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2回目の人生
第13話 取り敢えずキャンセル
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既視感しかない白いドレス。
前回でも既視感はあったのだ。
だって既製品だから。
既製品にちょっとオリジナリティを出したかったのと、少し肩口が緩かったのでお直しに出したのだ。だから前回は待ち遠しくて「汚れちゃうわよ」と言われながらも飾ったドレスは既視感しかない程見た。
夢にしてはものすごく長いストーリーに感じるし、いつも夢は見た!と部分的に覚えてはいるけれど昨夜のが夢だとすれば「私ってこんなに記憶力良かったかな?」と思えてしまう。
何より首に掛けられた縄の感触が残っていて、何度も鏡で首を確認してしまった。
全く痕跡はないけれど、痛みとも苦しみともいえる複雑な気持ちの悪い感触ははっきりと覚えている。
よく小説や銅貨青空芝居で一度死んでしまったけれど巻き戻ってもう一度人生をやり直すという話がある。
――ないない。そんなのあり得ないし――
だけどもしかして。
オデットはまだ悪い夢を見ているのか。
そうだとすれば夢の中で夢を見るという変わった体験だなと思い、食事室を見回した。
夢の中、最後はきれいさっぱりと片付いていた。
――そうそう。この棚。造り付けかと思ったら動いたのよね――
そう思って父親のカバンや花瓶、街で配られるビラなどが無造作に積まれている腰までの高さの棚を手前に引っ張ってみた。
ガタン!!
――わ、動いた?!――
動いた事に驚いたのはオデットだけではなく両親も兄も驚いていた。
勿論その驚きの中に「何やってんの?」という呆れも混じってはいるが、その場にいる家族全員。
父ダクシオンは生まれて40年以上50年未満。
母ヴィヴァーチェも嫁いでもうすぐ30年。
兄のアレグロも生まれて21年。
誰もこの棚が動くとは思っていなかった。オデットも夢の中で引っ越しのために家財道具を片付けて初めて造り付けではない事を知ったのだ。
――ってことは!!――
オデットはまた別の棚の前に行き、扉を開けて中をごそごそと探し始めた。
「何してるんだ?」
兄のアレグロはパンを口に咥えたままで近づいてきた。
「ここにお兄ちゃんが4歳?5歳の時に隠した宝物があるのよ」
「は?なんだそりゃ?」
「あ、あった!!これだわ」
手に取ったのは小さな木箱で大きさとしては10cm四方の小さな箱。
――この中にドングリとかがあれば間違いないわ――
覗き込んでくるアレグロですら、自身の宝物入れだった事はすっかり忘れてしまっている。オデットが経年劣化でギチギチになったはめ込み式の蓋を開けると…。
「うぉー!!懐かしい!これ、僕のだ。何時だったかな。そうそう!思い出した。ドングリ拾ってさ木の枝を刺して回して遊んでたんだけど、虫が出てきて母上に叱られて隠したんだよ!めっちゃ懐かしいなぁ。まだあったんだ」
そしてあの水瓶の下の穴。
あれも家族の誰もそこに穴がある事は知らなかったのだ。
金貨をどこに置いておくか。家族で話をして水瓶の後ろに隠しておこうという話になった。
しかし、水瓶の後ろは金貨の袋の幅より狭く入らなかったので水瓶を寄せた時、父が土を被せてカムフラージュした板を踏み抜いて穴がある事を見つけたのだ。
ボロボロに朽ちた木で作った髪飾りなどがあったので、祖父母かその前の代で誰かが隠したのだろうと思われた。
オデットは自分を落ち着かせようと敢えて家族に問うた。
「ねぇ。水瓶の下に穴があるでしょう?」
<< は? >>
ヴィヴァーチェは「熱でもあるの?」と言う。
アレグロは「穴があったら水瓶がめり込む」と言う。
父のダクシオンは「さっきからどうしたんだ?」と不思議そうな顔。
つまり誰も水瓶の下に穴がある事を知らないのだ。
「お婆様か、お婆様のお母様か。誰かが髪飾りを隠してるの」
「オデット。お前、デヴュタントで浮かれすぎて頭が飛んだのか?」
「失礼ね。じゃぁ賭けてもいいわ。私は穴があるに…夕食の野イチゴ」
ガタっと音がしてヴィヴァーチェが躓いた。
「どうして今日の夕食に野イチゴをデザートに出すことを知ってるの!?」
日頃は贅沢が出来ないが今日はオデットのデヴュタントの日。ヴィヴァーチェは内緒で野イチゴを摘み取ってきて隠してあるのだ。
ただ、オデットも今、どこに野イチゴを隠しているかは知らない。
知っているのはデヴュタントの日、夕食に野イチゴがデザートで出た事である。
野イチゴはアレグロも大好物。それを賭けるというのだから半信半疑でも水瓶を退けてくれた。
「ないじゃないか。賭けは僕の勝ちだな」
「そう思うでしょう?実はあるの」
オデットはしゃがみ込んで水瓶が置かれた部分の土を払った。すると木の板が出てきて外すと穴があり、朽ちた木製の髪飾りが本当に出て来たのだ。
オデットが隠したのかとなると違う。埋め戻したりするとそこだけ土がいかにも被せたようになるけれど、何十年も水瓶の重さで潰されてそこに何かがあるような状態ではなかったのだ。
――間違いないわ。私、多分時間が巻き戻ってる――
不思議過ぎてそれを言ってしまうと本当に頭の中身を疑われそうなので、家族にもオデットは言わなかったが確信が持てた。
だったら、することは1つだ。
「私、今日のデヴュタントは行かないわ」
<< ハァァーッ?! >>
家族からは当然の反応が返ってきた。
前回でも既視感はあったのだ。
だって既製品だから。
既製品にちょっとオリジナリティを出したかったのと、少し肩口が緩かったのでお直しに出したのだ。だから前回は待ち遠しくて「汚れちゃうわよ」と言われながらも飾ったドレスは既視感しかない程見た。
夢にしてはものすごく長いストーリーに感じるし、いつも夢は見た!と部分的に覚えてはいるけれど昨夜のが夢だとすれば「私ってこんなに記憶力良かったかな?」と思えてしまう。
何より首に掛けられた縄の感触が残っていて、何度も鏡で首を確認してしまった。
全く痕跡はないけれど、痛みとも苦しみともいえる複雑な気持ちの悪い感触ははっきりと覚えている。
よく小説や銅貨青空芝居で一度死んでしまったけれど巻き戻ってもう一度人生をやり直すという話がある。
――ないない。そんなのあり得ないし――
だけどもしかして。
オデットはまだ悪い夢を見ているのか。
そうだとすれば夢の中で夢を見るという変わった体験だなと思い、食事室を見回した。
夢の中、最後はきれいさっぱりと片付いていた。
――そうそう。この棚。造り付けかと思ったら動いたのよね――
そう思って父親のカバンや花瓶、街で配られるビラなどが無造作に積まれている腰までの高さの棚を手前に引っ張ってみた。
ガタン!!
――わ、動いた?!――
動いた事に驚いたのはオデットだけではなく両親も兄も驚いていた。
勿論その驚きの中に「何やってんの?」という呆れも混じってはいるが、その場にいる家族全員。
父ダクシオンは生まれて40年以上50年未満。
母ヴィヴァーチェも嫁いでもうすぐ30年。
兄のアレグロも生まれて21年。
誰もこの棚が動くとは思っていなかった。オデットも夢の中で引っ越しのために家財道具を片付けて初めて造り付けではない事を知ったのだ。
――ってことは!!――
オデットはまた別の棚の前に行き、扉を開けて中をごそごそと探し始めた。
「何してるんだ?」
兄のアレグロはパンを口に咥えたままで近づいてきた。
「ここにお兄ちゃんが4歳?5歳の時に隠した宝物があるのよ」
「は?なんだそりゃ?」
「あ、あった!!これだわ」
手に取ったのは小さな木箱で大きさとしては10cm四方の小さな箱。
――この中にドングリとかがあれば間違いないわ――
覗き込んでくるアレグロですら、自身の宝物入れだった事はすっかり忘れてしまっている。オデットが経年劣化でギチギチになったはめ込み式の蓋を開けると…。
「うぉー!!懐かしい!これ、僕のだ。何時だったかな。そうそう!思い出した。ドングリ拾ってさ木の枝を刺して回して遊んでたんだけど、虫が出てきて母上に叱られて隠したんだよ!めっちゃ懐かしいなぁ。まだあったんだ」
そしてあの水瓶の下の穴。
あれも家族の誰もそこに穴がある事は知らなかったのだ。
金貨をどこに置いておくか。家族で話をして水瓶の後ろに隠しておこうという話になった。
しかし、水瓶の後ろは金貨の袋の幅より狭く入らなかったので水瓶を寄せた時、父が土を被せてカムフラージュした板を踏み抜いて穴がある事を見つけたのだ。
ボロボロに朽ちた木で作った髪飾りなどがあったので、祖父母かその前の代で誰かが隠したのだろうと思われた。
オデットは自分を落ち着かせようと敢えて家族に問うた。
「ねぇ。水瓶の下に穴があるでしょう?」
<< は? >>
ヴィヴァーチェは「熱でもあるの?」と言う。
アレグロは「穴があったら水瓶がめり込む」と言う。
父のダクシオンは「さっきからどうしたんだ?」と不思議そうな顔。
つまり誰も水瓶の下に穴がある事を知らないのだ。
「お婆様か、お婆様のお母様か。誰かが髪飾りを隠してるの」
「オデット。お前、デヴュタントで浮かれすぎて頭が飛んだのか?」
「失礼ね。じゃぁ賭けてもいいわ。私は穴があるに…夕食の野イチゴ」
ガタっと音がしてヴィヴァーチェが躓いた。
「どうして今日の夕食に野イチゴをデザートに出すことを知ってるの!?」
日頃は贅沢が出来ないが今日はオデットのデヴュタントの日。ヴィヴァーチェは内緒で野イチゴを摘み取ってきて隠してあるのだ。
ただ、オデットも今、どこに野イチゴを隠しているかは知らない。
知っているのはデヴュタントの日、夕食に野イチゴがデザートで出た事である。
野イチゴはアレグロも大好物。それを賭けるというのだから半信半疑でも水瓶を退けてくれた。
「ないじゃないか。賭けは僕の勝ちだな」
「そう思うでしょう?実はあるの」
オデットはしゃがみ込んで水瓶が置かれた部分の土を払った。すると木の板が出てきて外すと穴があり、朽ちた木製の髪飾りが本当に出て来たのだ。
オデットが隠したのかとなると違う。埋め戻したりするとそこだけ土がいかにも被せたようになるけれど、何十年も水瓶の重さで潰されてそこに何かがあるような状態ではなかったのだ。
――間違いないわ。私、多分時間が巻き戻ってる――
不思議過ぎてそれを言ってしまうと本当に頭の中身を疑われそうなので、家族にもオデットは言わなかったが確信が持てた。
だったら、することは1つだ。
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家族からは当然の反応が返ってきた。
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