚って水の中でも目を開けてるでしょう?生き物って凄いよね。だから大好きなの」
単に可愛い動物だけが好きという事ではなく、生物の特性を見て、調べ、その過程で生き物が可愛いとなったビッケ。ステラは早速そのゴーグルを装着するのだが如何せん・・・瓶底メガネが邪魔をする。
「メガネは取るしかないわね。メガネなしでも見えるかな?」
「大丈夫です。視力を補正したりするものではないので」
「あ、そっか。でもなぁ…メガネない方がホントに可愛いのに。男避け?」
「そういう事では御座いません。わたくし、男性にはあまりご縁が無いので」
謙遜ではなく、ステラ、いやステラリアクラスになると気軽に声を掛ける男性は重鎮クラスか、親族だったりするだけ。
他国から釣り書きも多く送られては来るが、次期国王に最も近いステラリアが選ぶとなれば王配となる男性。プリスセア王国なら第2王子という事になろうが・・・即のお断りをした経緯がある。
モーセット王国は体の相性も結婚前に「お試し」をしたところで問題はないが、神の前で生涯を誓えるのは1度だけ。だからこそステラリアの相手というのは間違いが許されない。
幅広い交友を持つのは結構だが、種をまき散らされては困るので節操を持った男性でないと国が混乱してしまう。
メガネを取ってゴーグルを装着するステラを見てビッケがボヤく。
「ステラさんがお兄ちゃんの奥さんになってくれるといいのにな。私、可愛い姪っ子と甥っ子と被り物を揃えたいの」
ビッケもアリスは歓迎していない。むしろ「その日」が来る事で父のジェームズは子爵家の後取りはビッケとしてリヴァイヴァールには家を出てもらう事も話し合っていた。
理由など解り切っている。従業員が汗を流し稼いだ金を遊興費で使われては困るのだ。トレサリー家の財産を食い散らかそうとしている事も判っている。
融資した金も返す気が無いのだから」なんとか片付け屋の商会だけは切り離して残す。
トレサリー家も苦渋の決断となる。
何の咎も無いリヴァイヴァールを切り捨てる事に他ならないのだから。
空気が淀みかけた時、ビッケが店主から特注の目出し帽を受け取った。
「キャッ♡やっぱり可愛い~」
予想通りノーマルタイプではなく、イワシの干物をモチーフにした「メザシDE目出し帽」
(これはちょっと・・・被る勇気が)と思ったが、ビッケがスポッとステラに被せた。
天を仰ぐように口が上を向いた「メザシDE目出し帽」
鏡に映った自分を見て(あら、意外と可愛い?)そう思ってしまうのは間違いなくビッケに毒された証だった。
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