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嫁入り道具は荷馬車数十台
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フカフカの絨毯が敷き詰められた大広間。そこは謁見室というこの国の最高位である国王との面会が許される場。
1人の騎士が褒賞を受け取っています。
「此度の働き、誠に見事。これからは第二騎士団長として頼んだぞ」
「仰せのままに」
「それはそうと、過日の洪水被害、そなたの領の被害は大きかったと聞くがどうだ」
「お心を寄せて頂きありがとうございます。被害についての調査はこれからですが領民に対してはこれから対処するようにしております」
「そうか。領民も我が国の民だ。頼んだぞ」
「御意」
いい加減厳つい顔つきのフェリックスの表情は更に険しくなります。
謁見室を出て、家令のスイフトに目録を手渡し長い廊下を歩きます。
「屋敷の者には既に伝えております」
「ついに年貢の納め時という事か」
「先代様より家督を継がれもう8年で御座います。致し方ないかと」
馬車に乗り、腕を組んでこの先を思いやってか眉間に皺をよせ目を閉じています。
向かいの席では家令が窓の景色を眺め、無言のまま馬車は屋敷に向かって走ります。
揺れの少ない整備された道路を過ぎると舗装されていない道に入ります。
舌を噛みそうなほど揺れる馬車でも慣れたものです。微動だにしません。
「スイフト」
「はい。どうされましたか」
「白い結婚の慰謝料はどれくらいだろうか」
「白い結婚‥‥でございますか」
「あぁ、相手のご令嬢とて不満はあるだろう。清いままで離縁をすれば…」
「ですが、それでは旦那様が周りから何と言われるか」
「今までも男色だの、幼女趣味だのと言われたのだ。今更それに1つ2つ増えた所で気にするものでもあるまい」
「おおよそではありますが、2年は拘束する事になりますから…200~500万ミケ程かと」
「そうか、一応予定を組んでおいてくれ」
「ですが過日の洪水で今年の収入はほぼ見込めません。改修工事も必要でしょうから…慰謝料まで回せるかどうか」
フェリックス・ハイド・バルブン。27歳。
父である前侯爵が事故にて急逝した事により19歳でバルブン侯爵家の当主となりもう8年。
来月からは第二騎士団の団長として騎士をまとめ、国を守る役目が増えます。
「オパール・セナ・トルシア‥‥トルシア伯爵のご令嬢か…」
お相手の名前をポツリと呟きます。トルシア伯爵家は国土の南に領地のあるごく普通の伯爵家。
目だった功績も無ければ、問題になる事もない家です。
妻となる女性に告げる白い結婚という言葉がどれほどのものかは知っていますが、幾度もの討伐で体のあちこちにある傷は娼婦ですら怯える者がいるほどです。
相手をしてくれる娼婦も恐る恐るフェリックスに触れ、事が終わればそそくさと部屋を出ていきます。
「白い結婚ならばこの体に怯えさせる事もないだろう」
フェリックスはせめて、怯える事がないようにしようと心に思います。
☆~☆~☆~☆
学園生の頃から女性にモテた試しが全くないイケてないメンズ。
顔面偏差値30と揶揄されるも、剣の腕はピカイチな上に広い領地を持つ侯爵領の嫡男とあれば財産狙いのご令嬢が仕掛けてきた事はあります。
学園に入った頃、学園でも3本の指に入る美女だと言われる伯爵家のご令嬢に頬を染められ告白をされた事はあります。
ありますが!!浮き立った気持ちはたった数時間で粉々に打ち砕かれます。
「上手くいきましたの?」
「えぇ。お顔は残念ですけれど、それ以上に将来性ですわ!遊んで暮らせますもの。閨は目を閉じていればよいですし、遠征の多い騎士になるでしょうから、色々と安泰ですわ」
「羨ましいですわぁ」
「オホホホ。結婚後は皆さまにも侯爵夫人開催の茶会の招待状を送りますわ」
偶々通りかかった会話を耳にした15歳の少年フェリックスの心中は如何ほどか。
☆~☆~☆~☆
ガラガラと足元の悪い道を抜けてやっと到着した屋敷ですが、馬車から降りるとなにやら様子がいつもと違います。
「どうしたというのだ?」
何の事だかサッパリと首を傾げる家令のスイフト。
そんな2人の元に、馬車を見つけた使用人が慌てて走って来ます。
「だ、旦那様!トルシア伯爵家より大量の品が届きまして…どうしましょう?」
2人が屋敷に入ると玄関のロビーに山と積まれた箱。
しかし、それだけではなく下ろしきれなかった荷がまだ荷馬車数十台あるといいます。
嫁入り道具がこんなにあるのか?と流石の家令スイフトも驚きますが、さらにそのスイフトを驚愕させたのは荷の全てが食料品や未使用の衣料品、高価な医療品である事です。
ううむと考え込むフェリックスに家令は青ざめて話しかけます。
「これを持参金の一つと言われると‥‥」
「どうしたというのだ?」
「慰謝料だけでは済まないかも知れませんよ!!旦那様っ!!」
1人の騎士が褒賞を受け取っています。
「此度の働き、誠に見事。これからは第二騎士団長として頼んだぞ」
「仰せのままに」
「それはそうと、過日の洪水被害、そなたの領の被害は大きかったと聞くがどうだ」
「お心を寄せて頂きありがとうございます。被害についての調査はこれからですが領民に対してはこれから対処するようにしております」
「そうか。領民も我が国の民だ。頼んだぞ」
「御意」
いい加減厳つい顔つきのフェリックスの表情は更に険しくなります。
謁見室を出て、家令のスイフトに目録を手渡し長い廊下を歩きます。
「屋敷の者には既に伝えております」
「ついに年貢の納め時という事か」
「先代様より家督を継がれもう8年で御座います。致し方ないかと」
馬車に乗り、腕を組んでこの先を思いやってか眉間に皺をよせ目を閉じています。
向かいの席では家令が窓の景色を眺め、無言のまま馬車は屋敷に向かって走ります。
揺れの少ない整備された道路を過ぎると舗装されていない道に入ります。
舌を噛みそうなほど揺れる馬車でも慣れたものです。微動だにしません。
「スイフト」
「はい。どうされましたか」
「白い結婚の慰謝料はどれくらいだろうか」
「白い結婚‥‥でございますか」
「あぁ、相手のご令嬢とて不満はあるだろう。清いままで離縁をすれば…」
「ですが、それでは旦那様が周りから何と言われるか」
「今までも男色だの、幼女趣味だのと言われたのだ。今更それに1つ2つ増えた所で気にするものでもあるまい」
「おおよそではありますが、2年は拘束する事になりますから…200~500万ミケ程かと」
「そうか、一応予定を組んでおいてくれ」
「ですが過日の洪水で今年の収入はほぼ見込めません。改修工事も必要でしょうから…慰謝料まで回せるかどうか」
フェリックス・ハイド・バルブン。27歳。
父である前侯爵が事故にて急逝した事により19歳でバルブン侯爵家の当主となりもう8年。
来月からは第二騎士団の団長として騎士をまとめ、国を守る役目が増えます。
「オパール・セナ・トルシア‥‥トルシア伯爵のご令嬢か…」
お相手の名前をポツリと呟きます。トルシア伯爵家は国土の南に領地のあるごく普通の伯爵家。
目だった功績も無ければ、問題になる事もない家です。
妻となる女性に告げる白い結婚という言葉がどれほどのものかは知っていますが、幾度もの討伐で体のあちこちにある傷は娼婦ですら怯える者がいるほどです。
相手をしてくれる娼婦も恐る恐るフェリックスに触れ、事が終わればそそくさと部屋を出ていきます。
「白い結婚ならばこの体に怯えさせる事もないだろう」
フェリックスはせめて、怯える事がないようにしようと心に思います。
☆~☆~☆~☆
学園生の頃から女性にモテた試しが全くないイケてないメンズ。
顔面偏差値30と揶揄されるも、剣の腕はピカイチな上に広い領地を持つ侯爵領の嫡男とあれば財産狙いのご令嬢が仕掛けてきた事はあります。
学園に入った頃、学園でも3本の指に入る美女だと言われる伯爵家のご令嬢に頬を染められ告白をされた事はあります。
ありますが!!浮き立った気持ちはたった数時間で粉々に打ち砕かれます。
「上手くいきましたの?」
「えぇ。お顔は残念ですけれど、それ以上に将来性ですわ!遊んで暮らせますもの。閨は目を閉じていればよいですし、遠征の多い騎士になるでしょうから、色々と安泰ですわ」
「羨ましいですわぁ」
「オホホホ。結婚後は皆さまにも侯爵夫人開催の茶会の招待状を送りますわ」
偶々通りかかった会話を耳にした15歳の少年フェリックスの心中は如何ほどか。
☆~☆~☆~☆
ガラガラと足元の悪い道を抜けてやっと到着した屋敷ですが、馬車から降りるとなにやら様子がいつもと違います。
「どうしたというのだ?」
何の事だかサッパリと首を傾げる家令のスイフト。
そんな2人の元に、馬車を見つけた使用人が慌てて走って来ます。
「だ、旦那様!トルシア伯爵家より大量の品が届きまして…どうしましょう?」
2人が屋敷に入ると玄関のロビーに山と積まれた箱。
しかし、それだけではなく下ろしきれなかった荷がまだ荷馬車数十台あるといいます。
嫁入り道具がこんなにあるのか?と流石の家令スイフトも驚きますが、さらにそのスイフトを驚愕させたのは荷の全てが食料品や未使用の衣料品、高価な医療品である事です。
ううむと考え込むフェリックスに家令は青ざめて話しかけます。
「これを持参金の一つと言われると‥‥」
「どうしたというのだ?」
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