辺境伯のお嫁様

cyaru

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内定もらってます・・と言われても。

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屋敷内は上を下への大騒ぎ状態。

「日頃の備えを怠ったツケですね・・・ツケ払いは危険でしたよ」

大きくため息をつくスチュワートの元にミリバールがやってきます。

「スチュワートさんっ!ミリバール参上!!ジャジャーン」
「忙しいところすまない。どうだ、やはり直撃か」
「はい、大きさからしてスポーンと入りますし、多少中心がずれても
 ズバーンっと直撃は避けられないっしょ」
「どのくらいになっているんだ?」
「朝の3時の時点で秒速120mのキッツイ風で気圧も750hPaと
 グングン成長をしている状態っすねぇ」

「上陸で弱まらないか?」
「無理無理。それで弱まるなら誰も苦労しませんってば!
 梅雨前線が先日からピターっと停滞してますしねぇ
 前線をチクチクと刺激しますから、雨は単純に今の倍以上を観測しそうっす」
「更に降るのか・・今どれくらいだ」
「現在は時間雨量60mmですね・・夜半にかけて100mmは超えっすね」
「そうか・・最大値の予測はどうだ」
「150mm行くだろうなぁって感じかな。今回のヘリケェンは記録に残りますね」

うーん・・・っと考え込むスチュワートに意外とお気楽者のミリバール。

「あのぅ・・伯爵様はどちらに?」
「あ、あぁ・・今は出かけているんだ」
「この雨に?この非常事態に??マーティン領から伝令も来てるのに??」
「あぁ、出かけていて・・いつ帰るかわからないんだ」
「うわぁ~。こう言ってはなんですが、伯爵様、余裕っすねぇ・・
 流されて~流されて~ってすりゃ懲りてくれますかねぇ」

「お前・・誰かに聞かれたら大変な事になるぞ」
「いいっす。だってあの伯爵様っすもん。もう内定もらってますし。
 このヘリケェンが過ぎて雨季が明けたら内定もらったトコに行きますモン。
 それより・・スチュワートさんは自分の心配したほうがいいっすよ?」

転職活動を既にやってて、内定をもらっていると言うミリバールに
驚くスチュワート。

「ちょ、おま・・内定って?どういうことだ?」
「どういうも何も・・給料はここ5年昇給もないですし?
 賞与は確かに2回ありますけど、2回で基本給1か月分っすよ?ないわー。
 で、先月伯爵様が、再来月から残業は月に72時間は基本給に含むことにしたとか
 頭ワイてんっスかね?36協定違反っすよ。
 労基にカチコミしようかと思いましたけど、転職したほうが早いかなーとか?」
「え?そんな話は聞いてないぞ」

「そうでしょうねぇ・・正式な書類は回ってきませんしねぇ。
 だけどね、労働者の俺らからしたら、やってられませんよ。
 あのズベタ令嬢とパコパコする金があるなら、給料上げろって感じ。
 それを残業カットですからねー。
 俺だけじゃないッスよ?内定もらってるの技術系多いっすよ?
 スチュワートさんも考えたほうがいいっスよ。
 何が嬉しくてあの伯爵に仕えるんすか?」

「それはそうなんだが・・・そうか・・内定・・多いのか・・」
「ま、今は非常事態なんでやる事はやるっすよ。
 一応、雨季が明けた時の心構えはした方がいいっす。じゃ戻りますねー」

スチュワートの頭の中はゴチャゴチャですねぇ。
確かに、この非常時なのでミリバールの空気読めない感は頂けませんが
それよりも、こんな中でも遊びに行って留守って伯爵様は・・ダメだよねぇ。

屋敷の中は比較的静かになってきましたね。
みんな、指示通りの事を終わったんでしょう。
少しでも早く帰れるなら家族の元に帰りたいもんね。

執務室は屋敷の端にありますので、多分最後なのでしょう。
下男が雨に濡れながら窓に木の板を打ちつけています。

指ペンくるくるをしながらスチュワート・・考えてますね。
引き出しに白紙の履歴書があったら書いてるかも知れないなぁ・・。

「技術者が抜けたら・・こんな辺境の地に来る人はいるでしょうか・・。
 いないでしょうねぇ
 しかし、給料の件は・・事務課には話がいってるんでしょうか・・。」

トントンと木を打ちつける音がなくなり、雨の打ちつける音が
少し籠ったような音に変わりましたね。

スチュワートは雨合羽を手にして、キャンティの元に向かいました。



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