2度もあなたには付き合えません

cyaru

文字の大きさ
上 下
39 / 41
2回目の人生

第39話  2度もあなたには付き合えません

しおりを挟む
まともじゃないとロッバルトに注意はされたがヴァルスは「構わない」と返した。

おそらくこの城で、いやこの国でフロリアの言っている意味が判るのは自分とオデットしかいない。だがオデットをフロリアに会わせることは出来ない。

オデットは違う生き方を選んで、今、生きている。
ヴァルスも同じ轍は踏まぬと心に決めて生きている。
しかしフロリアだけは変わっていない。

そこにこの摩訶不思議な現象の答えがあるような気がしたのだ。

扉は外から施錠をされて、扉の前を守る兵士からは「気を付けてください」と気遣われた。
扉が開くとその言葉の意味が判る。

フロリアは人の気配を感じ、一目散にヴァルスに向かって走ってきた。

「貴方ね?貴方なのね?私の石をどうしてくれるの!」

「石?妃殿下、何のことでしょうか」

「何のことですって?石よ!私の石!見てみなさいよ!割れたの!もう宝飾品じゃなくただの石ころよ!」

フロリアは半狂乱になり、髪も振り乱してヴァルスに手のひらに握った砕けた石を見せた。石の色は本当に庭や道端に転がっている石になりくすみ以前に光沢などまるでない。

しかし、石だけではなくフロリアは何とか元に戻そうとしたのか手のひらには台座もあった。ヴァルスにはその台座、見覚えがあった。

記憶にある人生の最期。オデットが吊るされた城壁の足元、剣で喉を吐いた時に叶わぬであろう願いを込めた石の台座だった。

全てが繋がった。いや、全てではないかも知れない。知らない事のほうが多いのだろうが少なくとも自身とオデットに起こった現象の根源はこの石だったのだ。

「この石は…」

「やっぱり知っているのね。これは我が国に伝わる秘宝よ。蘇りの石なの。何度だって蘇るわ。だから…進化した世の中でこの先も!!あと何百回も!!生きられるはずだったのに!!」

「そういう事か…生憎だが使用限度があった。それだけの事だろう」

「だぁとしてもッ!!まだあったはずよ!勝手に使うから!誰かが勝手に使うから!!」

「しかし、石はここにある」

「今はね。でも石の存在を知っている者が私が存在を知る前に持ち出して使っていたら?王家の秘宝よ?きっと家人がこっそりと元の場所に戻すわよ…なんてことなの!この石を使っていいのは私だけなのに!!」

「憐れだな…お前も、あの男ジークと同じだ」

「あの男ですって?そいつも使ったの?断りもなくっ?!」

「そういう意味ではない」

「どんな意味だっていいわ。ヴァルス。貴方、私の事が好きだったでしょう?お願い。この石を何とかして。公爵家の財産が有れば残っている魔法使いをこの石の中に閉じ込められるでしょう?なんとかしてくれるなら貴方に抱かれたっていいわ。そうよ…貴方もロッバルトも同じ色を持つんだもの。子供が出来たって誰も怪しんだりしないわ」


触れて来るフロリアの手をヴァルスは払った。

反動でフロリアの手に握られていた石と台座が床に散らばり、フロリアは慌ててそれらを床に這い蹲って拾い集めた。


「いい加減になされよ!」

「ない‥ないわ…どこに飛んだの?足らないわ」

「妃殿下!!いい加減にされよと申しているッ!」

「どうでもいいから!探して!ないの!足らないのよぉぉーっ!」

「妃殿下。石はもうないのです。欠片を集めたところで欠片にしか過ぎません。元には戻らないのです」

「なんでそんな事を言うの!貴方はいつもわたくしに従ってくれたのに!」

「それは前の人生です!今ではない。私は今、生きているこの時間を使い、2度もあなたには付き合えません。前とは違うのです。何度も蘇ることが出来たならもういいじゃないですか」

「良くない!良くないのよ!誰もわたくしを崇めない、誰もわたくしを褒めたたえない!でも何度も繰り返せばきっと機会が――」

「来ません!遊び惚けて自堕落な生活を送り、誰が褒めたたえますか。誰が崇めるというのですか。その経験があるのなら、そうなるまでに貴女は尽力した筈だ。尽くすことをやめ、怠った人生を何度も送り、貴女は何がしたいんだ。誰かに認めて欲しい、褒めて欲しいと思うなら何故動かない。そんな人生は何度送っても同じだ。だから終わりが来たんですよ!」

「じゃぁどうしろと言うの!何をしろと言うの!何もかも先に進んで解らないのよ!わたくしの知らないものばかりで解らないのよ!やり残したことが沢山あったのよ!悔しかったのよ!」

「なら知れば良いではないですか。文明が進むことは良い事です。勿論悪い事だってあるでしょうが、知らなければ知ればいい。解らなければ解る者に問えばいい。国同士の政略や思惑があり貴女はこの国に嫁いだ。まだ嫁いで日も浅い。幾らだって挽回は出来ます。知ろうとする事、努力することを終えるのは心残りもあったでしょう。しかし、次の世代への課題を残したと思えばいいではありませんか」

「うわぁぁぁー‥あぁぁーっ」

「妃殿下、記憶があるのならそれを使って民のために役立ててください。愚行には2度も付き合おうとする者はいませんが、前を向いてくださるのなら共に手を携える人は沢山いますよ」


ヴァルスは泣きじゃくるフロリアに言葉をかけると敬礼をして部屋を出た。
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

婚約解消したら後悔しました

せいめ
恋愛
 別に好きな人ができた私は、幼い頃からの婚約者と婚約解消した。  婚約解消したことで、ずっと後悔し続ける令息の話。  ご都合主義です。ゆるい設定です。  誤字脱字お許しください。  

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

【完結】真面目だけが取り柄の地味で従順な女はもうやめますね

祈璃
恋愛
「結婚相手としては、ああいうのがいいんだよ。真面目だけが取り柄の、地味で従順な女が」 婚約者のエイデンが自分の陰口を言っているのを偶然聞いてしまったサンドラ。 ショックを受けたサンドラが中庭で泣いていると、そこに公爵令嬢であるマチルダが偶然やってくる。 その後、マチルダの助けと従兄弟のユーリスの後押しを受けたサンドラは、新しい自分へと生まれ変わることを決意した。 「あなたの結婚相手に相応しくなくなってごめんなさいね。申し訳ないから、あなたの望み通り婚約は解消してあげるわ」  ***** 全18話。 過剰なざまぁはありません。

お飾り王妃の愛と献身

石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。 けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。 ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。 国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

処理中です...