騎士団長!!参る!!

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騎士団長!参る!!

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ポップ王国第二騎士団で騎士団長を務めるフェリックス・ハイド・バルブン。
彼はこよなく妻を愛する極めて愛の重い男である。
彼の妻は強面で所謂ブサイク。196cmという身長よりもさらに大柄に見えるゴーレム体系。ひとたび敵を前に抜刀すれば鬼神と化し殺戮の抜刀魔と呼ばれる男のあらゆる部分を無意識に転がしまわる普通の奥様である。

大男が食後のひと時、サロンで妻に膝枕をしてもらって悶える様は侯爵家に仕える使用人の秘密である。
決して口外をしてはいけない。いや、口外できるようなものではないのである。

侯爵家のサロンには侯爵家当主であるフェリックスの全身を描いたリアルすぎる肖像画が飾られている。
最近の奥様、オパールは日中をよく肖像画の前で過ごしている。
テーブルにはゲーテの詩集とローズティ。そして表に【キュン♡させて】裏に【最推し☆尊み】と書かれたド派手な扇がおかれている。
モノ言わぬ肖像画に扇を振って【フェルぅ~】【キャァ♡】【萌え死~】っと話しかけているのは侯爵家の秘密である。

だが、サロンにやってきた来客はフェリックスの肖像画を見て前世までさかのぼって己の罪を悔い改める。
最近では侯爵家の帰りに教会の懺悔室という流れが定番となりつつあるポップ王国。

そんな肖像画の前にリアルフェリックスが隊服で立ったりすると、奥様オパールは出来る侍女シーナの手助けなしには立っている事も出来ない。そう。腰が砕けるのである。恐るべし推しフィルター。

そんな侯爵家にも世間同様に秋という食欲を増進させる季節がやって来る。

「オパール!今帰った!」

5泊6日の日程で遠征に出ていたフェリックスがご帰宅でございますよ。
玄関先でお土産の栗、柿、サツマイモ、キノコが大量に入った袋を持って帰宅したフェリックス。
大喜びの愛しい妻を見て【白い結婚】などしなくて良かったと目を細め改めて心で愛を誓うのです。

「まぁ!見てくださいませ!なんて立派なサツマイモなんでしょう!」
「色々な食べ方があるようだぞ。宿ではケーキにもなっていたな」
「ケーキ。お芋のケーキですの?」
「作り方は判らんが、滑らかな舌触りだったな。オパールには負けるが」
「ずるいですわ。わたくしも遠征があればいいのに」
「それは無理だな。俺が許可をしない」

愛してやまない妻の笑顔はフェリックスの疲れを吹き飛ばすカンフル剤である。

☆~☆~☆

今日も通常運転。いちゃこらする夫婦ですがあのケンカ以来、屋敷の外と内ではオンオフの切り替えをバッチリしているフェリックス。
貸付金で第二騎士団の武具も揃い、予備の団服も支給出来た上に独自で開催する総当たり戦の模擬戦でメキメキと力をつけてくる新人だった騎士たち。
第二騎士団の馬は全てをばん馬としたことで、細身の騎士もその馬の大きさでなんだか強い騎士に見えるという錯覚の効果も出しています。もちろんそれぞれに合う馬をあてがっていますが生涯面倒をちゃんと見るなら配属替えがあった時にも格安で譲るというのも人気の秘訣かも知れませんね。

直近のアンケートでは未だに子供たちの人気は少ないものの学園の騎士科や騎士養成所の配属されたい部隊のNO3までランキングがアップしております。
まぁ、1位、2位は不動の近衛騎士団と第一騎士団なんですが今回は僅差!たった3票で3位となってしまいました。

順風満帆に見えるラブリィな2人ですが悩みもあります。
そう、それはなかなか子宝に恵まれない事です。毎日のように励んでいるんですが兆候は見られず。

そんなある日、気を利かせたつもりのリカチャがフェリックスにお土産を持ってきます。
チャラ男と言われるリカチャ。ついに結婚をしました。勿論狙っての出来婚です。
数人の新人団員が団長室で報告書を書きながらリカチャの手にする袋の文字に視線が釘付け!!

「嫁の悪阻が酷くて遠くにいけなかったので…団長にはこれ!是非拝んでください」
「拝む?なんだそれは」
「新婚旅行で行ったところに秘宝館というのがありましてね。いや、内容は何というか…ショボく見えるんですが変に妄想を駆り立ててしまうんですよ。あれはなかなかいいですよ。で、そこで団長にお土産を買ったんです」

「そんな気を使うくらいなら、今からおしめでも買ったらどうだ」
「やだなぁ。僕はまだ団長みたいに使ってませんよ」

<<えっ?それは介護ですか?団長要介護?でもそうじゃないなら(滝汗)  ※新人団員>>

あっ!っと声をあげるリカチャを無視して渡された土産の袋を開けるフェリックス。

ドドーン!

そこには通常の、あまり作者も見た事はありませんが普通の俺様をモチーフにした木彫りの置物が!
リアルすぎる置物。ちゃんと2個のゴールデンボォルの入ったきんちゃく袋も付いています。
微妙な皺の掘り具合がこれまたグロテスクというか…趣味が悪すぎますよ!リカチャ。

「リカチャ一つ聞いてもいいか?」
「俺の方が立派だ!とか言うのは無しですよ」
「違う。純粋に聞いてみたいと思ったんだ」
「なんです?」
「レジで会計するその漢気は何処から出たんだ」

確かに両手で持たないと台座もありますしね。レジ横にあったらあったでそのレジも怖いですが、会計をどうやってしたのかは気になりますね。

「いや、嫁さんは恥ずかしいって店の外に出ちゃって」
<<それが普通です リカチャ副官殿!!     ※新人団員>>

「急がなきゃ!っと竿の部分を掴んでレジ行ったら若い女の店員で困りましたよ」
<<それ、その女の子の店員の方がもっと困ったと思います!   ※新人団員>>

「埃があったんで、拭いてくださいって言ったんですけど断られたんです」
<<人前では拭けないでしょう!それが商品でも!!   ※新人団員>>

「拭き方が判らないって言うから僕流ですけど拭いておきました」
<<僕流って。色んな意味でリカチャ副官、最強なのかもしれない… ※新人団員>>

「リカチャ副官。お前は色々と飛びぬけていると思ったが流石だな」
「ヤダなぁ。僕ももう23ですからね。16,17のような飛距離はないです」

<<なんの飛距離ですかー!!色まで指定しないでくださいよ!!  ※新人団員>>

「で?これを何処に飾ればいいんだ」
<<えっ?団長まさか家に飾るつもり?玄関開けたらアレ?アカーン! ※新人団員>>

「そうですねぇ。玄関はダメです」
<<あ、違うんだ。そうですよね。玄関は客の目にも触れますしね   ※新人団員>>

「結構先端とか掘り目に埃たまるんで掃除が大変なんですよ」
<<そっち?使用人の事を考えて?でもそれは優しさなんですかぁぁ?  ※新人団員>>

「僕なら食卓ですかねぇ」
<<えぇぇぇ?飯食ってるテーブルのド真ん中にソレ置くの??  ※新人団員>>

「食卓か…だが大皿を置くと邪魔になるな」
<<団長!違います!ソレが食卓にある事があり得ないし邪魔です!!  ※新人団員>>

「まぁ置き場所はオパールと相談するよ。ありがとうリカチャ副官」
<<もらうんだ…まぁお土産だから断りにくいけど、奥さんと相談?正気ですか?>>

すっかり報告書を書く手が止まるだけでなく、通常ではあり得ない会話のラリーにここが現実世界だったかと自問自答する新人団員。
しかし彼らもこれから第二騎士団で成長していくのです。剣の腕もですがメンタルだけはどの騎士団にも負けない程に!

☆~☆~☆

今日も任務を終えて屋敷に戻り、食後サロンでいちゃつく夫婦。
使用人は鋼の精神で空気と化す時間がやってきます。

「フェル、お耳をお掃除致しましょう」
「そうだな。久しぶりにお願いをしようかな。オパールの耳掃除はとても気持ちがいい」
「うふっ。わたくしも可愛いフェルがハウハウ言ってるの堪りませんわ」

<<奥様~普通耳掃除でそんな声出しませんから~! ※使用人一同>>

「チョイチョイ…うふっ。取れちゃった。フゥゥ♡」
「ハグッ…むぅぅ…耳に息を吹きかける時は声をかけてくれ」
「ダメよ。予告をしたらフェルがソワソワ~って震えるの見えないもの。はい、反対も」
「あ、今の状態で顔をそちらに向けるのはマズイ」
「何故ですの?」

<<奥様ぁ!察してあげてください!またジッパーが壊れます!  ※使用人一同>>

「もしかすると、いいことあるかも知れませんのに?」
「良い事?何だろう?」
「さぁ、こちらを向いて、お掃除させてくださいまし♪」
「あ、あぁ‥‥(あぁ~オパールの匂いだ…フンスフンス)」
「聞こえまして?」
「(クンクン‥)え?何が?」
「わたくしのお腹から、お父様を呼ぶ声は聞こえませんでしたか?」

<<ハイパーフリーズ!!!>>

「オ。オパール?まさか‥‥」
「えぇ。来年の春が終わる頃にはフェルはパパですわ」

<<使用人一同!感♡極まれり!!>>

「あ、ありが…ウゥゥッ‥ありがと…フグゥゥ」
「まぁまぁ。騎士団長さんともあろうお方が。こんなに泣き虫さん♪」
「オパァルゥゥ」

<<旦那様~!奥様~!おめでとうございますぅ!! ※使用人一同>>

「と、いうことで本日から、くまちゃんキャンディごっごですけれども」
「わかっている!封印する!」
「何を言ってますの?何故封印の必要がありますの?」
「いや、オパールの体に負担になるだろう?その‥初期は大事だと聞いた!」

「えぇ!ですから!今まではわたくしが【食べてくださる?】で解禁となったくまちゃんキャンディごっこ。本日からは【to be continued♡】となるのです!くまちゃんキャンディごっこエクストラ!」

あぅあぅと口から言葉にならない言葉が溢れだすフェリックス!
完全なる生殺し状態が産後数か月まで続く試練がフェリックスの前に立ちはだかった!

「し、しかし!それは…耐えられんかも知れない」

「何を仰いますの。フェル。貴方は騎士団長として皆の先陣を斬る男。そしてわたくしの愛しい神推し。貴方に触れてもらえないわたくしの気持ち、察してくださいまし」



彼の名はフェリックス・ハイド・バルブン。強面で寡黙な男の二つ名は殺戮の抜刀魔。
侯爵家当主であり第二騎士団団長 29歳で一児の父となる男。

主の懇願する声が響く1年が始まり使用人たちは新たな秘密を抱えます。
ほら…聞こえてきましたよ‥

「参った!参りましたー!お願い!触れさせてぇ」

Fin
☆~☆~☆

おバカな夫婦にお付き合いくださりありがとうございました <(_ _)>
夜にでも、パパとなったフェリックスのお話を番外編として投稿いたします。
こんなに数多くの方のお気に入り登録、温かいコメントを頂ける作品だとは思っていなかったので急遽お話を考え中です。普通のパパさんなのか激甘パパさんなのか。それとも??
時間がありましたら、読んで頂けると嬉しいです。



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