辺境伯のお嫁様

cyaru

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伯爵様にドンピシャなお茶

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スチュワートさんの前に出たわたくしは、扇子を口元に広げましたわ。

ばっ!(扇子 装着!!)
「旦那様、立っていては何ですから、お座りくださいませ」
「ふっ、ふんっ!茶だ!茶を出せ!」
「かしこまりましたわ、怒りを鎮め、心を見直すお茶を淹れますわ」
「さっさと淹れろ。そしてこいつらを何とかしろ」

「旦那様?なんとかしろ・・とは彼らを帰せという事ですか?」
「物分かりがいいじゃないか。その通りだ」
「では、工事の許可は本当にされていないと仰るのね?」
「あぁ、しておらん。だから銭は今日の分も出さんぞ」

「わかりましたわ。工事費については結構です。わたくしが支払いましょう」
「そうだな、宝石やらドレスを売って金を作れ!」
「で?決済をされていないとの事ですので、ギルド商会に問い合わせまして
 そこにある控えを帝都の裁判所に送って真偽を問う事にしますわ」
「な・・なんだと?裁判所?」

「ええ。そうですわ。
 工事を許可されておらず、見積書についてもその金額でOKも出してない。
 そうなりますとギルド商会が不法侵入、家屋損壊をしたことになります」
「そ、そうだな。勝手に壁を剥ぎおってからに!」

「ギルド商会には旦那様の直筆サインの入った工事を許可する旨の
 見積書を兼ねていると思いますが工事発注書が出されているはず。
 工事発注書は、ギルド側に写しが、伯爵家に原本がございます。
 写しが偽物というのであれば、原本との相違があるはずですし、
 サインもされていないのであれば、文書偽造でもありますわ」
「え?原本?写し??何だそれは?」

「裁判所を通せば真偽のほどもわかりますし、
 誰が旦那様に成りすましてサインをしたかもわかりますわ」
「あ、あの奥様!わたくしの手違いで・・」

わたくしは、キッとスチュワートさんを睨みつけましたわ。
「ひょえっ・・」

「わたくしは、旦那様いえ、伯爵様と話をしているのです。お黙りなさい」
「も、申し訳ございません」

「わたくしは、大変残念で遺憾ですわ」
「何が残念だって??」
「だって、皇帝陛下の命令でこの伯爵家に嫁いだものですから上からの命令に逆らう事もできないヘタレ伯爵は 
 数か月捨て置かれても仕方ない人間を辞めた発情期のサル と認識しておりましたの。
 雨季が近いからと屋根の工事をしてくださる甲斐性なしもここまで来ると犯罪よ!と
 これは皇帝陛下や宰相様に近況報告が出来るチクってしまおうかと思っておりましたのに」

そう言うと、伯爵様をちらり・・と見ます。
出来れば目線があってほしいわね・・ニヤっと笑ってあげるのに。

「裁判所やら陛下やらと言えば、俺が許すと思っているのだな!」
「いいえ?」
「な、なら許さなくても構わないという事だろう」
「さぁ?それはわたくしには判断しかねます」

やっと伯爵様と目があいましたわ。
伯爵様はすぐに目線を外されましたけども。

「職人さんがここにいるという事は、正式に許可をされたという事。
 伯爵家の敷地内の事ですから帝都へもギルドから速達便が届いているでしょう。
 先の戦争から届けのない工事を城や屋敷にはしてはいけませんのでね」
「書類の流れなど俺は知らん!」

「その工事を許可した覚えも、見積書を認可した事もないと仰いましたわね?」
「何度も聞くな!工事など知らん!」

「雨漏りのするような別邸にわたくしが住んでいるのを不憫に思って
 工事の許可をしてくださったと思いましたのに
 それが思わぬ犯罪をあぶりだす事になり、大変ようございましたわ。
 しかも伯爵様のお名前を勝手に使用すると言う大胆な手口。
 これは貴族院にも調査を願わねばなりませんわね。
 あら、わたくしとしたことが、すぐお茶を持ってまいりますわ」

一旦伯爵と物理的距離を取るキャンティ。
すかさずスチュワートがヴィヴィアンに近寄ります。

「旦那様!非常にマズいですよ!」
「何がだ?」
「何が?じゃありません。リンダ嬢に呼ばれてノコノコ出ていったのが
 マズかったんだと、ここは折れてください」
「馬鹿を言うな。何故俺が折れなければならんのだ」
「決済、認可はされているのです。昨日説明を聞かずにサインをしています。
 ギルドにもその直筆での許可証の控えがあるんです」
「だったら、どうしたと言うんだ」

はぁ・・っとため息をついてスチュワートは

「ですから、旦那様は今、自分の書いたサインが偽物だと
 ここで叫んでいる状態なんですよ」
「偽物ではないが、覚えがないだけだ」

「それがダメなのです。中身を確認もせずサインをする。
 それを後で覆すのは難しいのです。まして屋敷の工事ですから
 帝都に報告の義務があるんです。要塞や砦だと思われると困るのでね。
 と、いう事はぶっちゃけ今の段階では、中身がどうあれ認めたって事です」
「それなら何故あの時に説明しないんだっ!」

「だから!それをまたここで言うと・・ほら奥様がもう来ます。
 折れてくださいよ!!」
(ほんとにもう!いい加減にしてくれ。エメロード祭が終わったら
 子爵家に引き取ってもらおうかな・・)

「お待たせいたしましたわ。どうぞ」
「奥様、このお茶は?」
「伯爵様にピッタリだと思いまして、作ってみましたの」
「私に合うお茶だと?」
「えぇ。のです」

お茶を一気に飲み干すヴィヴィアン。首を傾げていますね。
(はぁ?これが旨いのか?
 いや、帝都では洗練された味なんだろう・・よしここは・・)
スチュワートはキャンティを横目でちらり・・・
(うわ・・怖っ・・)

一見見た感じでは表情に変化はありませんが、
口元が少し、ほんの少し上がってます。
怖いと感じるスチュワート。全身に冷や汗が流れます。

「うん、美味いな。もう一杯くれ」
「えぇ、どうぞ」

カップにお茶を注ぐキャンティ。また飲み干し不思議な顔をするヴィヴィアン。
(やはり、臭い気がするな・・臭いと言うより単に雑草を煮ただけ?)

「この茶はなんというか・・・美味いな」
「味の違いが判りましたのね?さすがですわ」
「この茶に免じて工事を許可しよう」
「ありがとうございます。ですが、工事の許可だけで結構ですわ。
 支払はわたくしが致しますので伯爵様のお金は不要ですわ」
「ふ、ふん、工事代金程度で勝ったと思うなよ」
「まさか、その程度の金額で勝った負けただの・・ばかばかしい」

3杯目のおかわりをしてヴィヴィアンは本邸に戻りました。

「お、奥様・・申し訳ございません」
「いえ、いいのよ」

茶器を片づけるキャンティから、スチュワートは茶器を受け取ります。
「ところで、さっき旦那様が飲んだお茶は?」
「天人唐草ですわ」
「天人唐草とは??東方の国の珍しいお茶ですか?」
「いいえ?ほら、そこに群生しておりますわ」

庭を見ると、薄青い小さな花をつけた草がありますが・・・
「アレ・・ですか?」
「えぇ。そうよ。伯爵様にピッタリのお茶でしょう?
 味としては、単に草を煮るか湯に浸けるか程度の臭い味。
 風味や香りなどありもしませんわ。毒ではないというだけが利点ですわ」
「うわ・・キツそうですね・・でも名前はカッコいいですよね?」

キャンティはフフフ・・っと笑います。

「伯爵様にピッタリだと言ったでしょう?
 味も香りもなく臭いけれど、毒がないだけが利点だと・・。
 そして天人唐草の別名は、イヌノフグリ。
 オオイヌノフグリでは御座いませんわね。オホホホ」

「フグリって・・・まさか・・」
にそっくりでしょう?
 まさに?ドンピシャだわ」

スチュワートは心に決めました。
「この人は、絶対に怒らせてはいけない・・」 と。
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