辺境伯のお嫁様

cyaru

文字の大きさ
上 下
57 / 87

ドアの覗き穴

しおりを挟む
外の風がビュービューと恐ろしげな音をたてていますが・・

「おぉぉ~出る出る~ジャンジャンバリバリ~ジャンジャンバリバリ~」

変な歌を時折、肩を揺らして「ウッ!ウッ!ハッ!イェェイ~」と
掛け声付きでクライゴウト(メス)の乳しぼりをするキャンティ。

先程の本邸の出来事とは真逆の空間ですね。
乳しぼりをしながら、ふいに・・・。

「そういえば、お前たちにも名前が必要よねぇ・・どうしようかしら?
 小説なんかだと名前を付けたら隷属の契約とかなんだよねー。
 そのあたり、魔獣だとどうなるんだろう?
 わたくしが下僕になって、 ミルクを絞らせてくださいませ!っとか
 言わなきゃいけないのかなぁ。
 おい!君!葦を用意したまえ!!っとか言われたり?・・・・言わないか」

「メェェ~メェェ~」
「そっか、そっか。言わないかぁ」
「メェェ~メェェ~」

持ってきた瓶の8分目までミルクがたまると、キュっと蓋を締めます。

「うわぁ・・ほんのり温かいんだぁ~なんか感激~!」
「メェェ~メェェ~」
「今晩、名前を考えてくるからメェェ~♪」
「メェェ~メェェ~」

仲良く毛づくろいを始めた2匹。キャンティは別邸に戻ります。
ふと小屋からの戻りに別邸に近づく人影を見つけましたよ。

「ん?スチュワートさんかな?こんな日に暇なのかな?」

そう呟いて、裏口から入ります。
裏口から入るとそこは調理場。壁の隅が赤くなっていますね。
あぁ。。ギルドからの魔道具に着信のお知らせですね

「うわぁ・・ミルクを絞ってるたった10分くらいの間に!
 ランバートさんどっかで見てるんじゃない??ウフフ」

ポチっと再生ボタンを押します。

「ご用件は、いっ、件です。
 最初の、メッセージ、です。カトレアの月、11日、午後、4時、56分
 ピー!
 こんにちは。アリシアです。この嵐でケガ人が多く出ていますので
 ポーションを追加で体力回復系を250お願いします。
 明日、転移魔法で瓶をお届けします。急ぎの注文ですので
 通常価格の1.45倍でお支払いをします。よろしくですぅ~ブィッ!
 ピー!
 このメッセージをもう一度聞くときは ゼロ、を、
 消去する時は、ナナ、を押してください」

今度は出来ますわよ・・赤と青のボタンを同時に・・ポチ!
おぉぉ~魔道具の上部にテンキーが出ています。

「で、7を押す!(ポチ)」
「メッセージ、を消去、しました。トゥートゥー」

「ふむふむ・・割増金額はどうでもいいわ。250本の回復系ね。
 ん?まてよ?あるんじゃないかなぁ・・」

先日大量に放心状態で作ったのがあったなとゴソゴソしていると
玄関ドアにノックの音がします。

コンコン。コンコン。コンコンココンコン。

「ん?スチュワートさんにしてはノックの音が・・変ね?
 スチュワートさんじゃないのかしら?」

玄関ドアの覗き穴を新設したキャンティは覗き込みます。

「やっぱ、スチュワートさんじゃないの」

ガチャリ

「いらっしゃい、スチュワートさん。どうされましたの?」
「ダメですよ奥様!いきなりドアを開けるのは危険です。確かめないと!」
「確かめましたわよ?」
「え?ですが、どなた?って言われてないですよね?」
「あぁ・・コレですわコレ!」

ドアの覗き穴を指さすキャンティ。
なんだこれは?という仕草で穴を覗き込むスチュワート。

「へぇー。開けなくても誰だかわかるんですねぇ・・初めて見ました」
「そりゃそうでしょう。職人さんも知らなかったもの」
「デスヨネー」
「で?何の・・ん?そのかばんは?」

スチュワートの足元にある大きめのカバンが目に入るキャンティ。

「実は・・」
「当てましょう!家出!ですわね!わたくしも若いころはよくしたわ!」
「若いって・・14歳で若いころっていつ頃ですかっ!」
「え?えーっと・・4歳とか?6歳とか?」
「それは若い!ではなく、幼い!でございますよ」
「そうとも言いますわね。オホホホ・・まぁお入りになって」
「お邪魔致します」

大きなカバンを玄関ドアの横に置き、キャンティに勧められるまま
椅子に座るスチュワート。
温かいお茶を出すキャンティ。

「(コポコポコポ)今日は、ほうじ茶ですのよ」
「ほうじ茶・・チャバシラはないんですね」
「まぁ・・今回は茶こし網がございますからね。ウフフ」
「茶こし網?なんです?それにそのポットの形は・・なんですか?」
「これは急須って言うんですって。アリシアさんに頂きましたの」
「え?この雨の中、お出かけされてたんですか?」
「えぇ、ギルド内にも魔法陣を張らせて頂きましたのよ」

ここに来ると、色々と驚くことが多いよなぁと思いつつお茶を一口。

「ほわぁ・・美味しいですね。先日の番茶とはまた違いますね」
「で?今日はどうされましたの?それにそのお顔・・」

ハっと頬を手で隠すスチュワート。
怪訝そうにその様子を見るキャンティ。

「三十路近くなっても、ケンカをされますの?」
「いえ、わたくしは手も足も出しませんので、ケンカにはなりません」
「スチュワート様、殴り合うだけがケンカでは御座いませんわ。
 殴れる方となると・・想像は付きますが、何かありましたの?」
「アハハ・・・辞めました」
「オホホホホ・・そうですの・・・って何を?」

椅子に座りなおすスチュワート。
さらに怪訝そうにその様子を見るキャンティ。

「家令の仕事を辞めてきました」
「まぁ・・そうですの・・で?これからどうなさるの?」

バッと椅子から離れて、床に美しい土下座をするスチュワート。

「キャンティ様!ここに置いてくださいませ!!」
「フェッ?!なんですって?ここに・・ですって??」
「ハイ!厩舎の隅でも、炭置場の端でも構いませんッ」
「えーっと。スチュワート様?」
「ハイっ!ありがとうございますッ」
「いえいえいえいえいえ・・違いますわ!
 ここには厩舎も炭置場もございませんわ」
「・・・・・・・・」

どうなる!スチュワートっ!!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。 しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。 それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。 一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。 しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。 加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。 レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~

大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア 8さいの時、急に現れた義母に義姉。 あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。 侯爵家の娘なのに、使用人扱い。 お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。 義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする…… このままじゃ先の人生詰んでる。 私には 前世では25歳まで生きてた記憶がある! 義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから! 義母達にスカッとざまぁしたり 冒険の旅に出たり 主人公が妖精の愛し子だったり。 竜王の番だったり。 色々な無自覚チート能力発揮します。 竜王様との溺愛は後半第二章からになります。 ※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。 ※後半イチャイチャ多めです♡ ※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】悪役令嬢に転生したのでこっちから婚約破棄してみました。

ぴえろん
恋愛
私の名前は氷見雪奈。26歳彼氏無し、OLとして平凡な人生を送るアラサーだった。残業で疲れてソファで寝てしまい、慌てて起きたら大好きだった小説「花に愛された少女」に出てくる悪役令嬢の「アリス」に転生していました。・・・・ちょっと待って。アリスって確か、王子の婚約者だけど、王子から寵愛を受けている女の子に嫉妬して毒殺しようとして、その罪で処刑される結末だよね・・・!?いや冗談じゃないから!他人の罪で処刑されるなんて死んでも嫌だから!そうなる前に、王子なんてこっちから婚約破棄してやる!!

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈 
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

処理中です...