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3つめのお願い
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騎士団の詰め所では5人の男たちが真剣な顔で向き合っていた。
遠征での結果について隣国との交渉をいかに優位に進めるべきか
纏めた結果を見て言葉が出ないのだ。
「誰がこれを陛下に言うか・・だな」
「そりゃ勿論貴方でしょう」
4人の男は1人に注目をする。
テーブルに置いた資料を再度手にして数枚を捲る男。
その時、部屋の扉が乱暴に開かれる。
顔を真っ赤にして鬼の形相で睨みを利かせているのはシリウス。
馬で駆けてきたのであっても、肩で息をするほどである。
余程のスピードでやって来たことは言わずもがな。
ツカツカと書類を手にした男の前に来ると
本当にはやりたくないのがよく判る表情で片膝を付く。
「お願いがあります」
男は手にした書類を無造作にテーブルに投げおき
シリウスに立ち上がるよう促すが、シリウスは動かない。
「困ったね。どうしたんだ」
絞り出すような声でシリウスは発言をする。
「今すぐに公表してください。出来ないのであれば・・
私をこの任から外してください」
「なっ・・お前この時期になってそのような事を!
裏切ったのか?」
4人のうち1人の男がシリウスに詰め寄ろうとするのを
男は手で制した。
「おやおや、困った事を言い出したね。
今更君の変わりはいないというのに‥‥なるほど奥方に棄てられたか」
棄てられた。その言葉にシリウスは肩をビクリとさせた。
男は天井を見上げて黙り込む。
「ワーグナー。君はこの任務が終われば破格の待遇が待っている。
それを条件に引き受けたと私は認識したのだが・・違っているか?」
「違いません。ですが・・もう限界なのです」
「限界・・ねぇ」
床に付いたシリウスの手がギュッと握られるのを見た男。
「私を一発殴ってやりたい・・違うか?」
シリウスは答えない。
「若しくは…刺し違えてでも?と考えている」
「何だと?ワーグナー!お前そんな事を!」
いやいや・・っと男はいきんだ男性4人が椅子から勢いよく立ち上がるのを
また手で制する。
「それくらいの勢いで来た。そういう事だ。例えだよ。例え。
まぁ、そういきり立たず、座りたまえ」
男は椅子から立ち上がりシリウスの背後に立つ。
葉巻を取ると火を付けて白い息を長く吐き出す。
「私はこの任務を君に命じた時に2回・・意見をきいてやった。
一度目はあの女を出産する前に殺せと言った。
二度目はあの子供を殺せと・・・君は断った。私は意見を取り入れた」
「そっ、それは…子供には…罪はありません…から」
再度白い息を吐き出す男。
「それが君の甘いところなんだ。その甘さが奥方を苦しめた。
あの女がどれだけの毒婦なのか、わかったうえで君は情けをかけた」
「情けではありません。ただ子供が…」
「それが君の甘さなんだよ。結果的にあの子供は本物だった。違うか?」
男は葉巻をテーブルにそのまま押し付けて火を消す。
静かに元の椅子に座る。
「仕方ないね。今更君の変わりは探せないんだ。わかるよね」
シリウスはグッと歯を噛み締める。
口の中に広がった鉄の味と匂いが鼻をつく。
「3つ目のお願いを聞いてあげるよ。奥方だろう?
その様子では神殿に離縁の手続きを済ませてしまった・・そして・・
伯爵家に言ったが、けんもほろろに追い返されたというところか?」
「はぃ…」
「ま、君が奥方にベタ惚れなのはわかっていた事だからね。
ここは私がひとはだ脱ぐことにするよ。但し既に神殿に話が上がっている。
私にできるのは、調停ではなく2人で話し合える場を提供するだけだ。
男女間のいざこざに首を突っ込む野暮はしたくないのでね」
男はシリウスの肩に手を置いた。
「女の方はどうでもいい。斬り捨てたとしても単なる副産物でしかない」
「‥‥‥‥」
「子供を殺せ」
その言葉が引き金になったのか、大きな雷鳴が響き雨が降り出した。
男たちは書類を手にすると部屋から出ていく。
シリウスは膝を付いたまま動けなかった。
遠征での結果について隣国との交渉をいかに優位に進めるべきか
纏めた結果を見て言葉が出ないのだ。
「誰がこれを陛下に言うか・・だな」
「そりゃ勿論貴方でしょう」
4人の男は1人に注目をする。
テーブルに置いた資料を再度手にして数枚を捲る男。
その時、部屋の扉が乱暴に開かれる。
顔を真っ赤にして鬼の形相で睨みを利かせているのはシリウス。
馬で駆けてきたのであっても、肩で息をするほどである。
余程のスピードでやって来たことは言わずもがな。
ツカツカと書類を手にした男の前に来ると
本当にはやりたくないのがよく判る表情で片膝を付く。
「お願いがあります」
男は手にした書類を無造作にテーブルに投げおき
シリウスに立ち上がるよう促すが、シリウスは動かない。
「困ったね。どうしたんだ」
絞り出すような声でシリウスは発言をする。
「今すぐに公表してください。出来ないのであれば・・
私をこの任から外してください」
「なっ・・お前この時期になってそのような事を!
裏切ったのか?」
4人のうち1人の男がシリウスに詰め寄ろうとするのを
男は手で制した。
「おやおや、困った事を言い出したね。
今更君の変わりはいないというのに‥‥なるほど奥方に棄てられたか」
棄てられた。その言葉にシリウスは肩をビクリとさせた。
男は天井を見上げて黙り込む。
「ワーグナー。君はこの任務が終われば破格の待遇が待っている。
それを条件に引き受けたと私は認識したのだが・・違っているか?」
「違いません。ですが・・もう限界なのです」
「限界・・ねぇ」
床に付いたシリウスの手がギュッと握られるのを見た男。
「私を一発殴ってやりたい・・違うか?」
シリウスは答えない。
「若しくは…刺し違えてでも?と考えている」
「何だと?ワーグナー!お前そんな事を!」
いやいや・・っと男はいきんだ男性4人が椅子から勢いよく立ち上がるのを
また手で制する。
「それくらいの勢いで来た。そういう事だ。例えだよ。例え。
まぁ、そういきり立たず、座りたまえ」
男は椅子から立ち上がりシリウスの背後に立つ。
葉巻を取ると火を付けて白い息を長く吐き出す。
「私はこの任務を君に命じた時に2回・・意見をきいてやった。
一度目はあの女を出産する前に殺せと言った。
二度目はあの子供を殺せと・・・君は断った。私は意見を取り入れた」
「そっ、それは…子供には…罪はありません…から」
再度白い息を吐き出す男。
「それが君の甘いところなんだ。その甘さが奥方を苦しめた。
あの女がどれだけの毒婦なのか、わかったうえで君は情けをかけた」
「情けではありません。ただ子供が…」
「それが君の甘さなんだよ。結果的にあの子供は本物だった。違うか?」
男は葉巻をテーブルにそのまま押し付けて火を消す。
静かに元の椅子に座る。
「仕方ないね。今更君の変わりは探せないんだ。わかるよね」
シリウスはグッと歯を噛み締める。
口の中に広がった鉄の味と匂いが鼻をつく。
「3つ目のお願いを聞いてあげるよ。奥方だろう?
その様子では神殿に離縁の手続きを済ませてしまった・・そして・・
伯爵家に言ったが、けんもほろろに追い返されたというところか?」
「はぃ…」
「ま、君が奥方にベタ惚れなのはわかっていた事だからね。
ここは私がひとはだ脱ぐことにするよ。但し既に神殿に話が上がっている。
私にできるのは、調停ではなく2人で話し合える場を提供するだけだ。
男女間のいざこざに首を突っ込む野暮はしたくないのでね」
男はシリウスの肩に手を置いた。
「女の方はどうでもいい。斬り捨てたとしても単なる副産物でしかない」
「‥‥‥‥」
「子供を殺せ」
その言葉が引き金になったのか、大きな雷鳴が響き雨が降り出した。
男たちは書類を手にすると部屋から出ていく。
シリウスは膝を付いたまま動けなかった。
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