2度もあなたには付き合えません

cyaru

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2回目の人生

第30話  不老不死は無理だけど

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隣国は、嘘か本当か真偽は定かでないものの2千年ほど前まで魔法を使える人間の数の方が多かったという。

書物に残るだけの話で、今は何処をどんなに探しても魔法と言う非科学的な力を使える者はいない。

しかし「品物」は幾つか残っていた。

なまくらとなった剣、枠だけが残った鏡、そしてこの宝飾品。


剣はかつて、空気も水も切り裂いたと言われる剣だが、鞘から抜けば刃の先から血が滴り落ちると言い伝えられていて、酷く憶病だった国王の時代に20年以上海水に浸された。

その結果錆てしまい、水や空気を切るどころか鞘から抜くにも一苦労。
苦労して抜けばボロボロで茶色い鉄くず、いや錆の粉になっていた。


鏡は未来に起きる事を映し出すと言われていたが、800年前の国王の時代にかつて経験したことのない未曾有の災害を映し出し、おののいた国王が割ってしまった。

その後、復元をされたが一度割れてしまった鏡は二度と未来を移すことはなく、枠だけが残されていた。


そして宝飾品。

作られた当初は太陽よりも明るい光を放っていたと文献には記載があるが、今はくすんでいる。
蘇りの石と呼ばれる宝飾品。

不老不死を願った国王は膨大な魔力を扱う魔法使いで、生きる事に執着した王だった。
石の中に関わった魔法使いの命を封じ込め、その命の数だけ蘇ることが出来る。

石の中に封じ込められた魔法使いの命の数は500ないし650人と言われているが、1度蘇ると1つ減る。使用頻度は解らないが、だんだんと光を失い、くすんで最後は砕け散るだろうと文献には書かれていた。


フロリアがこの宝飾品を見つけた時は既にくすんでいた。

1人の国王が何度も蘇ってしまうと、その度に未来が変わってしまう。
永遠の命ではなく、何度も繰り返し同じ時を生きる事により良い方向に知恵を使えば民衆にもその恩恵は与えられるだろうが、為政者の為だけに使われる可能性の方が高い。

既に何度か使われた事は文献にも書かれていた。300年前の国王は「もう疲れた」と言い残していて、実に54回も石を使い、同じ時間を生きたとあった。

フロリアはこの石を使った。


一番最初から10回目ほどはよく覚えていた。

完全な隷属国にするために政略結婚でこの国に嫁がされた時、フロリアは「原始時代?」と感じた。

全てにおいて遅れた国だった。
王太子ロッバルトと協力をして国を何とか建て直した。

最初の人生で「まだやりたいことがあったのに」と思ったフロリアは病の体をおして母国に戻り石に願った。

まともな使い方をしていたのである。

2回目の人生が始まった時、全ての記憶がある事に気が付いたフロリアは同じように嫁がされ、また国の発展に尽力をしたのだが、その時に思ったのだ。

同じように記憶がある人間を何人も作ればもっと発展するのではないかと。

結果としてはその考えは当たっていた。
2度目の人生で、人生の終焉を迎えた者たちに「もう一度やり直したい」と願わせることで3度目は飛躍的に発展した。

4回目、5回目と繰り返していてさらに気が付いた事があった。

「誰かが操作している?」


同じ時間を過ごすという事は、同じ状態からスタートする筈なのに回数を重ねるごとに時代が良くなっているのだ。

石の事を知っている人間をよく観察をすると、3回目の人生の時に自分とロッバルトの助けになってくれた母国の補佐官が原因だった。

一番の高齢でフロリアが「開拓をするので手伝って欲しい」と支援を要請した時には既に60代後半。補佐官はフロリアに言われて石で蘇った時、フロリアが生まれるよりも半世紀ほど早く生まれるのだから、過去の記憶を元に幼い頃は神童と呼ばれ、成人すれば神の使いと呼ばれるまでになって大改革を敢行していたのだ。

1回目に戻るのではなく、前回に戻るだけなので発展した状態でフロリアが生まれるのは当たり前の事だった。

「これじゃ、わたくしは何の功績も残せないじゃない!」

前回の記憶があるからこそ、フロリアは遅れたこの国で救世主とも女神とも言われて崇められたのに、知っている事全てが既出となってしまっていれば「だから?」と一蹴されてしまう。

「バカバカしい。やってられないわ」

全てを投げ出したフロリアは遊興の楽しさと喜びに溺れて行った。

どうせ何もしなくたって発展はしているのだから、やって貰えばいい。遊んで暮らした方がずっと楽だ。次も、その次も遊んで暮らせるならそのほうが良いじゃない。と思ったのだが問題に気が付いた。

石に願いを込めて蘇る時に、願いを込めた者が願った者まで前回に巻き戻りやり直す事になる。
例えば、幼くして子を事故などで無くしてしまった親が「次に生まれ変わったらあの子を事故で無くしたりしない」と願えばその子供も蘇る。

なので、石の消耗はより激しくなった。

最悪なのは今回の人生が始まった時、母国の宝物庫に行ってみると石はあった。

あったのだが、かなりくすんでいて扱いを少しでも乱暴にしてしまうと、くすみすらないただの石ころ、いや砂のように崩れてしまいそうだったのだ。

「次はわたくしだけでいいから」

フロリアはそっとくすんだ石を撫でた。

すると‥‥

ピチッ!!ピシピシ!!

それは小さな音。

小さな音だが、心臓がドクンと大きく跳ねてしまいそうな嫌な音がした。
恐る恐るフロリアが石を見ると…。


「イヤァァーッ!!」

「妃殿下、どうされました?!」

侍女が慌てて駆けつけて来た。

どこかで誰かが蘇ったのか。
石はフロリアの手のひらの上でボロボロに砕けていたのだった。
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