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2回目の人生
第39話 2度もあなたには付き合えません
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まともじゃないとロッバルトに注意はされたがヴァルスは「構わない」と返した。
おそらくこの城で、いやこの国でフロリアの言っている意味が判るのは自分とオデットしかいない。だがオデットをフロリアに会わせることは出来ない。
オデットは違う生き方を選んで、今、生きている。
ヴァルスも同じ轍は踏まぬと心に決めて生きている。
しかしフロリアだけは変わっていない。
そこにこの摩訶不思議な現象の答えがあるような気がしたのだ。
扉は外から施錠をされて、扉の前を守る兵士からは「気を付けてください」と気遣われた。
扉が開くとその言葉の意味が判る。
フロリアは人の気配を感じ、一目散にヴァルスに向かって走ってきた。
「貴方ね?貴方なのね?私の石をどうしてくれるの!」
「石?妃殿下、何のことでしょうか」
「何のことですって?石よ!私の石!見てみなさいよ!割れたの!もう宝飾品じゃなくただの石ころよ!」
フロリアは半狂乱になり、髪も振り乱してヴァルスに手のひらに握った砕けた石を見せた。石の色は本当に庭や道端に転がっている石になりくすみ以前に光沢などまるでない。
しかし、石だけではなくフロリアは何とか元に戻そうとしたのか手のひらには台座もあった。ヴァルスにはその台座、見覚えがあった。
記憶にある人生の最期。オデットが吊るされた城壁の足元、剣で喉を吐いた時に叶わぬであろう願いを込めた石の台座だった。
全てが繋がった。いや、全てではないかも知れない。知らない事のほうが多いのだろうが少なくとも自身とオデットに起こった現象の根源はこの石だったのだ。
「この石は…」
「やっぱり知っているのね。これは我が国に伝わる秘宝よ。蘇りの石なの。何度だって蘇るわ。だから…進化した世の中でこの先も!!あと何百回も!!生きられるはずだったのに!!」
「そういう事か…生憎だが使用限度があった。それだけの事だろう」
「だぁとしてもッ!!まだあったはずよ!勝手に使うから!誰かが勝手に使うから!!」
「しかし、石はここにある」
「今はね。でも石の存在を知っている者が私が存在を知る前に持ち出して使っていたら?王家の秘宝よ?きっと家人がこっそりと元の場所に戻すわよ…なんてことなの!この石を使っていいのは私だけなのに!!」
「憐れだな…お前も、あの男と同じだ」
「あの男ですって?そいつも使ったの?断りもなくっ?!」
「そういう意味ではない」
「どんな意味だっていいわ。ヴァルス。貴方、私の事が好きだったでしょう?お願い。この石を何とかして。公爵家の財産が有れば残っている魔法使いをこの石の中に閉じ込められるでしょう?なんとかしてくれるなら貴方に抱かれたっていいわ。そうよ…貴方もロッバルトも同じ色を持つんだもの。子供が出来たって誰も怪しんだりしないわ」
触れて来るフロリアの手をヴァルスは払った。
反動でフロリアの手に握られていた石と台座が床に散らばり、フロリアは慌ててそれらを床に這い蹲って拾い集めた。
「いい加減になされよ!」
「ない‥ないわ…どこに飛んだの?足らないわ」
「妃殿下!!いい加減にされよと申しているッ!」
「どうでもいいから!探して!ないの!足らないのよぉぉーっ!」
「妃殿下。石はもうないのです。欠片を集めたところで欠片にしか過ぎません。元には戻らないのです」
「なんでそんな事を言うの!貴方はいつもわたくしに従ってくれたのに!」
「それは前の人生です!今ではない。私は今、生きているこの時間を使い、2度もあなたには付き合えません。前とは違うのです。何度も蘇ることが出来たならもういいじゃないですか」
「良くない!良くないのよ!誰もわたくしを崇めない、誰もわたくしを褒めたたえない!でも何度も繰り返せばきっと機会が――」
「来ません!遊び惚けて自堕落な生活を送り、誰が褒めたたえますか。誰が崇めるというのですか。その経験があるのなら、そうなるまでに貴女は尽力した筈だ。尽くすことをやめ、怠った人生を何度も送り、貴女は何がしたいんだ。誰かに認めて欲しい、褒めて欲しいと思うなら何故動かない。そんな人生は何度送っても同じだ。だから終わりが来たんですよ!」
「じゃぁどうしろと言うの!何をしろと言うの!何もかも先に進んで解らないのよ!わたくしの知らないものばかりで解らないのよ!やり残したことが沢山あったのよ!悔しかったのよ!」
「なら知れば良いではないですか。文明が進むことは良い事です。勿論悪い事だってあるでしょうが、知らなければ知ればいい。解らなければ解る者に問えばいい。国同士の政略や思惑があり貴女はこの国に嫁いだ。まだ嫁いで日も浅い。幾らだって挽回は出来ます。知ろうとする事、努力することを終えるのは心残りもあったでしょう。しかし、次の世代への課題を残したと思えばいいではありませんか」
「うわぁぁぁー‥あぁぁーっ」
「妃殿下、記憶があるのならそれを使って民のために役立ててください。愚行には2度も付き合おうとする者はいませんが、前を向いてくださるのなら共に手を携える人は沢山いますよ」
ヴァルスは泣きじゃくるフロリアに言葉をかけると敬礼をして部屋を出た。
おそらくこの城で、いやこの国でフロリアの言っている意味が判るのは自分とオデットしかいない。だがオデットをフロリアに会わせることは出来ない。
オデットは違う生き方を選んで、今、生きている。
ヴァルスも同じ轍は踏まぬと心に決めて生きている。
しかしフロリアだけは変わっていない。
そこにこの摩訶不思議な現象の答えがあるような気がしたのだ。
扉は外から施錠をされて、扉の前を守る兵士からは「気を付けてください」と気遣われた。
扉が開くとその言葉の意味が判る。
フロリアは人の気配を感じ、一目散にヴァルスに向かって走ってきた。
「貴方ね?貴方なのね?私の石をどうしてくれるの!」
「石?妃殿下、何のことでしょうか」
「何のことですって?石よ!私の石!見てみなさいよ!割れたの!もう宝飾品じゃなくただの石ころよ!」
フロリアは半狂乱になり、髪も振り乱してヴァルスに手のひらに握った砕けた石を見せた。石の色は本当に庭や道端に転がっている石になりくすみ以前に光沢などまるでない。
しかし、石だけではなくフロリアは何とか元に戻そうとしたのか手のひらには台座もあった。ヴァルスにはその台座、見覚えがあった。
記憶にある人生の最期。オデットが吊るされた城壁の足元、剣で喉を吐いた時に叶わぬであろう願いを込めた石の台座だった。
全てが繋がった。いや、全てではないかも知れない。知らない事のほうが多いのだろうが少なくとも自身とオデットに起こった現象の根源はこの石だったのだ。
「この石は…」
「やっぱり知っているのね。これは我が国に伝わる秘宝よ。蘇りの石なの。何度だって蘇るわ。だから…進化した世の中でこの先も!!あと何百回も!!生きられるはずだったのに!!」
「そういう事か…生憎だが使用限度があった。それだけの事だろう」
「だぁとしてもッ!!まだあったはずよ!勝手に使うから!誰かが勝手に使うから!!」
「しかし、石はここにある」
「今はね。でも石の存在を知っている者が私が存在を知る前に持ち出して使っていたら?王家の秘宝よ?きっと家人がこっそりと元の場所に戻すわよ…なんてことなの!この石を使っていいのは私だけなのに!!」
「憐れだな…お前も、あの男と同じだ」
「あの男ですって?そいつも使ったの?断りもなくっ?!」
「そういう意味ではない」
「どんな意味だっていいわ。ヴァルス。貴方、私の事が好きだったでしょう?お願い。この石を何とかして。公爵家の財産が有れば残っている魔法使いをこの石の中に閉じ込められるでしょう?なんとかしてくれるなら貴方に抱かれたっていいわ。そうよ…貴方もロッバルトも同じ色を持つんだもの。子供が出来たって誰も怪しんだりしないわ」
触れて来るフロリアの手をヴァルスは払った。
反動でフロリアの手に握られていた石と台座が床に散らばり、フロリアは慌ててそれらを床に這い蹲って拾い集めた。
「いい加減になされよ!」
「ない‥ないわ…どこに飛んだの?足らないわ」
「妃殿下!!いい加減にされよと申しているッ!」
「どうでもいいから!探して!ないの!足らないのよぉぉーっ!」
「妃殿下。石はもうないのです。欠片を集めたところで欠片にしか過ぎません。元には戻らないのです」
「なんでそんな事を言うの!貴方はいつもわたくしに従ってくれたのに!」
「それは前の人生です!今ではない。私は今、生きているこの時間を使い、2度もあなたには付き合えません。前とは違うのです。何度も蘇ることが出来たならもういいじゃないですか」
「良くない!良くないのよ!誰もわたくしを崇めない、誰もわたくしを褒めたたえない!でも何度も繰り返せばきっと機会が――」
「来ません!遊び惚けて自堕落な生活を送り、誰が褒めたたえますか。誰が崇めるというのですか。その経験があるのなら、そうなるまでに貴女は尽力した筈だ。尽くすことをやめ、怠った人生を何度も送り、貴女は何がしたいんだ。誰かに認めて欲しい、褒めて欲しいと思うなら何故動かない。そんな人生は何度送っても同じだ。だから終わりが来たんですよ!」
「じゃぁどうしろと言うの!何をしろと言うの!何もかも先に進んで解らないのよ!わたくしの知らないものばかりで解らないのよ!やり残したことが沢山あったのよ!悔しかったのよ!」
「なら知れば良いではないですか。文明が進むことは良い事です。勿論悪い事だってあるでしょうが、知らなければ知ればいい。解らなければ解る者に問えばいい。国同士の政略や思惑があり貴女はこの国に嫁いだ。まだ嫁いで日も浅い。幾らだって挽回は出来ます。知ろうとする事、努力することを終えるのは心残りもあったでしょう。しかし、次の世代への課題を残したと思えばいいではありませんか」
「うわぁぁぁー‥あぁぁーっ」
「妃殿下、記憶があるのならそれを使って民のために役立ててください。愚行には2度も付き合おうとする者はいませんが、前を向いてくださるのなら共に手を携える人は沢山いますよ」
ヴァルスは泣きじゃくるフロリアに言葉をかけると敬礼をして部屋を出た。
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