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2回目の人生
第33話 有給申請で窓口がざわつく
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ヴァルスは忙しい。
王太子ロッバルトの専属護衛であり、オデットからはまだ返事は貰えていないが結婚を見据えて先に国王から賜っている伯爵家も興す準備を始めた。
毎日最低2回。会えるのは1回の事もあるが日参を欠かさない。
出勤前と退勤後は必ずマルネ子爵家に足を運び、オデットに挨拶をする。
オデットと同じ空間で呼吸が出来る喜びは何物にも代えがたい。
細く糸のようになった目で抑揚が全くない平坦な返事を返されても心臓は激しく拍動する。全身に沸騰した血液が送り出され、顔も火照るというものだ。
今日はオデットに会いたいがために、騎士になって13年目で初めて有給休暇も申請することにした。
「え?有休ですか?」
「そうだが?」
「ガッティネ隊員がですか?!」
「そうだが?」
「何かあったんですか?弔事なら忌引きで申請は不要ですが」
「忌引き?バカな。慶事だぞ?」
「慶事?いえ、それでも3親等以内の親族であれば有休は使わずにいけますよ?」
「それは夫と妻の関係になる前でもか?」
「夫婦になる前?あぁ婚約ですか…そうですね…貴族籍がお互いにあれば大丈夫ですよ」
「なら急いで婚約を結ばねばならないな」
<< えっ?! >>
隊舎の中にある各種申請を受け付ける部署。
ここは近衛隊に限らず騎士団に所属する者は全て申請をだす窓口。
隊員の家族も傷病手当などの申請にやってくるので部屋にいるのは貴族に限らない。
目が覚めるような美丈夫がやって来ると、それが誰なのか知っている者は姿勢を正し、知らないものは見惚れる。部屋にいる8割がヴァルスの辞書には「女」の項目がないと思っていたのに…。
まさかの婚約?!一気に周囲がざわついた。
おまけにヴァルスが「なら急いで婚約…」とデレながらいうものだから55歳。定年はしたが嘱託希望で窓口に残った元騎士の顔まで火照ってしまう。
父親の年齢上の武骨な元騎士までデレさせる破壊力抜群の美丈夫デレ。
数人が走って部屋から出て行ったので1時間もすれば街で号外が配られるかも知れない。
卒倒したり、ギリリとハンカチを食いしばる令嬢が何人出るか。オッズバーも大盛況間違いない。
窓口の騎士は「おめでとうございます」と声を掛けた。
「ははっ。でもまだ断られてばかりなんだ。女性は神秘の結晶だな。どうすればこちらを意識してもらえるのか…考えると夜も眠れなくて寝不足だよ」
==エェーッ??==
その場にいる全員が心で声を合わせた。
このクラスの美丈夫に言い寄られて靡かない女性がこの世に存在するとは思えない。
ヴァルスにはデスクの方向から背を向けている文官騎士は「それって人間?まさか金魚とか?」人ではない生き物を想像した。
それなら色よい返事を貰えなくても合点がいく。
そもそも言葉が通じるとも思えないが。
「実は薔薇の花を12本。持って行ったんだが…」
文官騎士は思った「水草ではなく?」
「ほぅ!熱烈な求婚ですな?」
「いや、さっきも言ったように婚約も断られているんだ。花瓶がないから持って帰れと言われてな。次に花瓶を持って行ったら国宝は花瓶ではないと言われたよ。アハハ」
文官騎士は思った「国宝を花瓶にする漢気!」
もう窓口部署は仕事どころではない。
残った今世紀最大の優良物件と言われるヴァルスのお相手が気になって仕方がない。
些細な情報でも、ブン屋に売れば小遣いにはなる。
==もっと聞き出せ!==
無言の指令が窓口担当に視線で向けられる。
「で?有休…と。1週間ですか」
「あぁ、今まで一度も取ったことがなくて労務部からは有休をきちんと消化しろと言われていたのを思い出したんだ」
「そうですね…一度も記録が御座いませんね。ではどこかご旅行に?」
「いや、彼女の回りに羽虫が飛びそうだから自宅警護をしようと思ってな。1週間もあれば駆逐できるだろう」
「羽虫退治…今なら水を入れるだけで燻製できる殺虫剤も販売されてますよ?」
「それだど羽虫を彼女の家に閉じ込めねばならないだろう?踏み入れて欲しくないんだ。彼女のいる場所は聖域だからな」
==ほぅ!聖域?!==
「出来れば私の屋敷いや…部屋だな。彼女を閉じ込めて何人たりとも目に触れさせたくないと思えてな。だから新居には外鍵のついた部屋を作ってしまったよ」
==狂気の独占欲だな、おい!==
「またまた~。その前に腕の中から離さないくらいになりませんと」
「おっ!解ってくれるか?そうなんだよ。何処にも行って欲しくない。いっそ騎士も辞めて彼女の専属に成れればと考えたが、彼女はきっと無職の男は相手にしないから騎士は暫く続けることにしたんだ。それに騎士なら現行犯で斬り捨てても問題がないからな」
==問題しかないと思いますが!==
申請書に不備はなく、ヴァルスの有休はすんなりと認められた。
目には見えない花がポッポと咲き乱れ、スキップするような軽い足取りで出て行くヴァルスの狂気を垣間見た者たちはそれから1週間は仕事が手につかなかった。
王太子ロッバルトの専属護衛であり、オデットからはまだ返事は貰えていないが結婚を見据えて先に国王から賜っている伯爵家も興す準備を始めた。
毎日最低2回。会えるのは1回の事もあるが日参を欠かさない。
出勤前と退勤後は必ずマルネ子爵家に足を運び、オデットに挨拶をする。
オデットと同じ空間で呼吸が出来る喜びは何物にも代えがたい。
細く糸のようになった目で抑揚が全くない平坦な返事を返されても心臓は激しく拍動する。全身に沸騰した血液が送り出され、顔も火照るというものだ。
今日はオデットに会いたいがために、騎士になって13年目で初めて有給休暇も申請することにした。
「え?有休ですか?」
「そうだが?」
「ガッティネ隊員がですか?!」
「そうだが?」
「何かあったんですか?弔事なら忌引きで申請は不要ですが」
「忌引き?バカな。慶事だぞ?」
「慶事?いえ、それでも3親等以内の親族であれば有休は使わずにいけますよ?」
「それは夫と妻の関係になる前でもか?」
「夫婦になる前?あぁ婚約ですか…そうですね…貴族籍がお互いにあれば大丈夫ですよ」
「なら急いで婚約を結ばねばならないな」
<< えっ?! >>
隊舎の中にある各種申請を受け付ける部署。
ここは近衛隊に限らず騎士団に所属する者は全て申請をだす窓口。
隊員の家族も傷病手当などの申請にやってくるので部屋にいるのは貴族に限らない。
目が覚めるような美丈夫がやって来ると、それが誰なのか知っている者は姿勢を正し、知らないものは見惚れる。部屋にいる8割がヴァルスの辞書には「女」の項目がないと思っていたのに…。
まさかの婚約?!一気に周囲がざわついた。
おまけにヴァルスが「なら急いで婚約…」とデレながらいうものだから55歳。定年はしたが嘱託希望で窓口に残った元騎士の顔まで火照ってしまう。
父親の年齢上の武骨な元騎士までデレさせる破壊力抜群の美丈夫デレ。
数人が走って部屋から出て行ったので1時間もすれば街で号外が配られるかも知れない。
卒倒したり、ギリリとハンカチを食いしばる令嬢が何人出るか。オッズバーも大盛況間違いない。
窓口の騎士は「おめでとうございます」と声を掛けた。
「ははっ。でもまだ断られてばかりなんだ。女性は神秘の結晶だな。どうすればこちらを意識してもらえるのか…考えると夜も眠れなくて寝不足だよ」
==エェーッ??==
その場にいる全員が心で声を合わせた。
このクラスの美丈夫に言い寄られて靡かない女性がこの世に存在するとは思えない。
ヴァルスにはデスクの方向から背を向けている文官騎士は「それって人間?まさか金魚とか?」人ではない生き物を想像した。
それなら色よい返事を貰えなくても合点がいく。
そもそも言葉が通じるとも思えないが。
「実は薔薇の花を12本。持って行ったんだが…」
文官騎士は思った「水草ではなく?」
「ほぅ!熱烈な求婚ですな?」
「いや、さっきも言ったように婚約も断られているんだ。花瓶がないから持って帰れと言われてな。次に花瓶を持って行ったら国宝は花瓶ではないと言われたよ。アハハ」
文官騎士は思った「国宝を花瓶にする漢気!」
もう窓口部署は仕事どころではない。
残った今世紀最大の優良物件と言われるヴァルスのお相手が気になって仕方がない。
些細な情報でも、ブン屋に売れば小遣いにはなる。
==もっと聞き出せ!==
無言の指令が窓口担当に視線で向けられる。
「で?有休…と。1週間ですか」
「あぁ、今まで一度も取ったことがなくて労務部からは有休をきちんと消化しろと言われていたのを思い出したんだ」
「そうですね…一度も記録が御座いませんね。ではどこかご旅行に?」
「いや、彼女の回りに羽虫が飛びそうだから自宅警護をしようと思ってな。1週間もあれば駆逐できるだろう」
「羽虫退治…今なら水を入れるだけで燻製できる殺虫剤も販売されてますよ?」
「それだど羽虫を彼女の家に閉じ込めねばならないだろう?踏み入れて欲しくないんだ。彼女のいる場所は聖域だからな」
==ほぅ!聖域?!==
「出来れば私の屋敷いや…部屋だな。彼女を閉じ込めて何人たりとも目に触れさせたくないと思えてな。だから新居には外鍵のついた部屋を作ってしまったよ」
==狂気の独占欲だな、おい!==
「またまた~。その前に腕の中から離さないくらいになりませんと」
「おっ!解ってくれるか?そうなんだよ。何処にも行って欲しくない。いっそ騎士も辞めて彼女の専属に成れればと考えたが、彼女はきっと無職の男は相手にしないから騎士は暫く続けることにしたんだ。それに騎士なら現行犯で斬り捨てても問題がないからな」
==問題しかないと思いますが!==
申請書に不備はなく、ヴァルスの有休はすんなりと認められた。
目には見えない花がポッポと咲き乱れ、スキップするような軽い足取りで出て行くヴァルスの狂気を垣間見た者たちはそれから1週間は仕事が手につかなかった。
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