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2回目の人生
第28話 言えないパワーワード
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ジークフリッドとジークフリッドの母の会話を聞き、声もかけずに帰ってもう1週間ほどになる。
その間は1度もジークフリッドの家に行かなかったからか、ジークフリッドがやってきた。理由は考えなくても解る。
ジークフリッドは騎士になりたくて募集があれば申し込んでいるのでアレグロのように正規で雇ってもらうことが出来ず、口入屋が早朝に日雇いの労働者を集めている場に行って日銭の仕事をしているのだ。
仕事は毎日ある訳ではないし、労働の内容と賃金が合わないと思えばその荷馬車の前には人は集まらない。
少々過酷な内容であっても賃金が良ければ人は集まって荷馬車に乗せられて仕事先に連れて行かれる。
ジークフリッドが仕事にありつけるのは1か月、30日の内で半分の14、15日程度。
日払いの賃金は一番手元に残りにくい。
仕事の終わりには金を持っているのでついつい使ってしまうからである。
ジークフリッドは騎士に採用をされれば防具などは自前で揃えねばならないので僅かだが貯めている。貯めているのだが採用試験に落ちると「剣が良くなかった」「バイザーが悪かった」とそれまで使っていたのを下取りに入れて中古だが買い替えてしまうのでほとんど金は貯まっていない。
食べる物にも困る日があるので、オデットが青果店や魚屋、肉屋で貰える「おまけ」を分けていたのだ。
扉が開いた先にヴァルスがいたからか、ジークフリッドは怒鳴るチャンスを失ってしまっていた。
「家人に用か?」
「誰だ?お前」
――え?知らないの?――
オデットは驚きでもあった。流石にジークフリッドでもヴァルスは知っていると思ったのだ。
ジークフリッドは平民なので王太子が出席をする茶会や夜会に出向くことはないけれど、騎士の花形と言えば近衛隊。おまけにヴァルスは令嬢たちの間では人気NO.1なのだ。
騎士を目指しているのだから当然知っているものだと思ったのにジークフリッドはヴァルスを知らなかった。
「どうでもいいけど、ちょっとオデットに話があるんだ」
「オデット嬢に?」
ヴァルスがちらりとオデットを見て「どうする?」と、目で問いかけているように見えた。
どうせやってきたのは1週間も顔を見せないので、家の中を掃除しろ、若しくは洗濯物が溜まったので洗え、ついでに食料を調達してこいだろうかと見当をつけた。
「ガッティネ公爵子息様。すみません。知り合いです」
「知り合い?こんな乱暴な物言いをする奴が?」
――えぇ、知り合いに格下げになったばかりですけどね――
オデットとしてはもう話をすることもない。
直接断った方がジークフリッドも解りやすいだろうと玄関扉の近くに歩いて行った。
「なにかしら」
「なにかしら?じゃなくてさ。母さんがオデットは来ないのかって聞いてるんだ」
「あらそう。なら行かないと答えておいて」
「行かなっ…え?なんで?」
「行く必要がないからよ。私はお手伝いさんでも使用人でもないの。今までは善意で行ってたけど…よく考えたら貴方の家の家事全般を他家の人間である私がする必要ってないと思うのよね」
「今までしてたじゃないか!」
「そうね。でもやめたの。さっきも言ったでしょう?私は貴方や貴方の家に雇われている訳じゃないの。今まではボランティアよ。だけど無償奉仕をしなくなっても問題ないでしょう?私も働かないといけないし都合よくつかわれている場合じゃないって気が付いたからもう行くのをやめたのよ」
日頃から付き合いのあるご近所さんなどであれば「ちょっと手伝って」と言われて金をくれないならやらないとはほとんどの人は言わないだろうが、労働力をアテにされてしまうとそれはもう「ちょっと手伝って」ではない。
ジークフリッドもオデットを雇っている訳ではないし、好意でしてもらっていただけであって当たり前ではない。今までは「結婚」という将来の家族なんだというニンジンをオデットの前にぶら下げていただけだ。
しかもそのニンジンが疑似餌だったのだからオデットとして見れば「一昨日きやがれ」である。
「困るよ。オデットが来ないと家の中も片付かないし、洗濯もしてもらわないと着る物もないんだ」
「貴方の家でしょう?貴方なり貴方のお母様がすればいいんじゃないの?」
「そうだけどさ。俺は忙しいし、母さんも具合が悪いしさ」
「ならここに来る前に貴方の妹さんに頼めば?妹さんがダメなら官庁の出先機関に相談するとか、他人でいいならご近所さんでも良いわけでしょう?」
「どうしてそんな事言うんだよ。俺たちの仲じゃないか」
「どんな仲?ただの友達、ううん。知り合いかしら。結婚の約束をしたわけではないし。わざわざ時間を割いてまで行く必要がある?」
思えばジークフリッドは「結婚」と言うパワーワードを使ったことがない。匂わせるだけで決定的な事は言わなかったのだ。
今ここで言ってしまうとヴァルスが証人になってしまうので、ジークフリッドもその先を踏み込んでは来ない。
「解ったよ…じゃぁ時間が出来たら来てくれ」
「そうね。時間が出来たら!!行く事も考えるわ」
――行かないけどね?考えるだけで直ぐ答えは出るけどね?――
ジークフリッドはヴァルスに視線を移し、値踏みするように数回上下に視線を走らせたあとすごすごと帰っていった。
――きっとまた来るわね。次は早くて3日後かしら――
ジークフリッドが帰っていったあと、オデットはヴァルスを見た。
「あ、うん…帰るよ。明日は夜勤明けになるけど顔を見せるようにするよ」
――何故に?――
オデットには明日も夜勤明けでただ顔を見せに来るというヴァルスの真意が解らなかった。
★~★
次は14時10分です(=^・^=)
その間は1度もジークフリッドの家に行かなかったからか、ジークフリッドがやってきた。理由は考えなくても解る。
ジークフリッドは騎士になりたくて募集があれば申し込んでいるのでアレグロのように正規で雇ってもらうことが出来ず、口入屋が早朝に日雇いの労働者を集めている場に行って日銭の仕事をしているのだ。
仕事は毎日ある訳ではないし、労働の内容と賃金が合わないと思えばその荷馬車の前には人は集まらない。
少々過酷な内容であっても賃金が良ければ人は集まって荷馬車に乗せられて仕事先に連れて行かれる。
ジークフリッドが仕事にありつけるのは1か月、30日の内で半分の14、15日程度。
日払いの賃金は一番手元に残りにくい。
仕事の終わりには金を持っているのでついつい使ってしまうからである。
ジークフリッドは騎士に採用をされれば防具などは自前で揃えねばならないので僅かだが貯めている。貯めているのだが採用試験に落ちると「剣が良くなかった」「バイザーが悪かった」とそれまで使っていたのを下取りに入れて中古だが買い替えてしまうのでほとんど金は貯まっていない。
食べる物にも困る日があるので、オデットが青果店や魚屋、肉屋で貰える「おまけ」を分けていたのだ。
扉が開いた先にヴァルスがいたからか、ジークフリッドは怒鳴るチャンスを失ってしまっていた。
「家人に用か?」
「誰だ?お前」
――え?知らないの?――
オデットは驚きでもあった。流石にジークフリッドでもヴァルスは知っていると思ったのだ。
ジークフリッドは平民なので王太子が出席をする茶会や夜会に出向くことはないけれど、騎士の花形と言えば近衛隊。おまけにヴァルスは令嬢たちの間では人気NO.1なのだ。
騎士を目指しているのだから当然知っているものだと思ったのにジークフリッドはヴァルスを知らなかった。
「どうでもいいけど、ちょっとオデットに話があるんだ」
「オデット嬢に?」
ヴァルスがちらりとオデットを見て「どうする?」と、目で問いかけているように見えた。
どうせやってきたのは1週間も顔を見せないので、家の中を掃除しろ、若しくは洗濯物が溜まったので洗え、ついでに食料を調達してこいだろうかと見当をつけた。
「ガッティネ公爵子息様。すみません。知り合いです」
「知り合い?こんな乱暴な物言いをする奴が?」
――えぇ、知り合いに格下げになったばかりですけどね――
オデットとしてはもう話をすることもない。
直接断った方がジークフリッドも解りやすいだろうと玄関扉の近くに歩いて行った。
「なにかしら」
「なにかしら?じゃなくてさ。母さんがオデットは来ないのかって聞いてるんだ」
「あらそう。なら行かないと答えておいて」
「行かなっ…え?なんで?」
「行く必要がないからよ。私はお手伝いさんでも使用人でもないの。今までは善意で行ってたけど…よく考えたら貴方の家の家事全般を他家の人間である私がする必要ってないと思うのよね」
「今までしてたじゃないか!」
「そうね。でもやめたの。さっきも言ったでしょう?私は貴方や貴方の家に雇われている訳じゃないの。今まではボランティアよ。だけど無償奉仕をしなくなっても問題ないでしょう?私も働かないといけないし都合よくつかわれている場合じゃないって気が付いたからもう行くのをやめたのよ」
日頃から付き合いのあるご近所さんなどであれば「ちょっと手伝って」と言われて金をくれないならやらないとはほとんどの人は言わないだろうが、労働力をアテにされてしまうとそれはもう「ちょっと手伝って」ではない。
ジークフリッドもオデットを雇っている訳ではないし、好意でしてもらっていただけであって当たり前ではない。今までは「結婚」という将来の家族なんだというニンジンをオデットの前にぶら下げていただけだ。
しかもそのニンジンが疑似餌だったのだからオデットとして見れば「一昨日きやがれ」である。
「困るよ。オデットが来ないと家の中も片付かないし、洗濯もしてもらわないと着る物もないんだ」
「貴方の家でしょう?貴方なり貴方のお母様がすればいいんじゃないの?」
「そうだけどさ。俺は忙しいし、母さんも具合が悪いしさ」
「ならここに来る前に貴方の妹さんに頼めば?妹さんがダメなら官庁の出先機関に相談するとか、他人でいいならご近所さんでも良いわけでしょう?」
「どうしてそんな事言うんだよ。俺たちの仲じゃないか」
「どんな仲?ただの友達、ううん。知り合いかしら。結婚の約束をしたわけではないし。わざわざ時間を割いてまで行く必要がある?」
思えばジークフリッドは「結婚」と言うパワーワードを使ったことがない。匂わせるだけで決定的な事は言わなかったのだ。
今ここで言ってしまうとヴァルスが証人になってしまうので、ジークフリッドもその先を踏み込んでは来ない。
「解ったよ…じゃぁ時間が出来たら来てくれ」
「そうね。時間が出来たら!!行く事も考えるわ」
――行かないけどね?考えるだけで直ぐ答えは出るけどね?――
ジークフリッドはヴァルスに視線を移し、値踏みするように数回上下に視線を走らせたあとすごすごと帰っていった。
――きっとまた来るわね。次は早くて3日後かしら――
ジークフリッドが帰っていったあと、オデットはヴァルスを見た。
「あ、うん…帰るよ。明日は夜勤明けになるけど顔を見せるようにするよ」
――何故に?――
オデットには明日も夜勤明けでただ顔を見せに来るというヴァルスの真意が解らなかった。
★~★
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