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VOL.10  その先に光がない

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オリビアが出て行き、約1時間。
ようやく打ち付けた腰の痛みも引いたレスモンドは暴れた。

「どうしてくれるんだ!取り返しのつかない事になったじゃないか!」

「お許しくださいませ!こんなことになるとは考えもしておらずっ」

「考えなしだからこうなったと許して貰えるとでも思っているのか!」


つい先ほどまで勝ち誇ったようにレスモンドの傍に侍っていた令嬢は床に突っ伏し、怒り狂うレスモンドの怒りを浴びていた。

いつもは優しく撫でてくれる髪は乱れ、靴で踏みつけられていた。

――あたしだってこうなるとは思ってなかったわよ!――

心で毒吐くも安易に提案をしてしまったのは事実。

令嬢やレスモンドの予想に反してオリビアは嬉々として部屋を出て行った。
残された者は茫然とするしかなかった。

その茫然とした中にレスモンドもいたのに、事の重大さに気が付くと火が点いたように暴れ、一緒に甘えていた令嬢は鼻血を出し、壁に背を預け白目を剥いて気絶している。

夜会や茶会で散々レスモンドと一緒に虐め抜き、同じように白目を剥いて気絶した子息や令嬢を笑い飛ばしてきたが、今は笑える状況ではなかった。

頭を踏みつけていた足が退かされると安堵する暇もなく、乱暴に髪を掴まれて顔をあげさせられた。

「ポルトー家から支払われていた金。貴様の家がこれから出してくれるんだな?」

「そ、それは…父に…」

「父も何も貴様が言い出した事だ。ハダキメ伯爵家の決めた事だろうが!」

「ち、違いますっ。家は、家は関係あり…ぎゃっ!!」

「黙れ売女。いいか?これからはお前の家が出すんだ。迷惑料として倍額貰ってやってもいいぞ?」

「お許しっお許しください!!」

令嬢もポルトー家が幾ら金を出していたか知っている。莫大な金額で令嬢もレスモンドが「買ってやるぞ?」というので宝飾品などを買ってもらい、おこぼれに肖って来た。

その額は領地を売り、王都の屋敷も土地も売って全財産をかき集めて1年払えるかどうか。

とても両親や間もなく子供が生まれる兄夫婦に払ってくれと頼める額ではない。だが払わねばこの場でレスモンドは首と胴体を切り離してしまう。そんな勢いで凄んできた。

涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしてレスモンドに詫びていると従者が駆け込んできた。腕章から国王付きの従者だと直ぐに解る。令嬢は息を飲み万事休すと悟ると体から力が抜けた。


「殿下。陛下が直ちに来るようにと仰せです」

「チッ!!…こうなったのもお前のせいだ!」

気を飛ばした令嬢を掴んだ髪ごと放り投げ、レスモンドはフーフー荒い息のまま部屋を出て行った。


国王の待つ部屋に入ると、挨拶をする前に花瓶がレスモンドに飛んできた。
あたりはしなかったが、投げたのは父である国王だと直ぐに解った。

王妃も機嫌は最高潮に悪い様で、テーブルにリズムを取るように叩きつけている扇子は歪んでいた。

「何という事をしてくれたんだ」

「冗談だったんです」

「冗談だと?冗談でお前は王子印をどこでも押しまくるのかッ!」

「そ、それは…」

言い訳で時間稼ぎをしよう。

その間に王子印を使った書類を作ったことを「なら仕方ない」と思わせる弁明の文言を考える時間にしようとしたが、真っ先に王子印の事を言われレスモンドは答えに窮した。

目の前の国王、そして睨みつけて来る王妃からは何時ものように庇ってくれる気配は感じなかった。


「どっちだ」

「は?え?あの…どっちとは…」

「傍に2人の女を侍らしていただろうが!望み通りお前の妃に据えてやる。どっちを正妃にするかと問うているんだ!」

「嘘でしょう?あんな股を開く以外に脳がない女、私の妃になれる訳が――」

「してやると言ってるんだ!片方は正妃、本来なら国王以外は側妃を持つことは許されんが、余った方は側妃に特別に許してやる」

「違うんです。あれはそういう女じゃなく、遊びのっ」

「言い訳はどうでもいい。2人もいれば暫くは宮も維持できるだろう。女遊びも弁えていると思ったから何も言わなかったがオリビアを切るとは…。どうせ女に枕元で囁かれて下らぬ知恵でも働かせた結果だろうが。教皇が認めた以上どうにもならん。本当にお前と言う奴はどうしようもないッ!生きている間、宮から一歩も出るな!妃にしてやる女と一緒なら退屈もせんだろうが!」

「あ、あの…父上…立太子――」

「出来るわけがないだろう!それが嫌ならお前は王族から籍を抜くッ!子が出来ぬよう処置をした後、放逐してやるからどこにでも好きなところに行け!」


王族でいたければ一生宮から出る事も許されず、それが嫌なら物理で去勢し放逐。
レスモンドは究極の2択を突き付けられた。

ちょっとした脅しのつもりだった。
冗談だとまたいつもの日常になるだけだった。

大きく想定とは違う方向に進路を取った人生。
レスモンドはその先に光がない事を悟った。
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