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2回目の人生
第17話 これは因果応報③-①(ヴァルス)
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ヴァルスの胸は高鳴っていた。
思い人に会えるとは思ってもいなかった。
「ヴァルス、嬉しそうだな」
「そうでしょうか?」
「誤魔化さずとも解る。同じ乳母に育てられ、お前とは一心同体のようなものだからな」
――嘘を吐くな。私と貴様では立場も違うじゃないか――
違うのは女性の趣味も全く違う。
王太子は立太子をする前からだが、自由奔放で欲望のままに自分を引っ掻き回すような女性が好みだったが、ヴァルスは控えめだが常識があり、何事も前向きに取り組む女性を好ましく思っていた。
王太子の言う一心同体?
――バカバカしい――
王太子ロッバルトは虚栄心と自己顕示欲の塊だ。
優しそうな顔をしているが腹の内は真っ黒で、ない物ねだり。
第3王子を追放にまで追いやったのは王太子ロッバルトで、第3王子は自ら王籍を抜け商人たちと自由な旅に追放と言う形で出たのかなど簡単だ。
王太子という次代の玉座につけるのは1人しかいないからである。
ヴァルスは表向きは騎士として、そして幼馴染、乳兄弟としてロッバルトに接してはいるが今回は距離を置いた。
騎士の見習い生だった頃に国境警備に武者修行として回されたヴァルスは神を信じていないのに神が本当にいるのではないか。矛盾した考えを持っていた。
敵を目の前にする兵士を経験すると、神などいる筈がないと思いながらも神頼みをしてしまう滑稽な自分を知ることが出来る。
絶体絶命の危機を神に祈るだけで回避できるはずがない。
「まだ死にたくない」「こんなところで死ねない」そんな言葉を吐く信心深い者から先に命を落とす。それが戦である。
祈っていれば救われる。そんな言葉はきっと死の縁に立った時に心穏やかに神に召されるための呪文だ。
そう思うのにヴァルスには「神」が存在する。
そう思わないと成り立たない「経験」という記憶があった。
色々な書物を読み漁り、他国には「輪廻転生」があると知った。
しかしヴァルスは ”少し違う” と感じた。
人としてもう一度生まれ変わり、新しい人生を生きることのようだがヴァルスが今現在経験をしているのは同じ人生をもう一度生きている実感があったからである。
ヴァルスが前世ではなく前回の人生のやり直しである事に考えが行きついたのは国境警備に回されて目の前で仲間が襲われて命を落とした時からだった。
★~★
渓谷を挟んで向かいに聳え立つ敵陣の要塞。
そこに吊るされた仲間の亡骸を見て妄想や空想と呼ぶには余りにも生々しい経験に気が付いた。
事あるごとにフラッシュバックしてくる記憶。
不思議な事にその記憶にある自分は13歳、14歳の自分ではなく20歳を超えた自分だった。
自身が関与しているとなれば、もう一人の人格があるのではないか。
そう思えるくらいにゲスでクズな男が自分。
自分は何処かおかしいのではないかと一時期、教会へ懺悔に毎日出向いた。
懺悔室の静かな空間で、壁の向こうに向かって1人で「まだ経験をしていない記憶」を懺悔する。
記憶の中でヴァルスは何の罪もない1人の女性を身体的にも精神的にも追いつめ、痛めつけていた。
そしてその女性に濡れ衣を着せ処刑台に送り込んだ。
その傍らで微笑んでいるもう1人の女性がいた。
ヴァルスはその女性に喜んでほしくて尽くしていた。
自分自身を第三者の視点で見ているような記憶はまだ成熟する過程にあるヴァルスにはとても恐ろしいものだった。
騎士として、清廉潔白であれと心に刻んでいるはずなのに行いの全てが鬼畜の所業。
疲れれば夢も見ないし、考える事もない。
鍛錬で自分を追い込んだがどんなに疲れていても、また休息を十分に取っても不意にフラッシュバックする思い。
ヴァルスは連日悩まされ、上官に相談しようにも未来の自分が行うであろう出来事など口にすることも出来なかった。そんな事を本気で相談してしまえばいくら公爵家の次男坊だからと言っても一生出る事の出来ない狭い部屋に閉じ込められてしまう。
そんなある日の事、ヴァルスは敵の捕虜になってしまった。
痛みを伴う尋問。1発貰うごとにまたフラッシュバックをする。
敵に問われている事よりも、殴られているのに何故か殴っている自分を自覚した。
――これは因果応報なのか――
まだ行っていない過去が今の自分に跳ね返っているのだと気が付くと、心が軽くなった。
動けなくなるまで殴られて独房に放り込まれる。
痛みに耐えながら、静かで真っ暗、そして石の床の冷たさが今の自分に降りかかる災いの意味を教えてくれた。
要塞に吊るされた仲間を見て思い出したのは、虐げた女性。
彼女の名前もはっきりと判る。オデット・マルネだ。
子爵令嬢でただ、ヴァルスの企みにより冤罪で処刑をされ城壁に吊るされた。
何故そう思ったのがヴァルスには自分自身の事なのに理解が出来なかった。
散財を続ける放漫で傲慢な女のためにヴァルスは身代わりとしてオデット・マルネを差し出したのだ。
「なんで、そんな事をしてしまったんだろう」
そう思うのはオデット・マルネが処刑された後に訪れたごく当たり前の不幸も知っているからだった。
思い人に会えるとは思ってもいなかった。
「ヴァルス、嬉しそうだな」
「そうでしょうか?」
「誤魔化さずとも解る。同じ乳母に育てられ、お前とは一心同体のようなものだからな」
――嘘を吐くな。私と貴様では立場も違うじゃないか――
違うのは女性の趣味も全く違う。
王太子は立太子をする前からだが、自由奔放で欲望のままに自分を引っ掻き回すような女性が好みだったが、ヴァルスは控えめだが常識があり、何事も前向きに取り組む女性を好ましく思っていた。
王太子の言う一心同体?
――バカバカしい――
王太子ロッバルトは虚栄心と自己顕示欲の塊だ。
優しそうな顔をしているが腹の内は真っ黒で、ない物ねだり。
第3王子を追放にまで追いやったのは王太子ロッバルトで、第3王子は自ら王籍を抜け商人たちと自由な旅に追放と言う形で出たのかなど簡単だ。
王太子という次代の玉座につけるのは1人しかいないからである。
ヴァルスは表向きは騎士として、そして幼馴染、乳兄弟としてロッバルトに接してはいるが今回は距離を置いた。
騎士の見習い生だった頃に国境警備に武者修行として回されたヴァルスは神を信じていないのに神が本当にいるのではないか。矛盾した考えを持っていた。
敵を目の前にする兵士を経験すると、神などいる筈がないと思いながらも神頼みをしてしまう滑稽な自分を知ることが出来る。
絶体絶命の危機を神に祈るだけで回避できるはずがない。
「まだ死にたくない」「こんなところで死ねない」そんな言葉を吐く信心深い者から先に命を落とす。それが戦である。
祈っていれば救われる。そんな言葉はきっと死の縁に立った時に心穏やかに神に召されるための呪文だ。
そう思うのにヴァルスには「神」が存在する。
そう思わないと成り立たない「経験」という記憶があった。
色々な書物を読み漁り、他国には「輪廻転生」があると知った。
しかしヴァルスは ”少し違う” と感じた。
人としてもう一度生まれ変わり、新しい人生を生きることのようだがヴァルスが今現在経験をしているのは同じ人生をもう一度生きている実感があったからである。
ヴァルスが前世ではなく前回の人生のやり直しである事に考えが行きついたのは国境警備に回されて目の前で仲間が襲われて命を落とした時からだった。
★~★
渓谷を挟んで向かいに聳え立つ敵陣の要塞。
そこに吊るされた仲間の亡骸を見て妄想や空想と呼ぶには余りにも生々しい経験に気が付いた。
事あるごとにフラッシュバックしてくる記憶。
不思議な事にその記憶にある自分は13歳、14歳の自分ではなく20歳を超えた自分だった。
自身が関与しているとなれば、もう一人の人格があるのではないか。
そう思えるくらいにゲスでクズな男が自分。
自分は何処かおかしいのではないかと一時期、教会へ懺悔に毎日出向いた。
懺悔室の静かな空間で、壁の向こうに向かって1人で「まだ経験をしていない記憶」を懺悔する。
記憶の中でヴァルスは何の罪もない1人の女性を身体的にも精神的にも追いつめ、痛めつけていた。
そしてその女性に濡れ衣を着せ処刑台に送り込んだ。
その傍らで微笑んでいるもう1人の女性がいた。
ヴァルスはその女性に喜んでほしくて尽くしていた。
自分自身を第三者の視点で見ているような記憶はまだ成熟する過程にあるヴァルスにはとても恐ろしいものだった。
騎士として、清廉潔白であれと心に刻んでいるはずなのに行いの全てが鬼畜の所業。
疲れれば夢も見ないし、考える事もない。
鍛錬で自分を追い込んだがどんなに疲れていても、また休息を十分に取っても不意にフラッシュバックする思い。
ヴァルスは連日悩まされ、上官に相談しようにも未来の自分が行うであろう出来事など口にすることも出来なかった。そんな事を本気で相談してしまえばいくら公爵家の次男坊だからと言っても一生出る事の出来ない狭い部屋に閉じ込められてしまう。
そんなある日の事、ヴァルスは敵の捕虜になってしまった。
痛みを伴う尋問。1発貰うごとにまたフラッシュバックをする。
敵に問われている事よりも、殴られているのに何故か殴っている自分を自覚した。
――これは因果応報なのか――
まだ行っていない過去が今の自分に跳ね返っているのだと気が付くと、心が軽くなった。
動けなくなるまで殴られて独房に放り込まれる。
痛みに耐えながら、静かで真っ暗、そして石の床の冷たさが今の自分に降りかかる災いの意味を教えてくれた。
要塞に吊るされた仲間を見て思い出したのは、虐げた女性。
彼女の名前もはっきりと判る。オデット・マルネだ。
子爵令嬢でただ、ヴァルスの企みにより冤罪で処刑をされ城壁に吊るされた。
何故そう思ったのがヴァルスには自分自身の事なのに理解が出来なかった。
散財を続ける放漫で傲慢な女のためにヴァルスは身代わりとしてオデット・マルネを差し出したのだ。
「なんで、そんな事をしてしまったんだろう」
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