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1回目の人生
第09話 受け入れるしか道がない
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ジークフリッドの事を考えていても仕方がないと気持ちを切り替えたオデットだったが、マルネ子爵家は神の怒りにでも触れてしまったのだろうか。
引っ越しをするのに荷物も纏め、ガッティネ公爵家の使いがあと1週間もすればやって来る。
父親のダクシオンも田舎に行くのなら半分の勤務になった職場を辞さねばならず、奇しくもその日は最後の出勤日。
兄のアレグロはオデットと共に持ってはいけない家財道具などを売るため小さな荷台車を借りて兄妹で引いて、押して出かけた。途中で古着屋や金属の買い取り店にも寄らねばならない。
母親のヴィヴァーチェは夕食と翌日の朝食の買い出しに出かけた。
ぽっかりと家族がたった1時間ほど。家を空ける時間が出来た。
「良かったわ。もって帰ってって言われたらどうしようかと思っちゃった」
「荷台を貸してくれたゴルベさんにも後でもう一度お礼言わなきゃな」
アレグロは玄関のドアノブに手をかけた。
「あれ?母さん、買い物に行くって言ってたのにもう帰ったのかな」
「ん?でも竈‥‥煙突は…煙出てないけど?」
「帰ったばかりなのかな。ただい‥‥」
玄関扉を開けながら声を掛けたアレグロの言葉は途中で途切れた。
どうしたのかとオデットも家の中を覗き込んで言葉を失った。
荷造りをしたトランクは開けられて、中に詰めた荷物がそこかしこに散乱をしている。借家なので造り付けの家具はそのままだが、マルネ子爵家が買った家具は先ほど教会に持って行ったので通常よりも広い空間になっているのは当然なのだが、そんな残り少ない荷物で何を探したのか。
「まさか!?」
オデットとアレグロは同じことに思い至った。
来週返却する金貨250枚である。
もしもに備えて土間になったキッチンの隅にある大きな水瓶をどかした部分に穴を掘り、そこに隠していたのだが土間のキッチンには水瓶が横になって転がり、隠してあった金貨は袋ごと無くなっていたのだ。
ただ穴を掘って入れていたのではない。水瓶を退かしても穴が見える訳ではなく穴の中に金貨の袋を入れてその上に板を置き、土を被せてあったのに取り除かれていたのだ。
「物が無くなっていたから探しやすかったんだろうな」
「そんなぁ…」
「ごちゃごちゃとあれば水瓶を退けるまで考えは至らないだろう。ご丁寧に棚の扉も外してるし仕切りの中板も外してる。徹底的に探したんだろうな」
「徹底的って…たった1時間よ?」
「空き巣にしてみたら1時間どころか15分もあれば余裕だろう。物を片付けたのが仇になったな」
「どうしよう…騎士団に届けた方がいいかな」
「届けても末端の訴えなんかこの現状を見に来てもらうだけで2、3週間はかかるよ。それまでにはここも退去しなきゃいけない。金を纏めるのに貯めた金は持って出て正解だったな」
なけなしの金は銀貨2枚。じゃらじゃらと銅貨をたくさん持っていれば袋も大きくなるので野盗に狙われてしまう。着の身着のままを装うために虎の子は持ち出していたが、金貨を纏める術はないので隠していたのに盗まれてしまった。
遅れて帰ってきたヴィヴァーチェ。買い物かごを落とす音に振り返ったアレグロとオデットだったが3人とも何も言えなかった。
夕方になり、重苦しい空気の中ダクシオンも最後の勤務を終えて帰宅をして纏めたはずの荷物が無造作に蓋の開いたトランクに積まれているのを見て何があったのかを悟った。
「どうしよう?ねぇ…このままじゃオデットが…」
「どうしようってどうしようもないだろう。逃げるか嫁ぐか…だろうな」
「アレグロ、貴方、妹の事なのにそんな軽い…」
「じゃぁどうしろって言うんだよ!」
母のヴィヴァーチェは問いにならない問いをし、アレグロは苛ついてテーブルを叩き立ち上がった。
「静かにしてよ。お兄ちゃんが怒鳴ったって金貨は戻ってこないわ」
「解ってるよッ!!くそっ!」
ドンドンとアレグロは拳でテーブルを叩く。
答えなどもう決まっている。
逃げるにしても公爵家を相手に逃げきれるものではない。金貨250枚を支度金として渡したのにトンズラとなれば訴えられて逃げるよりも先に、逃げた先でお尋ね者になって捕縛されるされるだろう。
残った道は1つしかない。
「いいわ。私、ヴァルス様の元に嫁ぐわ。持参金はないけど身一つって言ってくれてるし少なくとも嫁げば支度金の事もとやかく言われることもないわ」
「オデット‥‥すまない」
「お父様が謝る事じゃないでしょう?泥棒は警戒してたけど…ここまで探されてしまったらどうにもならないわ。だって他に隠せる場所なんて竈の中だけよ?そんなところに隠してたら返す前に溶けて燃えてしまうわ」
オデットの言うように空き巣はいろんな場所を探していた。屋根裏が見えている部分はそのままだが天井のある部屋は天井材がところどころ外されているし、寝台も動いていて寝台の下の床板も外されていた。
収納棚も扉は全て外されているし、水瓶が横になっているのは水の中に沈めたかを見るために、中の水が邪魔だったからだ。
ここまで徹底しているとなれば空き巣も空き巣の中の空き巣なのだろう。
1週間後、ガッティネ公爵家の使いにマルネ子爵家は「お受けします」と返事をしたのだった。
引っ越しをするのに荷物も纏め、ガッティネ公爵家の使いがあと1週間もすればやって来る。
父親のダクシオンも田舎に行くのなら半分の勤務になった職場を辞さねばならず、奇しくもその日は最後の出勤日。
兄のアレグロはオデットと共に持ってはいけない家財道具などを売るため小さな荷台車を借りて兄妹で引いて、押して出かけた。途中で古着屋や金属の買い取り店にも寄らねばならない。
母親のヴィヴァーチェは夕食と翌日の朝食の買い出しに出かけた。
ぽっかりと家族がたった1時間ほど。家を空ける時間が出来た。
「良かったわ。もって帰ってって言われたらどうしようかと思っちゃった」
「荷台を貸してくれたゴルベさんにも後でもう一度お礼言わなきゃな」
アレグロは玄関のドアノブに手をかけた。
「あれ?母さん、買い物に行くって言ってたのにもう帰ったのかな」
「ん?でも竈‥‥煙突は…煙出てないけど?」
「帰ったばかりなのかな。ただい‥‥」
玄関扉を開けながら声を掛けたアレグロの言葉は途中で途切れた。
どうしたのかとオデットも家の中を覗き込んで言葉を失った。
荷造りをしたトランクは開けられて、中に詰めた荷物がそこかしこに散乱をしている。借家なので造り付けの家具はそのままだが、マルネ子爵家が買った家具は先ほど教会に持って行ったので通常よりも広い空間になっているのは当然なのだが、そんな残り少ない荷物で何を探したのか。
「まさか!?」
オデットとアレグロは同じことに思い至った。
来週返却する金貨250枚である。
もしもに備えて土間になったキッチンの隅にある大きな水瓶をどかした部分に穴を掘り、そこに隠していたのだが土間のキッチンには水瓶が横になって転がり、隠してあった金貨は袋ごと無くなっていたのだ。
ただ穴を掘って入れていたのではない。水瓶を退かしても穴が見える訳ではなく穴の中に金貨の袋を入れてその上に板を置き、土を被せてあったのに取り除かれていたのだ。
「物が無くなっていたから探しやすかったんだろうな」
「そんなぁ…」
「ごちゃごちゃとあれば水瓶を退けるまで考えは至らないだろう。ご丁寧に棚の扉も外してるし仕切りの中板も外してる。徹底的に探したんだろうな」
「徹底的って…たった1時間よ?」
「空き巣にしてみたら1時間どころか15分もあれば余裕だろう。物を片付けたのが仇になったな」
「どうしよう…騎士団に届けた方がいいかな」
「届けても末端の訴えなんかこの現状を見に来てもらうだけで2、3週間はかかるよ。それまでにはここも退去しなきゃいけない。金を纏めるのに貯めた金は持って出て正解だったな」
なけなしの金は銀貨2枚。じゃらじゃらと銅貨をたくさん持っていれば袋も大きくなるので野盗に狙われてしまう。着の身着のままを装うために虎の子は持ち出していたが、金貨を纏める術はないので隠していたのに盗まれてしまった。
遅れて帰ってきたヴィヴァーチェ。買い物かごを落とす音に振り返ったアレグロとオデットだったが3人とも何も言えなかった。
夕方になり、重苦しい空気の中ダクシオンも最後の勤務を終えて帰宅をして纏めたはずの荷物が無造作に蓋の開いたトランクに積まれているのを見て何があったのかを悟った。
「どうしよう?ねぇ…このままじゃオデットが…」
「どうしようってどうしようもないだろう。逃げるか嫁ぐか…だろうな」
「アレグロ、貴方、妹の事なのにそんな軽い…」
「じゃぁどうしろって言うんだよ!」
母のヴィヴァーチェは問いにならない問いをし、アレグロは苛ついてテーブルを叩き立ち上がった。
「静かにしてよ。お兄ちゃんが怒鳴ったって金貨は戻ってこないわ」
「解ってるよッ!!くそっ!」
ドンドンとアレグロは拳でテーブルを叩く。
答えなどもう決まっている。
逃げるにしても公爵家を相手に逃げきれるものではない。金貨250枚を支度金として渡したのにトンズラとなれば訴えられて逃げるよりも先に、逃げた先でお尋ね者になって捕縛されるされるだろう。
残った道は1つしかない。
「いいわ。私、ヴァルス様の元に嫁ぐわ。持参金はないけど身一つって言ってくれてるし少なくとも嫁げば支度金の事もとやかく言われることもないわ」
「オデット‥‥すまない」
「お父様が謝る事じゃないでしょう?泥棒は警戒してたけど…ここまで探されてしまったらどうにもならないわ。だって他に隠せる場所なんて竈の中だけよ?そんなところに隠してたら返す前に溶けて燃えてしまうわ」
オデットの言うように空き巣はいろんな場所を探していた。屋根裏が見えている部分はそのままだが天井のある部屋は天井材がところどころ外されているし、寝台も動いていて寝台の下の床板も外されていた。
収納棚も扉は全て外されているし、水瓶が横になっているのは水の中に沈めたかを見るために、中の水が邪魔だったからだ。
ここまで徹底しているとなれば空き巣も空き巣の中の空き巣なのだろう。
1週間後、ガッティネ公爵家の使いにマルネ子爵家は「お受けします」と返事をしたのだった。
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