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第25話 ポールとピエール。再び
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初回、セッターの所で買い取りと委託販売で売った薬からウェンディの作った薬は効き目が凄いと貧しい者達の間では噂があっという間に広まった。
教会の裏でホーネストの母親に治癒の力を使った事は全く噂になっておらず、従業員として雇い入れた者達は本当にその件については口を貝のように閉ざし、自慢げに誰かに話す事もしなかった。
慣れていないうちは薬の包み方が違っていても仕方がないが、下痢止めと下剤を間違ってしまうと大変なことになる。ウェンディは薬の包み方を順番に絵で描いて煎じた粉末の袋に間違わないようにと貼り付けた。
街で梱包してもらえるようになるとウェンディの時間にも余裕が出来る。簡単そうに見えて1つ包むのに慣れているウェンディでも1,2分。1時間梱包して50出来れば良い方。その時間がまるまる無くなったのだからウェンディはせっせと薬草を摘み取り、煎じたり煮だしたり出来る。
ファムリ村は小さいが人間が1人でせっせと薬草を摘み取っても1周するのに1年はかかる。兎に角薬草が伸び放題の育ち放題でキキ草がキキス木になっているくらいだから同じように成長し過ぎて効果がより強くなった薬草の類も多かった。
成長させ過ぎればコストも安くなるのだが、それが出来ないのはちょっと芽が出て葉が付いたら摘み取ってしまうからである。
セッターの店を間借りさせてもらっているが、開業して4カ月、ウェンディが王都を追放されて5カ月もすると量が多く出回る事からセッターの店で薬を買って、買えなかった者に倍の値段で売りつける者も商売にならなくなって、ほぼいなくなった。
それでも絶滅しなかったのは街にある薬屋は購入者の住み分けが出来ていて、セッターの店は一番の最下層にいる者達がよく利用する。他の店に行っても金はあるのに身なりで追い出されてしまうので必然的にセッターの店になってしまうのだが、金を持っている貴族などわざわざ破落戸やトンだ目をして突然奇声をあげて笑いだす者達がいるような場では買い物はしない。
ウェンディの作る薬の評判はうなぎのぼりでセッターの店では買えないが欲しがる貴族も中には出てきた。他の薬屋で買った薬では効果が薄く一時的。1日に2回も3回も服用したり塗布せねばならなかったのが3日に1度程度で良くなるのだから効果の違いは一目瞭然。プライドが邪魔をしてセッターの店では買えない貴族が転売屋から買っていたからである。
3カ月目からは週に1回。ホーネストと共に従業員の男性が2人。
3人体勢でウェンディの家にやって来る。
前回の売り上げと経費など簡単に纏めた一覧をホーネストの母が持たせてくれていて、目を通したウェンディは3人に向かって言った。
「来月もお給料は一律で2万。アップできそうね」
「そんなに?!先月も2万アップしてもらったばかりですよ」
「いいのよ。頑張ってくれているんだからお金と言う見える対価で評価できる事は良い事だと思うの」
従業員にとっても願ったり叶ったり。嬉しいのだが思うのだ。ウェンディは商売の手を広げるつもりはないのだろうかと。セッターの店に初回やって来た時よりは今は拡大しているが、それ以上を望んでいないのである。
「薬が売れるっていうのは良い事だとは思えないの。だって薬も医者も要らない健康が一番だもの。だから薬屋である私達がどんどん儲かるって言うのはおかしなことだと思うのよ。ちょっと考えてみたんだけど…見てくれる?」
そう言ってウェンディがテーブルに広げたのはまだ構想中なのだが薬屋に併設しての健康教室を開こうかと言うものだった。
「平民は暴飲暴食をしようと思っても物理的に出来ないわよね」
「まぁ、そこまで食べ物は買えませんからね」
「でも今度は逆で買えないから栄養が足らない、偏っているって言うのもあると思うの。不健康を薬で誤魔化すのは本来の薬の役目じゃないと思うのね。あくまでも健康が一番、でも体調不良を起こした時に薬がちょっと手助けする。そんなスタンスじゃないとダメだと思うの。依存は良くないわ」
「確かにね。辛さから酒に走る者も居るけど、中には薬をオーバードーズしてその時だけぶっ壊れたような快楽に逃げる者もいるからな」
まだ実現はしそうにないが、薬で体が癒えたら体力作りも兼ねてやってみるのもいいかも知れない。そう話が落ちついたところに客がやって来た。
こんな辺鄙なファムリ村にやって来るものなどそうそういない。
扉を開けてみるとやはりポールとピエール。
「聖女殿!そろそろ食料が尽きるかと思い、馳せ参じました」
「参じ無くていいんだってば!」
「ウェンディ、このおじさん達、誰?」
11歳のホーネストには目の毒にしかならない。
やはりマッチョは脱ぎたがる、いや見せたがる。
上半身裸なのに背中にはまた100kg近い荷物を背負い、胸や腹、二の腕の筋肉をピクピク動かしながら笑顔を浮かべる仁王立ちの軍属あがり。
ウェンディは本気でこの2人を〆ようかと思ったのだった。
が、2人は王都から周辺地域に向かう幌馬車の御者兼護衛をしている。
2人の情報はフレッシュでもある。
そんな2人が言ったのだ。
「どうも王都の様子がおかしいんですよ」
「おかしい?」
「えぇ。王宮の使用人だったって客がいたんですけども解雇されて国に帰ると」
「まぁ、嫌になれば辞めるんじゃない?」
「聞くところによると聖女の散財で国庫が尽きそうなんだとか。本当なら迷惑な話です」
「その聖女と第2王子の婚約発表も間もなくだそうで。金が無いのによくやりますよねぇ」
ウェンディはそれを聞いても「へぇ」としか思わなかった。
自分はもう追放された身だし、ウェンディが何かを思ったところで何が変わる訳でもない。
願わくば空になりそうな国庫を満たすために税金をあげるのは止めて欲しいと思ったのだった。
教会の裏でホーネストの母親に治癒の力を使った事は全く噂になっておらず、従業員として雇い入れた者達は本当にその件については口を貝のように閉ざし、自慢げに誰かに話す事もしなかった。
慣れていないうちは薬の包み方が違っていても仕方がないが、下痢止めと下剤を間違ってしまうと大変なことになる。ウェンディは薬の包み方を順番に絵で描いて煎じた粉末の袋に間違わないようにと貼り付けた。
街で梱包してもらえるようになるとウェンディの時間にも余裕が出来る。簡単そうに見えて1つ包むのに慣れているウェンディでも1,2分。1時間梱包して50出来れば良い方。その時間がまるまる無くなったのだからウェンディはせっせと薬草を摘み取り、煎じたり煮だしたり出来る。
ファムリ村は小さいが人間が1人でせっせと薬草を摘み取っても1周するのに1年はかかる。兎に角薬草が伸び放題の育ち放題でキキ草がキキス木になっているくらいだから同じように成長し過ぎて効果がより強くなった薬草の類も多かった。
成長させ過ぎればコストも安くなるのだが、それが出来ないのはちょっと芽が出て葉が付いたら摘み取ってしまうからである。
セッターの店を間借りさせてもらっているが、開業して4カ月、ウェンディが王都を追放されて5カ月もすると量が多く出回る事からセッターの店で薬を買って、買えなかった者に倍の値段で売りつける者も商売にならなくなって、ほぼいなくなった。
それでも絶滅しなかったのは街にある薬屋は購入者の住み分けが出来ていて、セッターの店は一番の最下層にいる者達がよく利用する。他の店に行っても金はあるのに身なりで追い出されてしまうので必然的にセッターの店になってしまうのだが、金を持っている貴族などわざわざ破落戸やトンだ目をして突然奇声をあげて笑いだす者達がいるような場では買い物はしない。
ウェンディの作る薬の評判はうなぎのぼりでセッターの店では買えないが欲しがる貴族も中には出てきた。他の薬屋で買った薬では効果が薄く一時的。1日に2回も3回も服用したり塗布せねばならなかったのが3日に1度程度で良くなるのだから効果の違いは一目瞭然。プライドが邪魔をしてセッターの店では買えない貴族が転売屋から買っていたからである。
3カ月目からは週に1回。ホーネストと共に従業員の男性が2人。
3人体勢でウェンディの家にやって来る。
前回の売り上げと経費など簡単に纏めた一覧をホーネストの母が持たせてくれていて、目を通したウェンディは3人に向かって言った。
「来月もお給料は一律で2万。アップできそうね」
「そんなに?!先月も2万アップしてもらったばかりですよ」
「いいのよ。頑張ってくれているんだからお金と言う見える対価で評価できる事は良い事だと思うの」
従業員にとっても願ったり叶ったり。嬉しいのだが思うのだ。ウェンディは商売の手を広げるつもりはないのだろうかと。セッターの店に初回やって来た時よりは今は拡大しているが、それ以上を望んでいないのである。
「薬が売れるっていうのは良い事だとは思えないの。だって薬も医者も要らない健康が一番だもの。だから薬屋である私達がどんどん儲かるって言うのはおかしなことだと思うのよ。ちょっと考えてみたんだけど…見てくれる?」
そう言ってウェンディがテーブルに広げたのはまだ構想中なのだが薬屋に併設しての健康教室を開こうかと言うものだった。
「平民は暴飲暴食をしようと思っても物理的に出来ないわよね」
「まぁ、そこまで食べ物は買えませんからね」
「でも今度は逆で買えないから栄養が足らない、偏っているって言うのもあると思うの。不健康を薬で誤魔化すのは本来の薬の役目じゃないと思うのね。あくまでも健康が一番、でも体調不良を起こした時に薬がちょっと手助けする。そんなスタンスじゃないとダメだと思うの。依存は良くないわ」
「確かにね。辛さから酒に走る者も居るけど、中には薬をオーバードーズしてその時だけぶっ壊れたような快楽に逃げる者もいるからな」
まだ実現はしそうにないが、薬で体が癒えたら体力作りも兼ねてやってみるのもいいかも知れない。そう話が落ちついたところに客がやって来た。
こんな辺鄙なファムリ村にやって来るものなどそうそういない。
扉を開けてみるとやはりポールとピエール。
「聖女殿!そろそろ食料が尽きるかと思い、馳せ参じました」
「参じ無くていいんだってば!」
「ウェンディ、このおじさん達、誰?」
11歳のホーネストには目の毒にしかならない。
やはりマッチョは脱ぎたがる、いや見せたがる。
上半身裸なのに背中にはまた100kg近い荷物を背負い、胸や腹、二の腕の筋肉をピクピク動かしながら笑顔を浮かべる仁王立ちの軍属あがり。
ウェンディは本気でこの2人を〆ようかと思ったのだった。
が、2人は王都から周辺地域に向かう幌馬車の御者兼護衛をしている。
2人の情報はフレッシュでもある。
そんな2人が言ったのだ。
「どうも王都の様子がおかしいんですよ」
「おかしい?」
「えぇ。王宮の使用人だったって客がいたんですけども解雇されて国に帰ると」
「まぁ、嫌になれば辞めるんじゃない?」
「聞くところによると聖女の散財で国庫が尽きそうなんだとか。本当なら迷惑な話です」
「その聖女と第2王子の婚約発表も間もなくだそうで。金が無いのによくやりますよねぇ」
ウェンディはそれを聞いても「へぇ」としか思わなかった。
自分はもう追放された身だし、ウェンディが何かを思ったところで何が変わる訳でもない。
願わくば空になりそうな国庫を満たすために税金をあげるのは止めて欲しいと思ったのだった。
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