辺境伯のお嫁様

cyaru

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家令による華麗な密談

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伯爵様の執務室を訪れたスチュワート。
最後の決済をしてもらう書類を扉の前で確認をしてノックします。

コンコン

部屋の中から声がしません。おかしいですね??
もう一度ノックします。

コンコン

「はい・・ちょ、ちょっと待て・・」

中に伯爵様は在室のようですが、待てと言われれば待つしかありません。
(あぁ!さっさとサインもらってギルドに連絡しなきゃいけないのに!)

焦るスチュワートにようやく入室OKの声が聞こえます。
ガチャリ。

「ど、どうしたんだ?」
「旦那様、決済の書類をお持ちしました。急ぎ案件もございますので
 ちゃっちゃと済ませてくださいますよう」
「あぁ、わかった。持ってきてくれ」

案件ごとにまとめた書類を伯爵様の机に並べようとすると・・

「あぁ、1案件ごとにおいてくれ。順にサインをする」
「へ?中身を確認されないのですか?」
「今日はあと30分もしたら出掛けるんだ。いちいち見ている時間がない」
「ですが、これは伯爵領の収支に関係する書類なのです」
「構わん。そんなものよりリンダが呼んでるんだ」
「はぁ・・・またあのご令嬢ですか・・いい加減にされてください」
「いいから!ほら!出せ!」
「知りませんよ?後から俺は知らないなどと言わないでくださいね」
「言う訳ないだろう。さぁ!出せ」

急かすヴィヴィアンの言う通りに1案件ごとに書類をだします。

「まずは、西の村からの公民館の床を・・」
(サラサラ~)
「ほい!次!」

「こちらも西の村の役場の・・」
(サラサラ~)
「次!次!」

「これは、東の・・」
(サラサラ~)
「次出せ!次!」
((くそっ!次は早口で言ってやるッ!))

「これは、領の婦人会で・・」
(サラサラ~)
「次だ!次だ!」
((ぐぅぅ~・・もっと早口で・・))

「これは、治水たいさ・・」
(サラサラ~)
「次!次だよ!」
((ぐぅぅ~・・ちくしょぉぉ・・))

「こふぇは・・」
(サラサラ~)
「次!次!次だよ!ほら!出せ!」
((ぐぅぅ~・・噛んだじゃないか!くっそぉぉ!))

「はい」
(サラサラ~)
「次!あといくつだぁ~?」

「こちらで最後です」
(サラサラ~)
「よし!今日も仕事をしたぞ!じゃ、俺は行く!いくイク~♪」
((バカだろ?なぁ・・バカなんだろ?))

書類を見ずにサインだけして、執務室から飛び出していくヴィヴィアン。
廊下を走る足音を聞きながらスチュワートは何とも言いようのない
気持ちになります。

「あれでも騎士しか経験がないなりに領地を駆け回って立て直した人だ。
 我慢だ・・我慢だ」

伯爵様の執務室から出て廊下を歩くスチュワートに侍従が声をかけます

「スチュワート様、使者が戻っております」
「ん?そうか。わかった。私の部屋に通してくれ」
「かしこまりました」

立ち去ろうとする侍従をスチュワートが呼び止めます。

「あ!すまない。急ぎ奥様に付けている監視者を全員呼んでくれ」
「良いのですか?監視を外しても・・」
「あぁ、どのみち明日からは工事になるんだ。工事中は外しておこう」
「かしこまりました。ヤットコも呼びますか?」
「そうだな・・ヤットコ達は20時に来るように言ってくれ」
「はい、かしこまりました」
「すまない!これを急ぎ事務課に!ストラドリンにギルドに至急通せと」
「わかりました。至急ですね!」

*****************************************************
スチュワートが自身の執務室に戻ると3名の男が待っていますね。

「ご苦労だった。まぁそのまま。座っててくれ」

声をかけ、侍女にお茶を入れるように言い、ソファに腰を掛けます。
カチャ、カチャ・・・と侍女がお茶を並べていきます。

「呼ぶまで席を外してくれ」
「はい」

侍女が部屋から出ると、男の中の一人が結界魔法を張ります。
結界が張り終えたと男が頷くとスチュワートは口を開きます。

「どうだった?」
「はい、酷いものでした。まずはこれを見てください」

男が出した用紙には、種別、日付、金額がびっしりと書かれています。
手に取り、眉間の皺がグッキリと入るスチュワート。

「ご説明いたします。
 まず、種別ですが農作物から工芸品、木工品、製鉄ととにかく
 横流しを確認しております。
 密輸先は、奥方の出身国であるシャルベ王国のブリゴーキ商会です」
「売り上げた金はどうなっている」
「一旦、
 ロンダ商会という実態のない商会の帝国のハブリ銀行の口座に送金。
 そのあと、
 リング商会というこれも実態のない商会で
 トバチリ王国のバイセ銀行の口座に送金。
 また同じように
 ハップ商会という実態のない商会の帝国のイクバ銀行の口座に送金。
 このあと、イクバ銀行の支店違いで2人の個人名義の口座に3回に分けて送金。
 最後にチョッチ銀行のポロネーゼ本店の口座に数日に分けて送金されております」

「なるほど・・・これが噂のマネーロンダリング。資金洗浄というやつか」

「ですが、それだけではなく、トバチリ王国ではリング商会で調整を
 かけているようで、カルート教という宗教団体に寄付もしております。
 代表神官はヤツの奥方の兄、兄嫁、その息子となっております」

「むう・・・で、金額は・・これか・・」
「はい、ですがそれは潜入して現認したものですので、
 潜入時点で洗浄ルートが出来上がっているという事は
 10倍以上の金額は抜かれている・・という事になります」

「わかっているだけで11億か・・そりゃ貧乏になるわけだ」
「えぇ、その金額があれば、領地通課税は撤廃してもお釣りが来ます」
「口座は凍結できるか?」
「チョッチ銀行には話を通しております。来月のエメロード祭りに合わせて
 全店がシステム入れ替えを致しますのでその折に初日に口座を凍結。
 翌日には残高を伯爵領口座に移し、口座を抹消する手配です」

「システム回復はその翌日か?」
「いえ、エメロード祭りは3日間ですが5年前から4日目を後夜祭と伯爵様は
 制定されましたので、システム回復は翌日が銀行営業日ですから
 抹消から3日後となります。捕縛する時間も十分です」
「対象の口座は3つか・・・幾らの残高になっている?」

「父親のインキーンタムーシ名義の口座は46億5000万
 母親のリンビヨーット名義の口座は18億と200万
 娘のリンダ名義の口座は7億6700万となっております」

「親子で約80億か・・・まぁ10年も踊らされたらこうなるわな。
 使われた額は途方もない。回収も見込めないだろうな」
「えぇ・・口惜しい限りです」

「わかった。予定通り頼む」
「伯爵様にはいつご説明を?」
「終わった後だ。夢は少しでも長く見させてやろう」
「御意」

黙っていた2人目の男が、お茶を一口飲んでソーサーに置きます。

「では、続いてわたくしの結果報告を」

スチュワートは小さく頷きました。



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