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2回目の人生
第38話 ジークと母、現実を知る&何も知らないロッバルト
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翌日、ヴァルスはまず騎士団の隊舎に向かった。
「あれ?有休中じゃなかったんですか?」
「あぁ。有休だ。今日は被害者としてきたんだ」
「被害者!?あ、もしかして昨夜連行された男ですか?」
「あぁ。そうだ」
現行犯のため、留置所ではなく拘置所に収監されたジークフリッドは憔悴しきっていた。
「憐れなものだ」ヴァルスはそれだけ呟き、聴取を終えると王宮に向かった。
★~★
ジークフリッドは騎士を目指していたのにヴァルスの事を知らず、取調べで公爵家の子息と教えられてガタガタと震えだし失禁までしてしまった。
オデットを張った場も何人もの通行人に見られている。
オデットは子爵令嬢。
身分制度のある社会で貴族ですら爵位が1つ違えば斬り捨てごめんで済まされる場合もあるのに平民が子爵家の人間を、しかも抵抗も出来ない女性を張ったとなればそれだけで懲役は減刑されても20年。
但し、痴情の縺れとなれば男女の間にはいろいろと面倒な事もあるので、考慮をされる。
朝一番にジークフリッドの母親は「何かの間違いだ」と隊舎にやって来て捲し立てた。
そして「オデットは嫁に来る人間で2人はそういう関係だった」と叫んだが、騎士を目指していたジークフリッド。仲の良い低位貴族の友人は先に騎士として勤めている。
「結婚なんて考えてないとジークが言っていた」
「おばさんも、あの娘は単なるお節介焼きで勝手に色々やって行くんで迷惑と言ってたじゃないか」
それまで結婚を匂わせるだけで明言をしていないばかりか、オデットの行為を迷惑だと吹聴していた事で結婚を前提とした付き合いのある男女関係とは認めて貰えなかった。
ジークフリッドとジークフリッドの母は更に現実を知る。
公爵子息に向かって殴りかかったのも何人もが証言をしていて、ジークフリッド本人も連行されて来た時に「邪魔をする男を殴ってやろうとしたら玉ねぎを口に突っ込まれた」と自白をしてしまった。
「公爵子息と先に聞いていたら、言わなかったのに」
後で呟いても遅かった。
まして王太子と乳兄弟ともなれば、極刑は免れる事は出来ない。
軽くて絞首刑、通常で斬首刑、重い場合で公開の斬首刑である。
ジークフリッドは現行犯であり2、3日のうちに刑は執行されるがジークフリッドの母にはジークフリッドの暴行による治療費が公爵家から請求をされた。
「そんな!体の具合も悪いのに働けません!」
そう捲し立てたものの…。
「そこまで具合が悪いとは思えませんけど?ここまで走ってきたんですよね?」
書類などのみを片付ける文官騎士に言われてしまった。
ジークフリッドの家から隊舎までは10km近くあり、自前の足でしっかりと走り、時々歩いてやって来て大声で怒鳴り散らすジークフリッドの母を病弱と誰も思ってはくれなかった。
「分割でいいそうですよ」
笑顔で文官騎士はジークフリッドの母に請求書を手渡した。
相手は公爵家子息。そこには当然のように慰謝料も上乗せをされていて、治療費だけなら保険適用外でも銀貨2枚で済んだのに、金貨3枚と書かれてあった。
公爵家から逃げられるはずもなく、翌日からジークフリッドの母の姿は早朝の口入屋の用意した仕事に群がる人々の中にあった。
「腰が痛い」と荷台に乗せられボヤいたが隣に座る男性に「みんなそうだよ」と言われ、愚痴すら吐けなくなったのだった。
★~★
王宮に出向いたヴァルスは真っすぐに王太子ロッバルトの執務室に向かった。
外からは解り難いが部屋の中はまるで戦場。文官や従者たちが隣国に同報告をするか情報を集めていた。
「何かあったのですか?」
「ヴァルス!いいところに。休みだと聞いていたが来てくれて助かった」
騒ぎの元凶は王太子妃フロリア。
先日突然叫んだと思ったら訳の判らない事を言い始め「生まれ変わったのはお前か!」と次々に侍女やメイド、従者を切りつけたのだという。
幸いにも死者は出ていないが、叫びだす前までいつも通りだったので何が起こったのか誰も解らない。侍医にも診察を受けて貰ったのだが、その侍医にまで「お前か!」と暴言を吐く始末。
ヴァルスは「殿下には覚えがないのか?」と問うた。
「何がだ?私はちゃんとやっていた。あの女を娶れば王太子にすると隣国から打診をされ受けた。約束通りに妃に迎え、金だって使っている。何の不自由もさせていないはずだっ!」
その言葉にヴァルスは確信した。
――ロッバルトに記憶はない――
が、フロリアの言葉が引っかかる。
――生まれ変わったのはお前か…か――
何が引き金になって同じ時間を生きる事になったのか。ヴァルスは自死する時に神が本当にいるのなら命と引き換えに願いを叶えてくれたのかと思ったが、その時にフロリアの事は念頭になかった。
勿論、王太子ロッバルトの事も考えていなかった。
強く心に思ったのはオデットの事だけだった。
だったらなぜ、自分とオデット、そしてフロリアに記憶があるのだ?と考えた。
全員に記憶があるのならロッバルトだって問いの意味が判る筈だし、フロリアの口走る事の意味も解るはず。
3人に共通することは何なのか。
ヴァルスはロッバルトに頼んだ。
「フロリア妃に会わせてくれ」と。
★~★
本日はニャンニャンタイムはニャイです<(_ _)>
「あれ?有休中じゃなかったんですか?」
「あぁ。有休だ。今日は被害者としてきたんだ」
「被害者!?あ、もしかして昨夜連行された男ですか?」
「あぁ。そうだ」
現行犯のため、留置所ではなく拘置所に収監されたジークフリッドは憔悴しきっていた。
「憐れなものだ」ヴァルスはそれだけ呟き、聴取を終えると王宮に向かった。
★~★
ジークフリッドは騎士を目指していたのにヴァルスの事を知らず、取調べで公爵家の子息と教えられてガタガタと震えだし失禁までしてしまった。
オデットを張った場も何人もの通行人に見られている。
オデットは子爵令嬢。
身分制度のある社会で貴族ですら爵位が1つ違えば斬り捨てごめんで済まされる場合もあるのに平民が子爵家の人間を、しかも抵抗も出来ない女性を張ったとなればそれだけで懲役は減刑されても20年。
但し、痴情の縺れとなれば男女の間にはいろいろと面倒な事もあるので、考慮をされる。
朝一番にジークフリッドの母親は「何かの間違いだ」と隊舎にやって来て捲し立てた。
そして「オデットは嫁に来る人間で2人はそういう関係だった」と叫んだが、騎士を目指していたジークフリッド。仲の良い低位貴族の友人は先に騎士として勤めている。
「結婚なんて考えてないとジークが言っていた」
「おばさんも、あの娘は単なるお節介焼きで勝手に色々やって行くんで迷惑と言ってたじゃないか」
それまで結婚を匂わせるだけで明言をしていないばかりか、オデットの行為を迷惑だと吹聴していた事で結婚を前提とした付き合いのある男女関係とは認めて貰えなかった。
ジークフリッドとジークフリッドの母は更に現実を知る。
公爵子息に向かって殴りかかったのも何人もが証言をしていて、ジークフリッド本人も連行されて来た時に「邪魔をする男を殴ってやろうとしたら玉ねぎを口に突っ込まれた」と自白をしてしまった。
「公爵子息と先に聞いていたら、言わなかったのに」
後で呟いても遅かった。
まして王太子と乳兄弟ともなれば、極刑は免れる事は出来ない。
軽くて絞首刑、通常で斬首刑、重い場合で公開の斬首刑である。
ジークフリッドは現行犯であり2、3日のうちに刑は執行されるがジークフリッドの母にはジークフリッドの暴行による治療費が公爵家から請求をされた。
「そんな!体の具合も悪いのに働けません!」
そう捲し立てたものの…。
「そこまで具合が悪いとは思えませんけど?ここまで走ってきたんですよね?」
書類などのみを片付ける文官騎士に言われてしまった。
ジークフリッドの家から隊舎までは10km近くあり、自前の足でしっかりと走り、時々歩いてやって来て大声で怒鳴り散らすジークフリッドの母を病弱と誰も思ってはくれなかった。
「分割でいいそうですよ」
笑顔で文官騎士はジークフリッドの母に請求書を手渡した。
相手は公爵家子息。そこには当然のように慰謝料も上乗せをされていて、治療費だけなら保険適用外でも銀貨2枚で済んだのに、金貨3枚と書かれてあった。
公爵家から逃げられるはずもなく、翌日からジークフリッドの母の姿は早朝の口入屋の用意した仕事に群がる人々の中にあった。
「腰が痛い」と荷台に乗せられボヤいたが隣に座る男性に「みんなそうだよ」と言われ、愚痴すら吐けなくなったのだった。
★~★
王宮に出向いたヴァルスは真っすぐに王太子ロッバルトの執務室に向かった。
外からは解り難いが部屋の中はまるで戦場。文官や従者たちが隣国に同報告をするか情報を集めていた。
「何かあったのですか?」
「ヴァルス!いいところに。休みだと聞いていたが来てくれて助かった」
騒ぎの元凶は王太子妃フロリア。
先日突然叫んだと思ったら訳の判らない事を言い始め「生まれ変わったのはお前か!」と次々に侍女やメイド、従者を切りつけたのだという。
幸いにも死者は出ていないが、叫びだす前までいつも通りだったので何が起こったのか誰も解らない。侍医にも診察を受けて貰ったのだが、その侍医にまで「お前か!」と暴言を吐く始末。
ヴァルスは「殿下には覚えがないのか?」と問うた。
「何がだ?私はちゃんとやっていた。あの女を娶れば王太子にすると隣国から打診をされ受けた。約束通りに妃に迎え、金だって使っている。何の不自由もさせていないはずだっ!」
その言葉にヴァルスは確信した。
――ロッバルトに記憶はない――
が、フロリアの言葉が引っかかる。
――生まれ変わったのはお前か…か――
何が引き金になって同じ時間を生きる事になったのか。ヴァルスは自死する時に神が本当にいるのなら命と引き換えに願いを叶えてくれたのかと思ったが、その時にフロリアの事は念頭になかった。
勿論、王太子ロッバルトの事も考えていなかった。
強く心に思ったのはオデットの事だけだった。
だったらなぜ、自分とオデット、そしてフロリアに記憶があるのだ?と考えた。
全員に記憶があるのならロッバルトだって問いの意味が判る筈だし、フロリアの口走る事の意味も解るはず。
3人に共通することは何なのか。
ヴァルスはロッバルトに頼んだ。
「フロリア妃に会わせてくれ」と。
★~★
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