14 / 41
2回目の人生
第14話 挨拶は止めておこう
しおりを挟む
あんなに楽しみにしていたのに当日になってどうして?
家族からは当然の疑問が噴き出した。
それはそうだろう。オデットだって昨日まで楽しみにしていて母のドレスが使いものにならず慌てて既製品を買い、そのままじゃあんまりだと手を加えて貰ったのだ。
今日、王宮に行くための馬車は辻馬車商会の個別馬車は予算が合わず借りられなかったが、ご近所さんが「デヴュタントだから」と貸してくれることになっている。
髪結だって頼んでいるし、具合が悪い訳でもないのに「行かない」選択肢などないのだ。
「どうしちゃったの?友達と何かあったの?」
「何もないわ。ディアナもケイトもいつも通りだし、アーシャとは半年以上前に仲直りしてるわ」
「だったらどうして」
「うーん…そこまでデヴュタントは大事じゃないと思うし、行かなきゃどうにかなるものでもないでしょう?」
「そう言われればそうだが、一生に1回。15歳の年しか参加は出来ないんだ。お金の事を心配しているのなら何の心配もいらないよ。行っておいで」
「お金じゃないんだけど…兎に角!行きたくないの!行かない!」
「オデット!どうしたの。いつもそんな我儘言わないじゃないの。行けないのに行きたいならまだ解るけど、行けるのに行かないって…貴女、さっきから変よ?変な物でも食べたの?」
両親としては一生に1度の事。おそらく最初で最後になるであろう王宮への出入りやこの先バルコニーから手を振る姿を遠目に見るだけの王族に直接声を掛けて貰えるのだから行って欲しいのだろう。
「馬車も頼んであるし、今日になって行かないなんて悪いでしょう?」
「そうだけど…」
「ちょっと顔出して直ぐに帰ってくればいいわよ。行ってきなさいな」
――そのちょっとの油断が不味い事になるんだってば――
覚えている限り、ヴァルスはデヴュタントで見初めたとの事だったがオデットは会場でヴァルスの姿は見ていない。王族には挨拶をしたので、後ろに控えていたのかも知れないが、少なくとも言葉は交わしていない。
――ん??待てよ?どこで名前を知ったの?――
婚約を申し入れて来るのなら婚約や結婚の年齢に特に決まりはないので、さっさと申し込んできていてもおかしくはない。
これが2度目の人生なのであれば…オデットは考えた。
何処で名前を知ったのだろう。
国内の貴族で一番数が多いのは男爵家。ついで準男爵家、騎士爵家、そして子爵家。子爵家だけでも300以上あるので覚えるのは大変だしオデットも300くらいと知っているが家名を言えるのは30が良いところ。
「あ、そうか!あの時!」
思い当たるのは1つしかない。国王陛下たちに挨拶をした時だ。
オデットは舞い上がっていて、友人の姿も見つけられず終いだったのだから誰かに挨拶をした覚えもない。
――ってことは挨拶に行かなかったら大丈夫なのかな――
本当は王宮そのものに行きたくはない。
疑わしきは罰せずと言うが、疑わしい事も何もないのに処刑なんかされたくない。
まして既にフロリアはもう嫁いできているので噂はあまり聞かないけれど、聞かないという事は仕事もしていないという事なのだ。
僅かな可能性も「ぷちっ」と潰しておきたい。
しかし、この日を楽しみにしていた両親は「お願いだから行こう?」と言う。
気持ちは判らなくもないのだ。
子供がまた1つ大人の仲間入りをする儀式のようなもの。
親がこの後何か手を貸すとすれば結婚式くらい。
「ねぇ、お父様。陛下への挨拶って絶対にしなきゃいけないの?」
「いや、子爵家は数も多いからな半分とは言わないが50家くらいは会場入りするだけになると思うが」
「じゃ、それで!」
「え?は?…いやいや。流れ作業みたいにはなるが挨拶は出来るんだよ?」
「そうよ?王妃様からその年の花も貰えるのよ?」
「私、薔薇好きじゃないし」
「え?…どうして薔薇だと?その年に王妃様が髪に刺してくれる花は会場に行かないと解らないのよ?」
「そ、そうなの?なんとなく‥そんな気がしただけ。アハハ」
――あっぶな!うっかり喋っちゃうところだったわ――
両親にも隠し事があるようで心苦しいが「生きるためよ!」そこに間違いはない。
オデットは渋々とドレスに着替える準備を始めたのだった。
家族からは当然の疑問が噴き出した。
それはそうだろう。オデットだって昨日まで楽しみにしていて母のドレスが使いものにならず慌てて既製品を買い、そのままじゃあんまりだと手を加えて貰ったのだ。
今日、王宮に行くための馬車は辻馬車商会の個別馬車は予算が合わず借りられなかったが、ご近所さんが「デヴュタントだから」と貸してくれることになっている。
髪結だって頼んでいるし、具合が悪い訳でもないのに「行かない」選択肢などないのだ。
「どうしちゃったの?友達と何かあったの?」
「何もないわ。ディアナもケイトもいつも通りだし、アーシャとは半年以上前に仲直りしてるわ」
「だったらどうして」
「うーん…そこまでデヴュタントは大事じゃないと思うし、行かなきゃどうにかなるものでもないでしょう?」
「そう言われればそうだが、一生に1回。15歳の年しか参加は出来ないんだ。お金の事を心配しているのなら何の心配もいらないよ。行っておいで」
「お金じゃないんだけど…兎に角!行きたくないの!行かない!」
「オデット!どうしたの。いつもそんな我儘言わないじゃないの。行けないのに行きたいならまだ解るけど、行けるのに行かないって…貴女、さっきから変よ?変な物でも食べたの?」
両親としては一生に1度の事。おそらく最初で最後になるであろう王宮への出入りやこの先バルコニーから手を振る姿を遠目に見るだけの王族に直接声を掛けて貰えるのだから行って欲しいのだろう。
「馬車も頼んであるし、今日になって行かないなんて悪いでしょう?」
「そうだけど…」
「ちょっと顔出して直ぐに帰ってくればいいわよ。行ってきなさいな」
――そのちょっとの油断が不味い事になるんだってば――
覚えている限り、ヴァルスはデヴュタントで見初めたとの事だったがオデットは会場でヴァルスの姿は見ていない。王族には挨拶をしたので、後ろに控えていたのかも知れないが、少なくとも言葉は交わしていない。
――ん??待てよ?どこで名前を知ったの?――
婚約を申し入れて来るのなら婚約や結婚の年齢に特に決まりはないので、さっさと申し込んできていてもおかしくはない。
これが2度目の人生なのであれば…オデットは考えた。
何処で名前を知ったのだろう。
国内の貴族で一番数が多いのは男爵家。ついで準男爵家、騎士爵家、そして子爵家。子爵家だけでも300以上あるので覚えるのは大変だしオデットも300くらいと知っているが家名を言えるのは30が良いところ。
「あ、そうか!あの時!」
思い当たるのは1つしかない。国王陛下たちに挨拶をした時だ。
オデットは舞い上がっていて、友人の姿も見つけられず終いだったのだから誰かに挨拶をした覚えもない。
――ってことは挨拶に行かなかったら大丈夫なのかな――
本当は王宮そのものに行きたくはない。
疑わしきは罰せずと言うが、疑わしい事も何もないのに処刑なんかされたくない。
まして既にフロリアはもう嫁いできているので噂はあまり聞かないけれど、聞かないという事は仕事もしていないという事なのだ。
僅かな可能性も「ぷちっ」と潰しておきたい。
しかし、この日を楽しみにしていた両親は「お願いだから行こう?」と言う。
気持ちは判らなくもないのだ。
子供がまた1つ大人の仲間入りをする儀式のようなもの。
親がこの後何か手を貸すとすれば結婚式くらい。
「ねぇ、お父様。陛下への挨拶って絶対にしなきゃいけないの?」
「いや、子爵家は数も多いからな半分とは言わないが50家くらいは会場入りするだけになると思うが」
「じゃ、それで!」
「え?は?…いやいや。流れ作業みたいにはなるが挨拶は出来るんだよ?」
「そうよ?王妃様からその年の花も貰えるのよ?」
「私、薔薇好きじゃないし」
「え?…どうして薔薇だと?その年に王妃様が髪に刺してくれる花は会場に行かないと解らないのよ?」
「そ、そうなの?なんとなく‥そんな気がしただけ。アハハ」
――あっぶな!うっかり喋っちゃうところだったわ――
両親にも隠し事があるようで心苦しいが「生きるためよ!」そこに間違いはない。
オデットは渋々とドレスに着替える準備を始めたのだった。
1,117
お気に入りに追加
2,110
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ
曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。
婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。
美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。
そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……?
――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
言いたいことはそれだけですか。では始めましょう
井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。
その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。
頭がお花畑の方々の発言が続きます。
すると、なぜが、私の名前が……
もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。
ついでに、独立宣言もしちゃいました。
主人公、めちゃくちゃ口悪いです。
成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
お飾り王妃の愛と献身
石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。
けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。
ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。
国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした
せいめ
恋愛
美しい旦那様は結婚初夜に言いました。
「君を愛するつもりはない」と。
そんな……、私を愛してくださらないの……?
「うっ……!」
ショックを受けた私の頭に入ってきたのは、アラフォー日本人の前世の記憶だった。
ああ……、貧乏で没落寸前の伯爵様だけど、見た目だけはいいこの男に今世の私は騙されたのね。
貴方が私を妻として大切にしてくれないなら、私も好きにやらせてもらいますわ。
旦那様、短い結婚生活になりそうですが、どうぞよろしく!
誤字脱字お許しください。本当にすみません。
ご都合主義です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる