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夫婦の愛
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あの日から5年の月日が経つ。
「シャロン。おはよう。今日も朝一番に君の顔が見られて幸せだ」
「まぁ、朝から何を言うのです。早く支度をしてくださいまし」
「ん~。ちょっと待って。こっちきて」
シャロンの腹にそっと手を添えて、耳を腹に近づける。
ぽこんとシャロンの腹の一部が動く。
「ウフフ、早く支度をしろと言ってますわ」
「いやいや、これは朝の挨拶なんだよ。賢い子だ」
そう言って愛しい妻のお腹にキスをする。
☆~☆~☆
あの後、シャロンは神殿の指定する調停の場に3回通ったが
その場にシリウスが現れることはなく、
シリウスとシャロンの婚姻関係はシャロンの申し立て通り
離縁となった。
「貴方にはテュールという名を授けましょう。
片腕しかなくとも、しっかりと愛を掴み、放さぬように」
シリウスはドレーユ侯爵より、テュールと新たに名を貰う。
聞けば軍神と同じ名前であるが、軍神からではなく、
聖獣フェンリルに右腕を取られ左腕しかなかったところだけを
推されて、この名になった。
領地の生まれだという事にして、正式な貴族としての登録を
離縁調停中に行い、侯爵家に養子となった。
離縁調停が成立すると、
すぐにドレーユ侯爵は養子としたテュール(旧名シリウス)と
シャロンの婚姻を伯爵家に申し込む。
死者の魂の影響で髪の色が変わり、片腕となっていたが
誤魔化す事はせず、シャロンの父である伯爵に全てを打ち明け
数発鉄拳を食らった。
メイドのリーナからは箒で数回叩かれてしまった。
婚姻後もしばらくは子が出来ず、30歳を目前に諦めかけていた時
シャロンの妊娠が判り、侯爵家も伯爵家も大騒ぎをした。
尚、伯爵家は養子のジャスティンが継いでおり既に2人子が産まれている。
「どうかな。今年は冷害で作物の出来が悪いと聞くね」
隠居したドレーユ公は執務室で書類と格闘する義息子に問う。
「小麦の収穫は昨年の7割にとどまりましたが、
サツマイモ、カボチャを併用で栽培しておりましたので
何とか昨年並みでおさまりそうです」
「そうですか。それは僥倖。で?今日はないのですか?」
「ないとは?何がです?」
「パタニティスクールです。あれは楽しい。ヒッヒフーでしたか」
立ち合い出産を望む夫をなんとかしてくれとシャロンに頼まれたドレーユ公。
夫であるテュール(旧名シリウス)に
一度一緒にと父親用のマタニティ教室に誘われ呼吸法などにドハマりしてしまった。
シャロンは思った。
ーーミイラ取りがミイラになってしまったわーー
当人であるシャロンを蚊帳の外に男2人は熱心である。
そんな会話をする2人の元にシャロンがメイドと共に
休憩だとお茶を運んでくる。
「あら?お義父様いらっしゃってましたのね」
「ほっほぅ。一段と大きくなりましたね。もうそろそろでしょうか」
「いやですわ。予定日はまだ来月ですのよ」
「もうそんなに。急ぎ名前を考えねばなりませんね」
「ダメですよ!名前は僕が考えています!この権利は渡しません!」
「もうおやめ下さいませ。さぁお茶にいたしましょう」
☆~☆~☆
一組の夫婦の離婚劇は国が他国に吸収されるという事態にまで発展したが
偏屈者と言われた一人の侯爵によって丸く収まった。
この国の国王と王弟は東の国で公開処刑となった。
追い出された2人の王子は平民となってすぐ犯罪で逮捕され
更生の見込みがないと犯罪奴隷にまで身を落とした。
彼らの妃だった元王太子妃は幼馴染の公爵と再婚し幸せな家庭を築いた。
元第二王子妃は東の国の皇子に一目惚れをされ、東の国に渡った。
共に夫婦仲も良く領民や国民に慕われている。
ニキティスは西の国でドレーユ侯爵の姉の元で生活をしている。
将来は騎士団の団長になるのだと、日々の鍛錬に余念がない。
表面上は人質であるが、他の王族となんら変わらぬ待遇の上に
ドレーユ侯爵の姉には時に厳しく時に溺愛をされ真っ直ぐ成長する。
「例外もありますが、大半の人間は2歳前後の記憶は封印されます。
何もなくなったこの子には運があったという事です。
小さな手に幸せを掴むまで、見守りましょう」
月に数回、様子を見に来るドレーユ侯爵は池のほとりに立つ。
懐中時計を胸ポケットから取り出す。
「人の時間はとても短い。永遠に時を刻む時計はなんと残酷な事か」
そっと手を離し、懐中時計は池の底に沈んでいく。
やり直すことを許された夫は、妻への一途な愛を隠すことをしない。
以前のように見栄を張る事もせず、些細な事でも妻と話し合う。
片腕となってしまったが、左腕だけでも十分すぎる愛を妻に注ぐ。
領地経営の傍らで、義手の制作もてがけた。
我慢をしすぎた妻は、我慢をほどほどにする事を覚えた。
侯爵として屋敷で仕事をするようになった夫。
夫の帰りを待つことはなくなったがお揃いのマグカップでコーヒを淹れるのを忘れない。
3人の男児にも恵まれ、生涯愛をささやき、仲良く過ごした。
~~Fin~~
「シャロン。おはよう。今日も朝一番に君の顔が見られて幸せだ」
「まぁ、朝から何を言うのです。早く支度をしてくださいまし」
「ん~。ちょっと待って。こっちきて」
シャロンの腹にそっと手を添えて、耳を腹に近づける。
ぽこんとシャロンの腹の一部が動く。
「ウフフ、早く支度をしろと言ってますわ」
「いやいや、これは朝の挨拶なんだよ。賢い子だ」
そう言って愛しい妻のお腹にキスをする。
☆~☆~☆
あの後、シャロンは神殿の指定する調停の場に3回通ったが
その場にシリウスが現れることはなく、
シリウスとシャロンの婚姻関係はシャロンの申し立て通り
離縁となった。
「貴方にはテュールという名を授けましょう。
片腕しかなくとも、しっかりと愛を掴み、放さぬように」
シリウスはドレーユ侯爵より、テュールと新たに名を貰う。
聞けば軍神と同じ名前であるが、軍神からではなく、
聖獣フェンリルに右腕を取られ左腕しかなかったところだけを
推されて、この名になった。
領地の生まれだという事にして、正式な貴族としての登録を
離縁調停中に行い、侯爵家に養子となった。
離縁調停が成立すると、
すぐにドレーユ侯爵は養子としたテュール(旧名シリウス)と
シャロンの婚姻を伯爵家に申し込む。
死者の魂の影響で髪の色が変わり、片腕となっていたが
誤魔化す事はせず、シャロンの父である伯爵に全てを打ち明け
数発鉄拳を食らった。
メイドのリーナからは箒で数回叩かれてしまった。
婚姻後もしばらくは子が出来ず、30歳を目前に諦めかけていた時
シャロンの妊娠が判り、侯爵家も伯爵家も大騒ぎをした。
尚、伯爵家は養子のジャスティンが継いでおり既に2人子が産まれている。
「どうかな。今年は冷害で作物の出来が悪いと聞くね」
隠居したドレーユ公は執務室で書類と格闘する義息子に問う。
「小麦の収穫は昨年の7割にとどまりましたが、
サツマイモ、カボチャを併用で栽培しておりましたので
何とか昨年並みでおさまりそうです」
「そうですか。それは僥倖。で?今日はないのですか?」
「ないとは?何がです?」
「パタニティスクールです。あれは楽しい。ヒッヒフーでしたか」
立ち合い出産を望む夫をなんとかしてくれとシャロンに頼まれたドレーユ公。
夫であるテュール(旧名シリウス)に
一度一緒にと父親用のマタニティ教室に誘われ呼吸法などにドハマりしてしまった。
シャロンは思った。
ーーミイラ取りがミイラになってしまったわーー
当人であるシャロンを蚊帳の外に男2人は熱心である。
そんな会話をする2人の元にシャロンがメイドと共に
休憩だとお茶を運んでくる。
「あら?お義父様いらっしゃってましたのね」
「ほっほぅ。一段と大きくなりましたね。もうそろそろでしょうか」
「いやですわ。予定日はまだ来月ですのよ」
「もうそんなに。急ぎ名前を考えねばなりませんね」
「ダメですよ!名前は僕が考えています!この権利は渡しません!」
「もうおやめ下さいませ。さぁお茶にいたしましょう」
☆~☆~☆
一組の夫婦の離婚劇は国が他国に吸収されるという事態にまで発展したが
偏屈者と言われた一人の侯爵によって丸く収まった。
この国の国王と王弟は東の国で公開処刑となった。
追い出された2人の王子は平民となってすぐ犯罪で逮捕され
更生の見込みがないと犯罪奴隷にまで身を落とした。
彼らの妃だった元王太子妃は幼馴染の公爵と再婚し幸せな家庭を築いた。
元第二王子妃は東の国の皇子に一目惚れをされ、東の国に渡った。
共に夫婦仲も良く領民や国民に慕われている。
ニキティスは西の国でドレーユ侯爵の姉の元で生活をしている。
将来は騎士団の団長になるのだと、日々の鍛錬に余念がない。
表面上は人質であるが、他の王族となんら変わらぬ待遇の上に
ドレーユ侯爵の姉には時に厳しく時に溺愛をされ真っ直ぐ成長する。
「例外もありますが、大半の人間は2歳前後の記憶は封印されます。
何もなくなったこの子には運があったという事です。
小さな手に幸せを掴むまで、見守りましょう」
月に数回、様子を見に来るドレーユ侯爵は池のほとりに立つ。
懐中時計を胸ポケットから取り出す。
「人の時間はとても短い。永遠に時を刻む時計はなんと残酷な事か」
そっと手を離し、懐中時計は池の底に沈んでいく。
やり直すことを許された夫は、妻への一途な愛を隠すことをしない。
以前のように見栄を張る事もせず、些細な事でも妻と話し合う。
片腕となってしまったが、左腕だけでも十分すぎる愛を妻に注ぐ。
領地経営の傍らで、義手の制作もてがけた。
我慢をしすぎた妻は、我慢をほどほどにする事を覚えた。
侯爵として屋敷で仕事をするようになった夫。
夫の帰りを待つことはなくなったがお揃いのマグカップでコーヒを淹れるのを忘れない。
3人の男児にも恵まれ、生涯愛をささやき、仲良く過ごした。
~~Fin~~
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