2度もあなたには付き合えません

cyaru

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2回目の人生

第19話  これは因果応報③-③(ヴァルス)

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同じ罪で2度もとなれば民衆も黙ってはいない。
前回のオデットは王太子妃を操っていたとされていたが、実は夫に操られていたのではと勘繰る者が必ず出て来る。

ヴァルスは処刑される事もなかった。

ヴァルスを処刑してしまえば民衆に自ら立て続けに起きた失態を公開することになるため、ヴァルスは騎士であることをはく奪され、足りなくなった国庫はガッティネ公爵家が弁済。ガッティネ公爵家はこの件で没落をした。

「それが望みだったのだろう?」

国王は冷たく言い放ち、体よくフロリアとロッバルトの面倒をヴァルスに見るように申し付けた。

国王は王籍を抜いたはずの第3王子を呼び戻し、籍を復活させると実質の施政を任せるようになった。

ロッバルトとフロリアは名ばかりの王太子夫妻。そんな扱いとなった。



隣国の手前、王太子夫妻であることは変わらない。
ヴァルスは少ない、限られた予算の中で2人を生かさねばならなくなった。

フロリアの散財は止まらない。

24時間フロリアと一緒に居た訳ではないヴァルスはそこでやっとフロリアの実態を知る事になった。


「何故仕立て屋が来てないのよ」

「申し訳ございません。本日は都合が付かないと連絡がありまして」

「それを何とかするのがヴァルス!貴方の仕事でしょう?顔だけ良くても中身が付いて行かないって不幸ね」

「申し訳ございません」

「謝罪を聞きたいんじゃないの。わたくしは最新のデザインの説明が聞きたいの!」


幸いなことにフロリアは一度手にしてしまえば興味を失う人間。
買い物をするという楽しみは忘れる事は無くても、最新のデザインのドレスも1度着て夜会でお披露目をすればもう日の目を見る事はない。

宝飾品も同じことで、新しい贅沢をさせるために、以前に購入した品を売りなんとか金を工面する日々。


そんな中、フロリアの持ち物を拝借し金を工面しようとしていた時だった。

「何してるのよ」

「何、と言われましても…在庫の整理をしておりま…ウガッ!!」

バシッとフロリアの扇がヴァルスの頬を打った。
女性の力とは言え、しなりが付いた扇は勢いもあってヴァルスの頬が切れ血が滲んだ。


「返しなさい。この部屋の宝石に手を出すことは許さないわ」

恐ろしい数の宝飾品があるのに、フロリアが鬼の形相でヴァルスの手から奪い取ったのは、くすんでしまった宝飾品。輝きもなく磨きに出せばいくらかの値が付くだろうと思われる骨董品だった。


「出て行きなさい!」

「はい。申し訳ありません」


他に新しい物は幾つもあるし、台座も古い宝飾品を大事にしているように見えたフロリア。その怒り方も異常だった。

「痛っ…くそ。血が出てるじゃないか」

切れた頬。そのうち瘡蓋になり治るだろうとヴァルスはそれ以上何もすることもなく傷口から血を拭っただけだった。

しかし、1週間も経つと傷口は治るどころかじくじくと膿を出し始め、顔全体が腫れあがった。

おまけにやっと薄く瘡蓋が付いてくると異常に痒くなる。
掻いてしまうと治りが遅くなると我慢をしてきたが寝ている間は無意識に掻きむしってしまうようで2か月もすると見目麗しいと言われたヴァルスの顔は苔の生えた岩石のようになった。


「気持ち悪いのよ!顔を見せないで!感染うつるじゃないの!」


宮にいる使用人たちも醜男となったヴァルスの事を嘲笑し始める。
こそこそと話をしてはいるが、決して小声ではなくヴァルスは酷い誹謗中傷に晒される事になった。

誰かにこの鬱憤を聞いて欲しくても誰も聞いてはくれない。

ロッバルトでさえ「気持ち悪い」とヴァルスを遠ざける。
そのロットバルトは女性と不貞行為をすれば子供が出来る可能性があるので男娼ばかりを相手にし、他にすることもないので日がな1日、淫靡な行いに耽っている。

そのせいか、ロッバルトの部屋は汚物の香りを誤魔化す香が焚かれいつも燻ぶっていた。

「オデットもこんな気持ちだったのか」

使用人たちから学がないと言われ蔑まれている事は知っていた。高位貴族のマナーなど生きていくのに必要のなかったオデットが出来ない事で悩んでいる事も知っていたが敢えて放置していた。

「きっと私のこんな愚かな部分を見ないようにするために虐げられる彼女を見て気持ちを誤魔化していたんだな」


ヴァルスの置かれている環境はどんどん悪くなる。

王宮に用件があって出向いても言われるのは「邪魔だから何とかしろ」と王太子夫妻の行いをもっと大人しくさせろという無理難題。

「これ以上、どうしろと言うんだ」

これもまたヴァルスには過去のオデットが重なった。
自分が散々に痛めつけて笑えなくなったオデットの顔が「キモい」と言うフロリアの言葉の通りに「マシな顔をしろ」と高圧的に言い放った。


今、同じことをフロリアに言われ「汚い顔を見せるな」と顔を見るたびに殴られる。
殴り返す事など出来るはずもなく耐える日々。


「今の私の方がまだ境遇に恵まれている」

そう、オデットは言葉で言われるだけでなくヴァルスの暴力も浴びていた。
非力な女性であるフロリア。扇という武器はあっても騎士であるヴァルスに気が向くままに、時に鬱憤を晴らすためだけに殴られていたオデットよりずっと自分の方が恵まれている。


「私は、なんてことを彼女にしてしまったんだろう。自分が似たような境遇になる事で初めてその痛みの一部を知る事で理解できるなんて」


オデットの受けた屈辱や苦痛。そして冤罪。
取り返しのつかない事をしてしまったとヴァルスは苦悩した。

その苦悩ですらオデットの受けた事からすればごく一部に過ぎない。

なによりヴァルスは自身の行いでここまで落ちたが、オデットには何の咎もなかったのだ。

「臭いのよ。あの香!なんとかしなさいよ!」

珍しく茶会に招かれたフロリアがそう言い残し、出て行くとヴァルスはあのくすんだ宝飾品をそっと宝石箱から取り出した。

「生まれ変わったら、私はオデットに償いをしよう。生涯を捧げても足らない罪を私は犯してしまった」

両手で覆うように願ったヴァルス。
手の中でくすんだ宝飾品が怪しく光った事には気が付かなった。



その後、隣国の国王が退位したことを切欠にロッバルトとフロリアは塔に幽閉をされた。
食事も与える必要はないとされた塔の扉は以後開かれる事もなかった。

2人の部屋には使用人たちが押し寄せ、金目の物を奪っていった。
その中の1人にヴァルスもいた。

ヴァルスは輝きもなくくすんだあの宝飾品だけを手に最期はオデットが吊るされた城壁を見上げるように剣で喉を突き果てている姿が見つかった。
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