婚約破棄を強要されたら甘い日々が始まりました

cyaru

文字の大きさ
19 / 45

VOL.19  韋駄天ハンスの棚ぼた商売

しおりを挟む
ハンスはオリビアから手紙を預かった。

オリビアは数日内に返事がないのなら自分たちで甜菜てんさいを加工し砂糖を抽出してみようと言った。

「方法は知ってるのか?」

「知らないわ」

絶句だ。
しかしオリビアは国民であれば誰でも利用できる王立図書館に行き、書物がないか探すという。

ダメで元々。こうなったら夜逃げをする当日の昼まで足掻いてやろうじゃないかと腹を決めたハンスは弟に手紙を託したのだった。


返事は数日待つ必要もなかった。
その日の夕方、狭い通りを独占してしまうような大きな馬車が走ってきてハンスの店の前で停車した。

中から降りて来たのはスピア伯爵ご本人様。

ハンスの弟は「困った事はないか?」と他人の事は気に掛けるのに滅多に頼みごとをしない兄が気落ちした顔で手紙をスピア伯爵家に届けて欲しいというので、何か大変な事があったのでは?と直ぐにスピア伯爵家に届けた。

手紙を預かってくれたのは執事だったが、裏面に姓はなく「オリビア」とだけ書かれた封書が気になり開封した。

中の文面を読み、オリビアがポルトー侯爵家のオリビアなのだと気が付くと直ぐにスピア伯爵に手紙を届けた。

手紙を読んだスピア伯爵は従者に行かせるよりはと直接足を運んできた。

「オリビア様からの手紙を受け取りました。オリビア様はどちらに?」

「あ、あの…えぇーっと…呼んできます!!」

ハンスは店番を妻に頼むと韋駄天の如く走り出し、クーヘンの店に飛び込んできた。
「あら、いらっしゃい」声を掛けたオリビアはブラシで床を清掃中。しかも素手。


「良かったわ。ダメ元でもまだ肩書は生きてたわね。スピア伯爵様なら解ってくださると思ったの」

「お店の前でお待ちなんですけど」

「そうなの?どうしよう…あと少しなんだけど」

ハンスはオリビアがあと少しだという床を見て気を飛ばしそうになった。
床の汚れでブラシもブラシを持つオリビアの手も汚れているし、季節は冬。指先も水の冷たさで真っ赤になっている。

==死罪一直線?==


真っ青になるハンスを他所にオリビアはクーヘンを呼ぶ。

「クーヘンさぁん。ハンスさんのお店に行ってきますね」

「うぇーぃ。気ぃ付けろよ」

==マジか。クーヘン、お前に何があった?==

まさか手を出したんじゃないだろうな?とハンスは長く友人のクーヘンがしでかしたのでは?と気が気でない。

しかしオリビアはそんなハンスに「行きましょうか」と声を掛けて来る。

==あぁもう…感謝もするけど追悼もセット?==

色んな感情が入り乱れるハンス。
顔色の悪いハンスと共にオリビアはハンスの店に向かったのだった。


★~★

「オリビア様、お久しゅうございます」

「スピア伯爵様。おやめください。私はもうただのオリビアなのです」

「いいえ。私にしてみれば貴女は唯一無二の妃殿下。誰もが平民と酒を酌み交わす事を蔑む中、貴女だけはあの地で生死の境を潜り抜けた私たちを理解してくれたのですから」

「理解も何も。人は人。国境が地図上のモノでしかなく目に見えないように身分も書面上だけのもの。人であればそれ以上でもそれ以下でもない。ただそれだけの事です」

「婚約の件は聞き及んでおりますが、そんな事よりも手紙の件。こちらこそ願ったり叶ったりです。是非協力をさせて頂きたい」


スピア伯爵としては懸命に仕事の斡旋はしているのだが、生まれや住処が貧民窟だというだけで事業を始めて3年。仕事に無事ありつけたものは正規、非正規合わせて200人ほど。今もなお職を求める者は3千人以上。

どの商会にも良い顔はされず、紹介をした者が懸命に働いても下働きから上は望めない。コネで入ってきて威張り散らし役に立たないどこかの息子の半分の給料ではやってられないと長く続かない。

「どうせすぐ辞めてしまうでしょう?」

この頃はそう言われて門前払いをされることが続いていた。

オリビアから提案されたのはそんな彼らを使っての仕事。
生まれが貧民窟でも腐らずに前を向く者は多く、スピア伯爵は渡りに船と早速甜菜てんさいを加工するための工場を空き倉庫を使って始めてくれると言う。
その上…。

「え?わ、私が?!」

「えぇ。貴方の目利きは間違いない。責任をもって買い取りますので甜菜てんさいをあるだけ仕入れて頂きたい」

スピア伯爵はハンスに市場に出回る甜菜てんさいの仕入れを一任してくれた。
青果市場は一般客は利用できず、売買が出来るのは入場許可証を持った者だけに限られる。

うっかり大根と間違っただけとハンスは言いそうになったがオリビアは自分の唇に指先を当てて「言わなくていい」とゼスチャーで示す。

仲買となったハンスは市場で甜菜てんさいを仕入れ、スピア伯爵に納品するだけ。
たったそれだけで20%が利益になる。輸送費を差し引いてもほぼ20%。

この先量が増えたとしても18%は固い。
大きな棚ぼた商売が転がり込んできたハンスにオリビアは「うんうん」と頷く。

だが、ただ頷いていただけではない。
オリビアはもう1つ計画を練っていた。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます

天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。 王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。 影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。 私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

妹の嘘を信じて婚約破棄するのなら、私は家から出ていきます

天宮有
恋愛
平民のシャイナは妹ザロアのために働き、ザロアは家族から溺愛されていた。 ザロアの学費をシャイナが稼ぎ、その時に伯爵令息のランドから告白される。 それから数ヶ月が経ち、ザロアの嘘を信じたランドからシャイナは婚約破棄を言い渡されてしまう。 ランドはザロアと結婚するようで、そのショックによりシャイナは前世の記憶を思い出す。 今まで家族に利用されていたシャイナは、家から出ていくことを決意した。

婚約辞退いたします。だってこの国、沈みますもの

鍛高譚
恋愛
「婚約はお断りいたします――この国は近い将来、崩壊しますので」 そう言い放ったのは、社交界でも目立たない子爵令嬢、マリン・アクアリウム。 ある日、とある舞踏会に突如現れた王太子ガイア殿下。 誰もが驚く中、なんと彼はマリンに婚約を申し出る。 周囲は騒然。「子爵令嬢が王太子妃!?」「断る理由などないはず!」 ――だが、彼女は断った。「この国は、もうすぐ滅びます」――と。 そんな不吉な言葉を口にしたことで、彼女は“狂言癖のある嘘つき令嬢”と噂され、 家族にさえ見放され、ついには国外追放の身に。 だが、彼女の予言は本物だった―― 数年後、王国に未曾有の大災厄が迫る。 国土が崩れ、海に沈む都市。人々が絶望する中、思い出されるのは、 あの舞踏会でただひとり“滅び”を告げた少女の名。 「彼女なら、この国を救えるかもしれない……」 皮肉にも“追放令嬢”マリンは、再び王都に呼び戻され、 滅びゆく国で最後の希望として担ぎ上げられる。 信じてもらえなかった過去。 それでも人々の命を守ろうと奔走するマリン。 そして、王子ガイアが差し伸べた、あの日と変わらぬ手。 ――たとえ国が滅んでも、あなたとともに歩んでいきたい。

平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。 平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。 家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。 愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

処理中です...