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過保護と先伸ばし
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伯爵が領地にいない事など侯爵家の馬車を見れば一目瞭然である。
馬を反転させてシリウスは騎士団の詰め所に向かう。
遠征前に願い出ていた休日は明日と明後日のみ。
皆を集めての結婚式は出来なかったけれど、
神殿で見届け人として神官を2人料金を払って
実質当人同士だけの結婚式を願ったのはシャロンだった。
今となってはその事実があるのがシリウスの救いでもある。
離縁の手続きが済むまではたとえ王族であろうと婚姻は覆せない。
もし書類の提出だけで婚姻を済ませていたら
貴族間の爵位がモノを言う。
即座に離縁手続きが終わっていた事だろう。
神官を正規の代金を払ってまで誓い合った事で調停の場があるのだ。
だがそれもせいぜい4、5回。時間にすれば半年が限度である。
結局のところ調停で揉めている間に身分という制度が
シャロンとシリウスの間にもう二度と壊せない壁を作る。
裏を返せば男尊女卑が未だ根強く残るこの国で
唯一と言って良いほどの女性を守る法律でもあるのだ。
爵位や身分に関係なく、調停の期間で女性の心が変わらねば
最終的には女性の意思が尊重される。
離縁をしたい夫としたくない妻の場合、
妻は先ず、神殿に婚姻の継続を申し立てる。
揉めに揉めても最終的には妻の意思が尊重されて
婚姻は継続となる。
だが、その場合本当に愛のない結婚になるので生きている間
冷え切った関係を続けなければならない。
縁を切られては困る妻や妻の家は即座に利用する制度だ。
シリウスの場合は逆である。
離縁をしたくない夫と離縁をしたい妻となる。
調停を繰り返してもお互いの主張が変わらなければ・・
最終的には離縁をしたい妻の意見が尊重されるのだ。
勿論、男性のほうから申し立てても問題はない。
だが、シリウスは自分には必要がないと考えていたし
シャロンに不義があったわけでもないので
申し立てる理由もなかったのだ。
シャロンはもっと働く時間を伸ばすか、
もう一軒別でも誘われているから仕事をしたいと言っていた。
市場もそうだが、もう一軒も信頼のおける人物の経営する商会なので
何の問題もなかったが、2年後昇格する事を考えた時
シャロンの性格だと困っている時に仕事を与えてくれて
助けてくれたのだからと、無理をするのが目に見えていた。
何より仕事に行く時と、家に帰った時に
シャロンに居てほしいという
シリウスの子供じみた我儘がシャロンを縛り付けた。
出来ればボランティア活動も許可したくなかった。
騎士団の夫人会ですら、行かせたくないほどだったのだ。
思えば束縛を始めたのは学園生の頃からだった。
上の爵位の上級生からも手放しで可愛がられていたシャロン。
姉の影響もあったかも知れないが、学業の成績もよく
平民の生徒でも王族でも正論を堂々とぶちかますシャロンは
男女問わず人気があった。
射止めた時からシリウスはとにかくシャロンを囲った。
それでもシリウスが危険分子として白い目で見られなかったのは
ひとえにシャロンが見えない所でフォローをしていたからだ。
シリウスの母は決して散財をするような女性ではなかったが
貧乏な男爵家であったので、いつも苦労をしていた。
なので、班長である間は出来る限りの稼ぎをシャロンに渡し、
昇格をすればもう働かなくてもいい。
自分の稼ぎだけで楽をさせてやりたい。
そのために自分が仕事漬けになっている無様な姿を見せたくなかった。
そんな歪んだ男のプライドなど捨てれば良かったのにと
今更ながらにシリウスは後悔をする。
シャロンが出がけにキスをしなくなった時に
本当なら気が付くべきだった。
吐いて苦しんでいる時に、もっと寄り添うべきだった。
そしてシリウスは一番選択を間違ったあの日を悔む。
時間がないとはいえ、聞いて欲しいと言ったシャロンを
遠征から戻ったら全てを話すと先延ばしにした事だ。
確かに書類整理や証拠固めに追われて時間はなかった。
だが、それは単なる言い訳だと自分を戒める。
どんなに時間がなくても、あの日は懲罰覚悟で話をするべきだった。
「あの時、全てを打ち明けていれば」
今、騎士団の詰め所にはシリウスが使える駒としては
最強の一手となる人物がいるはずだ。
シリウスは縋り、頼むしかないが同時にこんな状況に追い込んだ
その最強の駒に強烈な一発を食らわせてやろうと
馬に鞭を入れ速度を上げた。
馬を反転させてシリウスは騎士団の詰め所に向かう。
遠征前に願い出ていた休日は明日と明後日のみ。
皆を集めての結婚式は出来なかったけれど、
神殿で見届け人として神官を2人料金を払って
実質当人同士だけの結婚式を願ったのはシャロンだった。
今となってはその事実があるのがシリウスの救いでもある。
離縁の手続きが済むまではたとえ王族であろうと婚姻は覆せない。
もし書類の提出だけで婚姻を済ませていたら
貴族間の爵位がモノを言う。
即座に離縁手続きが終わっていた事だろう。
神官を正規の代金を払ってまで誓い合った事で調停の場があるのだ。
だがそれもせいぜい4、5回。時間にすれば半年が限度である。
結局のところ調停で揉めている間に身分という制度が
シャロンとシリウスの間にもう二度と壊せない壁を作る。
裏を返せば男尊女卑が未だ根強く残るこの国で
唯一と言って良いほどの女性を守る法律でもあるのだ。
爵位や身分に関係なく、調停の期間で女性の心が変わらねば
最終的には女性の意思が尊重される。
離縁をしたい夫としたくない妻の場合、
妻は先ず、神殿に婚姻の継続を申し立てる。
揉めに揉めても最終的には妻の意思が尊重されて
婚姻は継続となる。
だが、その場合本当に愛のない結婚になるので生きている間
冷え切った関係を続けなければならない。
縁を切られては困る妻や妻の家は即座に利用する制度だ。
シリウスの場合は逆である。
離縁をしたくない夫と離縁をしたい妻となる。
調停を繰り返してもお互いの主張が変わらなければ・・
最終的には離縁をしたい妻の意見が尊重されるのだ。
勿論、男性のほうから申し立てても問題はない。
だが、シリウスは自分には必要がないと考えていたし
シャロンに不義があったわけでもないので
申し立てる理由もなかったのだ。
シャロンはもっと働く時間を伸ばすか、
もう一軒別でも誘われているから仕事をしたいと言っていた。
市場もそうだが、もう一軒も信頼のおける人物の経営する商会なので
何の問題もなかったが、2年後昇格する事を考えた時
シャロンの性格だと困っている時に仕事を与えてくれて
助けてくれたのだからと、無理をするのが目に見えていた。
何より仕事に行く時と、家に帰った時に
シャロンに居てほしいという
シリウスの子供じみた我儘がシャロンを縛り付けた。
出来ればボランティア活動も許可したくなかった。
騎士団の夫人会ですら、行かせたくないほどだったのだ。
思えば束縛を始めたのは学園生の頃からだった。
上の爵位の上級生からも手放しで可愛がられていたシャロン。
姉の影響もあったかも知れないが、学業の成績もよく
平民の生徒でも王族でも正論を堂々とぶちかますシャロンは
男女問わず人気があった。
射止めた時からシリウスはとにかくシャロンを囲った。
それでもシリウスが危険分子として白い目で見られなかったのは
ひとえにシャロンが見えない所でフォローをしていたからだ。
シリウスの母は決して散財をするような女性ではなかったが
貧乏な男爵家であったので、いつも苦労をしていた。
なので、班長である間は出来る限りの稼ぎをシャロンに渡し、
昇格をすればもう働かなくてもいい。
自分の稼ぎだけで楽をさせてやりたい。
そのために自分が仕事漬けになっている無様な姿を見せたくなかった。
そんな歪んだ男のプライドなど捨てれば良かったのにと
今更ながらにシリウスは後悔をする。
シャロンが出がけにキスをしなくなった時に
本当なら気が付くべきだった。
吐いて苦しんでいる時に、もっと寄り添うべきだった。
そしてシリウスは一番選択を間違ったあの日を悔む。
時間がないとはいえ、聞いて欲しいと言ったシャロンを
遠征から戻ったら全てを話すと先延ばしにした事だ。
確かに書類整理や証拠固めに追われて時間はなかった。
だが、それは単なる言い訳だと自分を戒める。
どんなに時間がなくても、あの日は懲罰覚悟で話をするべきだった。
「あの時、全てを打ち明けていれば」
今、騎士団の詰め所にはシリウスが使える駒としては
最強の一手となる人物がいるはずだ。
シリウスは縋り、頼むしかないが同時にこんな状況に追い込んだ
その最強の駒に強烈な一発を食らわせてやろうと
馬に鞭を入れ速度を上げた。
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