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侯爵の優雅な遊び
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ドレーユ侯爵はシャロンを見送った後、
執事のヒンギスを執務室へ呼び出し、予め認めておいた書簡を
微笑を添えて5通手渡す。
1通は領地に引きこもる第三王子宛である。
「国王や王太子、第二王子には知らせないのですか?」
「国王?ヒンギス違いますよ。酷王ですよ。
それに文字も碌に読めないのに腰だけは立派に振る2人の愚息に
知らせて何の得があると言うのです。
動いて頂くのは第三王子だけで十分です」
「し、しかし引きこもって、子を見せるに城へも登城しないのですよ」
「お上りさんになって頂く必要はありませんよ。
必要な駒は手中にあります。適材適所です」
2通目、3通目は王太子殿下、第二王子殿下の妻たちの
父もしくは母宛である。
爵位の権利を持っている方に手紙を送るようだ。
それぞれ公爵家と侯爵家ではあるが、ドレーユ侯爵は
母親が前王の姉であり、王太子妃は従兄妹の立場にある。
第二王子妃は、王子妃の母とドレーユ侯爵の父は従姉弟同士である。
高位貴族であるがゆえにどこかに繫がりがあり、
王族は代を重ねるごとに血が濃くなっていく。
実のところ、王太子妃も第二王子妃も夫婦仲は良いとは言えない。
婚約中から不貞を繰り返し、特に王太子妃は懐妊の発表こそ
婚姻の儀の数か月後であったが、婚姻の前には既に妊娠をしていた。
望んだ妊娠ではなかったと言えばその過程は想像に容易い。
第二王子妃とて同じだとなるとそれはもう王家特有の病気である。
そういう事情もあり、特に産後の肥立ちの良くない王太子妃は
実家である公爵家が内々で側妃を召し上げた時点で、
離宮に移り王籍の離脱をする時期を狙っていた。
第二王子妃の侯爵家は子が身罷った時に一度離籍を目論んだ。
しかしどちらとも、王太子、第二王子の側妃となりたい家が
首を縦に振らず、どちらの妃もまだ年若いゆえに男児を期待すると
横並びの回答を王家に伝えていた。
「まさに弊害というに相応しい、愚王と愚息共ですねぇ」
「まことに」
4通目、5通目はそれぞれこの国の東西にある隣国の王宛である。
西の国はドレーユ侯爵の姉が嫁ぎ、皇后となっている。
東の国は姻戚関係はないものの、昨年国王が息子に交代をした。
両国とも貿易に大きな不満を持っており軍備の増強を密かに行っている。
「すこし突けば直ぐに判る事なのに、何の手も打たぬとは。
王弟も宰相も使い物にならない輩の首を並べているとは愚かな事です」
「確かに。宰相については東の国に通じているという話もございますが」
「それは前王時代の遺産。負の遺産とも言いますねぇ。
父親のお友達が、その息子とも手を組むような時代ではないのです」
手紙をヒンギスに渡し終えると、ドレーユ侯爵は引き出しから
鍵を1つ取り出し、指の間をくるくると潜らせる。
「私は、東の塔にいます。何かあれば連絡をしなさい」
「またですか」
「えぇ。とても優秀ですよ。もう読み書きは覚えたようですしね」
「シャロン様はご存じないのでしょう?」
「彼女は純粋ですね。疑う心を持たない女神フーレィリヤ。
いえ、それゆえに私は彼女の手のひらで踊る事を楽しんでいる」
「旦那様、いったい何をしようとしているのです」
「パズルですよ。ピースを嵌めていくパズル。
外枠から攻めるもよし、部分的に嵌めていくも良しです」
鍵を指で弄びながらドレーユ侯爵は部屋から出て東の塔に向かう。
ヒンギスは胸に手をあて、礼をして見送った。
執事のヒンギスを執務室へ呼び出し、予め認めておいた書簡を
微笑を添えて5通手渡す。
1通は領地に引きこもる第三王子宛である。
「国王や王太子、第二王子には知らせないのですか?」
「国王?ヒンギス違いますよ。酷王ですよ。
それに文字も碌に読めないのに腰だけは立派に振る2人の愚息に
知らせて何の得があると言うのです。
動いて頂くのは第三王子だけで十分です」
「し、しかし引きこもって、子を見せるに城へも登城しないのですよ」
「お上りさんになって頂く必要はありませんよ。
必要な駒は手中にあります。適材適所です」
2通目、3通目は王太子殿下、第二王子殿下の妻たちの
父もしくは母宛である。
爵位の権利を持っている方に手紙を送るようだ。
それぞれ公爵家と侯爵家ではあるが、ドレーユ侯爵は
母親が前王の姉であり、王太子妃は従兄妹の立場にある。
第二王子妃は、王子妃の母とドレーユ侯爵の父は従姉弟同士である。
高位貴族であるがゆえにどこかに繫がりがあり、
王族は代を重ねるごとに血が濃くなっていく。
実のところ、王太子妃も第二王子妃も夫婦仲は良いとは言えない。
婚約中から不貞を繰り返し、特に王太子妃は懐妊の発表こそ
婚姻の儀の数か月後であったが、婚姻の前には既に妊娠をしていた。
望んだ妊娠ではなかったと言えばその過程は想像に容易い。
第二王子妃とて同じだとなるとそれはもう王家特有の病気である。
そういう事情もあり、特に産後の肥立ちの良くない王太子妃は
実家である公爵家が内々で側妃を召し上げた時点で、
離宮に移り王籍の離脱をする時期を狙っていた。
第二王子妃の侯爵家は子が身罷った時に一度離籍を目論んだ。
しかしどちらとも、王太子、第二王子の側妃となりたい家が
首を縦に振らず、どちらの妃もまだ年若いゆえに男児を期待すると
横並びの回答を王家に伝えていた。
「まさに弊害というに相応しい、愚王と愚息共ですねぇ」
「まことに」
4通目、5通目はそれぞれこの国の東西にある隣国の王宛である。
西の国はドレーユ侯爵の姉が嫁ぎ、皇后となっている。
東の国は姻戚関係はないものの、昨年国王が息子に交代をした。
両国とも貿易に大きな不満を持っており軍備の増強を密かに行っている。
「すこし突けば直ぐに判る事なのに、何の手も打たぬとは。
王弟も宰相も使い物にならない輩の首を並べているとは愚かな事です」
「確かに。宰相については東の国に通じているという話もございますが」
「それは前王時代の遺産。負の遺産とも言いますねぇ。
父親のお友達が、その息子とも手を組むような時代ではないのです」
手紙をヒンギスに渡し終えると、ドレーユ侯爵は引き出しから
鍵を1つ取り出し、指の間をくるくると潜らせる。
「私は、東の塔にいます。何かあれば連絡をしなさい」
「またですか」
「えぇ。とても優秀ですよ。もう読み書きは覚えたようですしね」
「シャロン様はご存じないのでしょう?」
「彼女は純粋ですね。疑う心を持たない女神フーレィリヤ。
いえ、それゆえに私は彼女の手のひらで踊る事を楽しんでいる」
「旦那様、いったい何をしようとしているのです」
「パズルですよ。ピースを嵌めていくパズル。
外枠から攻めるもよし、部分的に嵌めていくも良しです」
鍵を指で弄びながらドレーユ侯爵は部屋から出て東の塔に向かう。
ヒンギスは胸に手をあて、礼をして見送った。
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