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侯爵の企み
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2つの宝石である。女神の涙と死者の魂。
相反する2つの宝石をケースにしまい込むとドレーユ侯爵は
国王に念押しをするように言葉を向ける。
「ニキティスについては明日、共に登城を致しますが
まだ3歳にもならぬ子供です。
人恋しさで泣くこともあるでしょう。しばらくの間は
様々な事情を鑑み、ドレーユ侯爵家は全力で助力させて頂きます。
それがニキティスについて2つの秘宝以外の魔法契約解除の条件です」
「うむ。当然だ。元々そなたの養子にという事であったから
父親という立場での言葉として条件解除の1つと考えて然るべきだ」
「譲歩頂きありがとうございます」
「だが、刻印がまだ消えておらぬ。どういう事だ」
国王は自分の胸の刻印がニキティスについての魔法契約が
解除となったはずなのに消えない事に納得が出来ない。
「魔法契約をしたのは2つ…でございますよ。陛下」
ドレーユ侯爵は心の中で少しだけ国王を褒めたが、
それはほんの少しだけ。
これが2人の愚息であったなら気が付きもしない刻印に
今の段階で気が付いた国王を少しだけ褒めたのだ。
だが、ドレーユ侯爵とのやりとりで国王は落とされる。
「契約が2つ…あぁ、隣国との交渉であったな」
「えぇ。東西2つの国との交渉は
わたくしが名代となり調整を取るという契約でございます。
この2国間でのわたくしの言葉は陛下の言葉となりますので
魔法契約を結んだ次第」
「そうだな。で、こちらは何が望みだ?」
「何が望み?…と申されますと?」
「いや、ニキティスについては女神の涙と死者の魂であろう?
こちらの報酬は何が望みかと聞いておるのだ」
ドレーユ侯爵は、【カエルの子は所詮カエルの子】だと
心で呟く。
「陛下、わたくしは報酬も褒美も頂いておりませんよ」
「ん?しかし女神の涙と死者の魂の宝石は褒美であろう?」
「いいえ?もともと魔法契約の代償は命だったのです。
しかし、命の代わりにその2つの宝石をニキティスの件で引き換えたのです。
陛下の命を形にしただけです。わたくしは約束を違えようとも
反故にしようともしておりません。言い出したのは…陛下。あなたです」
「そ、そうか。儂の命の代償が1000年受け継がれた秘宝2つか」
「そうです」
「ドレーユ侯爵、そなたは何の褒美も無心せずに
ニキティスの事も、2国との調整も引き受ける・・というのか?」
「えぇ。そうです。ニキティスの事は解決致しました。
無事、あるべきところ、陛下の血を引く子が王族になったので
わたくしも喜んでおります次第」
「して、西のプセン要塞と東のルーペ要塞はどのように取り返すのだ」
ドレーユ侯爵は表情を変えず遂に国王に引導を渡す時が来たと
ほくそ笑んだ。
「取り返す?そのような無粋な真似は致しません」
「なっ?なんと?では取られたままではないか!」
国王の言葉と一緒に吐き出されるツバを
距離を取って退ける。
「取られたから取り返す。なんとも愚かな行為です。
取られて困るのならきちんと事前に対策をするべきです」
「では、どうすると言うのだ!」
「簡単な事です。腐りきったこの国を2つに分けて
西の国と東の国に進呈するのです。一般の民を守るために」
「は?はぁぁぁ?何を言ってるのだ?頭に蛆でもわいたのか?
それでは国がなくなるではないか!」
「いいえ?蛆がわいているのは陛下では?
貴族とは民を守るためにその地位があるのです。
民を守らずして貴族は成り立たない、それは国も同義。
むしろこんな国を半分ででも民と引き換えにしてくれるであろう
両国には頭が下がる思いでございます」
「き、貴様‥‥誰か!こやつを捕らえよ!首を叩き落せ!」
その言葉にドレーユ侯爵は背にしたマントを
大きく広げる。
「よろしいのですか?東西の国との調整はわたくしが名代。
そしてその代償は命。魔法契約をもうお忘れですか?
それでも、わたくしを捕らえ、調整もせぬまま首を刎ねると
仰るのなら、それはそれで面白いショーが見られますねぇ」
騎士たちがドレーユ侯爵に剣を向けたが、
国王は慌ててそれを解除する。魔法契約の刻印がジワリと温かくなった。
ーーこの男、本気だーー
国王とて人間。命は惜しい。
拳を固く握り、ワナワナと全身を振るわせる。
「そ、その者に…ドレーユ侯爵に手を出すな。
下がって‥‥よい…」
「フフフ。ご理解いただけて大変に僥倖」
クルリと背を向けて今度こそ退室しようとするドレーユ侯爵に
国王は力なく問うた。
「儂は‥‥どうなるのだ」
ドレーユ侯爵は国王を振り返り、口元に笑いを浮かべ
努めて優しい声で諭すように耳元で囁いた。
「貴方は東の国へ、ニキティスは西の国へお出かけ頂きます」
「それは‥‥人質…という事か‥‥」
「いいえ?」
「違う?国賓という事か?」
「何を仰っているのです。人質はその価値があるから取られるのです。
貴方にその価値はない。王弟と一緒に首を並べてもらうのですよ。
ニキティスは姉を通じて教育をして頂きます。
言いましたよね?3歳にもならないのでしばらくはドレーユ侯爵家が
助力すると♪」
そう言うと、本当に今度こそドレーユ侯爵は退室した。
残された国王は、王座から転げ落ち起き上がれなかった。
相反する2つの宝石をケースにしまい込むとドレーユ侯爵は
国王に念押しをするように言葉を向ける。
「ニキティスについては明日、共に登城を致しますが
まだ3歳にもならぬ子供です。
人恋しさで泣くこともあるでしょう。しばらくの間は
様々な事情を鑑み、ドレーユ侯爵家は全力で助力させて頂きます。
それがニキティスについて2つの秘宝以外の魔法契約解除の条件です」
「うむ。当然だ。元々そなたの養子にという事であったから
父親という立場での言葉として条件解除の1つと考えて然るべきだ」
「譲歩頂きありがとうございます」
「だが、刻印がまだ消えておらぬ。どういう事だ」
国王は自分の胸の刻印がニキティスについての魔法契約が
解除となったはずなのに消えない事に納得が出来ない。
「魔法契約をしたのは2つ…でございますよ。陛下」
ドレーユ侯爵は心の中で少しだけ国王を褒めたが、
それはほんの少しだけ。
これが2人の愚息であったなら気が付きもしない刻印に
今の段階で気が付いた国王を少しだけ褒めたのだ。
だが、ドレーユ侯爵とのやりとりで国王は落とされる。
「契約が2つ…あぁ、隣国との交渉であったな」
「えぇ。東西2つの国との交渉は
わたくしが名代となり調整を取るという契約でございます。
この2国間でのわたくしの言葉は陛下の言葉となりますので
魔法契約を結んだ次第」
「そうだな。で、こちらは何が望みだ?」
「何が望み?…と申されますと?」
「いや、ニキティスについては女神の涙と死者の魂であろう?
こちらの報酬は何が望みかと聞いておるのだ」
ドレーユ侯爵は、【カエルの子は所詮カエルの子】だと
心で呟く。
「陛下、わたくしは報酬も褒美も頂いておりませんよ」
「ん?しかし女神の涙と死者の魂の宝石は褒美であろう?」
「いいえ?もともと魔法契約の代償は命だったのです。
しかし、命の代わりにその2つの宝石をニキティスの件で引き換えたのです。
陛下の命を形にしただけです。わたくしは約束を違えようとも
反故にしようともしておりません。言い出したのは…陛下。あなたです」
「そ、そうか。儂の命の代償が1000年受け継がれた秘宝2つか」
「そうです」
「ドレーユ侯爵、そなたは何の褒美も無心せずに
ニキティスの事も、2国との調整も引き受ける・・というのか?」
「えぇ。そうです。ニキティスの事は解決致しました。
無事、あるべきところ、陛下の血を引く子が王族になったので
わたくしも喜んでおります次第」
「して、西のプセン要塞と東のルーペ要塞はどのように取り返すのだ」
ドレーユ侯爵は表情を変えず遂に国王に引導を渡す時が来たと
ほくそ笑んだ。
「取り返す?そのような無粋な真似は致しません」
「なっ?なんと?では取られたままではないか!」
国王の言葉と一緒に吐き出されるツバを
距離を取って退ける。
「取られたから取り返す。なんとも愚かな行為です。
取られて困るのならきちんと事前に対策をするべきです」
「では、どうすると言うのだ!」
「簡単な事です。腐りきったこの国を2つに分けて
西の国と東の国に進呈するのです。一般の民を守るために」
「は?はぁぁぁ?何を言ってるのだ?頭に蛆でもわいたのか?
それでは国がなくなるではないか!」
「いいえ?蛆がわいているのは陛下では?
貴族とは民を守るためにその地位があるのです。
民を守らずして貴族は成り立たない、それは国も同義。
むしろこんな国を半分ででも民と引き換えにしてくれるであろう
両国には頭が下がる思いでございます」
「き、貴様‥‥誰か!こやつを捕らえよ!首を叩き落せ!」
その言葉にドレーユ侯爵は背にしたマントを
大きく広げる。
「よろしいのですか?東西の国との調整はわたくしが名代。
そしてその代償は命。魔法契約をもうお忘れですか?
それでも、わたくしを捕らえ、調整もせぬまま首を刎ねると
仰るのなら、それはそれで面白いショーが見られますねぇ」
騎士たちがドレーユ侯爵に剣を向けたが、
国王は慌ててそれを解除する。魔法契約の刻印がジワリと温かくなった。
ーーこの男、本気だーー
国王とて人間。命は惜しい。
拳を固く握り、ワナワナと全身を振るわせる。
「そ、その者に…ドレーユ侯爵に手を出すな。
下がって‥‥よい…」
「フフフ。ご理解いただけて大変に僥倖」
クルリと背を向けて今度こそ退室しようとするドレーユ侯爵に
国王は力なく問うた。
「儂は‥‥どうなるのだ」
ドレーユ侯爵は国王を振り返り、口元に笑いを浮かべ
努めて優しい声で諭すように耳元で囁いた。
「貴方は東の国へ、ニキティスは西の国へお出かけ頂きます」
「それは‥‥人質…という事か‥‥」
「いいえ?」
「違う?国賓という事か?」
「何を仰っているのです。人質はその価値があるから取られるのです。
貴方にその価値はない。王弟と一緒に首を並べてもらうのですよ。
ニキティスは姉を通じて教育をして頂きます。
言いましたよね?3歳にもならないのでしばらくはドレーユ侯爵家が
助力すると♪」
そう言うと、本当に今度こそドレーユ侯爵は退室した。
残された国王は、王座から転げ落ち起き上がれなかった。
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