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シリウスの決意
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シリウスは肩を落として部屋に戻った。
ドアを開けてもシャロンが出迎えてくれることはない。
温かみのあった部屋は冷え切ってしまっている。
今更ながらに自分の愚かさを呪う。
コーヒーを飲もうとマグカップを取ると、取っ手が外れて
カップは床に落ち割れてしまう。
シリウスは割れた破片に、絡まった糸がほどけたような感覚に襲われた。
「シャロンに何も言わなくて良かったのかも知れない」
王弟の事を最強の駒だと思っていたが、最恐の駒である事に気が付く。
今更ながらに気が付いた事に、自分の引きの悪さと
気づきの鈍さに乾いた笑いがこみ上げた。
もし、あの夜シャロンに全てを打ち明けていたら、
シャロンはきっとシリウスの事を全力で守ろうと
伯爵家と姉、そして姉の夫の第三王子を頼っただろう。
頼るという事は、ソティスの事が知られるという事である。
それはシャロンの命が危うくなると同義であると気が付く。
ソティスが生まれる前は、カリナを殺せと言われた。
産まれていなければ、死んだ母の腹から胎児を取り出す事はしない。
子と一緒に葬られるだけで、腹が大きくなっていたとしても
嫉妬した男の1人の痴情の縺れで片づけられるだろう。
だが、ソティスが生まれてからはしばらく何も言わなかった。
王太子夫妻の子は女児であったし、第二王子の子が生まれた時は
多少動きがあったが、1か月ほどで天に召されてしまった。
第一王子(王太子)か第二王子の子である事は
ソティスの見た目から誰でも推測が出来る。
どちらの子なのかが判らないだけで、
王族の血を引くのは紛れもない事実として公になる。
おそらく王弟はソティスを盾として、2人の王子に
取引を持ち掛けるだろう。
どちらの王子も妻の家の後ろ盾がなければ飾りでしかない。
国民の間では、第三王子の継承が最有力だったが、
第三王子が実質退くと、問題児の王子しか残らない。
国王ですら、王太子は設ける物の男児が生まれれば
1世代飛ばして継承させたいと話したとも言われているのだ。
浮気の証拠とも言えるソティスを盾にすれば
2人の王子とも黙るだろう。
確たる男児が生まれない以上、妻の実家に知られたくない秘密だからだ。
もしかすると2人の王子とも亡き者とする可能性もある。
流れが一気に変わったのは第三王子の子が生まれた時からだ。
紛れもない事実として、第三王子の子は継承権がある。
だが、ソティスの切り札は見た目だけなのだ。
オマケに母親は、月に何人の男と寝るのかというほどの阿婆擦れ。
何より2人の王子ともソティスの存在を知らないのだから
認知すらしていない。
第三王子に男児が生まれたという事は、
2人の王子と駆け引きする意味がなくなったという事だ。
むしろ、玉座を狙った王弟からすれば、その事実を知っている者を
消したいと思うであろう。
ーー簡単な事なのに、何故俺は気が付かなかったんだーー
あの日、護衛が足らないから行けと言われた日。
本当はシリウスは非番の日だった。
前日、班の一人が腹痛を起こして書類途中で抜けた。
その穴を埋めるために休日をずらしたのだ。
もし、シリウスがシフト通りに休んでいたとしたら、
護衛に駆り出されることはなかっただろう。
知りたくはないが、ややこしい事情を知ってしまったシリウス。
背筋が寒くなる。思わず寝室のクローゼットに誰か潜んでいても
おかしくない状況なのだと悟ると震えた。
もし、これをシャロンに打ち明けていたとしたら。
シャロンも口を封じられる可能性がある。
「嘘つきのまま…なのか」
そう思うとシリウスは戸棚から紙を取り出し、
シャロンに手紙をしたためた。
問題はこの手紙をどうやってシャロンに渡すかだ。
普通に出したのであれば、伯爵家に届かない可能性もある。
届いたとしてもシャロンが読む可能性は低い。
荷物が一切ない今、神殿で離縁調停の途中に自分に何かあっても
シャロンがこの部屋に来ることもないだろう。
何か残していると思われれば家探しも考えられる。
シリウスが自分の実家にノコノコ会いに行けば時期が時期である。
実家の兄や両親。兄の子にも何かあるかも知れない。
騎士団の連中もだが、団長も含め信用は出来ない。
ーー俺はなんて鈍い男なんだろうーー
ここにきて、自分自身が闇に葬られてもなんら不思議ではない事に
気が付くとは・・乾いた笑いが部屋に響いた。
だがシリウスは1つだけだが悪手を避けた自負があった。
ーーシャロンには何も言っていないーー
手紙を胸の内ポケットに入れ、シリウスはおそらく
この状況で一番信用に足る相手の家に向かった。
ドアを開けてもシャロンが出迎えてくれることはない。
温かみのあった部屋は冷え切ってしまっている。
今更ながらに自分の愚かさを呪う。
コーヒーを飲もうとマグカップを取ると、取っ手が外れて
カップは床に落ち割れてしまう。
シリウスは割れた破片に、絡まった糸がほどけたような感覚に襲われた。
「シャロンに何も言わなくて良かったのかも知れない」
王弟の事を最強の駒だと思っていたが、最恐の駒である事に気が付く。
今更ながらに気が付いた事に、自分の引きの悪さと
気づきの鈍さに乾いた笑いがこみ上げた。
もし、あの夜シャロンに全てを打ち明けていたら、
シャロンはきっとシリウスの事を全力で守ろうと
伯爵家と姉、そして姉の夫の第三王子を頼っただろう。
頼るという事は、ソティスの事が知られるという事である。
それはシャロンの命が危うくなると同義であると気が付く。
ソティスが生まれる前は、カリナを殺せと言われた。
産まれていなければ、死んだ母の腹から胎児を取り出す事はしない。
子と一緒に葬られるだけで、腹が大きくなっていたとしても
嫉妬した男の1人の痴情の縺れで片づけられるだろう。
だが、ソティスが生まれてからはしばらく何も言わなかった。
王太子夫妻の子は女児であったし、第二王子の子が生まれた時は
多少動きがあったが、1か月ほどで天に召されてしまった。
第一王子(王太子)か第二王子の子である事は
ソティスの見た目から誰でも推測が出来る。
どちらの子なのかが判らないだけで、
王族の血を引くのは紛れもない事実として公になる。
おそらく王弟はソティスを盾として、2人の王子に
取引を持ち掛けるだろう。
どちらの王子も妻の家の後ろ盾がなければ飾りでしかない。
国民の間では、第三王子の継承が最有力だったが、
第三王子が実質退くと、問題児の王子しか残らない。
国王ですら、王太子は設ける物の男児が生まれれば
1世代飛ばして継承させたいと話したとも言われているのだ。
浮気の証拠とも言えるソティスを盾にすれば
2人の王子とも黙るだろう。
確たる男児が生まれない以上、妻の実家に知られたくない秘密だからだ。
もしかすると2人の王子とも亡き者とする可能性もある。
流れが一気に変わったのは第三王子の子が生まれた時からだ。
紛れもない事実として、第三王子の子は継承権がある。
だが、ソティスの切り札は見た目だけなのだ。
オマケに母親は、月に何人の男と寝るのかというほどの阿婆擦れ。
何より2人の王子ともソティスの存在を知らないのだから
認知すらしていない。
第三王子に男児が生まれたという事は、
2人の王子と駆け引きする意味がなくなったという事だ。
むしろ、玉座を狙った王弟からすれば、その事実を知っている者を
消したいと思うであろう。
ーー簡単な事なのに、何故俺は気が付かなかったんだーー
あの日、護衛が足らないから行けと言われた日。
本当はシリウスは非番の日だった。
前日、班の一人が腹痛を起こして書類途中で抜けた。
その穴を埋めるために休日をずらしたのだ。
もし、シリウスがシフト通りに休んでいたとしたら、
護衛に駆り出されることはなかっただろう。
知りたくはないが、ややこしい事情を知ってしまったシリウス。
背筋が寒くなる。思わず寝室のクローゼットに誰か潜んでいても
おかしくない状況なのだと悟ると震えた。
もし、これをシャロンに打ち明けていたとしたら。
シャロンも口を封じられる可能性がある。
「嘘つきのまま…なのか」
そう思うとシリウスは戸棚から紙を取り出し、
シャロンに手紙をしたためた。
問題はこの手紙をどうやってシャロンに渡すかだ。
普通に出したのであれば、伯爵家に届かない可能性もある。
届いたとしてもシャロンが読む可能性は低い。
荷物が一切ない今、神殿で離縁調停の途中に自分に何かあっても
シャロンがこの部屋に来ることもないだろう。
何か残していると思われれば家探しも考えられる。
シリウスが自分の実家にノコノコ会いに行けば時期が時期である。
実家の兄や両親。兄の子にも何かあるかも知れない。
騎士団の連中もだが、団長も含め信用は出来ない。
ーー俺はなんて鈍い男なんだろうーー
ここにきて、自分自身が闇に葬られてもなんら不思議ではない事に
気が付くとは・・乾いた笑いが部屋に響いた。
だがシリウスは1つだけだが悪手を避けた自負があった。
ーーシャロンには何も言っていないーー
手紙を胸の内ポケットに入れ、シリウスはおそらく
この状況で一番信用に足る相手の家に向かった。
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