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2回目の人生
最終話 2度もあなたには嫁ぎません
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「私、レンタル業をしようと思うの」
ヴァルスが持ってきた沢山の事業紹介の中にレンタル業はない。
ただ、その中のいくつかの書類を抜き出しオデットはヴァルスに告げた。
「レンタル業って‥何を貸すんだ?」
「手っ取り早いのはドレスかな。デヴュタントで皆白い衣装を着るでしょう?でも人生1回なの。確かに生涯で1回だけなら奮発しようって人もいると思うけど、買いたくても買えない人もいるのよ」
「うん、それで?」
「だからね。その年に流行りそうな型に毎年作り替えるのよ。作り替えるというか手を加える?だってデヴュタントは社交シーズンの開幕だからその日が終われば1年も猶予があるの。選んでもらう期間を引いても10か月。貸衣装なわけだから、余程な汚れは落としてもらうかするし、落とせないなら買取になるわね。他にも記念に欲しいなら中古だから安く買えるでしょう?」
「つまり、記念にも取っておかないとなればオデット嬢に買い取って貰えると?」
「そう言うこと。公爵家、侯爵家、辺境伯家になると売るって事にならないと思うけど、伯爵家以下の爵位なら売りたい人もいると思うのね」
「ははっ。それってもしかしてオデット嬢も買い取ってくれるなら売ろうと思ってるからか?」
「そうよ?でも私だけじゃないの。ケイトもディアナももう着る機会も無いしドレスってね、保管も面倒なのよ。着ないのに影干しに風通し、虫を寄せ付けない薬も必要だし。使うメンテは良いけど使わないのにメンテって勿体ないでしょう?」
「面白そうだね。流行の型に手を入れるからお針子にも仕事があるって訳だ」
「そう言うこと。あと…ガッティネ公爵子息様が――」
「オデット嬢。呼び名だが名前でいい。家名だと無駄に長い。不敬なんて言わないよ」
「そう?じゃぁ…ヴァルスさん…でいいかしら」
――あれ?なんで胸を抑えてるのかしら‥ハッ!持病の癪?――
耳まで赤くしたヴァルスに「ははーん」と感じたオデットは名前を連呼してみた。
「ねぇ。ヴァルスさん」
「うっ…」
「ヴァルスさん?ねぇったら。ヴァルスさん?」
「オデット嬢、遊んでいるだろう?男心を弄ぶとは!!」
「遊んでないわ。でね?持ってきてくれたこの事業の中の染色と廃棄する羊毛の再生。これも使えると思うの。刺繍とか縫製をするのにどうしても糸も必要だし、自前で染色も出来るのなら配合を変えたオリジナルな色で刺繍も出来るわ」
「ふむ。面白いな。問題は――」
「資金ね」
「私と結婚をすれば伯爵家として融資を広く呼び掛けられるし、公爵家からも何らかの支援が見込めるぞ?」
「結婚?しませんよ。2度もあなたの妻になるのはお断り」
「だから!本当に大事にします!結婚してください!許可があるまで触れないから。な?頼むよ。この通り!」
ヴァルスは頭を下げるがオデットがまだ結婚をしない理由も解っているので半分はふざけている。
「私はまだ15歳だから、色んなことをしてみたいの。両親も好きにしていいって言ってるし、1度しかない人生なら事業なら事業で思いっきり打ち込んでみたいの」
そう言われてしまえばヴァルスは待つしかない。
悪い虫が付かないように身近にいて、せっせと羽虫を払い除けながら。
「解った。じゃぁ資金についてはマルネ子爵家として呼びかけてみよう。その前に…この仕事をしてみないか?」
「何?」
ヴァルスが持ってきたのは騎士団の隊服だった。
動きも激しい騎士団の隊服は擦れてしまって布が薄くなり着られなくなる。
しかし背中など使える部分は多く現在はそのまま廃棄で焼却をしているのだが、元は既製品なので数着の糸を解き、傷んでいない部分で1着を作る。そうすれば平民で新規入隊したものなどは安く買い揃えることが出来る。
「隊服かぁ。難しいのよね」
「だからさ。この仕事を請け負っていますとなればレンタル業をするにあたって縫製には自信ありと思わせる事が出来るんじゃないか?きっと何年も手を入れて使いまわすドレスだって出て来るだろうしさ」
「それもそうね」
「何より騎士団となれば上は王家、下は平民までいるからデヴュタントのドレスに限らずフォーマルな装いをする時の衣類にも手を広げることも出来るだろう?」
「ヴァルスさん!凄い!やっぱり年の功ね!」
「10歳しか違わないから!」
「10歳も違えば十分におじさんよ?」
ヴァルスは何気に鋭い刃物で心臓が切られた気がする。
目の前で楽しそうに夢を語るオデットを見ているとヴァルスは自然と笑顔になって来る。
生涯をオデットに捧げると決めた。
石の力だったかも知れないが、強く願ったのも事実。
結婚をしなければ伯爵家はずっと休眠となるがそれでも良いと思えた。
1つ空きがあれば兄が何人か子供をもうけても渡してやることも出来る。
それにいつか、笑顔で夢を語るオデットに手を伸ばしても防御をされなくなる日が来るかもしれない。
フロリアに「二度もあなたに付き合えない」と言ったが、オデットの心の傷が癒える日までは同じことを言われるだろう。
今の生き方でしてしまった所業ではなくても、償いは必要。自分はそれだけの事をしてしまった記憶がある以上、オデットに無理強いは出来ない。
オデットが「この人と結婚する」と男を紹介する日もあるかも知れない。
そんな日が来ないように願う生き方もいいのではないか。
ヴァルスは笑顔のオデットに優しく微笑んだ。
Fin
長い話にお付き合い頂きありがとうございました(*^_^*)
返信はノロノロですけどもお待ちくださいね♡
※公開後ですけども書き忘れ~。
恒例の「どS」なあなたに贈る話が気が付いたら公開になります(;^_^A
ヴァルスが持ってきた沢山の事業紹介の中にレンタル業はない。
ただ、その中のいくつかの書類を抜き出しオデットはヴァルスに告げた。
「レンタル業って‥何を貸すんだ?」
「手っ取り早いのはドレスかな。デヴュタントで皆白い衣装を着るでしょう?でも人生1回なの。確かに生涯で1回だけなら奮発しようって人もいると思うけど、買いたくても買えない人もいるのよ」
「うん、それで?」
「だからね。その年に流行りそうな型に毎年作り替えるのよ。作り替えるというか手を加える?だってデヴュタントは社交シーズンの開幕だからその日が終われば1年も猶予があるの。選んでもらう期間を引いても10か月。貸衣装なわけだから、余程な汚れは落としてもらうかするし、落とせないなら買取になるわね。他にも記念に欲しいなら中古だから安く買えるでしょう?」
「つまり、記念にも取っておかないとなればオデット嬢に買い取って貰えると?」
「そう言うこと。公爵家、侯爵家、辺境伯家になると売るって事にならないと思うけど、伯爵家以下の爵位なら売りたい人もいると思うのね」
「ははっ。それってもしかしてオデット嬢も買い取ってくれるなら売ろうと思ってるからか?」
「そうよ?でも私だけじゃないの。ケイトもディアナももう着る機会も無いしドレスってね、保管も面倒なのよ。着ないのに影干しに風通し、虫を寄せ付けない薬も必要だし。使うメンテは良いけど使わないのにメンテって勿体ないでしょう?」
「面白そうだね。流行の型に手を入れるからお針子にも仕事があるって訳だ」
「そう言うこと。あと…ガッティネ公爵子息様が――」
「オデット嬢。呼び名だが名前でいい。家名だと無駄に長い。不敬なんて言わないよ」
「そう?じゃぁ…ヴァルスさん…でいいかしら」
――あれ?なんで胸を抑えてるのかしら‥ハッ!持病の癪?――
耳まで赤くしたヴァルスに「ははーん」と感じたオデットは名前を連呼してみた。
「ねぇ。ヴァルスさん」
「うっ…」
「ヴァルスさん?ねぇったら。ヴァルスさん?」
「オデット嬢、遊んでいるだろう?男心を弄ぶとは!!」
「遊んでないわ。でね?持ってきてくれたこの事業の中の染色と廃棄する羊毛の再生。これも使えると思うの。刺繍とか縫製をするのにどうしても糸も必要だし、自前で染色も出来るのなら配合を変えたオリジナルな色で刺繍も出来るわ」
「ふむ。面白いな。問題は――」
「資金ね」
「私と結婚をすれば伯爵家として融資を広く呼び掛けられるし、公爵家からも何らかの支援が見込めるぞ?」
「結婚?しませんよ。2度もあなたの妻になるのはお断り」
「だから!本当に大事にします!結婚してください!許可があるまで触れないから。な?頼むよ。この通り!」
ヴァルスは頭を下げるがオデットがまだ結婚をしない理由も解っているので半分はふざけている。
「私はまだ15歳だから、色んなことをしてみたいの。両親も好きにしていいって言ってるし、1度しかない人生なら事業なら事業で思いっきり打ち込んでみたいの」
そう言われてしまえばヴァルスは待つしかない。
悪い虫が付かないように身近にいて、せっせと羽虫を払い除けながら。
「解った。じゃぁ資金についてはマルネ子爵家として呼びかけてみよう。その前に…この仕事をしてみないか?」
「何?」
ヴァルスが持ってきたのは騎士団の隊服だった。
動きも激しい騎士団の隊服は擦れてしまって布が薄くなり着られなくなる。
しかし背中など使える部分は多く現在はそのまま廃棄で焼却をしているのだが、元は既製品なので数着の糸を解き、傷んでいない部分で1着を作る。そうすれば平民で新規入隊したものなどは安く買い揃えることが出来る。
「隊服かぁ。難しいのよね」
「だからさ。この仕事を請け負っていますとなればレンタル業をするにあたって縫製には自信ありと思わせる事が出来るんじゃないか?きっと何年も手を入れて使いまわすドレスだって出て来るだろうしさ」
「それもそうね」
「何より騎士団となれば上は王家、下は平民までいるからデヴュタントのドレスに限らずフォーマルな装いをする時の衣類にも手を広げることも出来るだろう?」
「ヴァルスさん!凄い!やっぱり年の功ね!」
「10歳しか違わないから!」
「10歳も違えば十分におじさんよ?」
ヴァルスは何気に鋭い刃物で心臓が切られた気がする。
目の前で楽しそうに夢を語るオデットを見ているとヴァルスは自然と笑顔になって来る。
生涯をオデットに捧げると決めた。
石の力だったかも知れないが、強く願ったのも事実。
結婚をしなければ伯爵家はずっと休眠となるがそれでも良いと思えた。
1つ空きがあれば兄が何人か子供をもうけても渡してやることも出来る。
それにいつか、笑顔で夢を語るオデットに手を伸ばしても防御をされなくなる日が来るかもしれない。
フロリアに「二度もあなたに付き合えない」と言ったが、オデットの心の傷が癒える日までは同じことを言われるだろう。
今の生き方でしてしまった所業ではなくても、償いは必要。自分はそれだけの事をしてしまった記憶がある以上、オデットに無理強いは出来ない。
オデットが「この人と結婚する」と男を紹介する日もあるかも知れない。
そんな日が来ないように願う生き方もいいのではないか。
ヴァルスは笑顔のオデットに優しく微笑んだ。
Fin
長い話にお付き合い頂きありがとうございました(*^_^*)
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