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動き出す断罪劇②
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城では、突然の知らせに文官が手続きを急ぐ。
内容が把握できない王太子は1人の文官を捕まえる。
「何をバタバタしておるのだ」
朝から王太子妃が王女と共に急ぎ公爵家に出向く事を
聞かされると、王太子妃の部屋に向かう。
「何があった。突然に実家に戻るなど!」
王太子は内心焦っていた。王女が生まれてから産後の肥立ちが悪い
妻である王太子妃に夫婦生活を拒まれて、もう2年を数える。
その間、王宮が用意した女性で済ませていれば良かったものの
こっそりと夜会で踊った令嬢と楽しんでしまった後は、
見つからなければ大丈夫とばかりに、また遊びに励むようになっていた。
妻の実家に王宮の用意した女性以外の関係が知られれば
大ごとになるとは気が付いていたが、見つかれば終わりという
危機感を持った情事は王太子の心を刺激した。
ーーまさか、気が付いたのか?と、すればマズイぞーー
内心焦る王太子に、王太子妃は涼し気に言う。
「おや、大おばあ様の具合が良くないと言うのは
以前にも伝えておりましたが、お忘れですの」
その話をしたのは王女が生まれる少し前だったので
王太子妃はここで話の矛盾に気が付くのであれば
実家に戻るのは延期しようと考えていた。しかし
【そう言えば聞いた気がする】としか記憶にない王太子は
「そ、そうであったな。もうよいお歳なのだ。大事にされよと
私からの伝言を伝えて欲しい。気を付けて行かれるがよい」
王太子妃は口元に扇を広げ、呆れと諦め、侮蔑を口元に浮かべて
王太子に礼をした。
王太子妃は実家に戻り、父親である公爵からソティスの件を聞かされる。
二度と城に戻ることはないと1週間後、離縁と離籍、そして再婚承認を
提出し、混乱を極めていた中で容認される。
☆~☆~☆
第二王子妃は王太子妃に遅れる事3日。
流感が平民街で流行り出したとヒソヒソ囁かれる頃に
父である侯爵が馬から落馬し、重症であると知らせを受けた。
「義父上が重症と聞く。そなたは先に実家に行き見舞ってやるがよい」
第二王子のほうから、妃に実家に行けとの指示を受けて
婚姻の際に一緒に登城した従者と共に侯爵家に戻った。
父の寝所に急ぎ向かい、包帯に巻かれた父に縋りつき泣く妃。
第二王子付きの執事は妃の狂わんばかりの様子をみて城に戻った。
城から付いてきた従者が帰っていくと、
先程まで重症だったはずの侯爵が、大きく背伸びをしてベッドから下りる。
使用人に包帯を外してもらうと、打撲どころかかすり傷一つない父に
第二王子妃は口を鯉のようにパクパクさせて腰を抜かした。
「お、お父様…お怪我は?お怪我をされたのでは?」
驚く娘を侯爵家の使用人と共に、大きな拍手でさらに驚かせる。
「一芝居打たせてもらったのだ。ケガなどしておらぬ」
「で、では、なぜにこのような事を!!
見つかれば斬首ではすみませんよ」
騙されたと憤る娘に、報告書の束を見せる。
パラパラとページをめくる毎に第二王子妃の顔は怒りに変わる。
報告書は冒頭から自分の妊娠中、そして幼くして天に召された
我が子が生まれてから、そして今この時までの間、
3日と開けず女性を閨に連れ込んだ夫である第二王子の報告書であった。
ーーこの程度、織り込み済ですわ。お父様ーー
そう腹の中で思いつつ最後の報告書を見て、テーブルに投げつける。
最期の報告書に書かれていたのはソティスの事であった。
ーー子種を出しておいて、放りっぱなしの上、
他人を使って幼子を亡き者にしようとは、外道の極みーー
実際、第二王子はソティスの事は知りもしないし、
カリナの存在すら記憶にあるかどうかも怪しい所であるが
王家の血を引くと明らかに判る幼子を手にかけたという事実は
たとえ主犯が第二王子でなくても妃の心を鬼にするには十分である。
不貞は許されない事ではあるが、放蕩者と結婚せざるを得なかった
貴族の令嬢としての揺るぎない心得は、
遊んでも他で子を作らないのならと飲み込むものはあった。
少なくとも第二王子妃は子を失い、
その辛さを身をもって知っているだけに【許し】という
選択肢は消えてしまった。
その日のうちに侯爵家は離縁と離籍の書類を作成し、
王太子妃の家である公爵家と示し合わせるかのように
ごたつく中で書類を提出し、国王、王子は気が付かないまま
書類を承認した。
☆~☆~☆
ドレーユ侯爵は、王宮内に忍ばせている使者の報告を聞きながら
蜂蜜をたっぷり入れた薄いミルクティを一口飲む。
【妻の三行半にも気が付かぬとは、なんと愚かな】
そう言って、王弟の屋敷の方向にある窓を見て薄笑いを浮かべた。
内容が把握できない王太子は1人の文官を捕まえる。
「何をバタバタしておるのだ」
朝から王太子妃が王女と共に急ぎ公爵家に出向く事を
聞かされると、王太子妃の部屋に向かう。
「何があった。突然に実家に戻るなど!」
王太子は内心焦っていた。王女が生まれてから産後の肥立ちが悪い
妻である王太子妃に夫婦生活を拒まれて、もう2年を数える。
その間、王宮が用意した女性で済ませていれば良かったものの
こっそりと夜会で踊った令嬢と楽しんでしまった後は、
見つからなければ大丈夫とばかりに、また遊びに励むようになっていた。
妻の実家に王宮の用意した女性以外の関係が知られれば
大ごとになるとは気が付いていたが、見つかれば終わりという
危機感を持った情事は王太子の心を刺激した。
ーーまさか、気が付いたのか?と、すればマズイぞーー
内心焦る王太子に、王太子妃は涼し気に言う。
「おや、大おばあ様の具合が良くないと言うのは
以前にも伝えておりましたが、お忘れですの」
その話をしたのは王女が生まれる少し前だったので
王太子妃はここで話の矛盾に気が付くのであれば
実家に戻るのは延期しようと考えていた。しかし
【そう言えば聞いた気がする】としか記憶にない王太子は
「そ、そうであったな。もうよいお歳なのだ。大事にされよと
私からの伝言を伝えて欲しい。気を付けて行かれるがよい」
王太子妃は口元に扇を広げ、呆れと諦め、侮蔑を口元に浮かべて
王太子に礼をした。
王太子妃は実家に戻り、父親である公爵からソティスの件を聞かされる。
二度と城に戻ることはないと1週間後、離縁と離籍、そして再婚承認を
提出し、混乱を極めていた中で容認される。
☆~☆~☆
第二王子妃は王太子妃に遅れる事3日。
流感が平民街で流行り出したとヒソヒソ囁かれる頃に
父である侯爵が馬から落馬し、重症であると知らせを受けた。
「義父上が重症と聞く。そなたは先に実家に行き見舞ってやるがよい」
第二王子のほうから、妃に実家に行けとの指示を受けて
婚姻の際に一緒に登城した従者と共に侯爵家に戻った。
父の寝所に急ぎ向かい、包帯に巻かれた父に縋りつき泣く妃。
第二王子付きの執事は妃の狂わんばかりの様子をみて城に戻った。
城から付いてきた従者が帰っていくと、
先程まで重症だったはずの侯爵が、大きく背伸びをしてベッドから下りる。
使用人に包帯を外してもらうと、打撲どころかかすり傷一つない父に
第二王子妃は口を鯉のようにパクパクさせて腰を抜かした。
「お、お父様…お怪我は?お怪我をされたのでは?」
驚く娘を侯爵家の使用人と共に、大きな拍手でさらに驚かせる。
「一芝居打たせてもらったのだ。ケガなどしておらぬ」
「で、では、なぜにこのような事を!!
見つかれば斬首ではすみませんよ」
騙されたと憤る娘に、報告書の束を見せる。
パラパラとページをめくる毎に第二王子妃の顔は怒りに変わる。
報告書は冒頭から自分の妊娠中、そして幼くして天に召された
我が子が生まれてから、そして今この時までの間、
3日と開けず女性を閨に連れ込んだ夫である第二王子の報告書であった。
ーーこの程度、織り込み済ですわ。お父様ーー
そう腹の中で思いつつ最後の報告書を見て、テーブルに投げつける。
最期の報告書に書かれていたのはソティスの事であった。
ーー子種を出しておいて、放りっぱなしの上、
他人を使って幼子を亡き者にしようとは、外道の極みーー
実際、第二王子はソティスの事は知りもしないし、
カリナの存在すら記憶にあるかどうかも怪しい所であるが
王家の血を引くと明らかに判る幼子を手にかけたという事実は
たとえ主犯が第二王子でなくても妃の心を鬼にするには十分である。
不貞は許されない事ではあるが、放蕩者と結婚せざるを得なかった
貴族の令嬢としての揺るぎない心得は、
遊んでも他で子を作らないのならと飲み込むものはあった。
少なくとも第二王子妃は子を失い、
その辛さを身をもって知っているだけに【許し】という
選択肢は消えてしまった。
その日のうちに侯爵家は離縁と離籍の書類を作成し、
王太子妃の家である公爵家と示し合わせるかのように
ごたつく中で書類を提出し、国王、王子は気が付かないまま
書類を承認した。
☆~☆~☆
ドレーユ侯爵は、王宮内に忍ばせている使者の報告を聞きながら
蜂蜜をたっぷり入れた薄いミルクティを一口飲む。
【妻の三行半にも気が付かぬとは、なんと愚かな】
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