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第04話 偽者聖女、上等です!
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ウェンディはリストに愚痴る。思いっきり愚痴る。
「ホンットになんなのあの男!また叱られたのよ?体調不良なんか気合でどうにかなるとか!体調不良じゃないってぇの!!私はね!元気だけが取り柄なのよ!呼ぶまで引っ込んどけって言ったのはアンタの息子だってぇの!」
「へぇ、そうなんだ」
「だいたいさ!だいたいよ?!私が出来るって訳じゃないの。でもね?こっちは満点取らなきゃ講師にぶっ叩かれるのにゲス殿下ときたら半分よ、半分!それで褒められてドヤ顔って!!キィィー!!思い出しただけで腹立つ!」
「叩かれる?まだ叩かれているのかい?」
「以前よりはかなりマシ。でもゼロじゃないわ。狙ってくるのはくるぶしとか、肘!信じられないわ。ちょっと痣になってたって元々肌がくすむ場所ばかり狙ってくるのよ。張り手で鼻血が無くなったからってゼロじゃない…キィィー!同じこと殿下にもやってみろってぇのぉぉーっ!」
「酷いな。まだ続いてるんだ」
「暴力は減ったわよ」キョトンとした顔でウェンディはグッと拳をリストの前にフックのようにして風を切った。
「ま、実害は減ったけど、今度はその分言葉の暴力が増えたわ。私も低位貴族だし口も悪いけど…それでもお父様やお母様の事まで卑しめられるのはちょっとキツイかな。あはっ」
「無理して笑うなよ」
「笑ってないとやってられないわ。おかげで馬耳東風と言われて…評価も駄々下がりだけど…いいの。馬鹿のふりでもしてなきゃまともに取り合っていたら身が持たないわ」
軽く肩をすくめて首を傾げ、おどけた表情を見せたウェンディは「手が止まってる!」とリストを急かす。
リストに愚痴を言い出してから講師の暴力は減った。信じられない事に鼻血が出てもやめてくれない張り手も、足払いをして転ばせて、頭を踏みつける行為も日常茶飯事だった。
見回りが来るようになって講師も手を出せなくなったのかも知れないが、言葉の暴力は登城すれば容赦なく浴びせられる。
教会で土いじりをする時間が無ければウェンディはとっくに壊れていたかも知れない。
この頃には茶会に行っても高位貴族の令嬢からはマウント発言も多かったし、クリストファーと入場しなければならない夜会には尽く「体調不良」で欠席ならぬドタキャン状態。
居ればいればで、いなければいないなりに噂はされてしまう。
悪い噂は広がるのも早い。直接その場にいなくても何と言われているかも聞こえてくる。
「本当は聖女なんかじゃないから、恥ずかしくて出て来られないんじゃない?」
「違うわよ。お盛んだから夜会まで体力がないだけよ」
「まぁ!今も殿下以外の男性と?不潔ですわ」
聖女と言われるのはウェンディにも心外。
ウェンディ本人は自分が聖女だと口にした事はないし、両親だって否定をしている。
教会も15歳のデヴュタント時に力が発現していない事で「素質があるかも知れない」と見解を少しだけ変えた。その事でボルトマン子爵家やウェンディがどれだけ迷惑をするかなど教会は考えてはくれない。
教会が考えてくれるのは「迷える者のセーフティネット」であろうとすることだけなので、ウェンディも「なら私も迷ってます!」と敷地の一角で薬草を育てさせてもらっている。
15歳を超えても聖女らしい力は発現しないまま。
その事もあってウェンディは「自称聖女」「偽者聖女」とも言われるし「性女としての癒ししか与えない」と言い出す者までいる。
高位貴族であればそんな噂は払拭出来たかも知れないが、力のない泣かず飛ばすの子爵家に噂をねじ伏せるような力はない。
だからこそウェンディはその噂に少しだけ期待をしていた。
自虐的に受け入れているのではなく、偽者なら偽者で良いのだ。クリストファーとの婚約が「聖女の素質」があるとされていることが前提なら覆ってくれた方が婚約も無くなってウェンディは万々歳。
聖女ではないのだろうけれど、呪詛のように毎晩寝る前に奇妙な踊りと言われるヨガをしながら「解消~白紙~破棄でも可ぁ~♪」っとブツブツ呟いているのはリストにも秘密だ。
そんなウェンディの奇妙な祈りが通じたのか。
吉報とも言える知らせが舞い込んだ。
「大変だ!本物の聖女が現れた!」
年齢はウェンディと同じく17歳。副王都の郊外に住んでいたサラという女性に聖女の力が発現したという知らせだった。
「ホンットになんなのあの男!また叱られたのよ?体調不良なんか気合でどうにかなるとか!体調不良じゃないってぇの!!私はね!元気だけが取り柄なのよ!呼ぶまで引っ込んどけって言ったのはアンタの息子だってぇの!」
「へぇ、そうなんだ」
「だいたいさ!だいたいよ?!私が出来るって訳じゃないの。でもね?こっちは満点取らなきゃ講師にぶっ叩かれるのにゲス殿下ときたら半分よ、半分!それで褒められてドヤ顔って!!キィィー!!思い出しただけで腹立つ!」
「叩かれる?まだ叩かれているのかい?」
「以前よりはかなりマシ。でもゼロじゃないわ。狙ってくるのはくるぶしとか、肘!信じられないわ。ちょっと痣になってたって元々肌がくすむ場所ばかり狙ってくるのよ。張り手で鼻血が無くなったからってゼロじゃない…キィィー!同じこと殿下にもやってみろってぇのぉぉーっ!」
「酷いな。まだ続いてるんだ」
「暴力は減ったわよ」キョトンとした顔でウェンディはグッと拳をリストの前にフックのようにして風を切った。
「ま、実害は減ったけど、今度はその分言葉の暴力が増えたわ。私も低位貴族だし口も悪いけど…それでもお父様やお母様の事まで卑しめられるのはちょっとキツイかな。あはっ」
「無理して笑うなよ」
「笑ってないとやってられないわ。おかげで馬耳東風と言われて…評価も駄々下がりだけど…いいの。馬鹿のふりでもしてなきゃまともに取り合っていたら身が持たないわ」
軽く肩をすくめて首を傾げ、おどけた表情を見せたウェンディは「手が止まってる!」とリストを急かす。
リストに愚痴を言い出してから講師の暴力は減った。信じられない事に鼻血が出てもやめてくれない張り手も、足払いをして転ばせて、頭を踏みつける行為も日常茶飯事だった。
見回りが来るようになって講師も手を出せなくなったのかも知れないが、言葉の暴力は登城すれば容赦なく浴びせられる。
教会で土いじりをする時間が無ければウェンディはとっくに壊れていたかも知れない。
この頃には茶会に行っても高位貴族の令嬢からはマウント発言も多かったし、クリストファーと入場しなければならない夜会には尽く「体調不良」で欠席ならぬドタキャン状態。
居ればいればで、いなければいないなりに噂はされてしまう。
悪い噂は広がるのも早い。直接その場にいなくても何と言われているかも聞こえてくる。
「本当は聖女なんかじゃないから、恥ずかしくて出て来られないんじゃない?」
「違うわよ。お盛んだから夜会まで体力がないだけよ」
「まぁ!今も殿下以外の男性と?不潔ですわ」
聖女と言われるのはウェンディにも心外。
ウェンディ本人は自分が聖女だと口にした事はないし、両親だって否定をしている。
教会も15歳のデヴュタント時に力が発現していない事で「素質があるかも知れない」と見解を少しだけ変えた。その事でボルトマン子爵家やウェンディがどれだけ迷惑をするかなど教会は考えてはくれない。
教会が考えてくれるのは「迷える者のセーフティネット」であろうとすることだけなので、ウェンディも「なら私も迷ってます!」と敷地の一角で薬草を育てさせてもらっている。
15歳を超えても聖女らしい力は発現しないまま。
その事もあってウェンディは「自称聖女」「偽者聖女」とも言われるし「性女としての癒ししか与えない」と言い出す者までいる。
高位貴族であればそんな噂は払拭出来たかも知れないが、力のない泣かず飛ばすの子爵家に噂をねじ伏せるような力はない。
だからこそウェンディはその噂に少しだけ期待をしていた。
自虐的に受け入れているのではなく、偽者なら偽者で良いのだ。クリストファーとの婚約が「聖女の素質」があるとされていることが前提なら覆ってくれた方が婚約も無くなってウェンディは万々歳。
聖女ではないのだろうけれど、呪詛のように毎晩寝る前に奇妙な踊りと言われるヨガをしながら「解消~白紙~破棄でも可ぁ~♪」っとブツブツ呟いているのはリストにも秘密だ。
そんなウェンディの奇妙な祈りが通じたのか。
吉報とも言える知らせが舞い込んだ。
「大変だ!本物の聖女が現れた!」
年齢はウェンディと同じく17歳。副王都の郊外に住んでいたサラという女性に聖女の力が発現したという知らせだった。
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