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2回目の人生
第34話 危険は時と場所を選ばない
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無事に有休を手に入れたヴァルスは騎乗しマルネ子爵家に向かった。
人伝手に女性でも気軽に出来る事業を幾つか見繕い、書類に纏めている。
「オデットはまだ15歳だからな。無理のない事業にしてあげないとな」
母親のガッティネ公爵夫人にもリサーチをしてオデットが内職で行っている刺繍を事業とすればオデットもあちこちと動き回らずに済む。
仕事を終えて帰宅した時に「おかえりなさい」とオデットが微笑んでくれる。
「あはっ♡」ヴァルスは想像してしまい、騎乗しながら体をモジモジと捩じった。
当然騎乗している超絶美丈夫の奇妙な行動を道行く者たちは凝視しているが、脳内で新婚生活を描いているヴァルスには周囲は全く見えていない。
マルネ子爵家に到着をすると愛馬のスワン号の手綱を木の幹に括りつけ、目に見える範囲でおかしなところがないか目視チェック。
「襟元のボタンも留めないとな。髪は…よし、跳ねてないな」
癖っ毛ではないものの、髪も手櫛で整えて玄関扉のドアノックをコンコン。
扉が開く。たったそれだけなのに気持ちは高揚し、胸も高鳴る。
「はーい。どちら様?」
「ガッティネです」
ガチャリと扉が開くと、オデットの母親のヴィヴァーチェが顔を出した。
「義母上、今日も変わらずにお美しいです」
「もう!御上手ね。だけど、ごめんなさいね。オデットは買い出しに出てるの。今、いないのよ」
「買い出し?まさか1人で?馬車で行ったんですか?」
「やぁねぇ。ウチには馬車は無いし量も多くないから1人よ」
「なんですって!危ないですよ。日があると油断して…あぁっ!オデットに何かあったら私は生きていけないッ!義母上、どこに買い出しに行ったんですか?迎えに行ってきます!」
「大丈夫よ。いつもの事だし。ヴァルスさんは心配性ね」
「いえ、危険は時と場所を選ばないんです。くっ!油断した…何時頃出かけたんですか」
「そうねぇ…2時間くらい前…あら?少し遅いわね」
「迎えに行ってきます!大通りの商店街ですよね!」
「違うわよ~。そんな高級な品ばかりの店には扉を開けたら ”売る物はない” って追い返されるわよ。2つ向こうの通りにある平民の利用する商店街よ」
「そちらですか。行ってきます!」
スワン号の手綱を木の幹から解こうとしたヴァルスだったがヴィヴァーチェが注意をした。
「ダメよ。そこは馬は禁止。馬も人の多さに驚いちゃうから」
「解りました。全力で走ります」
「あら。若いわね」
★~★
全力で走るヴァルスは2つ向こうの通りの商店街に到着をしたのだが、人口で一番多いのが平民。そしてここは平民だけではなく低位貴族も日々の食材を買い求めるので人がごった返していた。
群衆よりも頭1つ背が高いヴァルスだが、その群衆よりも頭1つ分背の低いオデットは埋もれてしまって全く姿が見えない。
「くそっ!私が軍用犬だったら馨しい香りで居場所が解るのに!なぜこんな時に嗅覚が人並みなんだッ!」
キョロキョロとヴァルスが背伸びをしながらオデットを探していた頃、オデットは群衆の波からかなり外れた場所で一息ついていた。
「ほへぇ…貰いすぎちゃった。重~い」
今日は根野菜のおまけが大量にあった。ゴボウやジャガイモ、ニンジンに大根、玉ねぎ。
日持ちをする野菜だが、大根など水分が抜けて皴皴のフニャフニャになっている。瑞々しいと皮を剥くにもすんなり剥けるのだが、こうなると実までごっそり削いでしまうし、なにより皮が剝きにくくなる。
筋も沢山入ってしまうので食べるとエグ味を感じてしまうのだが、まだ食べられる。
総重量30kg超えの大量おまけを貰ってしまったオデットはヒィフゥ言いながら1歩を進み、一休みである。
ここから家まではまだ1時間はかかる。
この量になると台車がないと運べないが生憎台車は貸してもらえず、取っ手のついた木箱3つに入れて貰った。全部は一度に持てないので、1つを数歩先まで持って行き、戻ってまた1箱と距離にすれば何往復?と考えたくなくなる距離を進んでいた。
途中で全力疾走していくヴァルスの背中が見えた。
まだ後ろにある木箱を運ぶために戻っていた時だ。
「どうしたのかしら。商店街で揉め事でもあったのかな?」
ヴァルスの事を考えても仕方がない。今は野菜を家まで運ぶことに専念せねば。そう思いせっせと運んでいた。
★~★
「おかしい。居ないぞ…気配を感じない」
現在ヴァルスの周囲にはざっと100人以上がいる。
人の気配しかしないのだが、ヴァルスは途中ですれ違ってしまったのか?と考えた。
「そうだよな。出かけて2時間なんだから帰る途中だったのかも知れない。引き返してみよう」
ただ、引き返すにしても前から横から後ろから人が来るので真っすぐに進めない。
やっとはずれまで来た時には肩で息をするくらいに疲れていた。
「いや、疲れたなんて言ってる場合じゃない」
ヴァルスはマルネ子爵家のある方向に向かってまた全力疾走を始めた。
その頃、オデットは迷惑行為に直面していた。
「よぅ。オデット」
「ジーク…」
せっせと野菜を数歩の距離、何往復もして運んでいるオデットに声を掛けて来たのはジークフリッドで、何故かその手には河原に咲くセイタカアワダチソウの束が握られて、「やるよ」と差し出されていたからである。
――花で鼻がムズムズするんだけど――
オデットの困りごと。
そう、オデットはセイタカアワダチソウの咲く時期はくしゃみが止まらない花粉症。
スギ花粉なら平気だがセイタカアワダチソウは涙とくしゃみが止まらなくなる。
何の嫌がらせなんだろう。
そう思うのは仕方のない事だろう。
★~★
次はちょっと時間が変わって20時40分です(=^・^=)
人伝手に女性でも気軽に出来る事業を幾つか見繕い、書類に纏めている。
「オデットはまだ15歳だからな。無理のない事業にしてあげないとな」
母親のガッティネ公爵夫人にもリサーチをしてオデットが内職で行っている刺繍を事業とすればオデットもあちこちと動き回らずに済む。
仕事を終えて帰宅した時に「おかえりなさい」とオデットが微笑んでくれる。
「あはっ♡」ヴァルスは想像してしまい、騎乗しながら体をモジモジと捩じった。
当然騎乗している超絶美丈夫の奇妙な行動を道行く者たちは凝視しているが、脳内で新婚生活を描いているヴァルスには周囲は全く見えていない。
マルネ子爵家に到着をすると愛馬のスワン号の手綱を木の幹に括りつけ、目に見える範囲でおかしなところがないか目視チェック。
「襟元のボタンも留めないとな。髪は…よし、跳ねてないな」
癖っ毛ではないものの、髪も手櫛で整えて玄関扉のドアノックをコンコン。
扉が開く。たったそれだけなのに気持ちは高揚し、胸も高鳴る。
「はーい。どちら様?」
「ガッティネです」
ガチャリと扉が開くと、オデットの母親のヴィヴァーチェが顔を出した。
「義母上、今日も変わらずにお美しいです」
「もう!御上手ね。だけど、ごめんなさいね。オデットは買い出しに出てるの。今、いないのよ」
「買い出し?まさか1人で?馬車で行ったんですか?」
「やぁねぇ。ウチには馬車は無いし量も多くないから1人よ」
「なんですって!危ないですよ。日があると油断して…あぁっ!オデットに何かあったら私は生きていけないッ!義母上、どこに買い出しに行ったんですか?迎えに行ってきます!」
「大丈夫よ。いつもの事だし。ヴァルスさんは心配性ね」
「いえ、危険は時と場所を選ばないんです。くっ!油断した…何時頃出かけたんですか」
「そうねぇ…2時間くらい前…あら?少し遅いわね」
「迎えに行ってきます!大通りの商店街ですよね!」
「違うわよ~。そんな高級な品ばかりの店には扉を開けたら ”売る物はない” って追い返されるわよ。2つ向こうの通りにある平民の利用する商店街よ」
「そちらですか。行ってきます!」
スワン号の手綱を木の幹から解こうとしたヴァルスだったがヴィヴァーチェが注意をした。
「ダメよ。そこは馬は禁止。馬も人の多さに驚いちゃうから」
「解りました。全力で走ります」
「あら。若いわね」
★~★
全力で走るヴァルスは2つ向こうの通りの商店街に到着をしたのだが、人口で一番多いのが平民。そしてここは平民だけではなく低位貴族も日々の食材を買い求めるので人がごった返していた。
群衆よりも頭1つ背が高いヴァルスだが、その群衆よりも頭1つ分背の低いオデットは埋もれてしまって全く姿が見えない。
「くそっ!私が軍用犬だったら馨しい香りで居場所が解るのに!なぜこんな時に嗅覚が人並みなんだッ!」
キョロキョロとヴァルスが背伸びをしながらオデットを探していた頃、オデットは群衆の波からかなり外れた場所で一息ついていた。
「ほへぇ…貰いすぎちゃった。重~い」
今日は根野菜のおまけが大量にあった。ゴボウやジャガイモ、ニンジンに大根、玉ねぎ。
日持ちをする野菜だが、大根など水分が抜けて皴皴のフニャフニャになっている。瑞々しいと皮を剥くにもすんなり剥けるのだが、こうなると実までごっそり削いでしまうし、なにより皮が剝きにくくなる。
筋も沢山入ってしまうので食べるとエグ味を感じてしまうのだが、まだ食べられる。
総重量30kg超えの大量おまけを貰ってしまったオデットはヒィフゥ言いながら1歩を進み、一休みである。
ここから家まではまだ1時間はかかる。
この量になると台車がないと運べないが生憎台車は貸してもらえず、取っ手のついた木箱3つに入れて貰った。全部は一度に持てないので、1つを数歩先まで持って行き、戻ってまた1箱と距離にすれば何往復?と考えたくなくなる距離を進んでいた。
途中で全力疾走していくヴァルスの背中が見えた。
まだ後ろにある木箱を運ぶために戻っていた時だ。
「どうしたのかしら。商店街で揉め事でもあったのかな?」
ヴァルスの事を考えても仕方がない。今は野菜を家まで運ぶことに専念せねば。そう思いせっせと運んでいた。
★~★
「おかしい。居ないぞ…気配を感じない」
現在ヴァルスの周囲にはざっと100人以上がいる。
人の気配しかしないのだが、ヴァルスは途中ですれ違ってしまったのか?と考えた。
「そうだよな。出かけて2時間なんだから帰る途中だったのかも知れない。引き返してみよう」
ただ、引き返すにしても前から横から後ろから人が来るので真っすぐに進めない。
やっとはずれまで来た時には肩で息をするくらいに疲れていた。
「いや、疲れたなんて言ってる場合じゃない」
ヴァルスはマルネ子爵家のある方向に向かってまた全力疾走を始めた。
その頃、オデットは迷惑行為に直面していた。
「よぅ。オデット」
「ジーク…」
せっせと野菜を数歩の距離、何往復もして運んでいるオデットに声を掛けて来たのはジークフリッドで、何故かその手には河原に咲くセイタカアワダチソウの束が握られて、「やるよ」と差し出されていたからである。
――花で鼻がムズムズするんだけど――
オデットの困りごと。
そう、オデットはセイタカアワダチソウの咲く時期はくしゃみが止まらない花粉症。
スギ花粉なら平気だがセイタカアワダチソウは涙とくしゃみが止まらなくなる。
何の嫌がらせなんだろう。
そう思うのは仕方のない事だろう。
★~★
次はちょっと時間が変わって20時40分です(=^・^=)
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