18 / 56
3つめのお願い
しおりを挟む
騎士団の詰め所では5人の男たちが真剣な顔で向き合っていた。
遠征での結果について隣国との交渉をいかに優位に進めるべきか
纏めた結果を見て言葉が出ないのだ。
「誰がこれを陛下に言うか・・だな」
「そりゃ勿論貴方でしょう」
4人の男は1人に注目をする。
テーブルに置いた資料を再度手にして数枚を捲る男。
その時、部屋の扉が乱暴に開かれる。
顔を真っ赤にして鬼の形相で睨みを利かせているのはシリウス。
馬で駆けてきたのであっても、肩で息をするほどである。
余程のスピードでやって来たことは言わずもがな。
ツカツカと書類を手にした男の前に来ると
本当にはやりたくないのがよく判る表情で片膝を付く。
「お願いがあります」
男は手にした書類を無造作にテーブルに投げおき
シリウスに立ち上がるよう促すが、シリウスは動かない。
「困ったね。どうしたんだ」
絞り出すような声でシリウスは発言をする。
「今すぐに公表してください。出来ないのであれば・・
私をこの任から外してください」
「なっ・・お前この時期になってそのような事を!
裏切ったのか?」
4人のうち1人の男がシリウスに詰め寄ろうとするのを
男は手で制した。
「おやおや、困った事を言い出したね。
今更君の変わりはいないというのに‥‥なるほど奥方に棄てられたか」
棄てられた。その言葉にシリウスは肩をビクリとさせた。
男は天井を見上げて黙り込む。
「ワーグナー。君はこの任務が終われば破格の待遇が待っている。
それを条件に引き受けたと私は認識したのだが・・違っているか?」
「違いません。ですが・・もう限界なのです」
「限界・・ねぇ」
床に付いたシリウスの手がギュッと握られるのを見た男。
「私を一発殴ってやりたい・・違うか?」
シリウスは答えない。
「若しくは…刺し違えてでも?と考えている」
「何だと?ワーグナー!お前そんな事を!」
いやいや・・っと男はいきんだ男性4人が椅子から勢いよく立ち上がるのを
また手で制する。
「それくらいの勢いで来た。そういう事だ。例えだよ。例え。
まぁ、そういきり立たず、座りたまえ」
男は椅子から立ち上がりシリウスの背後に立つ。
葉巻を取ると火を付けて白い息を長く吐き出す。
「私はこの任務を君に命じた時に2回・・意見をきいてやった。
一度目はあの女を出産する前に殺せと言った。
二度目はあの子供を殺せと・・・君は断った。私は意見を取り入れた」
「そっ、それは…子供には…罪はありません…から」
再度白い息を吐き出す男。
「それが君の甘いところなんだ。その甘さが奥方を苦しめた。
あの女がどれだけの毒婦なのか、わかったうえで君は情けをかけた」
「情けではありません。ただ子供が…」
「それが君の甘さなんだよ。結果的にあの子供は本物だった。違うか?」
男は葉巻をテーブルにそのまま押し付けて火を消す。
静かに元の椅子に座る。
「仕方ないね。今更君の変わりは探せないんだ。わかるよね」
シリウスはグッと歯を噛み締める。
口の中に広がった鉄の味と匂いが鼻をつく。
「3つ目のお願いを聞いてあげるよ。奥方だろう?
その様子では神殿に離縁の手続きを済ませてしまった・・そして・・
伯爵家に言ったが、けんもほろろに追い返されたというところか?」
「はぃ…」
「ま、君が奥方にベタ惚れなのはわかっていた事だからね。
ここは私がひとはだ脱ぐことにするよ。但し既に神殿に話が上がっている。
私にできるのは、調停ではなく2人で話し合える場を提供するだけだ。
男女間のいざこざに首を突っ込む野暮はしたくないのでね」
男はシリウスの肩に手を置いた。
「女の方はどうでもいい。斬り捨てたとしても単なる副産物でしかない」
「‥‥‥‥」
「子供を殺せ」
その言葉が引き金になったのか、大きな雷鳴が響き雨が降り出した。
男たちは書類を手にすると部屋から出ていく。
シリウスは膝を付いたまま動けなかった。
遠征での結果について隣国との交渉をいかに優位に進めるべきか
纏めた結果を見て言葉が出ないのだ。
「誰がこれを陛下に言うか・・だな」
「そりゃ勿論貴方でしょう」
4人の男は1人に注目をする。
テーブルに置いた資料を再度手にして数枚を捲る男。
その時、部屋の扉が乱暴に開かれる。
顔を真っ赤にして鬼の形相で睨みを利かせているのはシリウス。
馬で駆けてきたのであっても、肩で息をするほどである。
余程のスピードでやって来たことは言わずもがな。
ツカツカと書類を手にした男の前に来ると
本当にはやりたくないのがよく判る表情で片膝を付く。
「お願いがあります」
男は手にした書類を無造作にテーブルに投げおき
シリウスに立ち上がるよう促すが、シリウスは動かない。
「困ったね。どうしたんだ」
絞り出すような声でシリウスは発言をする。
「今すぐに公表してください。出来ないのであれば・・
私をこの任から外してください」
「なっ・・お前この時期になってそのような事を!
裏切ったのか?」
4人のうち1人の男がシリウスに詰め寄ろうとするのを
男は手で制した。
「おやおや、困った事を言い出したね。
今更君の変わりはいないというのに‥‥なるほど奥方に棄てられたか」
棄てられた。その言葉にシリウスは肩をビクリとさせた。
男は天井を見上げて黙り込む。
「ワーグナー。君はこの任務が終われば破格の待遇が待っている。
それを条件に引き受けたと私は認識したのだが・・違っているか?」
「違いません。ですが・・もう限界なのです」
「限界・・ねぇ」
床に付いたシリウスの手がギュッと握られるのを見た男。
「私を一発殴ってやりたい・・違うか?」
シリウスは答えない。
「若しくは…刺し違えてでも?と考えている」
「何だと?ワーグナー!お前そんな事を!」
いやいや・・っと男はいきんだ男性4人が椅子から勢いよく立ち上がるのを
また手で制する。
「それくらいの勢いで来た。そういう事だ。例えだよ。例え。
まぁ、そういきり立たず、座りたまえ」
男は椅子から立ち上がりシリウスの背後に立つ。
葉巻を取ると火を付けて白い息を長く吐き出す。
「私はこの任務を君に命じた時に2回・・意見をきいてやった。
一度目はあの女を出産する前に殺せと言った。
二度目はあの子供を殺せと・・・君は断った。私は意見を取り入れた」
「そっ、それは…子供には…罪はありません…から」
再度白い息を吐き出す男。
「それが君の甘いところなんだ。その甘さが奥方を苦しめた。
あの女がどれだけの毒婦なのか、わかったうえで君は情けをかけた」
「情けではありません。ただ子供が…」
「それが君の甘さなんだよ。結果的にあの子供は本物だった。違うか?」
男は葉巻をテーブルにそのまま押し付けて火を消す。
静かに元の椅子に座る。
「仕方ないね。今更君の変わりは探せないんだ。わかるよね」
シリウスはグッと歯を噛み締める。
口の中に広がった鉄の味と匂いが鼻をつく。
「3つ目のお願いを聞いてあげるよ。奥方だろう?
その様子では神殿に離縁の手続きを済ませてしまった・・そして・・
伯爵家に言ったが、けんもほろろに追い返されたというところか?」
「はぃ…」
「ま、君が奥方にベタ惚れなのはわかっていた事だからね。
ここは私がひとはだ脱ぐことにするよ。但し既に神殿に話が上がっている。
私にできるのは、調停ではなく2人で話し合える場を提供するだけだ。
男女間のいざこざに首を突っ込む野暮はしたくないのでね」
男はシリウスの肩に手を置いた。
「女の方はどうでもいい。斬り捨てたとしても単なる副産物でしかない」
「‥‥‥‥」
「子供を殺せ」
その言葉が引き金になったのか、大きな雷鳴が響き雨が降り出した。
男たちは書類を手にすると部屋から出ていく。
シリウスは膝を付いたまま動けなかった。
160
お気に入りに追加
3,721
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
二度目の恋
豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。
王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。
満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。
※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。
あなたの愛が正しいわ
来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~
夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。
一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。
「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】旦那に愛人がいると知ってから
よどら文鳥
恋愛
私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。
だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。
それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。
だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。
「……あの女、誰……!?」
この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。
だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。
※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
真実の愛は、誰のもの?
ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」
妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。
だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。
ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。
「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」
「……ロマンチック、ですか……?」
「そう。二人ともに、想い出に残るような」
それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる