旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru

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手段がわからない

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「困りましたね…」

そういうとドレーユ侯爵は宝石を2つ手に取ると、席を立ち
シャロンの隣に行き、シャロンの手に2つの宝石を握らせた。

「落ち着きなさい。もう逃げてはいけない」

逃げる。その言葉にシャロンはハっとした。
勇気を振り絞ってシリウスに言ったけれど、
先延ばしにされたと思い、心の中にある愛が砕け散った。
そして愛を育んだ家を後にして伯爵家に戻った。
勢いに任せて神殿に離縁の調停手続きをした。

だが、日を追うごとに砕けた愛の欠片を集める自分がいた。
そして、妖精になるというシリウス。
その肉体も日を追うごとに消えていく。
何も出来ず気持ちだけがもがき続ける。

「わたくしは…どうすれば…」

ドレーユ侯爵はやっとシャロンの目と目線があった事を確認すると
シャロンに石を握らせた甲を優しく叩く。

「先ず、揺らぎは最後に大きくなり、
彼の全身ほどの大きさで光を放ちます。
それは彼の魂が抜けきる瞬間を意味します」

「妖精と…なるとき?」

「えぇ。そうです。そこで貴女は光が消えるその瞬間を待って
女神の涙に妖精を誘導し取り込むのです」

「でも、シリウスは死んでしまうっ!」

「まぁ、聞きなさい。女神の涙に妖精を取り込んだら、
おそらくは手に持てないほどの熱を発するでしょう。
ですが手放してはいけません。死者の魂を同化させるのです」

「そんなっ、どうやって!方法など知りませんっ!」

「貴女は本当にせっかちで困ったひとだ。今は聞きなさい。
死者の魂に同化をさせたら、屍となった彼に魂を戻すのです」

「判りませんっ判りませんっ!わたくしには出来ませんっ」

「貴女になら、いえ、貴女にしか出来ません。
方法は教えました。手段は貴女は知っている筈です」

「でも‥‥判らないんです。知らないのですぅぅぅ…うう”っ…」

ドレーユ侯爵はシャロンの手を離すと、後ろから優しくシャロンを抱く。
後ろから耳元で囁く。

「貴女は、愛と死の女神であるフーレィリヤの加護を持つ。
そして、彼、シリウス氏は戦士の神であるオディーンが
加護を与えている。
戦士の神オディーンはとても気まぐれ
命を賭けて子羊を救う彼をオディーン神は気に入っている。
本来オディーン神はフーレィリヤ神の盾となる神。
必ず貴女を守り、助けてくれるでしょう」

「出来ますか?‥‥わたくしに…」

「えぇ。貴女にしか出来ません。
光が消える時、女神の涙に妖精を取り込みなさい」

「はい…」

「持てない程、熱くなっても放してはいけません。
なぜなら、その熱は彼の貴女への愛だからです」

「わたくしへの愛?」

「えぇ。燃え盛るような愛を手放してはいけません。
そして死者の魂にその愛を同化させなさい」

「死者の魂を同化‥‥させる…」

「同化させた死者の魂を彼に戻すのです」

小さく震えるシャロン。手に握らされた石を見つめる。
「まだ、手段が判りません…」

ドレーユ侯爵は後ろから抱いていた手をほどき、
シャロンを椅子から立たせる。

「もう時間のようです。行きましょう」

「そんなっ…ど、どうしたら…あぁ、もっと早くに知っていれば」

「それは無理でしょう」

「何故ですか」

「人が人を愛する事に理由があるかどうか。
それとおなじくらい先に知る事には意味がないのです。
その時、貴女がどうするのか。それが手段なのですよ」

ドレーユ侯爵はシャロンを伴ってシリウスのいる部屋に向かった。
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