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主のいない部屋
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翌朝、出てこないカリナを娼婦仲間が心配して家に来る。
「また男の所にシケこんでんじゃないのかい?」
「いや、最近金がないって言ってたんだよ」
「へぇ。その割にはここんとこは客を取らなかったねぇ」
「だからだよ。酒でも飲んで死んでるじゃないかと思って」
ドアの前から何度呼び掛けても返事がない。
それにいつも客を取らない日は酒を飲んでいるので
腹を空かせたソティスが泣いているのが日常だった。
そのソティスの鳴き声も聞こえない。
「まさか…子供を手にかけたんじゃないだろうねッ!」
1人の娼婦がドアノブを回すと、鍵がかかっておらず
ドアがすんなりと開く。
「カリナ!カリナ!いるんだろ!」
名前を呼びながら部屋に入るも、どの部屋にもいない。
娼婦の1人はカリナの宝石箱をあけて装飾品を値踏みする。
「へぇ。金がないって割にはイイ物持ってんだね」
「やめなっ!同業者の持ち物に手ぇ出すんじゃないよ」
「はいはい。わかりましたー」
宝石箱をパタンと閉める。
一緒になって全ての部屋を見るがカリナもソティスもいない。
「どこ行ったんだろうね」
「子連れでもイイって男のとこじゃないのかい?」
「ならいいんだけど・・だったら宝石なんか置いていくだろうか」
「んん~。短期とか?」
「まぁ、それなら荷物は置いていくか…」
そう言って部屋から娼婦は連れだって出るが、廊下に出て
1人の娼婦がポツリと呟く。
「変だよ」
その声に他の娼婦が問う。
「何が?」
「だってさ、中見ただろう?宝石なんか隠しもしないでさ」
「あぁ、そうだね。見せびらかしたいとか?」
「バカッ!それで玄関に鍵をしないなんて・・おかしいだろう?」
「それもそうだねぇ」
「それにソティス!あの子の着替えなんかそのままだったよ」
そう言われてみれば…と娼婦たちはもう一度部屋に入る。
衣装のクローゼットを開けてみると
沢山のドレスが並んでいるが、下着類はキッチリとおさまっている。
「ほら、変だよ。ドレスは数着持って行っても判らないけど
下着なんかピッチリ並んでて、短期でも出かけてるってわけじゃないよ」
疑問は尽きないけれど、玄関の鍵が開いていただけで
部屋の中に荒らされたような痕跡もない事から
鍵の閉め忘れだろうと結論付けて娼婦たちは部屋を後にした。
不思議な事に、それから3週間後。
カリナの部屋には1つの家財道具もなく空き部屋となった。
荷物を運び出す業者を誰一人見た者はいない。
当初は気味が悪いと言う者もいたが、3か月も過ぎると
誰も噂をしなくなり、カリナやソティスの事を話す者もいなくなった。
「また男の所にシケこんでんじゃないのかい?」
「いや、最近金がないって言ってたんだよ」
「へぇ。その割にはここんとこは客を取らなかったねぇ」
「だからだよ。酒でも飲んで死んでるじゃないかと思って」
ドアの前から何度呼び掛けても返事がない。
それにいつも客を取らない日は酒を飲んでいるので
腹を空かせたソティスが泣いているのが日常だった。
そのソティスの鳴き声も聞こえない。
「まさか…子供を手にかけたんじゃないだろうねッ!」
1人の娼婦がドアノブを回すと、鍵がかかっておらず
ドアがすんなりと開く。
「カリナ!カリナ!いるんだろ!」
名前を呼びながら部屋に入るも、どの部屋にもいない。
娼婦の1人はカリナの宝石箱をあけて装飾品を値踏みする。
「へぇ。金がないって割にはイイ物持ってんだね」
「やめなっ!同業者の持ち物に手ぇ出すんじゃないよ」
「はいはい。わかりましたー」
宝石箱をパタンと閉める。
一緒になって全ての部屋を見るがカリナもソティスもいない。
「どこ行ったんだろうね」
「子連れでもイイって男のとこじゃないのかい?」
「ならいいんだけど・・だったら宝石なんか置いていくだろうか」
「んん~。短期とか?」
「まぁ、それなら荷物は置いていくか…」
そう言って部屋から娼婦は連れだって出るが、廊下に出て
1人の娼婦がポツリと呟く。
「変だよ」
その声に他の娼婦が問う。
「何が?」
「だってさ、中見ただろう?宝石なんか隠しもしないでさ」
「あぁ、そうだね。見せびらかしたいとか?」
「バカッ!それで玄関に鍵をしないなんて・・おかしいだろう?」
「それもそうだねぇ」
「それにソティス!あの子の着替えなんかそのままだったよ」
そう言われてみれば…と娼婦たちはもう一度部屋に入る。
衣装のクローゼットを開けてみると
沢山のドレスが並んでいるが、下着類はキッチリとおさまっている。
「ほら、変だよ。ドレスは数着持って行っても判らないけど
下着なんかピッチリ並んでて、短期でも出かけてるってわけじゃないよ」
疑問は尽きないけれど、玄関の鍵が開いていただけで
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鍵の閉め忘れだろうと結論付けて娼婦たちは部屋を後にした。
不思議な事に、それから3週間後。
カリナの部屋には1つの家財道具もなく空き部屋となった。
荷物を運び出す業者を誰一人見た者はいない。
当初は気味が悪いと言う者もいたが、3か月も過ぎると
誰も噂をしなくなり、カリナやソティスの事を話す者もいなくなった。
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