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2回目の人生
第14話 挨拶は止めておこう
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あんなに楽しみにしていたのに当日になってどうして?
家族からは当然の疑問が噴き出した。
それはそうだろう。オデットだって昨日まで楽しみにしていて母のドレスが使いものにならず慌てて既製品を買い、そのままじゃあんまりだと手を加えて貰ったのだ。
今日、王宮に行くための馬車は辻馬車商会の個別馬車は予算が合わず借りられなかったが、ご近所さんが「デヴュタントだから」と貸してくれることになっている。
髪結だって頼んでいるし、具合が悪い訳でもないのに「行かない」選択肢などないのだ。
「どうしちゃったの?友達と何かあったの?」
「何もないわ。ディアナもケイトもいつも通りだし、アーシャとは半年以上前に仲直りしてるわ」
「だったらどうして」
「うーん…そこまでデヴュタントは大事じゃないと思うし、行かなきゃどうにかなるものでもないでしょう?」
「そう言われればそうだが、一生に1回。15歳の年しか参加は出来ないんだ。お金の事を心配しているのなら何の心配もいらないよ。行っておいで」
「お金じゃないんだけど…兎に角!行きたくないの!行かない!」
「オデット!どうしたの。いつもそんな我儘言わないじゃないの。行けないのに行きたいならまだ解るけど、行けるのに行かないって…貴女、さっきから変よ?変な物でも食べたの?」
両親としては一生に1度の事。おそらく最初で最後になるであろう王宮への出入りやこの先バルコニーから手を振る姿を遠目に見るだけの王族に直接声を掛けて貰えるのだから行って欲しいのだろう。
「馬車も頼んであるし、今日になって行かないなんて悪いでしょう?」
「そうだけど…」
「ちょっと顔出して直ぐに帰ってくればいいわよ。行ってきなさいな」
――そのちょっとの油断が不味い事になるんだってば――
覚えている限り、ヴァルスはデヴュタントで見初めたとの事だったがオデットは会場でヴァルスの姿は見ていない。王族には挨拶をしたので、後ろに控えていたのかも知れないが、少なくとも言葉は交わしていない。
――ん??待てよ?どこで名前を知ったの?――
婚約を申し入れて来るのなら婚約や結婚の年齢に特に決まりはないので、さっさと申し込んできていてもおかしくはない。
これが2度目の人生なのであれば…オデットは考えた。
何処で名前を知ったのだろう。
国内の貴族で一番数が多いのは男爵家。ついで準男爵家、騎士爵家、そして子爵家。子爵家だけでも300以上あるので覚えるのは大変だしオデットも300くらいと知っているが家名を言えるのは30が良いところ。
「あ、そうか!あの時!」
思い当たるのは1つしかない。国王陛下たちに挨拶をした時だ。
オデットは舞い上がっていて、友人の姿も見つけられず終いだったのだから誰かに挨拶をした覚えもない。
――ってことは挨拶に行かなかったら大丈夫なのかな――
本当は王宮そのものに行きたくはない。
疑わしきは罰せずと言うが、疑わしい事も何もないのに処刑なんかされたくない。
まして既にフロリアはもう嫁いできているので噂はあまり聞かないけれど、聞かないという事は仕事もしていないという事なのだ。
僅かな可能性も「ぷちっ」と潰しておきたい。
しかし、この日を楽しみにしていた両親は「お願いだから行こう?」と言う。
気持ちは判らなくもないのだ。
子供がまた1つ大人の仲間入りをする儀式のようなもの。
親がこの後何か手を貸すとすれば結婚式くらい。
「ねぇ、お父様。陛下への挨拶って絶対にしなきゃいけないの?」
「いや、子爵家は数も多いからな半分とは言わないが50家くらいは会場入りするだけになると思うが」
「じゃ、それで!」
「え?は?…いやいや。流れ作業みたいにはなるが挨拶は出来るんだよ?」
「そうよ?王妃様からその年の花も貰えるのよ?」
「私、薔薇好きじゃないし」
「え?…どうして薔薇だと?その年に王妃様が髪に刺してくれる花は会場に行かないと解らないのよ?」
「そ、そうなの?なんとなく‥そんな気がしただけ。アハハ」
――あっぶな!うっかり喋っちゃうところだったわ――
両親にも隠し事があるようで心苦しいが「生きるためよ!」そこに間違いはない。
オデットは渋々とドレスに着替える準備を始めたのだった。
家族からは当然の疑問が噴き出した。
それはそうだろう。オデットだって昨日まで楽しみにしていて母のドレスが使いものにならず慌てて既製品を買い、そのままじゃあんまりだと手を加えて貰ったのだ。
今日、王宮に行くための馬車は辻馬車商会の個別馬車は予算が合わず借りられなかったが、ご近所さんが「デヴュタントだから」と貸してくれることになっている。
髪結だって頼んでいるし、具合が悪い訳でもないのに「行かない」選択肢などないのだ。
「どうしちゃったの?友達と何かあったの?」
「何もないわ。ディアナもケイトもいつも通りだし、アーシャとは半年以上前に仲直りしてるわ」
「だったらどうして」
「うーん…そこまでデヴュタントは大事じゃないと思うし、行かなきゃどうにかなるものでもないでしょう?」
「そう言われればそうだが、一生に1回。15歳の年しか参加は出来ないんだ。お金の事を心配しているのなら何の心配もいらないよ。行っておいで」
「お金じゃないんだけど…兎に角!行きたくないの!行かない!」
「オデット!どうしたの。いつもそんな我儘言わないじゃないの。行けないのに行きたいならまだ解るけど、行けるのに行かないって…貴女、さっきから変よ?変な物でも食べたの?」
両親としては一生に1度の事。おそらく最初で最後になるであろう王宮への出入りやこの先バルコニーから手を振る姿を遠目に見るだけの王族に直接声を掛けて貰えるのだから行って欲しいのだろう。
「馬車も頼んであるし、今日になって行かないなんて悪いでしょう?」
「そうだけど…」
「ちょっと顔出して直ぐに帰ってくればいいわよ。行ってきなさいな」
――そのちょっとの油断が不味い事になるんだってば――
覚えている限り、ヴァルスはデヴュタントで見初めたとの事だったがオデットは会場でヴァルスの姿は見ていない。王族には挨拶をしたので、後ろに控えていたのかも知れないが、少なくとも言葉は交わしていない。
――ん??待てよ?どこで名前を知ったの?――
婚約を申し入れて来るのなら婚約や結婚の年齢に特に決まりはないので、さっさと申し込んできていてもおかしくはない。
これが2度目の人生なのであれば…オデットは考えた。
何処で名前を知ったのだろう。
国内の貴族で一番数が多いのは男爵家。ついで準男爵家、騎士爵家、そして子爵家。子爵家だけでも300以上あるので覚えるのは大変だしオデットも300くらいと知っているが家名を言えるのは30が良いところ。
「あ、そうか!あの時!」
思い当たるのは1つしかない。国王陛下たちに挨拶をした時だ。
オデットは舞い上がっていて、友人の姿も見つけられず終いだったのだから誰かに挨拶をした覚えもない。
――ってことは挨拶に行かなかったら大丈夫なのかな――
本当は王宮そのものに行きたくはない。
疑わしきは罰せずと言うが、疑わしい事も何もないのに処刑なんかされたくない。
まして既にフロリアはもう嫁いできているので噂はあまり聞かないけれど、聞かないという事は仕事もしていないという事なのだ。
僅かな可能性も「ぷちっ」と潰しておきたい。
しかし、この日を楽しみにしていた両親は「お願いだから行こう?」と言う。
気持ちは判らなくもないのだ。
子供がまた1つ大人の仲間入りをする儀式のようなもの。
親がこの後何か手を貸すとすれば結婚式くらい。
「ねぇ、お父様。陛下への挨拶って絶対にしなきゃいけないの?」
「いや、子爵家は数も多いからな半分とは言わないが50家くらいは会場入りするだけになると思うが」
「じゃ、それで!」
「え?は?…いやいや。流れ作業みたいにはなるが挨拶は出来るんだよ?」
「そうよ?王妃様からその年の花も貰えるのよ?」
「私、薔薇好きじゃないし」
「え?…どうして薔薇だと?その年に王妃様が髪に刺してくれる花は会場に行かないと解らないのよ?」
「そ、そうなの?なんとなく‥そんな気がしただけ。アハハ」
――あっぶな!うっかり喋っちゃうところだったわ――
両親にも隠し事があるようで心苦しいが「生きるためよ!」そこに間違いはない。
オデットは渋々とドレスに着替える準備を始めたのだった。
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