2度もあなたには付き合えません

cyaru

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2回目の人生

第35話  強引な求婚

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「オデット。あれから考えたんだ。俺さ、やっぱりオデットしかいないって気が付いたんだ」

「言ってる意味がっがっとがっ…ガックション!!フゥゥ…解らないわね」

「解ってるだろ?俺ってさ、見た目よりは奥手なんだよ」

「それはそれは。だからぁ…ハックション!!…ふぇぇ…何?」

「解れよ!結婚しようと言ってるんだ!」


オデットはジークフリッドにも構っている暇はない。
荷物を運んでいるので、現在有酸素運動中でもある。

そこにくしゃみと涙が止まらなくなるセイタカアワダチソウを「だろ?」とか言いながら言葉の調子に合わせてブンブン振られると花粉が舞ってしまい、吸い込んでしまうのだ。

最後の求婚の言葉に合わせてオデットの胸元にバサッとセイタカアワダチソウを叩きつけられたら、涙が充血した目から溢れてしまった。

「なんだよ。泣くほど嬉しいのか?」

「違っ…ハックション!!違うわよっよっ‥ふぇ、ふぇ、…ふぇっくしょん!」

「風邪でも引いたのか?」

――ちゃうわ!どうでもいいからあっち行け!――


服にも花粉が沢山ついてしまって、だんだん体のあらゆる部分が痒くもなって来る。

「風邪ひいたのなら家まで連れて行ってやるよ」

「放っておいてッ!はっくしょん!!」

「うあ…汚ねぇな。ツバとんだじゃないか!最悪だよ…うぇぇ・・きっしょ」

「ジークがそんなもっもっもっ…はっくしょん!持ってくるからでしょ!」

「だってプロポーズなんだから花くらい必要だろうが!人が気を利かせたってのに!その言い草はなんだよ!気分悪ぃな!でもまぁ…許してやるよ。親父さんたち家にいるんだろ?結婚するって報告しようぜ」

「誰が…フヒュー‥ヒュー…あんたなんかとっ…ゼェゼェ…」


くしゃみが止まらなくなって涙が溢れるだけじゃない。
段々と喉の奥が腫れあがって狭くなっているのか呼吸もし辛くなってきて苦しい。

荷物を運ばなきゃいけないのに苦しくて息を精一杯吸い込むのに、いつもの10分の1も吸い込めなくて目の前もくらくらして玉ねぎの入った木箱の縁に手を置いてしゃがみ込んでしまった。

「なに座ってんだよ。ほら!行くぞ!オラッ!立てよ!」

腕をグイグイと引かれるのだが、体に力も入らず兎に角苦しい。

「くっそ!手間かけさせんな!」

頭がぐらっと揺れて、痛みを感じる。
ジークフリッドに張られたのだ。

抵抗する力もなく、オデットはその場に倒れ込んでしまった。


「何やってんだ!!」

ヴァルスは進行方向で揉めている風の男女を見て片方が直ぐにオデットだと解り、もう1人はマルネ子爵家に尋ねて来てオデットが「知り合い」と言った男性だと解った。

ふらつくオデットの腕を掴み、何かを叫んでいるが風上にいて声が聞きとれない。
そうこうしていると男がオデットを殴りつけたのが見えた。

ヴァルスの脳内にも経験はないが、記憶の中にある光景が蘇る。
歯向かうことも出来ないオデットを殴りつけている場面だ。

鮮明過ぎる記憶からヴァルスはどんなに腹が立っても誰かに向かって手を挙げる事は自制してきた。

暴力は一度振るってしまうと歯止めが効かなくなる。
相手を一方的に攻め続けるだけになっていると解っても自分で自分を止められないとで知っていたからである。


ヴァルスは走っている加速のままにジークフリッドに向かっていき、直前で体を捩じると横向きにタックルするようにしてジークフリッドに体当たりをしてジークフリッドを跳ね飛ばした。

「オデット!大丈夫か!?」

オデットの体を抱きかかえたが、苦しそうな息がヒューヒューと喉の奥から聞こえてくるだけでオデットは返事も出来ない。

「誰か!医者を!医者はどこだっ!」

周囲に向かって叫ぶと40代だろうか。女性が駆け寄ってきて「あっちよ」と指をさした、が、同時にくわっと目を見開くのが見える。

「ウォォォー!!貴様ぁ!」

ジークフリッドが殴りかかって来たのだ。

ヴァルスは目の前にある木箱から玉ねぎを掴むとオデットを胸に抱き、隠すようにして体を反転し、ジークフリッドの顔が来るであろう辺りに玉ねぎを掴んだ片手を伸ばした。

「ウゴッ!!」

玉ねぎはジークフリッドの口の中に丸ごと入ってしまった。噛みつぶそうにも多分状態の良いものだったのだろう。固いらしく今度はジークフリッドが息が出来ないようでその場に転がり七転八倒。

「そいつを隊舎に。ガッティネ公爵家のヴァルスが現行犯だから捕縛してくれと言っていたと伝えてくれ。医者はあちらか?」

「は、はい…ミニ樽のある雑貨屋の路地を入った3軒目に医者の先生がいます」

「恩に着る。もう1つ頼まれごとをしてもらえないか」

「なんでしょう?」

「あとで引き取りに来るから3つの木箱を解るようにしておいて欲しいんだ」

「はぁ‥いいですけど…」

「これは手間賃だ。受け取ってくれ」

ピン!とポケットから取り出した1枚の硬貨を指で弾いたヴァルス。
たまたま通りかかっただけで、医者のいる場所を教えただけの女性は、オデットを横抱きにしてヴァルスが走り去った後、両手の平で挟むように取った硬貨を見て息を飲んだ。

それは金貨だった。
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