31 / 41
2回目の人生
第31話 実は自分のもの
しおりを挟む
「今日は来るのかい?」
「知らねぇよ!それどころじゃねぇんだよ」
家の中を引っ掻き回すジークフリッド。
明日は騎士試験の日で、今回は平民の採用人数も20人と今までの10倍。
こんな事は滅多にない。
今回の大募集は王太子夫妻の護衛騎士が一度に30人。退職の年齢を迎えたとの事で他の騎士団から経験豊富な者を回すことになり欠員が出たのだ。
「そんなにジジイばっかりだったかな?」と思いつつも、チャンスである事は間違いない。
おおよそ試験を受験する平民の顔ぶれは知っているので、トップ通過は無理でも試験を受ける事さえできればジークフリッドの腕前からすれば10位以内で合格できそうなのだ。
受験費用はあった。日雇いでセコセコと貯めた金は受験の費用は払ってきた。
合格祝いにエールを飲む分くらいは余っている。しかし肝心の武具がないのだ。
前回試験に落ちて、一式を買い直そうとしたが金が足りず肘あてを買い替えた。
毎回すべて揃っているはずなのに、買ったばかりの肘あてもなければバイザーもない。
バイザーは頭をすっぽりと覆うものなので大きさがある。
直ぐに見つかりそうなのに、ないのだ。
それもそのはず。
ジークフリッドの家の中は空き巣被害にあったのか?と思ってしまうほど色んなものがいろんな場所に散らばっていた。
ジークフリッドもジークフリッドの母親も片付ける事はしない。
ゴミすら自分がゴミだと解るようにその辺に放っておけば、「これはゴミ」と自分が解っているのだから何の問題もない。
問題なのはゴミは自分も母親も「ゴミだな」と判る。
骨付き鳥なら肉は食べてしまって、それ以上食べられない骨の部分であったり、鼻をかんだ後の残骸であったり。そんなものはお互いに「ゴミ」と判るので放っておく。
しかし、大事な物と言うのは自分にとって大事なのであって、例え母親、息子と言えど相手の大事な物かどうかなんて言われなきゃ判らないし、言われても忘れてしまっている事がある。
「あとで一緒に探してやるわよ。それより!オデットはどうして来ないんだい!家がちっとも片付かないじゃないか」
「五月蝿ぇな!自分で片付けろよ。おかげで俺のバイザーが見つからないじゃないか」
「バイザー?なんだいそりゃ」
「バイザーっつったらバイザーだよ!んっとに使えねぇババアだな」
「どうでもいいさね。ほら。釣はやるから!夕食の食べ物を買ってきておくれな」
「はぁーっ?!仕方ねぇな」
ジークフリッドは母親から銀貨を1枚手渡されて、面倒ではあるが釣はくれるというので適当に安いものを見繕ってごっそりと駄賃で貰おうと買い出しに出かけた。
ジークフリッドが出て行ったあと、ジークフリッドの母はいい加減物が散乱した部屋を更にジークフリッドが引っ掻き回した事で、ゴミも自分の大事な物もごっちゃになってしまった事に溜息を吐いた。
「こんなのはオデットの仕事だろうに。全く…最近の若いのは本当に使えないったらありゃしないよ」
足でガサガサと散乱した物を退けて自分の通り道を作り、拾ってきた薄汚れたソファに腰を下ろした。
背もたれに掛けていた布は汗シミなのか垢なのかで汚れている。
「あーもう!汚いね。何時になったら洗濯するんだい!」
部屋には1人しかいないので、ジークフリッドの母は見えないオデットに向かって悪態を吐く。
手に触れる物をバサバサと床に放り投げてスペースを作るとソファに横になり、ソファテーブルの上に散らばった品の中から何時のものか解らない干し肉を見つけると齧りだした。
ゴーゴーと地響きのような鼾をかいて居眠りをしているところにジークフリッドが帰ってきた。
「おいっ!置き場所!ぐうたら寝てんじゃねぇぞ!片付けろよ!置き場所がねぇじゃねぇか!」
「ん…あ?…寝ちまってたよ。その辺に置いときな。何買って来てくれたんだい?」
「野菜だろ、あとは肉だろ。でもさ、よく銀貨なんて持ってたよな。年金ってまだだろ?」
「年金?そんなの掛け金も払ってないのにもらえる訳がないさね」
「え?マジ?払ってねぇの?老後に困るんじゃねぇのか?」
「そんなのお前が騎士になりゃ食わせてもらえるだろう?」
「は?なんで俺が食わさなきゃいけねぇんだよ。今だって散々俺の稼ぎで食っちゃ寝してんじゃねぇか!…え?だったらあの銀貨…どこから出て来たんだよ!」
「あ~その辺りにあった物を売ったんだよ。良く判らない鉄の花瓶みたいなやつとか」
「鉄の花瓶?そんなものあったか?」
「あったわよ。瓜の形みたいになって穴が開いてるけど花を生けたら底の方が尖ってるから置けやしないし、水抜きみたいな穴が開いてて、塞ぐ板も動いて隙間があるし。使い道なんかないから売ったんだよ」
「え…待てよ?瓜の形?見た目が卵みたいな形で大きさは人の頭くらいの?」
「あ~そうそう。そんな感じだった」
「ばっばっ馬鹿野郎!何してくれてんだよ!バイザーだよ!バイザー!どうすんだよ!武具がないと騎士の試験は受けられねぇんだぞ?」
「そんなのその辺の木箱でも被ってりゃいいじゃないか。だいたいだよ?大事な物はちゃぁんと片付けていなかった癖に!親に向かって馬鹿とはなんだい!馬鹿とは!!その辺に転がってたんだ。誰が見たってゴミだと思うさね。ゴミを金に換えて何が悪いんだい!そのつり銭だってどうせ余り物ばっかり買ってたんまり懐に入れたんじゃないのかい?」
ジークフリッドは眩暈がした。
母の言う通り確かに買い物では捨てるような野菜などを「持って行ってくれるならやるよ」と言われて最小限の出費で済ませ、ほとんどが釣銭になった。
が…「元は俺の金じゃねぇかよ」
収入のないはずの母親が銀貨なんて持っている時点でおかしかったのだ。
今更に気が付いたジークフリッドは絶望した。
「知らねぇよ!それどころじゃねぇんだよ」
家の中を引っ掻き回すジークフリッド。
明日は騎士試験の日で、今回は平民の採用人数も20人と今までの10倍。
こんな事は滅多にない。
今回の大募集は王太子夫妻の護衛騎士が一度に30人。退職の年齢を迎えたとの事で他の騎士団から経験豊富な者を回すことになり欠員が出たのだ。
「そんなにジジイばっかりだったかな?」と思いつつも、チャンスである事は間違いない。
おおよそ試験を受験する平民の顔ぶれは知っているので、トップ通過は無理でも試験を受ける事さえできればジークフリッドの腕前からすれば10位以内で合格できそうなのだ。
受験費用はあった。日雇いでセコセコと貯めた金は受験の費用は払ってきた。
合格祝いにエールを飲む分くらいは余っている。しかし肝心の武具がないのだ。
前回試験に落ちて、一式を買い直そうとしたが金が足りず肘あてを買い替えた。
毎回すべて揃っているはずなのに、買ったばかりの肘あてもなければバイザーもない。
バイザーは頭をすっぽりと覆うものなので大きさがある。
直ぐに見つかりそうなのに、ないのだ。
それもそのはず。
ジークフリッドの家の中は空き巣被害にあったのか?と思ってしまうほど色んなものがいろんな場所に散らばっていた。
ジークフリッドもジークフリッドの母親も片付ける事はしない。
ゴミすら自分がゴミだと解るようにその辺に放っておけば、「これはゴミ」と自分が解っているのだから何の問題もない。
問題なのはゴミは自分も母親も「ゴミだな」と判る。
骨付き鳥なら肉は食べてしまって、それ以上食べられない骨の部分であったり、鼻をかんだ後の残骸であったり。そんなものはお互いに「ゴミ」と判るので放っておく。
しかし、大事な物と言うのは自分にとって大事なのであって、例え母親、息子と言えど相手の大事な物かどうかなんて言われなきゃ判らないし、言われても忘れてしまっている事がある。
「あとで一緒に探してやるわよ。それより!オデットはどうして来ないんだい!家がちっとも片付かないじゃないか」
「五月蝿ぇな!自分で片付けろよ。おかげで俺のバイザーが見つからないじゃないか」
「バイザー?なんだいそりゃ」
「バイザーっつったらバイザーだよ!んっとに使えねぇババアだな」
「どうでもいいさね。ほら。釣はやるから!夕食の食べ物を買ってきておくれな」
「はぁーっ?!仕方ねぇな」
ジークフリッドは母親から銀貨を1枚手渡されて、面倒ではあるが釣はくれるというので適当に安いものを見繕ってごっそりと駄賃で貰おうと買い出しに出かけた。
ジークフリッドが出て行ったあと、ジークフリッドの母はいい加減物が散乱した部屋を更にジークフリッドが引っ掻き回した事で、ゴミも自分の大事な物もごっちゃになってしまった事に溜息を吐いた。
「こんなのはオデットの仕事だろうに。全く…最近の若いのは本当に使えないったらありゃしないよ」
足でガサガサと散乱した物を退けて自分の通り道を作り、拾ってきた薄汚れたソファに腰を下ろした。
背もたれに掛けていた布は汗シミなのか垢なのかで汚れている。
「あーもう!汚いね。何時になったら洗濯するんだい!」
部屋には1人しかいないので、ジークフリッドの母は見えないオデットに向かって悪態を吐く。
手に触れる物をバサバサと床に放り投げてスペースを作るとソファに横になり、ソファテーブルの上に散らばった品の中から何時のものか解らない干し肉を見つけると齧りだした。
ゴーゴーと地響きのような鼾をかいて居眠りをしているところにジークフリッドが帰ってきた。
「おいっ!置き場所!ぐうたら寝てんじゃねぇぞ!片付けろよ!置き場所がねぇじゃねぇか!」
「ん…あ?…寝ちまってたよ。その辺に置いときな。何買って来てくれたんだい?」
「野菜だろ、あとは肉だろ。でもさ、よく銀貨なんて持ってたよな。年金ってまだだろ?」
「年金?そんなの掛け金も払ってないのにもらえる訳がないさね」
「え?マジ?払ってねぇの?老後に困るんじゃねぇのか?」
「そんなのお前が騎士になりゃ食わせてもらえるだろう?」
「は?なんで俺が食わさなきゃいけねぇんだよ。今だって散々俺の稼ぎで食っちゃ寝してんじゃねぇか!…え?だったらあの銀貨…どこから出て来たんだよ!」
「あ~その辺りにあった物を売ったんだよ。良く判らない鉄の花瓶みたいなやつとか」
「鉄の花瓶?そんなものあったか?」
「あったわよ。瓜の形みたいになって穴が開いてるけど花を生けたら底の方が尖ってるから置けやしないし、水抜きみたいな穴が開いてて、塞ぐ板も動いて隙間があるし。使い道なんかないから売ったんだよ」
「え…待てよ?瓜の形?見た目が卵みたいな形で大きさは人の頭くらいの?」
「あ~そうそう。そんな感じだった」
「ばっばっ馬鹿野郎!何してくれてんだよ!バイザーだよ!バイザー!どうすんだよ!武具がないと騎士の試験は受けられねぇんだぞ?」
「そんなのその辺の木箱でも被ってりゃいいじゃないか。だいたいだよ?大事な物はちゃぁんと片付けていなかった癖に!親に向かって馬鹿とはなんだい!馬鹿とは!!その辺に転がってたんだ。誰が見たってゴミだと思うさね。ゴミを金に換えて何が悪いんだい!そのつり銭だってどうせ余り物ばっかり買ってたんまり懐に入れたんじゃないのかい?」
ジークフリッドは眩暈がした。
母の言う通り確かに買い物では捨てるような野菜などを「持って行ってくれるならやるよ」と言われて最小限の出費で済ませ、ほとんどが釣銭になった。
が…「元は俺の金じゃねぇかよ」
収入のないはずの母親が銀貨なんて持っている時点でおかしかったのだ。
今更に気が付いたジークフリッドは絶望した。
1,137
お気に入りに追加
2,110
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約解消したら後悔しました
せいめ
恋愛
別に好きな人ができた私は、幼い頃からの婚約者と婚約解消した。
婚約解消したことで、ずっと後悔し続ける令息の話。
ご都合主義です。ゆるい設定です。
誤字脱字お許しください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】裏切ったあなたを許さない
紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。
そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。
それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。
そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
(完)なにも死ぬことないでしょう?
青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。
悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。
若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。
『亭主、元気で留守がいい』ということを。
だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。
ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。
昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
言いたいことはそれだけですか。では始めましょう
井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。
その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。
頭がお花畑の方々の発言が続きます。
すると、なぜが、私の名前が……
もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。
ついでに、独立宣言もしちゃいました。
主人公、めちゃくちゃ口悪いです。
成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
完結 愛のない結婚ですが、何も問題ありません旦那様!
音爽(ネソウ)
恋愛
「私と契約しないか」そう言われた幼い貧乏令嬢14歳は頷く他なかった。
愛人を秘匿してきた公爵は世間を欺くための結婚だと言う、白い結婚を望むのならばそれも由と言われた。
「優遇された契約婚になにを躊躇うことがあるでしょう」令嬢は快く承諾したのである。
ところがいざ結婚してみると令嬢は勤勉で朗らかに笑い、たちまち屋敷の者たちを魅了してしまう。
「奥様はとても素晴らしい、誰彼隔てなく優しくして下さる」
従者たちの噂を耳にした公爵は奥方に興味を持ち始め……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる