辺境伯のお嫁様

cyaru

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お嫁様の肩書を返上

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粗大ごみが片付き、平和だったところにさらなる平和が訪れるポロネーゼ。
婚姻歴はあるものの、もう離縁が成立し、フリーとなったキャンティ。

別邸で静かにクライゴウト(2匹)と過ごすキャンティ。
とりあえずの領主(仮)代行として、後任が赴任するまでの間
書類を片付けておりますね。

カリカリ・・・カリカリ・・・コキコキ・・カリカリ・・カリカリ
時折、書類を片付ける手を休めて肩を鳴らします。

「15歳だっていうのに・・すっかりBBAだわ」

呟くキャンティに今日の当番メイドのルチアーナがお茶を持ってきます。

「少し休憩されてはどうです?」
「そうねぇ・・」

キャンティは書類をパラパラと見て、時計を見ます。
ルチアーナは予定表の書かれた掲示板を見ていますね。

「あと2件の決裁書類だけだから、パパっとやっちゃうわ」
「ですが、あと30分で本邸の早番は終業ですよ?
 また・・・来ると思いますよ?」

うわぁ・・そうかぁ。今日はスチュワートさんは早番なのね。
っというか、自分のシフト表を予定表に貼り付けないでほしいわ。

ティロリロリロン~ティロリロン♪

どこかのコンビニの入店のような音楽が流れます。
玄関チャイム、バージョンアップしましたね。
その音に、キャンティは大きなため息をつきます。

「キャンティ様っ!ミリバール参上!!ジャジャーン」

あれ?スチュワートじゃないですね?気象部のミリバールです。
どうやら、ミリバールも内定を蹴って残ったのですね。

「今日はですねー!いつもお疲れで肩がガッチガチのキャンティ様に
 いいものを持ってきたんですよっ!
 制作部渾身の作品、いえっ!次に売り出す商品ですよっ!」

「なんですの?」

そう言うと、ドングリコーヒーを定期購入でもらえるBIGエコバッグから
商品を取り出します。ん?重そうですね。

「なんと!なんとですね!1日たったの30分!たったの30分ですよ!
 これを肩にこうやって乗せてですね・・
 このスイッチを押しますと!弱!並!強!でツボを押してくれるんです!
 で、こっちのボタンを押すとですね・・リズミカルに
 不規則な揉みになるんですよ!」

「へ、へぇぇ~。うわー凄~い(ロング棒)」

「でねっ!あまりにも気持ちいいんで寝ちゃう人も安心な機能!
 15分経つと、自動で切れるんです!」

ん?1日30分使えばいいのに、15分で自動OFFになったら・・。
折角気持ちよく寝入りそうかな~って時に止まるって事??

「あのぅ~ミリバールさん・・」

「はいはい!そうですよね!心配なのは価格ですよね!」

「いえ、ポーションの売り上げがあるので、それはいいんですが・・」

「はいっ!なんと!なんとですね!今なら!19800ポロ!
 こんな高性能で、コンパクトで、置き場所にも困らない
 肩もみ機の その名も コリモーミモミ! 19800ポロですっ!」

「いえ、あの。。」

「はいはい!わかってますよ!それでですね!今だけ!今だけですよ?
 なんと、ご自宅にある古い肩もみ機を下取りに出せるんです。
 しかも1万ポロで引き取ってくれるんです。他社製品でもOK!
 おやおや~??って事は!ついにここまで来ました!
 1万ポロを切る9800ポロ!!」

「ですから・・ミリバー・・」

「しかも!ここからが凄いんです!
 通常なら5980ポロ+TAX(税)の低反発枕がついてます!
 それで送料も無料!支払いは12回の分割払いの手数料も無料!
 どうです??キャンティ様っ!」

一気にまくし立てるミリバールにメイドのルチアーナが食いつきます。

「あの・・その低反発枕だけってのはダメですか?」
「あー、そういう人多いんですよ。でもねぇ・・セットなんです。
 本当にすみませんっ!」

はぁ・・っとルチアーナが淹れてくれたお茶を飲むキャンティ。
ソーサーにカップを置いて、ミリバールに問います。

「で?そのコリモーミモミですけど、重さは如何ほどですの?」

ぱあっと明るくなり、キャンティに詰め寄るミリバール。

「改良に改良を重ねまして!15キロまで落としました!」

「ミリバールさん・・それでは肩に不要な負荷がかかるだけですわ。
 肩もみをする機械に肩がイカれてしまいますわ」

そりゃそうでしょうねぇ・・15キロを肩に乗せて揉まれても
単なる苦行でしかありませんわ。

「それに、ミリバールさん。電源はどうなってますの?」

「電源・・あー!改良したんですよ。従来型は充電するのに
 38時間かかって10分しか使えなかったんで、
 今度は魔石電池を使うと連続で30分使えるんですよ」

「で、その魔石電池は何個必要ですの?」

「ハイそれはですね。12個ですっ!ビシィ!」

「1個1500ポロの魔石電池が12個・・商品より高くなりません?」

「ですから!下取りで1万ポロを値引きするんですよ!」

「却下ですわ。制作部にもう一度やり直すように伝えて頂戴」

コリモーミモミを肩に乗せたまま別邸を去るミリバール。
残ったお茶を飲むキャンティ。

そこに1羽のトンビが飛んできます。
バッサバッサ。バッサバッサ。
窓枠に止まればいいのに、窓の外でホバリングしておりますね。
ルチアーナが窓を開けると、バッサバッサと翼を動かし、片足を差し出します。
驚くほど有能そうに見えますが、飛び立つ時の労力を惜しんでいますね。
ホバリングも疲れるでしょうに。

ルチアーナがトンビの足から紙きれを取ると、トンビは飛んでいきます。
ピィーホロロロゥ

「キャンティ様、陛下からのようです」
「ありがとう」

メモを受け取るキャンティ。そっとメモに目線を落とします。

【トンツー!!トントントトトン!!トーンツー】

兄さま・・紙にモールス信号を擬音化しても意味がありませんわ。
しかも!これは・・クーポン券チラシの裏紙!!
ドルチェ半額の部分が切れていますわ!クゥゥー!謀りおったなっ!

「ルチアーナさん、お別れの時が来たようですわ」

ガチャン!パリンッ!

ルチアーナの手から片づけていた茶器が床に落ちて割れてしまいます。

「そ、そんな!ポロネーゼはこれからなのです・・何故??」
「さぁ・・移動や転勤は上司が決めるものですから」

そこに、終業時間を迎えたスチュワートが・・・茫然と立っています。
ドアの向こうで聞いてたようですね。

「キャンティ様っ!」

キャンティに駆け寄るスチュワート。

「ウェィト!」

ピタリと止まる、スチュワート。

「シィッツ、ダァン!」

スチュワート、静かにソファに座ります。よく躾られていますね。
29歳、妖精になるまであと1年の派遣家令とは思えませんよ。

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