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2回目の人生
第18話 これは因果応報③-②(ヴァルス)
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大歓声の中、オデット・マルネの体が吊るされる。
民衆は狂喜乱舞でヴァルス自身もそれでいいと思っていた。
が、最大の不幸の始まりだった。
愚かにも自分で「不幸」の開演をしてしまったのだ。
「どうしてよ。なぜわたくしが我慢などくだらない事をしなければならないの?」
王太子妃フロリアは本当に愚かな人間だった。
生れたのが隣国の侯爵家という高位貴族。しかもフロリアの母親は国王の妹で殊の外仲の良かった兄妹だからか若い頃の妹に瓜二つのフロリアを隣国の国王は自身の娘である王女よりも可愛がった。
贅沢を贅沢とも思わないモンスターに育ったフロリアに隣国の経済は危うい水準まで落ち込みかけた。
たかが侯爵令嬢1人に。と思われがちだが国王が目の中に入れても痛くない可愛がりようの娘。
日々の買い物だけでなく、投資を勧められたフロリアは自分の金ではないので勝手知ったるなんとやらで伯父の国王が謁見や会議で出払っている時に執務室に行き、膨大な額の投資をする書類に王印を押した。
あわやの所で従者が書類を全て差し止めたから難を逃れたものの、責任問題は発生する。
国王は損害がなかったとはいえ、フロリアへの態度を咎められ玉座を王太子に譲った。
王太子とフロリアは犬猿の仲。水と油と言ってよいだろう。
しかし金と発言力のある侯爵家の娘で国王の姪。新国王となる王太子にとっても従兄妹の関係にあり仕方なく属国扱いの国に嫁がせることにした。
本来なら婚姻で輿入れをさせるのだが、フロリアの実家もこれ幸いと婚約時から親睦を深めることが出来ると早々にフロリアを送り出した。
宗主国でもある国から見ればフロリアの嫁ぎ先の国がどうなろうと知った事ではない。
受け入れをさせるために目を付けたのが第1王子で立太子させる事と引き換えにフロリアを受け入れさせた。
フロリアは責任を取らされて嫁がされたとは思えない所業を繰り返した。
第1王子は約束通りに立太子をしたが、その頃にはもう私財は残っていなかった。
ヴァルスは思うのだ。
何故フロリアのためにと思ってしまったのだろう。
諫める立場にありながら全てを容認し、誰かが責任を取れば民衆も溜飲が下がると信じてしまっていた。
「ヴァルス!もうだめだ。これでは父上が崩御するまで私は玉座につけない」
「大丈夫だ。何とかする」
「何とかって…どうやって。私にはもう出せる金もないんだ」
「金じゃない。馬鹿な民衆は処刑という滅多に見られない見世物を見ればそれで納得をする生き物だ。その為に私があの女を娶ったんだから」
「まさか・・お前そんな事を考えていたのか?」
「殿下、臣下とは為政者たる王家が如何に国を統べりやすくするためにどうするか。先手を打って考えるのです」
よく妙な宗教に傾倒をしてしまうと全てが正しいと思い込み、何もかも捧げてしまう者がいる。
急場を凌ぐのに王太子は正常な判断が出来ない状態に陥っていた。
ヴァルスはまさに狙っていた好機が来たとオデットを差し出すことでオデットに全ての罪を着せ、処刑することにしようとロッバルトに告げた。
この窮地を救ったのがヴァルスだと知ればフロリアもヴァルスを手放すことは出来なくなる。生涯傍に居られる大義名分を得られるのだからヴァルスには絶好の機会だとしか思えなかった。
財政が逼迫しこれでは立ち行かなくなるとフロリアも当然糾弾をされた。
「なんでわたくしが悪いように言われるのよ」
「落ち着いてくれ。大丈夫だ。君は惑わされただけと言う事にするから」
そしてオデットを差し出し、全ての諸悪の根源はオデットなのだと言えば民衆も納得をした。
民衆は事実を知らない。嘘の中に本当の事を少しだけ混ぜた真実を告げれば納得する生き物。
「そうだよな。隣国から来て右も左も解らないなら信じてしまうよ」
民意を誘導し、オデットを処刑することでその場は凌げたのだ。
これで上手く行く。そう思っていたが…。
散財することが当たり前のフロリアが自身の生活を見直すことはなかった。
このままでは母国に助けを求める前に自分が処刑されてしまうと恐怖を感じたその時だけはフロリアもヴァルスとロッバルトに口裏を合わせて大人しくしていたが、持って生まれて、モンスターとなったフロリアの生き方が変わる訳ではなかった。
まだ民衆の怒りも完全に鎮火をしていないのにフロリアは同じ生活をし始めた。
金を工面するのにまた福祉事業の予算書を改竄したのだが、いい加減膨れ上がっていた予算はオデットの処刑により正規の金額に戻っていたため、再度手を付けた事で金額が跳ね上がり監査が入った。
半年ほどは泳がされていたのだろう。
今度は言い逃れも出来なかった。
ただ、隣国の手前フロリアを処刑することも、ロッバルトの王太子をはく奪することも出来なかった。
哀しいかな、この国は隣国の属国に等しい扱いであり隣国の決定に異を唱えれば国がどうなるか。属国の扱いならまだいい。貴族は貴族でいられる。
しかし隷属国とさらにランクが落ちれば完全な支配下になってしまう。
今でさえ、次の国王を選ぶのが隣国なのにさらなる支配が始まれば隣国の貴族が貴族となり、この国の貴族は身分すら失ってしまう。
自身の身分を失いたくない国王と貴族は責任をヴァルスに全て背負わせた。
妻だけでなく実は夫も国を乗っ取ろうとしていたと筋書きを変えて民意を逸らそうとしたのである。
民衆は狂喜乱舞でヴァルス自身もそれでいいと思っていた。
が、最大の不幸の始まりだった。
愚かにも自分で「不幸」の開演をしてしまったのだ。
「どうしてよ。なぜわたくしが我慢などくだらない事をしなければならないの?」
王太子妃フロリアは本当に愚かな人間だった。
生れたのが隣国の侯爵家という高位貴族。しかもフロリアの母親は国王の妹で殊の外仲の良かった兄妹だからか若い頃の妹に瓜二つのフロリアを隣国の国王は自身の娘である王女よりも可愛がった。
贅沢を贅沢とも思わないモンスターに育ったフロリアに隣国の経済は危うい水準まで落ち込みかけた。
たかが侯爵令嬢1人に。と思われがちだが国王が目の中に入れても痛くない可愛がりようの娘。
日々の買い物だけでなく、投資を勧められたフロリアは自分の金ではないので勝手知ったるなんとやらで伯父の国王が謁見や会議で出払っている時に執務室に行き、膨大な額の投資をする書類に王印を押した。
あわやの所で従者が書類を全て差し止めたから難を逃れたものの、責任問題は発生する。
国王は損害がなかったとはいえ、フロリアへの態度を咎められ玉座を王太子に譲った。
王太子とフロリアは犬猿の仲。水と油と言ってよいだろう。
しかし金と発言力のある侯爵家の娘で国王の姪。新国王となる王太子にとっても従兄妹の関係にあり仕方なく属国扱いの国に嫁がせることにした。
本来なら婚姻で輿入れをさせるのだが、フロリアの実家もこれ幸いと婚約時から親睦を深めることが出来ると早々にフロリアを送り出した。
宗主国でもある国から見ればフロリアの嫁ぎ先の国がどうなろうと知った事ではない。
受け入れをさせるために目を付けたのが第1王子で立太子させる事と引き換えにフロリアを受け入れさせた。
フロリアは責任を取らされて嫁がされたとは思えない所業を繰り返した。
第1王子は約束通りに立太子をしたが、その頃にはもう私財は残っていなかった。
ヴァルスは思うのだ。
何故フロリアのためにと思ってしまったのだろう。
諫める立場にありながら全てを容認し、誰かが責任を取れば民衆も溜飲が下がると信じてしまっていた。
「ヴァルス!もうだめだ。これでは父上が崩御するまで私は玉座につけない」
「大丈夫だ。何とかする」
「何とかって…どうやって。私にはもう出せる金もないんだ」
「金じゃない。馬鹿な民衆は処刑という滅多に見られない見世物を見ればそれで納得をする生き物だ。その為に私があの女を娶ったんだから」
「まさか・・お前そんな事を考えていたのか?」
「殿下、臣下とは為政者たる王家が如何に国を統べりやすくするためにどうするか。先手を打って考えるのです」
よく妙な宗教に傾倒をしてしまうと全てが正しいと思い込み、何もかも捧げてしまう者がいる。
急場を凌ぐのに王太子は正常な判断が出来ない状態に陥っていた。
ヴァルスはまさに狙っていた好機が来たとオデットを差し出すことでオデットに全ての罪を着せ、処刑することにしようとロッバルトに告げた。
この窮地を救ったのがヴァルスだと知ればフロリアもヴァルスを手放すことは出来なくなる。生涯傍に居られる大義名分を得られるのだからヴァルスには絶好の機会だとしか思えなかった。
財政が逼迫しこれでは立ち行かなくなるとフロリアも当然糾弾をされた。
「なんでわたくしが悪いように言われるのよ」
「落ち着いてくれ。大丈夫だ。君は惑わされただけと言う事にするから」
そしてオデットを差し出し、全ての諸悪の根源はオデットなのだと言えば民衆も納得をした。
民衆は事実を知らない。嘘の中に本当の事を少しだけ混ぜた真実を告げれば納得する生き物。
「そうだよな。隣国から来て右も左も解らないなら信じてしまうよ」
民意を誘導し、オデットを処刑することでその場は凌げたのだ。
これで上手く行く。そう思っていたが…。
散財することが当たり前のフロリアが自身の生活を見直すことはなかった。
このままでは母国に助けを求める前に自分が処刑されてしまうと恐怖を感じたその時だけはフロリアもヴァルスとロッバルトに口裏を合わせて大人しくしていたが、持って生まれて、モンスターとなったフロリアの生き方が変わる訳ではなかった。
まだ民衆の怒りも完全に鎮火をしていないのにフロリアは同じ生活をし始めた。
金を工面するのにまた福祉事業の予算書を改竄したのだが、いい加減膨れ上がっていた予算はオデットの処刑により正規の金額に戻っていたため、再度手を付けた事で金額が跳ね上がり監査が入った。
半年ほどは泳がされていたのだろう。
今度は言い逃れも出来なかった。
ただ、隣国の手前フロリアを処刑することも、ロッバルトの王太子をはく奪することも出来なかった。
哀しいかな、この国は隣国の属国に等しい扱いであり隣国の決定に異を唱えれば国がどうなるか。属国の扱いならまだいい。貴族は貴族でいられる。
しかし隷属国とさらにランクが落ちれば完全な支配下になってしまう。
今でさえ、次の国王を選ぶのが隣国なのにさらなる支配が始まれば隣国の貴族が貴族となり、この国の貴族は身分すら失ってしまう。
自身の身分を失いたくない国王と貴族は責任をヴァルスに全て背負わせた。
妻だけでなく実は夫も国を乗っ取ろうとしていたと筋書きを変えて民意を逸らそうとしたのである。
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