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2回目の人生
第31話 実は自分のもの
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「今日は来るのかい?」
「知らねぇよ!それどころじゃねぇんだよ」
家の中を引っ掻き回すジークフリッド。
明日は騎士試験の日で、今回は平民の採用人数も20人と今までの10倍。
こんな事は滅多にない。
今回の大募集は王太子夫妻の護衛騎士が一度に30人。退職の年齢を迎えたとの事で他の騎士団から経験豊富な者を回すことになり欠員が出たのだ。
「そんなにジジイばっかりだったかな?」と思いつつも、チャンスである事は間違いない。
おおよそ試験を受験する平民の顔ぶれは知っているので、トップ通過は無理でも試験を受ける事さえできればジークフリッドの腕前からすれば10位以内で合格できそうなのだ。
受験費用はあった。日雇いでセコセコと貯めた金は受験の費用は払ってきた。
合格祝いにエールを飲む分くらいは余っている。しかし肝心の武具がないのだ。
前回試験に落ちて、一式を買い直そうとしたが金が足りず肘あてを買い替えた。
毎回すべて揃っているはずなのに、買ったばかりの肘あてもなければバイザーもない。
バイザーは頭をすっぽりと覆うものなので大きさがある。
直ぐに見つかりそうなのに、ないのだ。
それもそのはず。
ジークフリッドの家の中は空き巣被害にあったのか?と思ってしまうほど色んなものがいろんな場所に散らばっていた。
ジークフリッドもジークフリッドの母親も片付ける事はしない。
ゴミすら自分がゴミだと解るようにその辺に放っておけば、「これはゴミ」と自分が解っているのだから何の問題もない。
問題なのはゴミは自分も母親も「ゴミだな」と判る。
骨付き鳥なら肉は食べてしまって、それ以上食べられない骨の部分であったり、鼻をかんだ後の残骸であったり。そんなものはお互いに「ゴミ」と判るので放っておく。
しかし、大事な物と言うのは自分にとって大事なのであって、例え母親、息子と言えど相手の大事な物かどうかなんて言われなきゃ判らないし、言われても忘れてしまっている事がある。
「あとで一緒に探してやるわよ。それより!オデットはどうして来ないんだい!家がちっとも片付かないじゃないか」
「五月蝿ぇな!自分で片付けろよ。おかげで俺のバイザーが見つからないじゃないか」
「バイザー?なんだいそりゃ」
「バイザーっつったらバイザーだよ!んっとに使えねぇババアだな」
「どうでもいいさね。ほら。釣はやるから!夕食の食べ物を買ってきておくれな」
「はぁーっ?!仕方ねぇな」
ジークフリッドは母親から銀貨を1枚手渡されて、面倒ではあるが釣はくれるというので適当に安いものを見繕ってごっそりと駄賃で貰おうと買い出しに出かけた。
ジークフリッドが出て行ったあと、ジークフリッドの母はいい加減物が散乱した部屋を更にジークフリッドが引っ掻き回した事で、ゴミも自分の大事な物もごっちゃになってしまった事に溜息を吐いた。
「こんなのはオデットの仕事だろうに。全く…最近の若いのは本当に使えないったらありゃしないよ」
足でガサガサと散乱した物を退けて自分の通り道を作り、拾ってきた薄汚れたソファに腰を下ろした。
背もたれに掛けていた布は汗シミなのか垢なのかで汚れている。
「あーもう!汚いね。何時になったら洗濯するんだい!」
部屋には1人しかいないので、ジークフリッドの母は見えないオデットに向かって悪態を吐く。
手に触れる物をバサバサと床に放り投げてスペースを作るとソファに横になり、ソファテーブルの上に散らばった品の中から何時のものか解らない干し肉を見つけると齧りだした。
ゴーゴーと地響きのような鼾をかいて居眠りをしているところにジークフリッドが帰ってきた。
「おいっ!置き場所!ぐうたら寝てんじゃねぇぞ!片付けろよ!置き場所がねぇじゃねぇか!」
「ん…あ?…寝ちまってたよ。その辺に置いときな。何買って来てくれたんだい?」
「野菜だろ、あとは肉だろ。でもさ、よく銀貨なんて持ってたよな。年金ってまだだろ?」
「年金?そんなの掛け金も払ってないのにもらえる訳がないさね」
「え?マジ?払ってねぇの?老後に困るんじゃねぇのか?」
「そんなのお前が騎士になりゃ食わせてもらえるだろう?」
「は?なんで俺が食わさなきゃいけねぇんだよ。今だって散々俺の稼ぎで食っちゃ寝してんじゃねぇか!…え?だったらあの銀貨…どこから出て来たんだよ!」
「あ~その辺りにあった物を売ったんだよ。良く判らない鉄の花瓶みたいなやつとか」
「鉄の花瓶?そんなものあったか?」
「あったわよ。瓜の形みたいになって穴が開いてるけど花を生けたら底の方が尖ってるから置けやしないし、水抜きみたいな穴が開いてて、塞ぐ板も動いて隙間があるし。使い道なんかないから売ったんだよ」
「え…待てよ?瓜の形?見た目が卵みたいな形で大きさは人の頭くらいの?」
「あ~そうそう。そんな感じだった」
「ばっばっ馬鹿野郎!何してくれてんだよ!バイザーだよ!バイザー!どうすんだよ!武具がないと騎士の試験は受けられねぇんだぞ?」
「そんなのその辺の木箱でも被ってりゃいいじゃないか。だいたいだよ?大事な物はちゃぁんと片付けていなかった癖に!親に向かって馬鹿とはなんだい!馬鹿とは!!その辺に転がってたんだ。誰が見たってゴミだと思うさね。ゴミを金に換えて何が悪いんだい!そのつり銭だってどうせ余り物ばっかり買ってたんまり懐に入れたんじゃないのかい?」
ジークフリッドは眩暈がした。
母の言う通り確かに買い物では捨てるような野菜などを「持って行ってくれるならやるよ」と言われて最小限の出費で済ませ、ほとんどが釣銭になった。
が…「元は俺の金じゃねぇかよ」
収入のないはずの母親が銀貨なんて持っている時点でおかしかったのだ。
今更に気が付いたジークフリッドは絶望した。
「知らねぇよ!それどころじゃねぇんだよ」
家の中を引っ掻き回すジークフリッド。
明日は騎士試験の日で、今回は平民の採用人数も20人と今までの10倍。
こんな事は滅多にない。
今回の大募集は王太子夫妻の護衛騎士が一度に30人。退職の年齢を迎えたとの事で他の騎士団から経験豊富な者を回すことになり欠員が出たのだ。
「そんなにジジイばっかりだったかな?」と思いつつも、チャンスである事は間違いない。
おおよそ試験を受験する平民の顔ぶれは知っているので、トップ通過は無理でも試験を受ける事さえできればジークフリッドの腕前からすれば10位以内で合格できそうなのだ。
受験費用はあった。日雇いでセコセコと貯めた金は受験の費用は払ってきた。
合格祝いにエールを飲む分くらいは余っている。しかし肝心の武具がないのだ。
前回試験に落ちて、一式を買い直そうとしたが金が足りず肘あてを買い替えた。
毎回すべて揃っているはずなのに、買ったばかりの肘あてもなければバイザーもない。
バイザーは頭をすっぽりと覆うものなので大きさがある。
直ぐに見つかりそうなのに、ないのだ。
それもそのはず。
ジークフリッドの家の中は空き巣被害にあったのか?と思ってしまうほど色んなものがいろんな場所に散らばっていた。
ジークフリッドもジークフリッドの母親も片付ける事はしない。
ゴミすら自分がゴミだと解るようにその辺に放っておけば、「これはゴミ」と自分が解っているのだから何の問題もない。
問題なのはゴミは自分も母親も「ゴミだな」と判る。
骨付き鳥なら肉は食べてしまって、それ以上食べられない骨の部分であったり、鼻をかんだ後の残骸であったり。そんなものはお互いに「ゴミ」と判るので放っておく。
しかし、大事な物と言うのは自分にとって大事なのであって、例え母親、息子と言えど相手の大事な物かどうかなんて言われなきゃ判らないし、言われても忘れてしまっている事がある。
「あとで一緒に探してやるわよ。それより!オデットはどうして来ないんだい!家がちっとも片付かないじゃないか」
「五月蝿ぇな!自分で片付けろよ。おかげで俺のバイザーが見つからないじゃないか」
「バイザー?なんだいそりゃ」
「バイザーっつったらバイザーだよ!んっとに使えねぇババアだな」
「どうでもいいさね。ほら。釣はやるから!夕食の食べ物を買ってきておくれな」
「はぁーっ?!仕方ねぇな」
ジークフリッドは母親から銀貨を1枚手渡されて、面倒ではあるが釣はくれるというので適当に安いものを見繕ってごっそりと駄賃で貰おうと買い出しに出かけた。
ジークフリッドが出て行ったあと、ジークフリッドの母はいい加減物が散乱した部屋を更にジークフリッドが引っ掻き回した事で、ゴミも自分の大事な物もごっちゃになってしまった事に溜息を吐いた。
「こんなのはオデットの仕事だろうに。全く…最近の若いのは本当に使えないったらありゃしないよ」
足でガサガサと散乱した物を退けて自分の通り道を作り、拾ってきた薄汚れたソファに腰を下ろした。
背もたれに掛けていた布は汗シミなのか垢なのかで汚れている。
「あーもう!汚いね。何時になったら洗濯するんだい!」
部屋には1人しかいないので、ジークフリッドの母は見えないオデットに向かって悪態を吐く。
手に触れる物をバサバサと床に放り投げてスペースを作るとソファに横になり、ソファテーブルの上に散らばった品の中から何時のものか解らない干し肉を見つけると齧りだした。
ゴーゴーと地響きのような鼾をかいて居眠りをしているところにジークフリッドが帰ってきた。
「おいっ!置き場所!ぐうたら寝てんじゃねぇぞ!片付けろよ!置き場所がねぇじゃねぇか!」
「ん…あ?…寝ちまってたよ。その辺に置いときな。何買って来てくれたんだい?」
「野菜だろ、あとは肉だろ。でもさ、よく銀貨なんて持ってたよな。年金ってまだだろ?」
「年金?そんなの掛け金も払ってないのにもらえる訳がないさね」
「え?マジ?払ってねぇの?老後に困るんじゃねぇのか?」
「そんなのお前が騎士になりゃ食わせてもらえるだろう?」
「は?なんで俺が食わさなきゃいけねぇんだよ。今だって散々俺の稼ぎで食っちゃ寝してんじゃねぇか!…え?だったらあの銀貨…どこから出て来たんだよ!」
「あ~その辺りにあった物を売ったんだよ。良く判らない鉄の花瓶みたいなやつとか」
「鉄の花瓶?そんなものあったか?」
「あったわよ。瓜の形みたいになって穴が開いてるけど花を生けたら底の方が尖ってるから置けやしないし、水抜きみたいな穴が開いてて、塞ぐ板も動いて隙間があるし。使い道なんかないから売ったんだよ」
「え…待てよ?瓜の形?見た目が卵みたいな形で大きさは人の頭くらいの?」
「あ~そうそう。そんな感じだった」
「ばっばっ馬鹿野郎!何してくれてんだよ!バイザーだよ!バイザー!どうすんだよ!武具がないと騎士の試験は受けられねぇんだぞ?」
「そんなのその辺の木箱でも被ってりゃいいじゃないか。だいたいだよ?大事な物はちゃぁんと片付けていなかった癖に!親に向かって馬鹿とはなんだい!馬鹿とは!!その辺に転がってたんだ。誰が見たってゴミだと思うさね。ゴミを金に換えて何が悪いんだい!そのつり銭だってどうせ余り物ばっかり買ってたんまり懐に入れたんじゃないのかい?」
ジークフリッドは眩暈がした。
母の言う通り確かに買い物では捨てるような野菜などを「持って行ってくれるならやるよ」と言われて最小限の出費で済ませ、ほとんどが釣銭になった。
が…「元は俺の金じゃねぇかよ」
収入のないはずの母親が銀貨なんて持っている時点でおかしかったのだ。
今更に気が付いたジークフリッドは絶望した。
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