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第01話 お返しするものは何?
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ギシッギシッ・・・。
寝台の軋む音と肉と肉がぶつかり合う音。人が発するのは荒い息遣いだけ。
その音が小さな呻き声を合図に止まると今度はリップ音に、そして人の声に変った。
「こんなことして。本当に悪い王子様だわ」
「よく言うよ。お前だって大概じゃないか。ホント。お前みたいな女が一番だよ」
「でしょ?結婚は別の人。こうやって楽しむだけ。お互いWINWINね。それはそうとドレスありがと(ちゅっ)」
「何も言わせないし、どうせアイツは何も言えないヘタレだからな」
「子供が出来ても何も言わせないでよ?」
「当然だ。俺の子を育てさせてやる恩を売るんだ。一生童貞も喜べと言ってやるよ」
こんな会話を聞きたくはなかった。
クローゼットの中で蹲るのはトレサリー子爵家の子息リヴァイヴァールとトレサリー家に厄介になっている留学生のステラ。
寝台で睦あっている女性はコール侯爵家のアリス。男性はサルバ王国の第2王子アドリアン。
アリスはリヴァイヴァールの婚約者で、その婚約期間は10年になる。トレサリー家から融資を受ける担保のような婚約で春が来る頃にはトレサリー家にアリスが嫁いでくることになっていた。
息を顰めながらも膝の上に置いた拳が震えるリヴァイヴァールにステラはそっと手を重ねた。
「大丈夫」と言いたげにステラを見るリヴァイヴァールだったがどうする事も出来ない。アドリアンが言っていたようにリヴァイヴァールはアドリアンには逆らえない。
第2王子であるという立場は中身がどんなに腐っていても変えようのない事実。たかが子爵家の子息であるリヴァイヴァールに逆らう事など出来るはずもない。
第2王子と言っても母親が側妃である第1王子よりもアドリアンは後ろ盾も多い。
過去にはアドリアンに逆らって家の事業に支障が出た友人も多くいる。
2人の関係には1年半ほど前から気がついてはいた。気が付かない方がどうかしていると言ってもいい。
堂々と王宮内の私室にアリスを呼び、人払いをして2人きりで数時間過ごし朝を迎えたこともある。情事の帰りにリヴァイヴァールを呼びつけてコール侯爵家まで送らせた事もある。
リヴァイヴァールの目の前で唇を重ね、体をまさぐり合う姿も見せるために呼ばれる事もある。
屈辱の限りだがリヴァイヴァールがアドリアンに「物申す」とすれば当事者だけで事が済まなくなるためリヴァイヴァールは認める事はしなくても耐えるしかなかった。
リヴァイヴァールとステラがクローゼットの中にいたのは偶然。
この家はアドリアンの祖母となる王太后の持ち物で昨年、王太后は神の御許に旅立った。1年経ち喪もあけたと行くにも距離が中途半端、行ったところで特別何が出来るわけでもない家。それもその筈。この家は王太后が現役の王妃だった頃に「ただのんびりしたい」という休暇を寝て過ごすために作られた家で今となっては管理費だけが嵩むため王家はこの家を処分する事にしたのだ。
ゴミ屋敷でなくても家屋の中を片付けるのもトレサリー子爵家の仕事。
この家の正確な見積もりをするのに訪れるのも本当は明日だった。しかし別口の客が明日しか在宅できないというので、今日と明日の予定を入れ替えたのが今朝の事。
まさか2人がここを不貞の場としているなど誰も思わなかっただろう。
リビングやキッチン、客間などを見て回り手元のボードに挟んだ紙に調度品の形や棚などその中身を順番に書き取りをしていって最後の部屋が寝室だった。
寝室に入って感じたのは「空き家」となって誰も使っていないと言われていたのにこの寝室だけは頻繁に誰かが使っている形跡があった。
が、空き家となった家に住み着く浮浪者もいない訳ではなくリヴァイヴァールは「綺麗に使ってるんだな」という印象しか持たなかった。王家の所有とは言え見張りの兵がいるわけでなく、巡回ルートからも外れているため浮浪者が入り込んで「一時の間借り」をしていたのだろうと考えたのだった。
「どうせ寝台もシーツもバラして運ばなきゃいけないし」
寝台に乱れがあったところで荷馬車に載せて運ぶ時は原型をとどめていないのだからと気にもしなかった。
そしてクローゼットの中に入った時、家に誰かが入って来た。
いつもなら「見積もりをさせて頂いております」と声を掛けるのだが、近づいてくる2つの声にリヴァイヴァールはは聞き覚えがありすぎて思わず・・・ステラの手を引いてクローゼットの扉を閉じて中に隠れてしまった。
情事を終えた2人が仲良く出ていく音がして、ステラは扉にそっと耳をあて遠ざかる足音を確認した。
「良いのですか?このままで」
「良くはないさ。でもトレサリー家は事業をしている。雇っている人間の数は500人を超えてるんだ。彼らを路頭に迷わせる事は出来ない。ごめんな。変なものを聞かせちゃって」
「そのような事はお気になさらず」
「さ、残りは寝室だけだ。さっさと終わらせて帰ろうか」
クローゼットから出て寝室の荷物を見積もり出すリヴァイヴァールにステラは提案した。
「では、婚約を破棄しましょう」
「それが出来るくらいならとっくにやってる。相手は第2王子。たかが子爵家じゃ太刀打ちできないんだ」
「それは、たかが子爵家で無くなれば太刀打ちできるという事ですの?」
「‥‥そんなに簡単な事じゃないよ。だけど気休めでも・・・ありがとう」
「あら?簡単でしてよ?」
ステラはにこりとリヴァイヴァールに微笑んだ。
「恩と仇はきっちりとお返しする。簡単な事です」
★~★
完結後になりますが、この話は【ある日王女になって嫁いだ~】のシュヴァイツァーとメリル夫妻の子供世代の話になります。
カルボス??シュヴァイツァー??っと疑問符が飛んでしまった方!!
申し訳ないです~(*^人^*)ゴメンネ
寝台の軋む音と肉と肉がぶつかり合う音。人が発するのは荒い息遣いだけ。
その音が小さな呻き声を合図に止まると今度はリップ音に、そして人の声に変った。
「こんなことして。本当に悪い王子様だわ」
「よく言うよ。お前だって大概じゃないか。ホント。お前みたいな女が一番だよ」
「でしょ?結婚は別の人。こうやって楽しむだけ。お互いWINWINね。それはそうとドレスありがと(ちゅっ)」
「何も言わせないし、どうせアイツは何も言えないヘタレだからな」
「子供が出来ても何も言わせないでよ?」
「当然だ。俺の子を育てさせてやる恩を売るんだ。一生童貞も喜べと言ってやるよ」
こんな会話を聞きたくはなかった。
クローゼットの中で蹲るのはトレサリー子爵家の子息リヴァイヴァールとトレサリー家に厄介になっている留学生のステラ。
寝台で睦あっている女性はコール侯爵家のアリス。男性はサルバ王国の第2王子アドリアン。
アリスはリヴァイヴァールの婚約者で、その婚約期間は10年になる。トレサリー家から融資を受ける担保のような婚約で春が来る頃にはトレサリー家にアリスが嫁いでくることになっていた。
息を顰めながらも膝の上に置いた拳が震えるリヴァイヴァールにステラはそっと手を重ねた。
「大丈夫」と言いたげにステラを見るリヴァイヴァールだったがどうする事も出来ない。アドリアンが言っていたようにリヴァイヴァールはアドリアンには逆らえない。
第2王子であるという立場は中身がどんなに腐っていても変えようのない事実。たかが子爵家の子息であるリヴァイヴァールに逆らう事など出来るはずもない。
第2王子と言っても母親が側妃である第1王子よりもアドリアンは後ろ盾も多い。
過去にはアドリアンに逆らって家の事業に支障が出た友人も多くいる。
2人の関係には1年半ほど前から気がついてはいた。気が付かない方がどうかしていると言ってもいい。
堂々と王宮内の私室にアリスを呼び、人払いをして2人きりで数時間過ごし朝を迎えたこともある。情事の帰りにリヴァイヴァールを呼びつけてコール侯爵家まで送らせた事もある。
リヴァイヴァールの目の前で唇を重ね、体をまさぐり合う姿も見せるために呼ばれる事もある。
屈辱の限りだがリヴァイヴァールがアドリアンに「物申す」とすれば当事者だけで事が済まなくなるためリヴァイヴァールは認める事はしなくても耐えるしかなかった。
リヴァイヴァールとステラがクローゼットの中にいたのは偶然。
この家はアドリアンの祖母となる王太后の持ち物で昨年、王太后は神の御許に旅立った。1年経ち喪もあけたと行くにも距離が中途半端、行ったところで特別何が出来るわけでもない家。それもその筈。この家は王太后が現役の王妃だった頃に「ただのんびりしたい」という休暇を寝て過ごすために作られた家で今となっては管理費だけが嵩むため王家はこの家を処分する事にしたのだ。
ゴミ屋敷でなくても家屋の中を片付けるのもトレサリー子爵家の仕事。
この家の正確な見積もりをするのに訪れるのも本当は明日だった。しかし別口の客が明日しか在宅できないというので、今日と明日の予定を入れ替えたのが今朝の事。
まさか2人がここを不貞の場としているなど誰も思わなかっただろう。
リビングやキッチン、客間などを見て回り手元のボードに挟んだ紙に調度品の形や棚などその中身を順番に書き取りをしていって最後の部屋が寝室だった。
寝室に入って感じたのは「空き家」となって誰も使っていないと言われていたのにこの寝室だけは頻繁に誰かが使っている形跡があった。
が、空き家となった家に住み着く浮浪者もいない訳ではなくリヴァイヴァールは「綺麗に使ってるんだな」という印象しか持たなかった。王家の所有とは言え見張りの兵がいるわけでなく、巡回ルートからも外れているため浮浪者が入り込んで「一時の間借り」をしていたのだろうと考えたのだった。
「どうせ寝台もシーツもバラして運ばなきゃいけないし」
寝台に乱れがあったところで荷馬車に載せて運ぶ時は原型をとどめていないのだからと気にもしなかった。
そしてクローゼットの中に入った時、家に誰かが入って来た。
いつもなら「見積もりをさせて頂いております」と声を掛けるのだが、近づいてくる2つの声にリヴァイヴァールはは聞き覚えがありすぎて思わず・・・ステラの手を引いてクローゼットの扉を閉じて中に隠れてしまった。
情事を終えた2人が仲良く出ていく音がして、ステラは扉にそっと耳をあて遠ざかる足音を確認した。
「良いのですか?このままで」
「良くはないさ。でもトレサリー家は事業をしている。雇っている人間の数は500人を超えてるんだ。彼らを路頭に迷わせる事は出来ない。ごめんな。変なものを聞かせちゃって」
「そのような事はお気になさらず」
「さ、残りは寝室だけだ。さっさと終わらせて帰ろうか」
クローゼットから出て寝室の荷物を見積もり出すリヴァイヴァールにステラは提案した。
「では、婚約を破棄しましょう」
「それが出来るくらいならとっくにやってる。相手は第2王子。たかが子爵家じゃ太刀打ちできないんだ」
「それは、たかが子爵家で無くなれば太刀打ちできるという事ですの?」
「‥‥そんなに簡単な事じゃないよ。だけど気休めでも・・・ありがとう」
「あら?簡単でしてよ?」
ステラはにこりとリヴァイヴァールに微笑んだ。
「恩と仇はきっちりとお返しする。簡単な事です」
★~★
完結後になりますが、この話は【ある日王女になって嫁いだ~】のシュヴァイツァーとメリル夫妻の子供世代の話になります。
カルボス??シュヴァイツァー??っと疑問符が飛んでしまった方!!
申し訳ないです~(*^人^*)ゴメンネ
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