旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru

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夫を避ける妻

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今日は早番だと出かけて行ったシリウスを見送るが
シャロンは吐いた日からシリウスとキスをするのを避けたので
この頃は軽めにハグをするだけとなっていた。

しかし、腕を組んで歩くシリウスを見た時から
触れられる事さえ、嫌悪感を持ってしまったシャロンは
今朝はハグをしなくて済むように敢えて洗い物をして
言葉で見送った。

ーー一緒に寝るのも嫌だわーー

一つ不信感が芽生え、その場を見てしまうと
触れられることもだが、隣にいるという事も嫌になってくる。
しかし、ソファもない家なのでベッドで寝なければ
床で寝るしかないが、固い床は冷えるし痛い。

簡易ベッドでもへそくりで買おうかと思うが置く場所もない。

ーー面倒だけど厚着でもするしかないわーー

夜勤と遠征の時だけは一緒に寝ることがないが
早番、遅番はどうしても寝なくてはいけない。
夫婦の営みは途絶えてしまったが、あったとしたら。

ーー間違いなく吐くわーー

しかしシャロンもこのままで良いとは思っていない。
確実な証拠と言っても、カリナが来たときはシリウスは留守だし
腕を組んで歩いていた時も早番だと出かけたので
人違いと言われれば証拠がないのである。

ーーシリウスに聞くのが一番だけどーー

そう考えてはみるが、証拠が何一つない状態で聞いても
嫉妬や妄想と片づけられるかもしれない。
あの時、同僚もいたのだから一緒に見てもらえば良かったと
後悔をしてみるが、どうしようもないのである。

気が乗らないまま掃除をしていると玄関の呼び鈴が鳴った。
小走りで出てみると届け物である。
宛名はシリウス、差出人は有名な商会であった。中身は幼児玩具。
全身に雷が直撃したのかと思うほどの衝撃を受けた。

勝手に開けるわけにも行かず、大きな荷物を部屋の隅に寄せた。

食欲がわかない日が続き、その日も昼食を取らずに仕事に出る。
まともに食事をしていないので、この頃疲れるのが早い。
少し歩くと息切れをしてしまったり、眩暈を起こすことも増えた。
だが、極力シリウスとの会話などを減らしているので
シリウスが気が付いている素振りはなかった。

家に帰ると、玄関ドアを開けるとそこには昼に届いた荷物を持って
出掛けようとするシリウスと鉢合わせになった。

「お、おかえり」
「ただいま帰りました。お出かけですの?」
「ん?あぁ、ちょっと荷物を届けてくるよ」

どうせ届けるのであれば、最初からその家に届ければいいのにと
思いつつ、シリウスを送って夕食を作ろうとしたが。

ーー荷物を運んだ先で食べてくるかもしれないわーー

そう思うと、夕食を作るのも億劫になってしまった。
時計を見るともうすぐ20時。
湯あみ用にバスタブに湯を張っているとシリウスが帰ってきた。

「あれ?夕食は?」

いつもなら気にならないシリウスの言葉にカチンと来てしまう。
何故お互い働いているのに私が夕食を作るのが当たり前なの?
どうしてウチには子供がいないのに幼児玩具を買って・・
しかもその配達先をウチにして、わざわざ貴方が届けるの?!

「どこかで食べてくるかと思いましたわ!」

そう言うと、湯あみ室の扉を閉めて、服を脱ぎバスタブに飛び込む。
まだ温まりきっていない湯はぬるく、このままでは風邪をひくと
思うような温度だったが頭まで湯に浸ける。
そうすればシリウスの声が聞こえないような気がしたのだ。

「シャロン!入るぞ」

息が出来なくなって顔を上げると、シリウスの言葉が耳に入る。

ーー入ってくるですって??ーー

「やめて!まだ湯あみをしているの!」
「いいじゃないか。たまには一緒に入ろう」

なんておぞましい事を言うの?信じられない!!

「待って!出るから!」

しかし、シリウスはその言葉を言いきらないうちに入ってくる。
そして服を脱ぎ始める。
シャロンは出ていこうにも真っ裸でバスタブにいるのだから
出ようにも出られない。

「おい、まだ温かい湯じゃないじゃないか。風邪をひくぞ」

そう言って狭いバスタブにズカズカと入ってきた。

ーーお願い・・やめて!ーー

後ろから抱えられるようにして湯につかるシャロン。
腕を回し、シリウスはシャロンを抱きしめる。

「久しぶりだな。たまには一緒に入るのもいいなぁ」

湯が魔石で温まるまでシリウスの腕はシャロンから離れず
逃げることも出来なくなってしまった。

やっと温まり、シリウスが腕を弛めるとシャロンは立ち上がる。
シリウスに背を向けたまま

「ごめんなさい、湯あたりしたみたい。先に上がるわ」

急いで水を拭きとり、髪の毛にはタオルを巻いて
着替えを済ませ、ベッドに潜り込んだ。

湯あみの終わったシリウスは居間にシャロンがいないので
寝室に来ると横になるシャロンの髪を撫でる。

「ある物を食べておくよ。ゆっくり休みなさい」

そう言って居間に戻っていく。

寝室の扉がパタンと閉じると、シャロンはやっと息をした。
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